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魔物資源活用機構  作者: Ichen
泡沫の示唆
1458/2965

1458. 模範演習 ~分団長の剣・弓のフォラヴ

☆前回までの流れ

警護団に指導を頼まれたドルドレンたちは、カベテネ地区警護団施設の空き地で模範演習を見せました。

最初はロゼールとドルドレン。型破りな騎士ロゼール。素手のようで、信じられない動きを使い、鎧の総長の長剣を相手に見せつけた『前座』に警護団はビックリ。

今回は、分団長サイザードが、二人の動きの感想を告げてから、午前を模範に使おうと提案します。

 

 拍手の後、部団長のサイザードが騎士たちにお礼を言い、率直な感想を告げる。


「かなり。『模範』としては、かけ離れている(←無理があるって意味)」



 バイラは後ろで、声を殺して失笑。サイザードは笑っていないので、バイラと一緒に笑いそうになるドルドレンは、頑張って真面目な顔で頷く。


「その意味は」


「バイラに団員の状態を聞いていないのか。とてもじゃないけれど、()()()()()()()はどこから真似れば良いのか、部下に分からないと思うのよ」


 クスクス笑う声が背後で聞こえるドルドレンは、そっとロゼールが見えないように体をずらし(※ロゼは笑う)咳払いして、大きめの声で『そうかも知れないが、教えるために来た』と前置き。


「サイザード。警護団本部では、模範演習の後に班に分かれて指導した。『演習』自体を学ぶ必要もある」


「そうだけど。もうちょっと、やる気になるような感じが良いのよ。やる気はあるんだけど、総長と彼の動きは人間離れしているから、もう少し普通の」


「ああ・・・(※よく言われる)そうか。まぁ。剣自体は狙ったものを斬れるなら、それで良いのだ」


「狙ったもの?普通はそうでしょ?」


 疑問を訊ねるサイザード。その腰に下がる鞘の形を見て、ドルドレンは剣を抜くように頼む。


 サイザードは腰の剣を抜いて見せ、『テイワグナの、剣の町で作らせたものだ』と教えた。反身で片刃の剣は、騎士修道会で使う剣と異なって、先に行くほど幅がある。


 この手の剣と戦ったことはないな、と思ったドルドレン。剣の使い方が違うかも知れないため、自分にかかってくるよう、その場で伝えると、サイザードは『殺さないで頂戴』と真顔で言った。


 総長と分団長、両者の背後で笑うの堪えるバイラとロゼールは、静かにその場を離れる。ドルドレンもうっかり、笑いそうだったが、ここはぐっと我慢。

 構える前にバイラを呼び、彼に『分団長の剣の使い方は』と訊ねる。


「そうですね。ちょっと違うかな・・でも、さほど変わらないですよ。

 片刃ですから、手を返す動きがあります。総長や私の使う剣にはない、少し。何て言うかな。大振りな印象かも知れません」


 バイラの言いたいことは何となく伝わる。ドルドレンはお礼を言い、彼を下がらせると、サイザードに『始める』と声をかけ、額に上げたマスクを下ろした。



 大きく深呼吸したサイザードは、間を置かずに総長に挑む。

 片足をぐっと踏みしめると、躍りかかるようにドルドレンに大股で飛び込み、振り上げた剣を斜めに切り込む。


 上半身を回したサイザードの動きを見ながら、剣で受けて弾く総長。ギィン!と大きな金属音が空気に響き、重さの割に、しなる剣が入ってくる線を横目で確認しながら、剣の質を理解した。


