1453. ダマーラ・カロ滞在の内容決定
☆前回までの流れ
隻腕の斧職人カルバロ。彼の工房を借りて、話をしながら制作を始める、ミレイオ・オーリン・タンクラッド。ドルドレンとロゼールは馬車へ戻りました。
鏃を作る予定を伝えたら、カルバロから『旅の弓引き』について意外な情報も。
今回は昼時。旅の一行が、町の滞在内容を話し合います。
ミレイオとタンクラッド、オーリンの3人は、昼時を迎える工房の中で『自分たちも』と昼に出かけることを伝える。
「一緒に食べても。炉場区は初めてだろう」
さくっと止めた斧職人に、オーリンが『店知ってるなら教えて』と返した。ミレイオは何も言わず、オーリンを何となく応援(※斧職人警戒中)。
荷を一ヶ所にまとめるタンクラッドも、他意はないが『店は近いのか』と続ける。
「食事処は、ここに入った道の向かいだ。歩いても10分程度だろう。広場を通って、真向かいに入る道の並びは食事処が集まる」
「そうか。じゃ、行くか。荷物は置かせてくれ。騎士たちと報告もある」
「ああ・・・それもそうだな。騎士と赤ん坊?」
カルバロはふと、赤ん坊連れの赤毛の若者を思い出して、口にする。軽く頷くタンクラッドが、他の二人と一緒に『後でな』とそのまま出ようとすると、カルバロは彼を止めた。
「ちょっと。待て。赤ん坊・・・ハイザンジェルから連れて来たのか、分からないが。こんなの持っているか?」
「あん?」
一緒に自工房を出たカルバロは、隣の工房の壁を覗き込んで、そこの職人に特に何も聞かず、さっと手を伸ばすと、小さな剣を見せた。職人もちらっと見ただけで少し微笑むと、気にしていない。
「それは・・・剣?子供の」
「持っていないな。ハイザンジェルにも風習がありそうだ。テイワグナは、赤ん坊の無事を願う風習がある」
ミレイオが眉を寄せて、よく見ようとすると、カルバロは3人の側に寄り、小さな剣の柄と先端に指を当て、目線でくるくると回して見せた。オーリンは、鋳造の町なのに、これが金属ではないことが意外そう。
「文字が。樋に文字があるな。これ、木製だろう」
「そうだ。お守りだ。子供が生まれたら、子供の部屋に置く。持って行け」
意外なことを、急に言うカルバロに驚いた面々は、剣から彼の顔に目を戻して『くれるのか』と訊く。カルバロは笑顔で『馬車のどこかに吊るしておくと良い』と答え、タンクラッドの手に小さな剣を置いた。
それから送り出された3人は、通路を戻って馬車に帰り、待っていた騎士の、のんびりした様子に笑うと『歩きで食事処へ』と誘った。
赤ん坊を抱っこした総長に、小さな剣を見せ、貰った経緯を伝えると、ドルドレンも嬉しそうに微笑み、『ベッドに飾ろう』とシュンディーンの揺りベッドを見たので、タンクラッドもそこに一先ず、剣をかけた。
昼時というのもあり、他の工房の扉からも人が出て来る通路に気遣いながら、6人は最初に入って来た広場に出る。
そこから見える向かいの道は、『食事処が並ぶ』と分かるほどに、人が吸い込まれるように入ってゆく。
間違えようがないなと笑って、旅の一行もその通路へ進み、入る手前から漂う、美味しそうな香りに『何食べよう』と笑顔が弾む。
通路の天井が高いので、どこかしら窓でもあるのか、光が入って暗くはない。
賑やかな通路の両側に、食事処が並び、戸の上に吊るされた看板を見て『何料理?』と話しながら、皆は一軒の食事処に決めて入った。
石造りの通路から、店の中は木造に変わる。
人が入っているからか、熱気もあり、通路に向いた窓は全部解放されていて、一行は通路側の大きい食卓へ案内され、表の案内に出ていた『お昼セット』5名分と『串焼き肉』を頼み(←赤ちゃん用)席に着く。
ここから、料理が運ばれてくるまでは、騒がしい店内や、表の通路に目を向けながら、職人と騎士の報告時間。
声を少し大きめにしないと、聞こえないくらいの賑やかな店内。言葉に気を付けながら、人に聞かれても問題ない範囲の話で、お互いに察しを付けて理解する。
他の席から聞こえる会話も、『魔物の後』と分かる話題は入っていたし、やはりあの夜は町民にとって、緊張と恐怖が募った時間だったのことに変わりはないと、旅の一行は感じた。
待たされることなく料理は運ばれ、『お昼セットで良かった』と笑う皆は早速、昼食を摂る。赤ん坊も深く被せた布の中で、お肉を待つ。
ドルドレンから赤ちゃんを受け取ったタンクラッドが、串から肉を外して小さく切って刺し直し、赤ちゃんに与える。金串だから、赤ちゃんの牙にはやられない(※重要)。赤ちゃんは、むちゃむちゃ食べていた。
「美味しい。いつも平焼き生地だから、こんなのも良いわよね」
「こういった時間があると、またテイワグナに来たいな、と思うんですよ」
茹であげた雑穀に、辛い肉の煮込みを付けて食べるミレイオは、外国出張の恩恵を楽しむロゼールと、料理について話し合う。
「これ、豆だよな。これ見て」
オーリンも齧った側から、揚げものの中身を見つめ、ドルドレンに確認。
ドルドレンは頷いて『馬車の家族も、こんな料理を作るよ』と教えてあげる。馬車の家族は、他の国からも流れてくるからと言うと、オーリンは『総長は何食べても驚かないもんな』と認めた。
全員分が山積みにされて、二か所に置かれた料理から、皆は好きなものをそれぞれ皿に取って食べる。
