1451. ダマーラ・カロの炉場区到着
☆前回までの流れ
朝、炉場へ向かう道のり。案内するバイラは、ロゼールの『魔族が喋って』の報告に、自分が遭遇した相手を思い、戸惑いました。ミレイオはバイラに『魔族と何かあったか』と遠回しに訊ねましたが、バイラはその答えを出せず。
それは逃げ切れた、炉場への到着。一風、変わった炉場に入った一行の時間です。
馬車と馬は、大きな町の曲がり角を進んでから、馬車がすれ違える程度の幅の路地へ入り、アーチ型に抜かれた壁を幾つかくぐり、左右を高い壁に囲まれた路地を抜けたところで、炉場のある地区へ出た。
前を進んでいた馬が、横に並んだ馬車。路地を抜けた所は、大広場のような場所で、そこを中継地になのか、大広場から何本かの道が四方に続く。
その、道を作る建物の外側―― つまり大広場に向けられた壁面に、金属製の面や武器がずらーっと掛かっていて、建物自体は、馬車を丸々通すような通路入り口として、広場を囲っていた。
「凄いですよね・・・俺、この前、ここは入ってないかも」
ロゼール、圧巻の風景にちょっと笑う。ドルドレンも笑みを浮かべて頷き『俺たちが最初に案内されたところと違う』と知らないことに同意する。
「最初に、はどこ?」
御者台のミレイオに訊かれ、ドルドレンは『別の道だと思う』ことと、目的の炉場自体はこの一画だろうと話した。
「ってことは、そこらに延びている道のどれかとか・・・まだ先に進むかも知れないのね?」
どう行くんだろう、とミレイオが見渡す横で、バイラはドルドレンたちの馬に寄り、『分団長から預かったこの地区の地図』を見せる。
覗き込んだドルドレンはすぐに、意外そうな顔をして、さっと一方を見上げた。
「ミレイオ。見るのだ、あれを。あれだ。斧・・・あの斧の飾りがある入り口を抜ければ、目的の炉がある」
黒髪の騎士が指差したのは、大広場の自分たちの位置から向かいにある、その奥の工房の象徴にも似た、大きな斧の飾り。
よく見れば、他の壁にかかる武器は全て『装飾武器』と気が付いた。形こそ実際に使う剣に似せているが、見た目や装飾の雰囲気を重視した特徴がある。
それらを見てから、馬車を動かした先にかかる斧を見ると、そこだけ少し殺風景に感じることが、騎士二人にも、ミレイオにもちょっと嬉しかった。
荷台では、通り過ぎる風景を見た、親方とオーリンが『もうそろそろかな』と話し合う。
「これに決めるか」
オーリンは、鏃用に選別した金属と、炉場の職人たちに渡して使わせる、金属の候補の決定を促す。
鏃用には、イーアンが『ダビが使った金属、ありますよ』と話していた在庫を使う。
職人たち用には、ハイザンジェルから持ってきた、甲虫系の魔物の翅。
まだ使い切っていないことと、この手の魔物にテイワグナで会わないこともあり、こういった魔物もいることを教えるために選んだ。
「そうだな。それが使いやすいだろう。今回の魔物は・・・俺も少し思うところがあるな」
「『肋骨さん(←名称)』の金属みたいだよな」
さっきも言っていたな、とオーリンが荷袋を振り向き、親方も、最初からそれを使わせることを思うと、唸る。
「使えるだろうが、使い方が限定される金属の場合は、今度は作るやつを選ぶな」
タンクラッドの気がかりはそっちで、この町にどれくらい、ギールッフと似たような職人が居るのか。
それによって、作れるものが変わるため、彼らの技術に合わせると、材料に使えない金属は渡せない。実はこの続きが本当の意味で困るのだが。
オーリンは『まぁ、行ったら分るよ』で済ませ、町に出た魔物が使えそうにないなら、手持ちの材料から渡してやるだけ、の話だと。
そのくらいのこと・・・タンクラッドだって、同じように思うが。
タンクラッドとしては、このオーリンの『金稼ぎはそこまで考えていない』性質に、手出しされても敵わん、とした思いが消えない。
これがミレイオだったら、自分同様に考えるところが。
――この前。ザッカリアが混合龍に変わった時に消した、あの人鳥の魔物たち。