 これはサイザードくらいの()()だから出来ることかもな、と思う。思うに小柄・腕力のない者は、ここまで力の入った剣をしならせられない気がする。


 ドルドレンの返した剣を、サイザードは剣の腹を当てて流してかわす。ふむ、と思うドルドレンは、これもまた、この剣の一般的な使い方なのだ、と知る。


 自分たちも取るかわし方だが、両刃だから、剣の腹で受けるには、厚みがあるか、幅があるかで、それらがないなら相手によっては遠慮もする。分団長の剣は、遠慮が要らない。


 ドルドレンが試しに切り込んでみると、サイザードは剣で受け止めたが、その時、広がった剣先に片手を当てた。


「ほう」


「重い」


 マスクの向こうの灰色の瞳に、感心を呟かれた一瞬。サイザードも苦そうな笑みを浮かべる。剣を引いたドルドレンに、サイザードは斜め下から切りつける。


 ドルドレンはそれを跳躍でかわし、見やすいくらいに幅のある、分団長の剣が返す手で翻った平面に、ちょっと着地させてもらい、『げっ』の声を聞いてから、ポンと後ろへ跳んで降りた。それからマスクを額に押し上げ、ニコッと笑う。


「済まない。人の剣に()()()()()


「良いのよ。私の負けだと分かった。剣に降りるような相手じゃ、私の首は離れている」


 サイザードの理解は早く、剣に触れる相手では死んでいるも同然だから、ここで終わり、とした言葉を伝える。ドルドレンはその解釈の早さに満足。


 手を出して握手を求め、サイザードの樵のような大きな手に、がっちり握られ(※心なしか痛い)手合わせの礼を言うと、サイザードも笑って『久しぶりだ』と答えた。



 拍手の中、ドルドレンは分団長に質問。


「さて訊きたい。サイザードと同じくらい、()()()者は、どれくらいいるだろうか」


「そういうことか。それは難しい質問よ。私は護衛出だから、ここまで出来るの。ヨライデ国境の護衛で経験を積んだの」


「バイラと同じとは。そうか・・・それで、他の者と剣も違う」


 ドルドレン、納得。何度も剣を使っているからこそ、()()()()()があると分かる、サイザードの動き。この体格じゃ、護衛もさぞ頼もしかっただろう、と関係ない感心もする。


「俺やロゼール(部下)のような、曲芸的な動きは要らないが、相手のどこを切ろうとするかを、きちんと狙うことを覚えるべきだ。サイザードは動いて理解した。剣の演習は、これでどうだろう」


