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魔物資源活用機構  作者: Ichen
泡沫の示唆
1440/2965

1440. 魔族 深夜の攻撃 ~動きの制限

 

 ミレイオたちの火柱を平行にずれた、町の外。


 火柱を左手とし、反対の右手側にドルドレンとタンクラッド、オーリンが龍で浮かぶ。3人は火柱から右側を担当し、壁の外に蠢く魔物を見つけて倒している。



 空に立ち上がった、青緑に透ける光のカーテン。一瞬、龍たちが、ふっとそちらを見たので、つられて見た3人も、その明かりの広がりに驚いた。


「シュンディーンだ」


「あれは・・・何だ、あれ」


 宙に止まったタンクラッドとオーリンの呟きに、側を飛んだドルドレンが『シャンガマックの結界と似ている』と教え、降下して魔物を切る。



「あっちは、じゃあ。()()()()()は、もう出てこないってことか?」


 ドルドレンの龍の後ろについたオーリンが大声で聞き、ガルホブラフの背から弓を使い、魔物を連続で倒す。

『そうだろう』と思うよ、と小さく続けるドルドレンも、龍から飛び降り、魔物を切っては、着地前に龍に拾ってもらう。


「俺たちと、ミレイオたち、で、コルステインか。反対側は全部コルステイン任せだけど。他からは出てこないよな」


 ずっと気になっていることを、再び大きな声で質問する龍の民に、ドルドレンは魔物を斬り払って龍に戻り、見えるように振り返って首を振る。


「分からない。町の外を守るので精一杯だが。町の中に出て来たら、これは()()()()()()()()


 言いかけて、また龍の旋回に合わせ、ドルドレンは魔物を斬りながら、飛び進む。


 町を挟んで、南方面の道がミレイオたち。自分たちは西側の壁伝い。東と北方面をコルステインが動く。

 コルステインは、大型の力しか使えないので、山に近い、人里の少ない方面を頼み、用いる力は最小限で、地道に倒し続けてもらうのみ。



「イーアンが言っていた。『自分たちは大型の力を使うから、町や村では怖くて動けない』と」


 藍色の龍の背で、ドルドレンは思い出す。今まさに、コルステインがその状況で困っているだろうに、と思うと、気の毒に感じる。


「コルステインは、自分の姿を『魔物』のように恐れられるのを悲しむのだ。人目につかない場所で、一気に終わらせる戦い方の時は、誰に気を遣うことはないにしても。

 終わらなかった場合。そして人手不足・・・この現状では。コルステインに頼るしかないことが、申し訳なく思う。可哀相に」


 ドルドレンの剣は、地面に足を着くことなく空中で振るわれ、低空飛行と上昇・滑空を素早く繰り返す龍の相方のおかげで、町に向かう魔物を片っ端から切り続ける。


 ロゼールとバイラは、魔物と魔族が出たことを知らされて、町の中を担当してくれた。

 ロゼールは飛行移動が可能で、慌て始めた町の中、町役場付近で状況を説明に。バイラは、警護団のサイザードに知らせに行った。


 ドルドレンの頭の中には、アギルナン地区の悪夢がずっとあった。あんな大惨事は二度とご免だ、と思う。



 ――話を聞いて、心臓が止まるかと思った『魔族の種が散った』その一言。


 窓を叩かれ、目を開けたドルドレンのさっき。ガラス越しに、大きなコルステインと、片腕に抱えられたタンクラッドを見て、急いで起きた。


 何事かを問う前に、窓を開けた途端、コルステインが『魔族。いる。する。沢山。出る』と伝え、ギョッとしてタンクラッドを見ると、彼の蒼白の顔にただならぬ事態を感じた。


 タンクラッドは『俺のせいだ』と最初の言葉がそれで、すぐに内容を手短に話した。


 見る見るうちに青褪めるドルドレンは、即行、服を着替え、剣を帯びて龍を呼ぶ。それからタンクラッドたちに説明する暇もなく、大急ぎでロゼールたちを起こし、『今すぐ戦闘だ』と告げた。


 ロゼールたちも跳ね起きて準備し、オーリンがすぐに龍を呼んだその時。


 馬車の裏からお皿ちゃんを出したミレイオが浮上し、コルステインたちを見て事情を尋ねた。何があったか知ったミレイオは、さっと青い火柱を見てから『分かれましょ』と分担させる。


 魔族が地中から出て来た様子に懸念を持ったミレイオは、『この辺一帯の地面から、同じような奴が出て来るかも』と言った。


「あっちは私たちが行くわ。サブパメントゥの火柱だもの。龍じゃない方が良いでしょ。あんたたちは、そっち側。見て、あっちよ。タンクラッド、あんたも龍で」


 それからコルステインには『あんたは向こう』と親指で背面の方向を差した。


 町は大きく、人が住んでいる側と、住みにくい山側の間。コルステインにはそっちを担当させ、ロゼールとバイラには参戦させず『あんたたちは、町の人が混乱し始めるのを抑えて』と伝えた。


