1456. バイラの懺悔・ザッカリアの新しい力・地方行動部到着
☆前回までの流れ
朝一番、イーアンも空から戻って来て、旅の一行の朝食は賑わいます。バイラも回復し、今日一日の予定を確認し合い、離れていた時間のそれぞれの話をした後、朝食を済ませて、今日も動き出します。
朝食は丁度、このすぐ後に終わる。食べ終わった皆は立ち上がり、今日の予定の準備に分かれた。
今日はオーリンだけが、空に上がるため、他は『警護団施設』と『炉場』の二手に動く。
オーリンが話してくれたものを用意している間、荷馬車にいるイーアンは、外へ出て来たバイラと目が合った。
イーアンが何かを言う前に、バイラはごくっと唾を飲み込み、その様子を見たイーアンは、彼が何かを緊張していると察した。
思った通り、バイラはすぐに『イーアン』と声にせずに口だけ動かしたので、イーアンは頷いて側へ行った。
「どうしましたか」
「私を許して下さい」
「はい?」
何を?と棒読みで返した女龍に、バイラは縋るように大急ぎで『皆を疑った』と最初に言う。
イーアンは驚かず、何か事情があることを理解して、小さく頷くと、真っ直ぐに彼を見つめて『今、話せることは何でも』と促した。
「あなただけが知りません。そのあなたに頼る私を臆病者と思わないで下さい」
「思いません。お話になる内容が重いのでしょう。それを伝えようと決心したバイラが、臆病者なはずはありません」
「ああ、イーアン。龍の女よ。許して下さい。
私に魔族の魔法が掛かったようでした。でも、私はそれに気が付かず、心に皆を疑い、皆を傷つけるような浅はかさを」
「何ですって?ちょっとお待ち下さい。穏やかではありませんよ、それどうされたのです」
魔族の魔法、と言われて、イーアンはビックリする。
また魔法使いみたいのが出て来たのか、と驚いた顔で訊き返すと、バイラは怖がっていそうな顔で頷いて『私は分からなかった』と言う。
それから、自分が相手にした魔物が喋ったこと。それを切ろうとしたら、腕が動かずに、相手にされなかったこと。
それ以降数日、悶々と『皆がいると迷惑が掛かる』とまで感じた・・・一番、話したくなかったことを、思ったままの時と同じ言葉にして、懺悔のようにイーアンに伝えた。
話し終えるまでの時間、約3分。この短い間で、バイラはとても憔悴した。イーアンは彼の腕を撫でて『よく話してくれた』と最初に言うと、大真面目な顔で彼に『バイラではない』とはっきり告げる。
「でも、私が心のどこかでそう思っていたのかも」
「この話は他に誰かにしましたか」
遮ったイーアンの確認に、バイラはさっと首を振りかけて、ハッとした様に『サイザードさん』と呟き、それが分団長であることを教えると、分団長に叱られたことも話した。
イーアンはちょっと笑って『良い人』とだけ言うと、バイラの話に戻す。
「慌ててはいけません。あなたは正直で強い人です。これまで、数か月間。バイラと共に行動し、私があなたを悪く感じたことは、一回だってないのです。これは、ドルドレンたちも同じでしょう」
辛そうな顔で眉を寄せる警護団員に、イーアンは『落ち着いて聞いて』と頼む。
「こんなことを言われたら、余計にあなたは自分を責めるかも。
でもそれは不要です。良いですか、相手は魔族だったかも知れませんが、その前は人間だったのです。恐らく、魔法使いの類でしょう。心に忍び込む魔法を使うものもいます」
イーアンが続ける言葉を、オロオロと訊くバイラの、告白後に起こった不安定な状況を宥めながら、イーアンは静かに伝えた。
「アゾ・クィの村を知っていますか。私たちは、最初にそこで魔法使いに出くわしました。
シャンガマックは私に剣を振り上げ、本気で私を殺そうとしました。彼の意志は関係なく、彼は悲痛な顔で、私に逃げるように頼みました」
え?と真顔に戻ったバイラに、イーアンは『タンクラッドもドルドレンを斬ろうとした』と教える。バイラの顔に怖れが浮かび、『そんなことが』と呟いた。
「どうですか。心の中で感じていないのに、本当に殺すつもり。満身の力と鋭敏さを集中して、仲間を襲うのです。何度も。
その時の私は、今ほど強くありません。剣が跳ね飛ばされるまで、シャンガマックの攻撃を受けました」
