1455. 旅の百十七日目 ~イーアン参加・合流報告
☆前回までの流れ
それぞれ、するべきことの一日を終えた夕方。戻って来たザッカリアとフォラヴを迎え、皆は一緒に夕食の席に着きました。
戻った二人の部下に留守中の出来事を伝えた総長でしたが、『魔族が出た』の一言にザッカリアが反応し、バイラの浄化を行います。この夜は、皆に緊張を与えた夜でした。
そして今回は翌朝。また新しい動きが加わります・・・
朝も早く―― コルステインは、まだ暗いうちに空に龍気を感じ、窓を見た。
だがどうも、イーアンだけと分かり、特に退散する必要はないと判断。青い龍や男龍が一緒だと、コルステインにはちょっときつい。今朝はそれがないので、コルステインは微笑んだだけ。
部屋のベッドで、ぐっすり眠るタンクラッドの頭を撫でながら(※コルステインは大きくて寝れない)ベッド下に座ったコルステインは、龍が戻ってきたことに嬉しく思った。
ここのところ、イーアンがいない日が増えた。それは、ドルドレンが寂しくて可哀相だし、前の旅を感じさせる。コルステインは、好きだったら一緒が良いと思う。
だから、イーアンが戻ってきたことは嬉しい。好きと思うと、一緒。一緒だと守れる。それは当たり前で、そうじゃないのは変。
龍気も控えめに、イーアンは戻ったその足で(?)ドルドレンの部屋に入った様子。
そろそろ、空も白むので、コルステインも安心して地下へ戻ることにした。
窓から入ったイーアンは、そそくさクロークやら装備品を外すと、パッパッと衣服を叩いて靴を脱ぎ、眠っている伴侶のベッドに潜り込む。
ドルドレンは、一人寂しく眠っていて(※他の皆さんは寂しくないけど、常時一人)イーアンは、伴侶に済まないなと思いながら、大きな背中に貼り付く。
寝ぼけたドルドレンも、もぞもぞ向きを変えて、本能で奥さん側に寝返りを打つと、くっ付くイーアンを抱き直して・・・はっと目が覚める。で、目が合う。
鳶色の瞳が可笑しそうに自分を見ていて、ドルドレンは大喜びし、ぎゅうぎゅう抱き締めた。
「やっと帰って来た!」
「逃げて来ました。ちょっと怒って」
ハハハと笑うイーアンに、ドルドレンも笑って頷き、何度もちゅーっとしては『よく逃げた』と褒めた。
「長かったのだ。連絡もないから」
「連絡も閉ざされたので、私はさすがに『もう限界だ』と怒りました」
でもそんなのは後で良いの、とイーアンはニッコリ笑顔を向けると、伴侶をぎゅーっと抱き締めて『安心』と嬉しそうに呟く。
ドルドレンも嬉しいので、しっかり抱き返して『少しの間だけど、一緒に寝よう』と答える。
「いろいろあったよ。だけど今は」
「はい。困ったこともあったでしょう。ただそれは、今は置いておいて」
二人は嬉しい。この短い、朝食までの時間をお互いの温もりを感じながら、ただただ、抱き合って幸せを感じながら過ごした。
朝食の席は、実に久しぶりに大人数が揃う。一人増えるだけで、席をずらして互いの距離が短くなる。狭さも嬉しい、仲間の集いに、皆はそれぞれ感じたことを言い合い『大所帯』『随分この状態がなかった』『後はシャンガマック』と笑う。
運ばれてきた朝食で、宿屋のおばさんはイーアンを見て、一人分を追加に運んだ際に『毎日はいられないの?』と訊ねていた。イーアンは『自分としては居たい』と答えるのみだった(※お空の都合)。
「龍の女も忙しいのよね。これ食べる?」
理解を示すおばさんは果物をくれて、イーアンは頭を下げてお礼を言い、有難く果物を頂戴した。
「さて。では食べながらだ。今日の予定の前に、バイラに体調を訊ねよう」
「はい。何ともありません。胸の痞えがとれたような・・・ああ、他意はありません」
答えながら、正直な思いがつい口に出たバイラは、すぐに言い直し、皆はそれを黙って受け入れる。
イーアンだけは知らないことなので、少し皆の様子が気になったものの、『彼は具合が良くなかったのかも』と思うに留め、特に質問しなかった。
頷いて微笑んだドルドレンは、続けてバイラに『模範演習のことだが』と話を出す。ハッとしバイラは『そうです、そのこと!』と大きい声を出した。
「すみません。昨日言いそびれました。今日は予定がもうありますか?」
