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魔物資源活用機構  作者: Ichen
泡沫の示唆
1430/2967

1430. 別行動:二人の魔物退治始まり ~ファニバスクワンの絵の力

 

 翌朝。しっかり眠って目が覚めたシャンガマックは、父の(たてがみ)の中で目を開けて、暫く考え事をしていた。


 夜明けは過ぎる。少しずつ明かりが増えてゆくのを感じながら、眠っていた時の体勢で、飛び交う幾つものことを考える。



 ――ファニバスクワンの絵・・・大きな意味を感じる、()()()()()()


 俺の人生に、流れ込むように様々なことが、矢継ぎ早に起きる。俺は、魔法の練習も腕が上がったから、馬車に戻ろうと思ったのに。


 戻っても、ヨーマイテスと二人で過ごすことが出来ない時間に、苦しくなった。

 ヨーマイテスは我慢してくれていたのに、俺が我慢が利かなくなって・・・イーアンを怒らせ、仲間を乱し、総長は俺に理解を示して『二人で行くように』と。


 そうしてまた、魔法陣(ここ)に帰って来たが。

 俺が思いもよらないことを、ヨーマイテスは導いてくれる。遺跡巡りも、魔法の使い方も、ファニバスクワンの絵も。


 俺の得るべきことは・・・俺は言葉にして理解していないが、こうして進んで行けば良いのだろうか――



 起き立ての思考は、やけに冴えていて、シャンガマックは、少しずつ乾く喉を抑えながらも、自分の短い期間に生じた流れを見つめる。


 目覚めて早々、何だか考え巡らしている思考を、父は丸々聞き続け(←筒抜け)首に貼り付いて動かない息子に、実は起きていることに気がついているのを、どうしたもんかと考えていた。



 ここから時間が更に30分ほど経ち、ヨーマイテスが明るくなる外に眉を寄せて『そろそろ』と声をかけようとしたところで、シャンガマックはゆっくりと体を起こす。


 目が合って、ニッコリ笑う息子に、ヨーマイテスも微笑む(※獅子だから分かりにくい)。『風呂は』と先に訊くと、答えようと口を開けて、息子が喉の渇きに顔をしかめた。


「水か。そこに」


 獅子は水筒に視線を向け、シャンガマックも頷いて水筒を取ると、一口飲んで『ああ、渇きが』と嗄れた声で呟く。

 背中に乗るように獅子は言い、息子が水筒片手に背に乗ると、獅子は影の中をすり抜け、温泉の湧く場所へ向かった。



 着いた温泉に、朝に入るのは初めてなので、獅子は影の側に身を寄せ、シャンガマックは朝陽が差し始めた湯気立つ温泉に、服ごとザブザブ入る。


 何度か顔に湯をかけ、服を湯の中で脱いで濯ぎ、ジャブっと肩まで沈んでから『ああ、生き返る』と笑った。


「ヨーマイテス。そうか、もう明るいから。ごめん、俺だけ」


「構わん。夜も来る」


 ヨーマイテスは、温泉の縁、岩影の落ちる場所に入って動かない。

 シャンガマックは朝陽を撥ね返す、湯気のある温泉の美しさに、『綺麗だなぁ』『本当に気持ちがいい』『ああ、有難い』と笑顔で喜び続ける。

 そんな息子を眺め、ヨーマイテスも心からシアワセ。



 ――俺の息子は何てカワイイのか。ミレイオと大違い過ぎるのは、最初から分かっていたが。


 ただ風呂に入るだけなのに、こんなに喜んで(※無邪気な子供返り)。笑顔が弾けている。明るい世界は好きじゃないが、息子は明るい世界が本当によく似合うんだ――



 じーっとしている獅子に、ふと、気になったシャンガマックは、暗がりの湯に浸かった獅子にすまなく感じた。


「俺が明るい場所(ここ)にいるのを見ているだけでも、眩しい?」


「いろいろ眩しい(※父は崩壊中)」


「そうだよね(※分かってない)。目がつらかったら、戻ってくれていても」


 光りが眩しいと苦しいかな、と思ったシャンガマックがそう言うと、獅子は無言で首を振る(※離れるのイヤ)。

 無理しなくて良いよ、と言っても、父は『気にするな』を繰り返すので、シャンガマックも早めに出ることにして、塩水でべたついた頭や体を洗い、少し温まってから湯を上がった。