しばらくそうして食事だけを楽しんで、焼いた野菜を味わうミレイオは、話を報告の続きへ促す。
「ドルドレンは、町役場に行かなくて良かったの?」
今更だけどさ、と言うミレイオに、総長は『バイラも何も言わなかった』と答えた。ロゼールも少し気にしていたようだったので、『魔物退治の報告は?』とそれを訊く。
「工房契約するなら、俺は契約書も持参していますし。町役場で魔物退治の報告をしたら、話が進みそうじゃないですか。役場を通して『全体契約』的な感じでも、って」
「そんなこと出来るのか。町役場に契約させて。工房ではないのだ」
「ここは積極的だから、そんな感じでも良いかな、と思ったんです。出来るなんて言ってません」
思いつきだ、とあっさり打ち明ける部下に、眉を寄せ『そういうことは考えて言いなさい』と注意し、ドルドレンは笑うミレイオに『バイラのことだが』と話を戻す。ミレイオも笑顔を戻して頷く。
「バイラが言わなかったことが理由、とも言えないのだが、今回は町に被害がない。
町役場に魔物騒動の報告をするのは、警護団が行うだろう。バイラもそのつもりだっただろうから、俺には言わなかったのかも、と判断した」
総長の話に、他の者も同意する。『町に被害がない』これは大きい。
それでも報告・相談するのか、となれば、それは自分たち派遣団体ではなく、同行している警護団員(※バイラ)で済んでしまう。
ただ、ミレイオもドルドレンも、『バイラの様子』については思うところあり、それは二人の目が合った時に、通じた感じはあるものの、この時は話題に続けず、ドルドレンは次の話に変えた。
「そうすると。ここで回収した金属は」
「『肋骨さん』っぽいのよね。だからって、ギールッフのロプトンとかさ・・・あのくらい、飛び道具に関心が強い人はここにいないし、別の使い方を考えようか、って。
候補を急いで考えて、試作してあげる感じよ。私たちが持ち込んだ金属は、普通の刃物や防具に使えるから、それはちょっと見せてあげて」
「イーアンが取っておいた、硬質の皮があっただろう。ハイザンジェルにも送ったが、まだ残っている。あれ以外もあるはずだ。
似たような魔物が出た時のために、やりようによって種類が作れる様子を見せるのは。参考品を作って置いて行くことを目的にしては、どうだろう」
ミレイオの返事を聞き、ドルドレンが『試作品だけの滞在でも良いのでは』と提案。
ふぅん?と、彼を見る職人たちは、総長にもう少し詳しく話すように促した。ドルドレンは、イーアンが取り組んだ時の話を思い出して伝える。
「イーアンから、聞いてはいると思う。日々、彼女の動きを見ていた騎士たちは、彼女がちょっと作っては、すぐに試して紹介する繰り返しにより『どんな魔物でも使えるのでは』と思ったのだ」
ロゼールも、その話に微笑み『俺も、手袋を作ってもらったんです。イーアンは最初、手袋だった』と繋げる。
「ダマーラ・カロで作れる、主になる品を考えなくても、『様々なものが出来る』ことだけを伝える手もある。回収した金属の使い道に、後押しを考える必要はない。
町の職人は協力的だが、ギールッフほどの勢いは中々、ないものだ。自分たちの普段の仕事を調整してまで、魔物製品に取り組みたがったギールッフは、異質である。あれは、独特な資質でもあるだろう。
だから、この町では、選択肢と応用は任せて、参考作品を幾つも作って見せるだけでも」
ドルドレンの説明に、ミレイオは『中途半端になりそう』と懸念を示したが、親方は黙っていた。オーリンとしては『鏃は作るよ』とこだわり、でも総長の意見は面白い、と褒めた。
食事中、この話の問答が続き、食事処を出る時には、『それも良いかもしれない』の合意でまとまった。
タンクラッドとしては、貴重な金属(←高く売れる)を、この町の事情に合わせて使うのは嫌だったし、ドルドレンの思い付きが理に適っているのもあるから、賛成して尤もと認めた時点で『そうするか』の相槌を打った。
オーリンもミレイオも、少し半端な状況が気になったけれど、オーリン自体は『ダビの鏃』が一番の目的だったし、旅の弓引きを追いたい気持ちもどこか消せず、長引く滞在は望まなかったので賛成。
最後まで心配そうだったミレイオは、『適当に教えるのは無理があるかもよ』の責任を指摘していたが、町に長居はしないかも知れない可能性があり、気持ち7割で了解した。
「模範演習は明日からだろう。滞在は1週間を見ているが、それより早く動けるなら、そうする」
ドルドレンの言葉に、他の者は同意して、午後は再びカルバロの工房へ向かった。
騎士二人と赤ちゃんは馬車へ戻り、赤ん坊は早々に昼寝。ドルドレンは、イーアン経由で執務の騎士に渡された宿題(※多い)を片付けるため、ロゼールに手伝わせながら午後を過ごした。
宿題の業務を片付けながら、ドルドレンは思う。
勇者がいるだけで、魔族まで増えだしたのを目の当たりにし、自分は一ヶ所に長居を許されない身であることを。
魔物だけならいざ知らず。フォラヴに頼るしかない、魔族の最終的な対応が解決されない以上、魔族まで引き寄せるわけにはいかないと、強く感じていた。
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