物事が動いた、と分かったドルドレンは、首を振って『俺とロゼール・・・騎士たちにはないと思う』ちらっと、ザッカリア・フォラヴを見てから、返事をした。
「私もありませんよ。ザッカリアは?」
「俺もないよ。模範演習するの?」
二人の交わす言葉を聞いてから、ドルドレンはもう一度バイラに『と言うことだから』と笑う。バイラは安心したように了解し、今日お願いしたいと伝えた。
「滞在日数が分からないですが、今日と、出来れば明日も。団員の様子を見て、連日で行えたら、と話が進みました。剣は、総長・・・が教えてくれますか?」
ちょっとタンクラッドを気にしたバイラだが、タンクラッドと目が合って、小さな笑みを受け取ったので『彼は来ない』と理解する。ドルドレンもそれを見て『職人たちも仕事が』と理由を教えた。
「昨日の話では、タンクラッドたちは炉場で教える内容が増えたのだ。魔物材料の種類を教える。得意分野はそれぞれあるから、誰を引っ張り出す暇もなさそうだ」
「分かりました。では、騎士の皆さんにお願いしても良いですか」
その為の騎士だから、と笑うドルドレンに、バイラも済まなそうな顔で『失礼しました』と謝った(※騎士=武器扱うの本業)。
ここで一旦話を切り、ドルドレンは『昨日までの自分たちの状況』を、イーアン、フォラヴとザッカリアに改めて説明する。
イーアンは『物事を丸ごと』、二人の部下は『職人たちの動き』について、今日までのことを知らされた。
ドルドレンの話には、この時、昨晩のバイラの話だけが入っていなかったが、部下の二人もそこは何も言わない。イーアンには、後から伝えるのだろう、と判断する。
・この町には、ギールッフの職人たちが作った魔物製品が届いていること。
・バサンダが施設入居したこと。彼から、大量の面を引き取ったこと。
・町に入った夜に、魔族が現れる魔物退治があったこと。
・だが、犠牲者も町の被害もなかったこと。
・ドルドレンが負傷し、それを癒したフォラヴが、入れ替わりで留守にしたこと。
・魔物を回収し、昨日は炉場へ行って、この町で教える内容を決めたこと。
ドルドレンの負傷について、イーアンは目がぐっと見開いたが、『事故』によるものと、ロゼールが急いで伝え、ドルドレンも『フォラヴが治してくれた』今は何ともないと教えたので、一先ずイーアンは落ち着いた。
「驚かせた。だが大丈夫だ。それでは、イーアンが報告することがあれば、教えてほしい」
話を変えた伴侶に、心配そうな目を向けたイーアンは、ちょっと伴侶を見つめてから『無理はしないで』とお願いし、自分の空での話は特にないことを伝える。
「その①。龍図については、即行、話が終わりました。まだ話せないような代物かも。
その②。私の動きの制限については、これは私にも・・・何と言って良いか。どこまでが良くて、どこまでがダメなのか。行動制限については、男龍たちの感覚で、指示されている現状」
「だから、逃げたの」
伴侶が笑うので、イーアンは困った顔で『逃げますよ。何も出来ないじゃありませんか』とぶーたれる。
ミレイオもタンクラッドも笑って『適度に逃げろ』と後押しし、オーリンは入れ替わりが平気そうと感じ『俺は今日、ちょっと空へ』と頷いた。
「すぐ戻ろうと思うよ。俺も鏃製作がある。だが、空の都合も見ておきたい」
オーリンは実家があるので(←空に)そういうことかな~・・・と思う皆は、彼に『気を付けて出かけて』と促す。
長居する気がないオーリンだが、一応『鏃の話で何がどうなったか』はイーアンに話す。イーアン了解。使える工房は一つ、とも知り、親方とミレイオが一緒なら、相談しながら進めると答えた。
「では次だ。ザッカリアに聞こうか」
「俺の話は沢山なの。沢山だから、後で総長に言う。いい?」
「皆には言わないのか」
「言うけど、いっぱいなんだもの。今、全部話したら・・・食事の時間、越えるよ」
あ、そう。頷いたドルドレンは、皆が笑っているので、子供に『じゃあそれで良いよ』と答えてあげる。今日はザッカリアも一緒に動くので、行く道で話を聞くことにした。
「最後はフォラヴだ。どうだった。また出かけるようなことに」
ドルドレンも気にする、しょっちゅう里帰りする部下(※里=妖精の世界)。その心配そうな顔に、くすっと笑ったフォラヴは、白金の髪を揺らして首を振る。
