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魔物資源活用機構  作者: Ichen
泡沫の示唆
1453/2965

1453. ダマーラ・カロ滞在の内容決定

☆前回までの流れ

隻腕の斧職人カルバロ。彼の工房を借りて、話をしながら制作を始める、ミレイオ・オーリン・タンクラッド。ドルドレンとロゼールは馬車へ戻りました。

鏃を作る予定を伝えたら、カルバロから『旅の弓引き』について意外な情報も。

今回は昼時。旅の一行が、町の滞在内容を話し合います。

 

 ミレイオとタンクラッド、オーリンの3人は、昼時を迎える工房の中で『自分たちも』と昼に出かけることを伝える。



「一緒に食べても。炉場区は初めてだろう」


 さくっと止めた斧職人に、オーリンが『店知ってるなら教えて』と返した。ミレイオは何も言わず、オーリンを何となく応援(※斧職人警戒中)。

 荷を一ヶ所にまとめるタンクラッドも、他意はないが『店は近いのか』と続ける。


「食事処は、ここに入った道の向かいだ。歩いても10分程度だろう。広場を通って、真向かいに入る道の並びは食事処が集まる」


「そうか。じゃ、行くか。荷物は置かせてくれ。騎士たちと報告もある」


「ああ・・・それもそうだな。騎士と赤ん坊?」


 カルバロはふと、赤ん坊連れの赤毛の若者を思い出して、口にする。軽く頷くタンクラッドが、他の二人と一緒に『後でな』とそのまま出ようとすると、カルバロは彼を止めた。


「ちょっと。待て。赤ん坊・・・ハイザンジェルから()()()()()のか、分からないが。こんなの持っているか?」


「あん?」


 一緒に自工房を出たカルバロは、隣の工房の壁を覗き込んで、そこの職人に特に何も聞かず、さっと手を伸ばすと、小さな剣を見せた。職人もちらっと見ただけで少し微笑むと、気にしていない。


「それは・・・剣?子供の」


()()()()()()な。ハイザンジェルにも風習がありそうだ。テイワグナは、赤ん坊の無事を願う風習がある」


 ミレイオが眉を寄せて、よく見ようとすると、カルバロは3人の側に寄り、小さな剣の柄と先端に指を当て、目線でくるくると回して見せた。オーリンは、鋳造の町なのに、これが金属ではないことが意外そう。


「文字が。樋に文字があるな。これ、木製だろう」


「そうだ。お守りだ。子供が生まれたら、子供の部屋に置く。持って行け」


 意外なことを、急に言うカルバロに驚いた面々は、剣から彼の顔に目を戻して『くれるのか』と訊く。カルバロは笑顔で『馬車のどこかに吊るしておくと良い』と答え、タンクラッドの手に小さな剣を置いた。



 それから送り出された3人は、通路を戻って馬車に帰り、待っていた騎士の、のんびりした様子に笑うと『歩きで食事処へ』と誘った。


 赤ん坊を抱っこした総長に、小さな剣を見せ、貰った経緯を伝えると、ドルドレンも嬉しそうに微笑み、『ベッドに飾ろう』とシュンディーンの揺りベッドを見たので、タンクラッドもそこに一先ず、剣をかけた。


 昼時というのもあり、他の工房の扉からも人が出て来る通路に気遣いながら、6人は最初に入って来た広場に出る。

 そこから見える向かいの道は、『食事処が並ぶ』と分かるほどに、人が吸い込まれるように入ってゆく。


 間違えようがないなと笑って、旅の一行もその通路へ進み、入る手前から漂う、美味しそうな香りに『何食べよう』と笑顔が弾む。


 通路の天井が高いので、どこかしら窓でもあるのか、光が入って暗くはない。


 賑やかな通路の両側に、食事処が並び、戸の上に吊るされた看板を見て『何料理?』と話しながら、皆は一軒の食事処に決めて入った。



 石造りの通路から、店の中は木造に変わる。

 人が入っているからか、熱気もあり、通路に向いた窓は全部解放されていて、一行は通路側の大きい食卓へ案内され、表の案内に出ていた『お昼セット』5名分と『串焼き肉』を頼み(←赤ちゃん用)席に着く。


 ここから、料理が運ばれてくるまでは、騒がしい店内や、表の通路に目を向けながら、職人と騎士の報告時間。


 声を少し大きめにしないと、聞こえないくらいの賑やかな店内。言葉に気を付けながら、人に聞かれても問題ない範囲の話で、お互いに察しを付けて理解する。


 他の席から聞こえる会話も、『魔物の後』と分かる話題は入っていたし、やはりあの夜は町民にとって、緊張と恐怖が募った時間だったのことに変わりはないと、旅の一行は感じた。



 待たされることなく料理は運ばれ、『お昼セットで良かった』と笑う皆は早速、昼食を摂る。赤ん坊も深く被せた布の中で、お肉を待つ。


 ドルドレンから赤ちゃんを受け取ったタンクラッドが、串から肉を外して小さく切って刺し直し、赤ちゃんに与える。金串だから、赤ちゃんの牙にはやられない(※重要)。赤ちゃんは、むちゃむちゃ食べていた。


「美味しい。いつも平焼き生地だから、こんなのも良いわよね」


「こういった時間があると、またテイワグナに来たいな、と思うんですよ」


 茹であげた雑穀に、辛い肉の煮込みを付けて食べるミレイオは、外国出張の恩恵を楽しむロゼールと、料理について話し合う。


「これ、豆だよな。これ見て」


 オーリンも齧った側から、揚げものの中身を見つめ、ドルドレンに確認。


 ドルドレンは頷いて『馬車の家族も、こんな料理を作るよ』と教えてあげる。馬車の家族は、他の国からも流れてくるからと言うと、オーリンは『総長は何食べても驚かないもんな』と認めた。