「そうね・・・・・ 」


 総長の言いたいことは理解出来た、分団長。少し考えてから、ちらと自分の部下を見て『今日一日で、見せれらるものは、剣と身体能力?』と質問してきた。

 言われた意味がすぐに分からず、総長は、その意味を目を合わせて視線で問い返す。


「弓も引かせたい。この辺は弓を使うのよ。山から下りた地域は、平原に続くところが多いから、ダマーラ・カロから南や東は、弓矢の使用が増える。

 今日、もし弓矢も見れるなら、午前は見させるだけでも良いかもと思う。演習指導は午後からで。

 この前、空を飛んできた魔物も、町の人間じゃないけれど、()()()()()()ばかりなのよ」


「あ」


 また、『旅の弓引き』の話だと思ったドルドレンは、頷いて『それもそうか』と短く答えた。

 忘れていたので、またその存在を引っ張り出され、少し意識するものの、それはさておき。



 ()、と言われて振り向く顔は、白金の髪を陽光に輝かせる、微笑みの人・フォラヴ。


 目が合って、涼しい笑顔で『何でしょう』と鈴のような声の質問を受けたドルドレンは、彼を呼んで相談する。


「彼らは、弓矢を見たいと言う」


「はい。私でも宜しかったら」


「オーリンはいないのだ。どうやって模範を見せよう」


 首都の本部で模範を見せた時、オーリンがフォラヴを誘導してくれた。その姿は、さすが弓職人と思う凄まじさで、また、初めて披露された部下の凄腕も、度肝を抜かれた。

 ああした演技に似た見せ方は、一人では難しかろうと、ドルドレンが相談すると、意外なことにフォラヴは笑みを深めた。


「総長がご心配されることはありません」


「でも」


「私もロゼールを使います(※使用率抜群)」


「え」


()()()()()()、私の矢を避けるでしょう」


「危な」


「総長が、おやりになる?」


 ううん、と、すぐに首を振るドルドレンに、フォラヴはコロコロと鈴のような声で笑う。その上品な笑顔に、警護団員の何人かは見惚れた(※そんなことも生じる)。



 こうして。指名されたロゼール。ちょっと嫌そう(※かなり、とも言う)。

 恨めしそうに、自分を売った総長を見上げ、目を逸らした総長に『俺は()()()じゃないですか』ともう一度言った。総長は答えなかった。


「フォラヴ。矢の速度じゃ、さすがに俺は刺さるよ」


「おや。魔物相手に、()()()()()()()()あなたが弱気な」


「矢の速度と違う。せめて、フォラヴから距離が遠くないと、俺には無理だ」


 困る友達に、妖精の騎士はニッコリ笑って、すっと建物の壁を指差した。

 その白い手袋の指先は、窓の並ぶ壁を示していて・・・ギョッとした総長とロゼールは、急いで振り向いてフォラヴを凝視。


「あなたは、()()()へ。私は、こちらから。どうしましたか」


「フォラヴお前。本気で言っているのか。もしも外れたら」


 ドルドレンは注意する。幾らなんでも矢が建物に向かうなんて、と言いかけると、フォラヴは総長の腕に手を添えて首を振る。その顔は少し悲しそう。


「外れません。そして、ロゼールは矢を捕まえます」


「無理だよ!」


 遮るように、ロゼールが否定する。フォラヴは友達の怖れには同情的なのか、頷いた。


「でも。ではどうしましょう。この空き地で、()()()()()()()を向いて矢を放ったら」


 それもゾッとする一言。横で聞いていたサイザードも、言われてみれば・・・と、今更。


 的を置くにしても壁に掛けないとならない。本部で弓矢の実行があったことを、報告書で読んでいたから、それで頼んでみたものの。


 困るドルドレンは、さっと分団長を振り向いて『危険だ』と伝える。ドルドレンもうっかりしていた(←弓矢使わない人=うっかりもある)。


 サイザードもちょっと困ったが、自分を見ている涼し気な微笑みの騎士に『あなたは平気なの』と、その余裕そうな理由を尋ねた。


「私は()()()()()もの。風もないです。少しは・・・あるけれど。この程度なら」


「凄い自信ね。いつも弓なの?剣を持っているけれど、弓は?」


「普段は剣を使います。事情ありまして、私は弓はたまに使用します」


 ええ? サイザードの顔が曇る。何も言わずに、バイラの側で見守るザッカリアは、顔に驚いて、ぎゅっとバイラの裾を握る。バイラはそっと宥めた(※見えないように)。



 そして、ここまで来ると、フォラヴは勝手に決める(※彼はそういう一面あり)。


 スタスタと・・・バイラの持ってきた長弓と、側に置かれた矢の揃った矢筒を取りに行き、その独断に驚いて、声の出ない総長たちを振り向かず――


 とても自然な動作で弓を持って、弦の張りを確認すると、弦を数回弾いてから背負った矢筒の矢を抜いた。


「待て、フォラヴ」


「はい。総長」


 すっと振り向いたフォラヴは、ひゅっと弓を引き絞り、総長目掛けて矢を放った(※大胆)。


 まさか!と思うのも同時、ドルドレンは自分の数十㎝周囲を囲む人々を守るため、瞬発的に右腕を出した。

 フォラヴの矢は、総長の鎧を貫くことなく、右腕の面に当たって落ちたが、本当に矢を放った部下に、ドルドレンは激怒。カッとなって、怒号で名を叫ぶ。


「フォラヴ!!」


()()()()()。そして()()()()()()。『今』お分かりですか・・・?」


「お前・・・お前って男は」


 怒りがどんどん湧き上がるドルドレンに、フォラヴは突然、冷たい眼差しを向けた。



「なぜ。ここまで一緒に過ごした私を信じませんか。あなたの隊で命を懸けて、一緒に動いた私が。旅にもお供している私が、あなたの信頼に値しませんか」


「何だと?」


 フォラヴは何も言わない。冷たい空色の瞳は総長から視線を外し、唖然とする他の者の縮み上がった肝を無視するように、壁を見た。壁の向こうでザワザワしている(※何か危険を察する人々)。