「総長、そんなに心配されないで。大丈夫です。行くかも知れないけれど」
「宣言である(※ドルドレン、目が据わる)」
「違いますよ!・・・私は、自分の使える力をもっと知りたいのです。目標とした妖精がいて、彼について調べながら、自分にも応用を考えていました」
「同じ力なの」
素で訊く総長に、フォラヴは笑顔がほころぶ。気にしていそうな『留守がち』が、顔に出ている総長に、ちゃんと教える。
「同じではありませんけれど、見習うことと、似たような環境で動かせることもあります。私は自分を知らなさ過ぎます。それは他の妖精にも言われて」
と、言いかけて。口を閉じたフォラヴ。目を逸らしてから、黙って聞いてくれている皆を見渡し、微笑んで『この話はここまで』と急に終えた。
「あんた、いつもそうよ。たま~にしか、全部話してくれないじゃないの」
赤ん坊に肉を食べさせながら、ミレイオが困ったように突っ込むと、フォラヴはニコッと笑う。
「満ちませんもので。お話するに値しません」
「それは私たちが判断するわよ。あんたが何を求めているのか、こっちは大人なんだから大体分かるわよ」
私も大人なんだけれどな・・・と笑ってしまうフォラヴだが、中年組が真面目な顔で頷くので、『はい』と答えておいた(※中年組は全把握を望む)。
ドルドレンも、フォラヴに関しては『あまり自分のことを話さない』印象が強いので、まぁ仕方ないか、と了解。
「でも。以前よりは、お前も話すようになってくれた。そうだな?」
「はい。そう、心がけています。何でも一部始終をお話しては、その時の理解に追いつかない出来事もあります。それは、私には伏せるべき対象です」
フォラヴの答えに、イーアンは『男龍みたいなことを言うな』と感じる。きっとフォラヴも、同じような感性があると思った。
ふと、思い出したロゼール。そうだった、と口を衝いて出た言葉で、自分を見た友達に『訊きたいんだよ』と顔を寄せる。
「魔物退治に、フォラヴが来ていた時。銀色の光が町に見えた。銀粉が散るような・・・あれは」
「え。銀粉」
ハッとしたフォラヴに、バイラも食べていた手を止めて『そう、それ』と急いで口の中のものを飲み込んだ。
「私も訊ねたかったんです。フォラヴが弓矢を使う時、魔物は銀粉のようになってしまうでしょう?今回もそれを、町の各所で確認しています。広範囲に渡って、町民も」
「広範囲。銀粉。まさか」
妖精の騎士の、思い当たった顔つきに、職人たちも興味を持つ。ずっと知りたかったロゼールとドルドレンも、彼を見て、答えを待つが。
「うーん・・・今、お伝え出来ますのは、それは私ではないことです」
「え、それ以上は言わないの」
ドルドレンが追うと、妖精の騎士は苦笑いで『申し訳ありません』とガッツリ断った。ロゼールは諦めないで『味方、だよね。妖精ってことだろう?』と確認を求める。
『味方か』と訊かれれば、これにはフォラヴも答えざるを得ず、頷くだけ頷いた。
「知り合いじゃないのか」
タンクラッドが追いかけるので、フォラヴは微笑んで『私は少なくとも、知り合いではないです』と教える。その言い方。親方が、じっと見つめると。
「タンクラッド。私を追わないで。知り合えないのです。答えは・・・だってもう、彼はいないのだから」
困るフォラヴが、言い難そうにそこまで言うと、タンクラッドは謎めいた話にのめり込みそうになるが、あっさりと断ち切られる。
「ここまで、です。皆に伝えることでもないのです。私は、答えを同時に重ねました。彼はいないのですもの。私たちの味方ではあるけれど、これ以上を知ることは出来ません」
面白くなさそうな、親方とミレイオ。笑うオーリンの横で、バイラも不思議そうに『聞けて良かった』とお礼を言う。
ロゼールとドルドレンも未消化だが、とりあえず『あれは味方だった』ことは答えてもらえたわけで、フォラヴがお茶を飲み始めたため、もう何も言えなかった。
イーアンとザッカリアは、何となく、フォラヴの気持ちが分かる。
イーアンは随分前からだったが『言えないこと』は増えるのだ。それは、自分たちの所属する種類や、その事情によって。
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