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魔物資源活用機構  作者: Ichen
護り~鎧・仲間・王・龍
146/2942

146. 手がかり

 

 イーアンは黙った。フェイドリッドも青紫の目でイーアンを見つめる。



「どこまで知っている」


「仰る質問の中身をもう少し教えて下さい」


「イーアン。賢い女よ。そなたは何を見たのだ」


「私に与えられた時間はどれくらいありますか」


「望むまで与えよう。その話は聞く価値がある」


「価値があるかは聞いてからです。信じなければ全ては時間の無駄でしょう」


「そなたは。どうしてそう。まあ良い。教えてくれ」



 この人は王族だから、私が知らない情報を知っているかもしれない、とイーアンは考えた。王族相手に自分は何をしているのだろう、と思うが、もしこれが必然なら機会を放るにはあまりにも愚かか、と感じた。



「フェイドリッドにお願いします。私はドルドレンと一緒です。二人は共にこの世に生きて、運命を与えられた存在です。ここにドルドレンを呼んで下さいませんか」


「断ったら」


「断る理由を教えて下さい」


「そなた一人から聞こうと思う。総長は後だ」



 あ、なるほど。とイーアンは気付く。この人は真っ向から信じるわけではないようだ。照らし合わせて確認する気だ、と分かると、こちらも隠さずに出なければいけない・・・と決める。鳶色の瞳に遠慮が消えて、目つきが定まった。



「そのお知恵に沿いますように。私の知っていることをお伝えしましょう」


「そなたは本当に面白い。覚悟を決めたとなると人が変わるな」


 誉めても何も出ません、と笑い、イーアンは話した。


 自分がある時、泉に落ちたところから始まり、僧院の石像を見たこと、支部での夢の話。シャンガマックとフォラヴの話し、ドルドレンの夢の話しもした。簡潔に、無駄なく、誤解のないよう気をつけて。



「イーアンを助け、翼になるという存在。それはまだ会えていないのだな。遺跡にあったというその絵を見せてくれ」


 この人は何かを知っている。そう思ったイーアンは上着を脱いだ。

 もう潔く行こう、と思い切り、大きく息を吐き出して胸を覆うまで深いコルセットを外す。透かし地のブラウスだけになると、さすがにフェイドリッドが慌てた。


「そなた。そこまでする必要は」


「フェイドリッドにご覧頂くことをお願いします。虚実ではない事をお伝えしたいのです。シャンガマックがそれだ、といった絵です」



 フェイドリッドは育ちが良いから、どうしても目を逸らしがちになるが、イーアンは覚悟を決めて脱いでるのだから(※そんながっつり透けてるわけでもないけど)、その絵の確認だけはしてもらおうと思った。 ――見れば信じるかもしれない。私たちは信じた。



 イーアンはブラウスの上のボタンを3つまで外し、服をずらして左肩を出した。胸はあってないようなものだが、一応ブラウスの上から片手で隠す。


 フェイドリッドは、真面目な顔で左肩を露にしたイーアンに向き直る。肩にある、黒い絵を見て目を見張った。



「その絵か。そうか。やはりそうか」


 展開のある一言を聞いたイーアンは服を正す。フェイドリッドの顔を見ながら、一言も漏らすまいと次の言葉を待ち、ボタンを留めて、コルセットを着ける。



「ここの宝物庫に、その龍を呼ぶ笛がある」



 イーアンの目が、美しい青紫色の瞳を捉える。それは私のものである、と言うように。石像が持っていた、あの笛のことだろうと見当をつけた。フェイドリッドも、目の前の女の表情から、意図を受け取った様子で頷いた。



「イーアン。今夜は王城に宿泊すると良い。明日の朝にでも笛を見せよう。明日立つのか」


「出発はその予定です。宿泊は民泊でも良いのです。笛は・・・・・ フェイドリッドもあの石像をご覧になって、記憶に残されていらしたのですね」


「そうだ。恐らく、笛はそなたの持ち物であろう。しかしあれが消えれば、王都に魔物が入るとも分かる」


「王都に魔物が入らない理由は笛、と仰るのですか」


「イーアンなら信じるであろう。2年前にハイザンジェル王国の西の壁から魔物が現れた時、王城(ここ)で地鳴りがあった。異常事態であることは分かっても、地鳴りの理由は分からず、全ての部屋を調べたのだ。