 全員分が山積みにされて、二か所に置かれた料理から、皆は好きなものをそれぞれ皿に取って食べる。

 しばらくそうして食事だけを楽しんで、焼いた野菜を味わうミレイオは、話を報告の続きへ促す。



「ドルドレンは、町役場に行かなくて良かったの?」


 今更だけどさ、と言うミレイオに、総長は『バイラも何も言わなかった』と答えた。ロゼールも少し気にしていたようだったので、『魔物退治の報告は?』とそれを訊く。


「工房契約するなら、俺は契約書も持参していますし。町役場で魔物退治の報告をしたら、話が進みそうじゃないですか。役場を通して『全体契約』的な感じでも、って」


「そんなこと出来るのか。町役場に契約させて。工房ではないのだ」


「ここは積極的だから、そんな感じでも良いかな、と思ったんです。()()()なんて言ってません」


 思いつきだ、とあっさり打ち明ける部下に、眉を寄せ『そういうことは考えて言いなさい』と注意し、ドルドレンは笑うミレイオに『バイラのことだが』と話を戻す。ミレイオも笑顔を戻して頷く。


「バイラが言わなかったことが理由、とも言えないのだが、今回は町に被害がない。

 町役場に魔物騒動の報告をするのは、警護団が行うだろう。バイラもそのつもりだっただろうから、俺には言わなかったのかも、と判断した」


 総長の話に、他の者も同意する。『町に被害がない』これは大きい。


 それでも報告・相談するのか、となれば、それは自分たち派遣団体ではなく、同行している警護団員(※バイラ)で済んでしまう。


 ただ、ミレイオもドルドレンも、『バイラの様子』については思うところあり、それは二人の目が合った時に、通じた感じはあるものの、この時は話題に続けず、ドルドレンは次の話に変えた。



「そうすると。ここで回収した金属は」


「『肋骨さん』っぽいのよね。だからって、ギールッフのロプトンとかさ・・・あのくらい、飛び道具に関心が強い人はここにいないし、別の使い方を考えようか、って。

 候補を急いで考えて、試作してあげる感じよ。私たちが持ち込んだ金属は、普通の刃物や防具に使えるから、それはちょっと見せてあげて」


「イーアンが取っておいた、硬質の皮があっただろう。ハイザンジェルにも送ったが、まだ残っている。あれ以外もあるはずだ。

 似たような魔物が出た時のために、やりようによって種類が作れる様子を見せるのは。参考品を()()()()()()()()ことを目的にしては、どうだろう」


 ミレイオの返事を聞き、ドルドレンが『()()()()()の滞在でも良いのでは』と提案。


 ふぅん?と、彼を見る職人たちは、総長にもう少し詳しく話すように促した。ドルドレンは、イーアンが取り組んだ時の話を思い出して伝える。



「イーアンから、聞いてはいると思う。日々、彼女の動きを見ていた騎士()たちは、彼女がちょっと作っては、すぐに試して紹介する繰り返しにより『どんな魔物でも使えるのでは』と思ったのだ」


 ロゼールも、その話に微笑み『俺も、手袋を作ってもらったんです。イーアンは最初、手袋だった』と繋げる。


ダマーラ・カロ(ここ)で作れる、()()()()()を考えなくても、『様々なものが出来る』ことだけを伝える手もある。回収した金属の使い道に、後押しを考える必要はない。

 町の職人は協力的だが、ギールッフほどの勢いは中々、ないものだ。自分たちの普段の仕事を調整してまで、魔物製品に取り組みたがったギールッフは、異質である。あれは、独特な資質でもあるだろう。

 だから、この町では、選択肢と応用は任せて、参考作品を幾つも作って見せるだけでも」


 ドルドレンの説明に、ミレイオは『中途半端になりそう』と懸念を示したが、親方は黙っていた。オーリンとしては『(やじり)は作るよ』とこだわり、でも総長の意見は面白い、と褒めた。



 食事中、この話の問答が続き、食事処を出る時には、『それも良いかもしれない』の合意でまとまった。


 タンクラッドとしては、貴重な金属(←高く売れる)を、この町の事情に合わせて使うのは嫌だったし、ドルドレンの思い付きが理に適っているのもあるから、()()()()()()と認めた時点で『そうするか』の相槌を打った。


 オーリンもミレイオも、少し半端な状況が気になったけれど、オーリン自体は『ダビの鏃』が一番の目的だったし、旅の弓引きを追いたい気持ちもどこか消せず、長引く滞在は望まなかったので賛成。


 最後まで心配そうだったミレイオは、『適当に教えるのは無理があるかもよ』の責任を指摘していたが、町に長居はしないかも知れない可能性があり、気持ち7割で了解した。



「模範演習は明日からだろう。滞在は1週間を見ているが、それより早く動けるなら、そうする」


 ドルドレンの言葉に、他の者は同意して、午後は再びカルバロの工房へ向かった。


 騎士二人と赤ちゃんは馬車へ戻り、赤ん坊は早々に昼寝。ドルドレンは、イーアン経由で執務の騎士に渡された宿題(※多い)を片付けるため、ロゼールに手伝わせながら午後を過ごした。



 宿題の業務を片付けながら、ドルドレンは思う。

 勇者(自分)がいるだけで、魔族まで増えだしたのを目の当たりにし、自分は一ヶ所に長居を許されない身であることを。


 魔物だけならいざ知らず。フォラヴに頼るしかない、魔族の最終的な対応が解決されない以上、魔族まで引き寄せるわけにはいかないと、強く感じていた。

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