「あの・・・シャンガマックの。彼のあの、顎の骨のような剣で」
「そうです。私も死ぬかと思いました。彼は魔物相手に戦い続けた騎士で、細身だけれど剛腕。
女の私が、龍気に頼る術も分かっていない状態で、受け止め続けるには無理がありました。シャンガマックも泣きそうでした。
結果を話せば、コルステインがその魔法使いを倒してくれたため、私たちは命からがら、助かりましたが。
その後のシャンガマックやタンクラッド・・・彼ら二人が操られたのですが、彼らの心境を思うと」
それは辛い、と同情するバイラに、イーアンも頷いて『そう思います』と答えた。
「だから。バイラも気にしてはいけません。気にしているだろうと思えば、あなたが今同情を示したように『それは辛い』のです。
ご自身のことだから、甘くは思えないでしょう。バイラは自分に厳しいから。でもいけません。これ以上、その影響を引きずっては、それこそ操られている延長」
イーアンは一気に早口でここまで話すと、ハッとしたバイラに微笑んだ。バイラもゆっくり繰り返す。
「操られている延長・・・・・ 」
「そう思いませんか。それこそ怖い。ザッカリアがあなたから、魔法を取り除いたような話をして下さったけれど。あの子の力でそれが行われたなら、もう怖れることはないはず。
記憶を頼りに怖れを呼んでは、延長と呼ぶより外なりません。それは、魔法ではなく、あなたが選択している思考ですよ」
「イーアン」
「ね。そうなっては、不本意でしょう。バイラはもう無事なのです。良かった」
ニッコリ笑った、龍の女に。バイラは感激して、ちょっと涙ぐむ。イーアンは笑って『これから演習なのに』と泣いてはいけないことを教える。
「許して下さい、と言うなら、私は許しています。後は、ご自身が許せるかどうか」
「はい。許します」
「そうです。そうでなければ。怖い相手だ、とそれだけ覚えておきましょう。魔法使いは警戒する相手です」
教えるイーアンに『分かりました』と答えたバイラは、既に相談する前の緊張感が消えて、しっかりとしていた。
イーアンはもっと笑みを深めると『あなたも私を励まして下さったでしょう』と続け、バイラの腰袋を見た。
「私が凹むと、肉をくれました」
「ハハハ!肉ですか。そんなの、いつだって―― 」
バイラも笑った声で、イーアンは安心。彼の腕をポンポンと叩くと『また下さい(※一応)』とお願いして、親方に『行くぞ』と呼ばれた荷馬車へ戻った。
見送ったバイラは、荷台から手を振る女龍に手を振り返し、鎧を着けて出て来た騎士たちを迎えると、自分も馬に乗る。
バイラの心に、龍信仰が一際輝く。心も晴れた。そして、イーアンに教えてもらったことを、ちゃんと胸に刻んで、朝の道を出発した。
*****
今日は、職人たちの荷馬車に、宿の馬を貸してもらったことで、騎士たち4人は自分たちの旅の馬に乗る。
一頭に、ドルドレンとザッカリア。もう一頭に、フォラヴとロゼール。騎士たちは鎧付きで、馬に重そうに、見えそうなものだが。
「馬車の馬は、頑丈なのだ。普通の馬より全然大きいし」
だから平気、と呟くドルドレンに、前に座らされているザッカリアは『本当だね』と納得する。
「いつもは馬車を引いてもらうだけだから、乗ってみて思う。ヴェリミルは背中が広いんだね」
「センも、である。ハイザンジェルの馬車の馬は、テイワグナよりもずっと大型だし、骨格が違うから筋肉も多い。それに、骨太なのだ。
俺たちの馬車の荷と、常に5~6人乗った状態で旅をしていて、センもヴェリミルも、ビクともしない」
見慣れると気にしないんだけれどね、と言う総長に、ザッカリアも見上げて『もっと乗りたいかも』と笑う。
「ショーリの馬と似ている?総長のウィアドは、もっと細いよね」
「うむ。彼の馬は、ヴェリミルたちと比べると少し小さいが、力強い。ショーリくらいの体格だと、鎧やら荷物やらを積んだら、もう、背中は200㎏」
ザッカリアはじっと総長を見つめ『俺の体重の4倍』と呟く。ドルドレンも笑って頷くと『お前はこれから大きくなるから』と言っておいた。
それから、『ウィアドは細いが、力と持久力がある』良い馬だよ、と教えた。
「ところでな。お前の話だ。ザッカリアは何をたくさん話したいのだ。空で何があったか」
「あのね。俺はソスルコと一緒でも、一人でも戦えるようになったよ」