 すると、宝物庫で一つだけ、棚を壊した箇所がある。笛は壊れた棚の瓦礫の下にあり、煌々と輝きを放ちながら奇妙な音を出していた。私が呼ばれ、それに触れると、音は止み輝きも治まった。


 若い頃に国中を監査で回ったことがある。まだ前王が健在だった頃だ。その時に、かの有名な廃墟となったディアンタの僧院の中で見た、不思議な石像が手に持っていたものだと思い出した。


 私は笛をどう扱って良いか分からなかったが、触れた折に振動も音も消えたので、それを持ち出した。何があったのかを王城に勤める魔法使いに尋ね、知識を持つ賢人に相談したが、その笛の存在を知る者はいても、笛が何を表現したのか『それは魔物の出現と関係ある』としか分からなかった。


 魔物の被害が、毎日報告され始めた時だ。これは何か大きな意味があるはずだ、と思い、私は記憶にあったディアンタへ向かおうと、笛を手に出発したのだが。いや、正確には出発したつもりで終わった。

 王都から騎士団を連れて出た途端、街道を進んでまだ王都が背に見えるような距離で、空に奇妙な姿の生き物が群れで飛んでいるのを見た。それらは我々には向かわず、真っ直ぐに王都へ向かった。


 私は王都の危険を感じ、慌てて戻った。すると魔物は王都の上で翼を羽ばたかせ、今、正に舞い降りんとしているところが、さっと別のところへ飛んで行ってしまった。


 この体験から、私が王都にいなければいけない、と周囲が言うので、私は魔法使いなど信頼できる者に頼み、やはり同じように笛を持って出かけさせようとした。

 だが魔物はその度に、王都へ向かってきた。魔物が王都へ向かうのを確認しては、出かけた者が戻る。すると魔物は消える。これを数度繰り返した。


 実被害はなかったが、笛をここから出してはいけない、とした結論が出た。

 以降、宝物庫に新たに棚を別に作らせ、そこに置いてある」




 イーアンは溜息をついた。フェイドリッドも掛ける言葉がない。


「見るだけにします。王都はどうぞ無事でありますように。ハイザンジェルの魔物に対処が出来るようになったら。もしくは、私がヨライデに呼ばれる時には、どうぞお借りできます事を願います」



 フェイドリッドが安心したように小さく息を吐いた。『すまない』とイーアンに謝る。イーアンは微笑んで『急に来ましたから』と笑った。フェイドリッドもその言葉に笑って『そなたは本当に』とだけ言った。イーアンは、この人の中途半端な言い方がギアッチそっくりに思えた。続きが聞きたい。



「さて。もう随分彼らを待たせているから戻ろう。明日、また朝に来てくれ。私も早く起きておこう」


「フェイドリッド。心から感謝申し上げます」


 イーアンに上着を着せてくれた、フェイドリッドは笑顔だった。なるほど、そなたなら魔物も解体するだろう、と背中から声をかけられた。どんな部分で納得されたのか分からないまま、イーアンは首を傾げ微笑んだ。



 この後、会議室へ戻ると、ドルドレンの苛立ちで重圧が増えている空間に足を踏み入れ、フェイドリッドは何やら両肩に重さを感じた。イーアンが戻ると、ドルドレンは立ち上がってイーアンを引き寄せた。