身を変えた人鳥の金属は、かなり高値で売れるだろう。質も相当楽しめる。ミレイオも絶賛していた。
が、オーリンはダマーラ・カロで回収した魔物が、職人たちの技術によって使えないと知ったら、『あれを使おう』と言うだろう。
何故なら、その手前で手に入れた金属系魔物の在庫は、ほぼハイザンジェルに送っちまったからだ。
イーアンとオーリン。この二人は、欲がない。
ある、と本人たちは言うし、ドルドレンたちの騎士的な正義感は、確かに持ち合わせていない(※ドル意識⇒『お宝=略奪品』解釈)が。
だが、俺とミレイオに比べれば(※自覚はある)ないんだ。
あっけらかんとした感覚が備わった二人は、宝物にしたって『暮らせるだけあれば良い(←Byオーリン』『あっても誰かにあげちゃう(←Byイーアン)』・・・困ったところが、ちょいちょい見られる。
あれだけの金属が、しょっちゅうゴロゴロ手に入るなら、俺も何も言わん。
しかし、以前に同じくらいの質がイイヤツ(素)があるとすれば、タムズ龍が首都近くで倒した魔物くらい。
ムバナの町の先・雲の魔物も、ザッカリアが変換させたが、あれは宝石の類だ。
ザッカリア(※混合龍状態)は、ティティダック村でも、鉱物を宝石の類に変換している。宝石は宝石で結構(素2)。とはいえ、金属も質が良いのが出てくれば、それは――
ガタンと馬車が揺れ、ぎぃ、と鳴った車輪が方向を変える。
悶々としていたタンクラッドは、考え事を止めて外を見た。オーリンも立ち上がって、荷台から顔を出し『着いたな』と笑顔で言う。親方、笑顔が強張る(※心配)。
二人が荷台の荷物を、下ろしやすく移動させていると、前からドルドレンが来て『手伝おう』と手を伸ばす。タンクラッドは荷台を下りてから、その手をちょっと握り、驚く顔を向けるドルドレンに微笑む。
「怪我したんだ。治ったばかりで気にしなくて良い」
「あ。ありがとう」
握った手を、ちょっと冗談ぽく上下に振ると、タンクラッドは彼の手を離して、金属の入った袋と自分の工具を入れた荷袋を持つ。ドルドレンはちょっと嬉しかった(※赤くなる)。
オーリンはそんな彼を見て、『どうして総長は、イーアンがいても、男が好きなんだろう』と、毎回の如く思った(※素朴な疑問)。
ロゼールもそれを見ていて、総長に冷めた眼差しを向けながら『総長、馬引いて下さい』と命じた。
イーアンがいない時に・・・(※ちょっと違う)と思う部下は、素っ気ない物言いで総長を呼び戻し、馬を引かせて、前を歩いてもらう。
先頭にバイラの馬、続いてドルドレンたちの乗っていた馬、それと、荷馬車の馬。その後を、他の者も歩きで付いて行く。
馬車を置く場所は、馬房とも異なり、郵送施設などによくある『馬車を停める場所』的な空間のため、馬だけは連れて、馬車置き場を後にする。
小道に近い幅の、石造りの通路は天井がないだけで、建物の中のよう。
とはいえ、天井はなくても、向かい合う壁から斜めに張り出す、木の支柱に板が渡され、所々に簡易的な屋根がある状態。
その屋根の下には、壁に直に扉が付いていて、扉はずーっと続く壁に点々と並んでいた。
歩いている間は、どうしてなのか、人とすれ違うこともなく、この場所にいる全員が、壁の内側にいるような印象。
入ってすぐに気がついたのは、音。鋳造した品を叩く音が聞こえる。
あちこちから響くが、壁の向こう側としか分からず、皆はその音を聞き、空に昇る炉の煙を見ながら、黙って進んだ。
歩いて10分もしないうちに、先頭のバイラが立ち止まり、一枚の扉を叩く。扉には、二本の斧が上下逆さまで、しっかりと鋲止めされていた。
すぐに人の声がし、厚い木の扉が開くと、年齢は60代くらいの男性が顔を出す。そして訪問者をさっと目で見渡すと、バイラが『私たちは』の言葉を言うより早く。
「ハイザンジェルの人?そうだよね」
しゃがれた声で質問した男性は、太っている体に丸い顔で、人懐こそうな笑顔を浮かべると『よく来てくれたね!』と外に出るなり、バイラと、後ろにいるドルドレンに挨拶した。