 迎えに来た龍を見てから、ミレイオはオーリンに『聖獣(新しい友達)を呼ぶ時は、()()()と一緒にね』ちょっと笑ってそう伝えたが、目は笑っていなかった。


「そこまで長引かないことを祈るわ」


 そう言うと、降りてくる龍をちらと見て、シュンディーンと一緒にミレイオは火柱へ向かった。


 ドルドレンはイーアンを呼ぼうとしたが、オーリンが止め『イーアンは知っているかも』と言い、それでも来れない事情があるんだ、と伝えた――



「イーアン。その理由は」


 オーリンの言葉に続きはなく、訊き返そうと首を振った時、龍に乗ったので、そのまま担当の場所へ向かったのが数十分前。


 そこからは目に入る影全て、冠が反応する相手全てを対象に、夢中で剣を奮い続ける時間に突入した。


 止まることのない剣を奮う腕。この前のように、冠の力を帯びることは出来ても、コルステインたちと同じで、ドルドレンもまた『大きな力を振り回す場所』それに気づけば、そうもいかない。



 今回の魔物は地中から出てくるが、姿は人の骨のように見える。

 よく見れば、何か棒状の物体が組み合わされた形と分かるが、ゆらゆら立って、細長く動く姿が骸骨を思わせる。


 それも全部が同じ形でもなく、人間でいえば、下半身だけだったり、肋骨までだったり。

 丈が低くて、足が三本かと思えば、四つん這いのようにして、手足の一本が足りなかったり。どれも頭と思える部分だけはなくて、手足と胴体の印象。


 奇妙にも、骨に似た棒の物体は鈍色に光り、夜の少ない明度に、ぼんやりと光を撥ねる。まるで、研ぎもせずに曇った鈍ら刀で、体を作っているふうな状態。


「頭がない分。人間に重ねて捉えなくて済む」


 ドルドレンの突き出した剣は、相手の体を崩し、剣が触れた時にだけ冠の力を発動させては、相手の体を瞬時に灰の塊に変える。



 形が人間的なだけに、最初に見た時は『既に魔族か』と恐れたが、自分たちが相手にしているのは魔物の枠と、すぐに分かった。


 動作は緩慢だが、魔物が触った場所―― 踏んだ場所 ――の色が変わる。


 それは何によってなのか、はっきりしなかったが、ふと、テルムゾやティティダックで聞いた『土が壊れる』話が脳裏に過り、恐らく毒素ではないか、とドルドレンは感じた。


 こんなのが町の中に入ったら。魔物が進んでいるだけで、そこら中の土が、おかしな色に変化しているのだ。


「毒の塊みたいなものかも知れない。イーアン、君ならこれの正体を見つけるのか」


 常に、戦いながら相手の正体を突き詰めて来たイーアンを、こんな時こそ頼りたくなる。どこが弱点で、どこまで放っておいて良くて、どうすると一気に倒せるのか。何をすれば被害が減るのか。


「イーアン」


 呟く黒髪の騎士は、イーアンがたった今、自分たちの戦闘を知っていても降りて来られない、その心境はきっと、彼女にとても辛いだろうと感じた。


「教えてくれ、イーアン。こいつらは何だろう。どこかに大玉が居るだろうか。

 コルステインは『魔族が沢山』と言っていたが、俺の見える場所にはいない。()()は、どこかにいないのか」



 魔物を斬り捨てながら、ドルドレンは龍の背中と空中を行き来する。

 大きな力が使えない以上は、遠征と同じだと、身を以て知る。そして・・・振り向く、恐れの声の上がる、壁の向こうの町。


 人々が、魔物が来ることに逃げようとしているのだ、と分かる。青い火柱と夜空に伸びた光の帯は、人々に魔物かそうではないかの区別がつかない。


 この声が、コルステインに届かないと良いけれどと、それも心配しながら、ドルドレンはただ我武者羅に、魔物を倒し続けた。



 *****



 タンクラッドも、一心不乱に倒すに没頭する。自分のせいで、と思う気持ちが拭えない。

 これで、魔族が人を襲ったら。家畜や動物について、自分たちが知らない場所で魔族が増えたら。


 それを思うと、頭が割れそうだった。


 ミレイオに言われて、ドルドレンたちと共に龍で動くが、気になって仕方ないのは、魔族の種の広がりと、『コルステイン』呟く名前に、どうしようもない辛さ。



 コルステインが止めた時、なぜ俺は行こうとしたのか。

 今更とは言え、悔しくて堪らない。誰一人、自分を責めはしなかったが、タンクラッドは自分を責める。


 魔族の種で吹っ飛ばされた自分を、腕に抱え上げた時のコルステインの悲しそうな顔が、目の前から消えない。


「俺を心配して。俺を行かせた自分を悲しんで」


 あの顔はそうした顔だ、と分かるだけに、タンクラッドの『自分も魔族を倒そう』と考えた気軽さが、憎くて苦しかった。


「あいつは俺が好きなんだ。俺は毎晩、コルステインの腕の中で眠って。それなのに。俺は彼女に何をしたんだ。彼女は自分の責任だと思っている。俺は彼女より()()()()くせに。彼女の仕事に手を出して」