「うん?」
聞けば―― 単体で変化がある、とした話。ドルドレンの正直な気持ち『お前もか(←人間離れ)』。
うちの奥さんから始まって(※イーアン龍)・・・部下もあんななっちゃったし(※フォラヴ=透明妖精)。シャンガマックは人間の身だが、絶対離れないお父さんが強烈過ぎる(※過保護愛&獅子)。
何とも遣る瀬無い総長は、灰色の瞳を子供に向け、楽しそうに『あれが出来て、これが出来て』と教えてくれる内容に、うんうん、頷くだけ。
自分の立場が(←勇者)どんどん影薄く変わるような気がして、複雑な心境。
それを見抜いたか、子供は肩越しに総長に『自分と比べないで』と注意。注意されて、つまらなさそうに頷いた総長に、ザッカリアが眉を寄せる。
「もっと喜んでくれると思ってた。だから先に、話したんだよ。ギアッチは喜んでくれたのに!」
「う・・・うむ。嬉しいぞ。息子だし」
「嘘っぽいよ」
じっと睨むレモン色の瞳に耐えられないドルドレンは、スーッと視線を逸らしたが、子供の手が頬に伸びて、強制的に顔を戻された。
「勇者の役目は、俺が話してあげたでしょ。どうして総長は」
「分かっている。分かっているのだ。何も言うな。俺だって、お前たちを羨むのは良くないと分かっているが、考えてもみろ。俺は冠だけだぞ(※それ以外は小さい贈り物)」
「ビルガメスの毛がある。足にはクスドがくれた皮膚が。男龍の祝福も受けている。
総長、怪我したって言ってたけど、タンクラッドおじさんが言っていたよ。首には血も傷もなかった、って」
「ぬぅ」
「ビルガメスが守ってくれているんだ。足だってそうだよ。クスドは守っているよ」
贈り物を軽んじている、と子供の口調で責められて、ドルドレンはもう何も言わなかった。分かったことは、『ザッカリアも体を変える術を覚えた』こと。
それ以外の出来事に関しては、ザッカリアの所属する空の一族から、あれこれ許可が出て、それを練習したとか、そうした内容だった。
「だからね。次の戦闘、俺は役に立つよ」
「お前はいつでも、俺たちを守ってくれる。勇敢である」
「後ね、龍気じゃないから。ソスルコと一緒だと龍気が上がるけれど、俺だけならシュンディーンも平気だよ。俺はまた違うの」
「やっぱりお前は特別なのだ。謎めいて」
「謎じゃないよ。だけどまだ、皆にはあまり言えない」
子供の言葉に、うん、と返した総長は、大いなる力が身近にいることに感謝する。
人間としてしか、努力も尽力も出来ない自分だが、『それに意味がある』とイーアンに言われた時から、自分は感謝を常に感じようと思った。
二人が話している間に、前を進んでいたバイラが道を折れたので、騎士たちの馬も続いて路地へ入る。
それまでも、鎧付きの見慣れない騎士は、町の人たちの好奇心を受けていたが、路地を抜けた所にある警護団施設前では、もっとあからさまに好奇心の対象に変わった。
演習の準備をしていたのか。表の空き地に出ていた警護団員たちは、輝く鎧に包まれた騎士3人(※ロゼールは普段着)を連れて来たバイラに、わっと歓声を上げた。
「歓迎されています」
フォラヴの一言で、前を進むドルドレンも少し笑う。『ここには、歓迎される側、がいるのだ』総長の言葉に、不思議そうな空色の瞳を向けたフォラヴ。
彼を振り向き、『ああ、そうか』とドルドレンは付け加える。ロゼールは分かっているので、苦笑い。
「実は、カベテネ地区警護団は、魔物退治に積極的な団員と、そうではない団員で割れている」
「なんと。そうなのですか。それでは、私たちの演習は前者の方たちが」
「だと思うよ。バイラさんもそう話していたから」
友達の後ろで、話の続きを引き取ったロゼールがそう答えた後、前からバイラが『こちらへ!』と大きな声で呼びかけた。
お読み頂き有難うございます。
ブックマークを頂きました!有難うございます!
お礼に絵を描き始めました。描き上がったら、ご紹介します。
お礼を伝えたかったので、前座のように活動報告に料理の写真を出しました。
(4/26の活動報告URL↓)
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2780608/
宜しかったら来てやって下さい~