「馬はその奥の扉から入れて。そっちが馬房だから。あなたは職人じゃないか・・・あなたかな、その派手な人もそうだろ?」
ミレイオは真顔で頷き(※派手な人)、目の合ったオーリンとタンクラッドも苦笑いで頷く。太ったおじさんは、『見抜いた』とばかり、満足そうに目を細めて、ミレイオの抱っこしている包みも見た。
「子供連れか。そうか、女に押し付けられて」
「違うわよ!想像で何でも片付けないで!」
「えっ。オカ」
『マ』の文字を言う前に、ドルドレンが大きく咳をして、ハッとしたおじさんに丁寧に『俺はハイザンジェル騎士修道会の』と自己紹介。
おじさんは、うんうん、と首を縦に振って、総長の紹介を最後まで聞くと、もう一度ミレイオを見て、即、睨まれたので黙ったが、小声で『オカマの人でも子連れ?』とバイラに聞いていた(※おじさんは諦めない)。
二頭の馬を引き取ったロゼールは、馬房に馬を繋いでいる間、ミレイオが目立つことで、一々、何かを言われるのが可哀相に思う。
なので、ロゼールもミレイオの守りにつく。馬をそそくさ繋いでから、馬房を出ると、ミレイオの横に立って『俺が赤ちゃん抱っこしていますよ』とシュンディーン引き受けを申し出る。
「重いかもよ。最近、大きくなったから」
「俺、兄弟多かったから、子供抱っこするのは問題ないです」
そう?と笑顔で了解し、ミレイオはお皿ちゃんベルトごとシュンディーンを預けると、背中のバックルで、抱っこベルトをロゼールの体に合わせた。
赤ちゃんは、ロゼールを気にしない。ちょっと見ただけで、そのままおしゃぶりの石をしゃぶっている。
「これで良いかな。ここにいる間、ずっと抱っこしていてもらうかも」
「大丈夫ですよ。この子は大人しいし、俺はオムツも替えられるから」
頼もしいロゼールの発言に、彼の家庭的な株が上がる。
ミレイオは彼を誉め、お礼を言ってシュンディーンを任せると、ロゼールの背中に手を添えて、おじさんに招かれた部屋に入った。
扉自体は大きくないのだが、中の通路は天井が高くて、暗い通路なのに開放感があった。
ミレイオとロゼールは、列の最後を歩いて、奥へ奥へと進む廊下の壁の向こう、中から聞こえる音に、この中はどんな造りなのだろうと想像した。
廊下を曲がった先の壁から光が漏れていて、そこにおじさんが入ると、続いてバイラ、ドルドレン、タンクラッド、オーリンと入ってゆく。石造りの壁に開けられた穴のように、戸が開いた室内の光は、廊下と対照的な光が溢れる。
ロゼールの背中を押して先に入らせ、ミレイオも入り口をくぐる。『わぁ』二人は同時に同じ驚きを口にし、目を見合わせて笑う。
広い工房が、仕切りも少なく並んだ風景。幾つもの工房があるのに、遮る壁は3面だけ。開かれた壁のある部分は、全部の工房が同じ向きにあり、仕切り箱の外側がない状態と似ていた。
ドルドレンとバイラ、タンクラッドは、早速、一つの工房から呼ばれてきた職人に挨拶し、チラチラと見ている、他の職人たちにも挨拶をしに動いた。
オーリンは、ミレイオたちの側へ来て『俺はああいうの苦手』と。ロゼールも頷いて『オーリンは知らない間に、仲良くなる感じです』と言ったので、ミレイオもオーリンも笑った。
「こっちへ。紹介しよう」
すぐにドルドレンの声がし、顔を上げた3人は、呼ばれた工房の一画へ進む。そこは大きな炉の近くに、たくさんの武器が立てかけられており、他の装飾武器のような、説明図や装飾品用の飾り材料は一切ない。
黒い金属と武骨な古い工具が集まった机周りに、ミレイオはじっくりと見つめる。
「ここ・・・ちょっと他と違う気がする」
呟いたミレイオの声に、『違う。正しい』と重く低い声が返し、ミレイオはさっと目を向けた。
「おお、何と綺麗な目だ。人間じゃないだろう?」
「はい?」
いきなり言われた言葉に、目を丸くするミレイオ。
ミレイオの目に映ったのは、ドルドレンたちの奥に立って、こちらを見ている大柄な男で、むき出しの両腕の片手は黒い金属製だった。
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