 悔しさが、怒りと苛立ちと情けなさを掻き起こす。タンクラッドの金色の剣は、金の光を飛ばすことも出来ず、魔物を直に斬るしか出来ない。


 それは他の皆も同様。こんな状況に追い込んだ自分に『何やってんだ!』と、剣を振り上げながら、何度も叱責を続けた。




 *****



 町の中では、どんどん騒ぎが増す。ロゼールは町役場の人間を探し回り、夜勤に入っていた職員に事情を話し、職員に頼んで『町の外へ出ないように、呼び掛けて』と頼んだ。


 この前も魔物が来たのに、と目が落ちんばかりに訴える職員を宥めて『とにかく人々を外に出さないよう、頼む』それを何度も言い聞かせた。何度も言わないと、怖がる職員が慌て始めていて、話を聞いてもらえなかった。



 ロゼールが必死になって『壁の外で、騎士修道会が龍と一緒に応戦している』と伝えている頃。バイラも警護団で大声を張り上げて、中へ通せと喚いていた。


「危ないんですよ!あなたたちが嫌がってる場合じゃないんだ」


「魔物が出たなら、一人でも多く守るべきですよ。警護団だって守られる立場にいるんです」


「今がその時なんですよ!分からないんですか!今、騎士修道会が外で魔物を退治し」


「バイラさん。あなたの立場はあるだろうけど、戦歴もない警護団を連れ出そうとしないで下さい!無駄死にするだけです。戦闘は任せるしか」


「戦えなんて言ってない!聞いてますか?町民を守るために誘導してと、俺は」


 警護団施設にいた夜勤が、よりによって保守的な人物。バイラは喚き散らして『団員を集めろ!こんな大きな町の人々を誘導するのに、一人二人でどうにかなるわけないだろう』と言い続けた。


 うんざりしたように苛立ち始めた団員は『もう、帰ってくれ』と怒鳴り返す。


 頭に来たバイラは、施設の中にも入れようとしない団員の肩を掴んだ。中に入らないと、非常狼煙も出せない。それを嫌がっている暇はない。


「どけ。俺が責任を取る。狼煙を上げるんだ。そこにある狼煙台は飾りじゃない」


 敷地の端にぽつんと立つ、石で作った狼煙台は、暗い夜中の空に光のカーテンの色を受けて、不可思議な緑色にぼんやりと染まる。


 バイラの指差した狼煙台に、目を向けもしない団員は、鬱陶しそうにバイラに掴まれた肩を思い切り逸らす。


「力づくか。いきなり来ておいて、人の言い分も聞かないまま、戦えなんて無責任なことを言う男め。

 狼煙を上げたら、町民が余計に怯えるくらい、分からないか」


「怯えて済むならマシだ。中に魔物が入って来て、散り散りになったところを殺されるより、()()()()()()()()()()()()()()()怯えてくれている方が!」


 目の前で怒鳴るバイラの気迫に、苦い顔をする団員は、それでも頑固に動かない。バイラはもう限界。ぐっと拳を握り、相手の腹に打ち込もうと肘を引いた。


「あ!」


 その肘は、後ろで掴まれ、ハッとして振り向く前に、バイラの顔の横をすり抜けた腕が、扉を塞ぐ団員を殴り飛ばした。


 目を丸くするバイラの後ろで『狼煙を出すわよ』と低い声が言う。見上げた背後に、背の高い影が映り、その顔はバイラを見ることなく、扉に向けられる。



「サイザードさん」


「中に入って、狼煙用の煙玉を運ぼう。バイラは馬で、もう一つの狼煙台に」


「はい」


 サイザードはバイラの横を通って、倒れている団員を足蹴に退かすと、鍵を開けてバイラを中へ入れた。

 暗い施設内も見慣れているサイザードの後に続き、急いで狼煙用の煙玉がある倉庫へ向かう。


「あんなの、我慢する時間勿体ないじゃないの。殴っちまいな」


「え、ええ・・・はい。そうしようかなと」


「緊急事態にバカの相手なんかするんじゃない」


「はい」


 振り向かないサイザードに『次から殴れ』と叱られて、バイラは、この人がここにいてくれて良かったと、心の中で感謝した。

お読み頂き有難うございます。

本日11日も、朝一度の投稿です。

どうぞ宜しくお願い致します。

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