「ロゼール。私たちは魔物退治で生き残りました。このテイワグナでも本気で挑むのです。ロゼールなら私の矢を取れます。

 私たちはお芝居をしに来たのではありません。拍手を頂戴するために回る芸人でもない。

 私たちは、命懸けで戦った姿を、ここでも本気で見せるために来たのです。そうでなければ、命を懸けて戦うなんて意識は生まれません」



 フォラヴの言葉。胸をガンと掴まれたロゼールは、頷く。それから、ロゼールの合図が響いた。


 両手を勢い良く、パンパンと二回打ち鳴らした赤毛の騎士は、途端に壁に向かって走り出す。微笑む妖精の騎士が『取って!』と大きな声で叫んだ直後、パンと弦が矢を弾く。


 くるっと体の向きを変えたロゼールは、見事に一本目の矢を握る。

 その時、ロゼールは気づく。自分が触れる前に矢が落ちようとすることに。これは、フォラヴの力!と分かり、ふわっと笑顔が浮かんだ。


 

 その笑顔は、離れた妖精の騎士に届く。フォラヴもニコッと笑って『取って下さい』と2本目を射掛けた。

 赤毛の騎士は自分に向かってくる矢に、恐れもなく腕を突き出す。

 どこに触れそうになっても、矢はいきなり直下するように見え、ロゼールは友の力を心で絶賛した。


 本気さを見せるため、何が一番なのかをフォラヴは伝えたかった。

 それは、危険を伴う行為に挑む()()ではなく、その手前に生じなければ身動きも取れない、最初の威力『信じる』こと。


 フォラヴの手加減、彼の人ではない能力の恩恵。その種明しはするだろうが、それが見せかけの本気目当てではないことも、フォラヴは後から皆に伝えるのだろう。

 最初に『安全ですよ。矢は落ちますよ』と言えば、『それならまぁ』と本気の信じるには至らない。


 フォラヴは―― 信じることが本気の原動力 ――として、意識に訴えかけた。



 矢を放つ、白金の髪を揺らす騎士の微笑み。受け取る赤毛の騎士の、常人離れした動き。


『本気で』――


 たおやかな動作の男が、厳しく静かに言い放った声は、警護団員に届いた。それは心に渡り、自分たちがここから先、テイワグナを守るのだと、改めて重く捉えるに充分だった。


 そして、ドルドレンは複雑。あんなことを言われるなんて、思いもしない展開。


 フォラヴは自分を無視し、矢がなくなるまでの12回の時間、ロゼールに微笑み続けた。


 全ての矢を終えた時、フォラヴは『ロゼールは最高』と笑い、サイザードもバイラも、見守った団員たちも、ありったけの拍手喝采で彼ら二人に感動を示した。


 矢を抱えて戻って来たロゼールに、フォラヴは矢筒を向けて戻してもらい、矢筒を下に置くと、友達を抱き寄せて『私を信じて下さって有難う』と頬を寄せる。

 抱き返したロゼールは笑いながら『フォラヴはすごいよ。俺はすごい友達がいる』と心から称える。


 その笑顔に、微笑みで返しながら。ロゼールの肩越しに見える総長に、フォラヴは威嚇のような冷たい視線を投げる。

 ドルドレンはそれを受け、ごくっと唾を飲み、自分に投げかけられた『信頼に値』の疑りを苦しく思った。


 

 そして後から。ドルドレンはフォラヴに『お前を信じている』と伝え、フォラヴに『まだまだです』と一蹴された(※厳しい部下)。

お読み頂き有難うございます。

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