「40分もいないなんて」


「お話していました」


 分かるけど、とドルドレンは疲労した溜息をついた。他の者はさらに疲労していた。ドルドレンとの空間の居心地の悪さに苦しみ続けていた。




 フェイドリッドは王城に泊まるように、と提案したが、イーアンがあっさり断った。セダンカとお付3名は仰天するほど驚いたが、ドルドレンはホッとした。


「朝7時に伺います。ご迷惑をお掛けします」


 イーアンはフェイドリッドにそう伝え、退出の許可を願った。フェイドリッドはイーアンに頷いた。


「イーアン。そなたの鎧を私に譲ってはもらえないか」


「申し訳ありません。シャンガマックの鎧です」


 セダンカ以下3名の目の剥きようは、目玉が落ちそうだった。ドルドレンもこれにはちょっと驚いた。



 ――それ断るんだ、イーアン・・・とドルドレンは思う。さっきまでおどおどして、殿下と目さえ合わせないようにしていたのに。もう、魔物戦と同じくらい、人が変わっている気がする。イーアンはいつものイーアンなんだけど、最初の怯えるイーアンではなく、普段のイーアンだ。俺たちと接する時と変わらない態度で王に接してる・・・・・



 フェイドリッドは少し苦笑して『そうか。打ち解けられて何よりだ』と別の言葉で答えた。イーアンはそれを聞いて『フェイドリッドにもご用意しましょう』と約束した。



 そうしてイーアンとドルドレンは王城を出て、城下町へ向かった。ウィアドは王城の厩で預かってもらい、自分たちは民間の宿に空きを尋ねて、宿泊する事にした。



 部屋を取って、風呂に入ったイーアンはドルドレンにも風呂を勧めて、自分は部屋に入った。フェイドリッドの敷居の低さに、改めて感心する。ああした王様もいるんだな、と思った。

 ドルドレンが戻ってきて、イーアンは食事をどうしよう、と気がついた。


『宿で食事があるようだから』とドルドレンはイーアンを誘って、1階の食堂へ降りた。夕食は普通客と同じように摂ることができたので、二人は大きな焼き魚と山盛りの野菜を頼んで、ドルドレンがお酒を飲んだ。



 部屋へ戻り、ドルドレンはようやくイーアンに聞き出した。40分間、何を話したのかを。


 イーアンが最初から最後まで話すと、『肩を見せた』部分でドルドレンが顔に手を当てて項垂(うなだ)れた。イーアンは丁寧に説明し、肩の絵を見せれば信じると思った、と伝えた。


「脱がなくても」


「あの人の言い方が、何か重要な事を知っていると思ったからです。王様ですから」


 王様だけど・・・・・とドルドレンはがっくりしていた。



「こちらが知っている限りの真実を伝えないと、彼の手の内も教えてもらえないと思いました。

 話の始めに、ドルドレンを呼ぶように言いましたが、彼は『ドルドレンには後で別に』と。ドルドレンの話をいつ聞くのかも分からなかったし、そんなに時間をもらえるかどうかも確信がありませんでした。


 それに、実際に肩の絵を見たら、さっき話したように結果的に王都の秘密を知ることが出来ました。明日は笛を直に確認できるのです」



 イーアンがそう伝えても、ドルドレンは悲しそうに見上げて『分かるけれど、そういうことではない』とイーアンに心の内をこぼす。『愛妻(※未婚)なんだよ。愛妻の素肌なんて他の男に見せたくない。なのに自分から見せるとは』と溜息をついた。


『私もドルドレンが、女王様やお姫様に素肌を見せたら、確かに凹む』と思ったイーアンは、ドルドレンに自分の軽率さを謝った。



 謝りながら、ドルドレンを抱き締めた。何度も謝り、許してほしいとお願いした。


 ドルドレンはもう凹んでいなかった。イーアンをベッドで抱き直してキスをした。


「イーアン。相手は王だ。でも俺は」


「あなたは私の夫で、私のたった一人の王です」


 それ以上は言葉は要らなかった。ドルドレンは愛妻(※未婚)をその逞しい腕にしっかり抱いて、蝋燭も消して、後は愛情を時間をかけて注ぐだけだった。



お読み頂き有難うございます。


今日は誤字報告を頂きました!初めて頂いたのですが、こんな細かいところまで見て頂けていることと、それを私に教えて下さることに、とても有難くて嬉しく思いました!

お手数もお時間もお掛けしました。ご親切に感謝します。有難うございます!


初めて誤字報告の機能を見たので、もしかしてメッセージなどあったのか分からないのですが、私がメッセージをお返し出来ていませんでしたら、大変申し訳ありません。教えて下さった方に、この場を借りて御礼申し上げます。有難うございます!!

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