 水筒に新しい水を入れ、父に服を乾かしてもらってから、シャンガマックは待っている獅子の背中に乗って、魔法陣へ戻る。


 魔法陣に降りると、獅子は忙しくまた出かけて行き、10分もしないうちに獲物と一緒に戻って来た。


 白い炎を出し、魚を焼いて、二人は朝食にする。魚が焼ける間も、シャンガマックは昨日のことを少し話して、食べながらもいろいろと知ったことを伝えた。

 朝食の時間で、海の中の絵について多くのことを聞いたヨーマイテスは、ちょっと考えてから『使ってみるか』と呟いた。


「何を?」


 モグモグしながら、シャンガマックはきょとんとする。魚の切り身を獅子に食べさせ『使う、って?』と説明を促すと、獅子は切り身を飲み込んでから『絵』と。


「絵を・・・どう」


「絵の意味ってところだな。ファニバスクワンの絵は、俺もよく知らない。ファニバスクワン自体を知らない」


「うん?」


 知らない相手の知らない何か。でも父は、それを『使ってみるか』と言う。何も見当がつかないシャンガマックは、じっと父の次の言葉を待つ。


 獅子は息子の眼差しを受け止めつつ、何か出し惜しみしているように黙っていたが、結局、負けて(※仔犬ビームが強烈)『今日の予定』として教えてやることにした。



「食事が終わったら、バニザットの部屋に行く。過去のバニザットだ」


「分かるよ。そうか。それで」


「あいつはファニバスクワンを知っていた(※1185話後半参照)。ちょっと調べ物だ」


「うん。それで」


「うー・・・(※出し惜しむ)絵に、お前が使える力があるかも知れないだろ」


「何だって?見ただけの絵に?力が増えるような何かがあると言うのか」


 ハッとして興奮する息子に『そうは言ってない』と落ち着かせ、ソワソワする様子に『調べてから』ともう一度言うと、息子は大急ぎで魚を口に詰め込み、獅子にも食べさせ『行こう』と、口に入ったまま立ち上がる。



「バニザット。お前の力になるようなものを見つけたら」


 獅子は、自分に跨った息子に振り向いて伝える。まだモグモグ口を動かしながら、うん、と頷くシャンガマック。


「戦闘だ。テイワグナの魔物を倒しに行く」


「!!!」


 目を丸くして、頬張っている口を膨らませたまま、顔が輝く息子に、獅子はちょっと笑って『掴まってろ』と小さく言うと、影の中を走り始めた。




 *****




 水の精霊ファニバスクワン。

 静かな海底に佇み、円盤の上でゆったりと動きながら、『シャンガマックは覚えたか』声とも異なる音で呟く。


 呟きは泡を生み、精霊の姿は消える。別の海の円盤に、同時に姿を現し『ここにはいつ来るか』と楽しそうに笑みを浮かべた。


『私の子の名付け親。ナシャウニットの遣い。太古の水を飲んだ男。太古の水を潜った私の子に、太陽の光と名付けた』


 ファニバスクワンにはとても嬉しかったようで、精霊は長い鰭を大きく回して喜びを踊るように表す。精霊がくるくると円盤の上で踊り、長い鰭と煌めく体が水色の光の粒をたくさん、海中に放つ。


 暗い海の底で、ファニバスクワンの絵と、精霊がいるだけで、そこは海面下のように明るく透き通り、魚が集まり、精霊と共に踊る。


 円盤は煌々と光を出して海を輝かせ、精霊の嬉しさがそのまま海上まで届く。


 海上の波は泡立ち、朝の水面に金色の泡が一面を覆って、不思議な海域を作り出した。空を飛ぶ海鳥が、金色の泡が満ちた海域を旋回し、朝の輝きを増したその場所に、晴れた空を吹き抜ける風が、色を付けた風になって吹き込み始めた。


 それは滅多に訪れない、風と空気の精霊の協和音。


 色のある風は太陽の光をすり抜けて虹色に風を変えながら、海中から咲いた花のようなその場所を、祝う声に似て、風の音で答える。


 精霊アンガコックチャックが、ファニバスクワンの喜びを知って祝福する。


 海上の金色の花に吸い込まれる、虹色の風は音を奏でて水中に入り、緩い螺旋を描いて海底のファニバスクワンに届けられた。


 喜ぶ水の精霊は、世界中の水底に置いた円盤全てから、空に待つ友の精霊にお礼の光を放った。


 この朝。美しい海が各地で見られ、空を翔け抜ける穏やかな風は、まるで虹が走るようだと、船を出した漁師、船乗り、また、空に近い山に住む人々は驚いていた。




 *****




 バタンと本を閉じたシャンガマックは、顔を上げて目を見開く。さっと見たヨーマイテスも、同じように何かを感じ取り、二人は目を合わせる前に外を見た。


 ここは過去のバニザットの部屋。ヨーマイテスが入る時は、窓に布をかけて覆い、部屋の中に光を入れないのだが、二人は部屋の窓を見つめ『何が』と同時に声にしてから、お互いを見た。


「バニザット、お前の()()


「ヨーマイテスも。()が」


 ナシャウニット?と呟いたシャンガマックは、自分の前腕と首元に巻かれた金属的な飾りから、光が溢れるのを見て驚き、父の両腕の模様からも同じ光が立つ現象に見入る。


 焦げ茶色の肌を輝かせるほどに、両腕の模様から光が生まれる様子を見つめ、ヨーマイテスは首を少し傾げた。


「ナシャウニット・・・だろうか。この感覚。()()、と言った方が合ってないか?」


「精霊?ナシャウニットも精霊だよ」


「いや、そういう意味じゃない。他の精霊も丸ごとって意味だ」


「それは。まさか、ファニバスクワン」


()、だな。()()()()()。俺にはそう感じる」



 サブパメントゥの父が見つめる、自分たちに流れる生きた精霊の力。シャンガマックの体に、大地の熱が走る。その暖められた土のような温もりに、心地良さと逞しい力強さを受け取る、褐色の騎士。


 目を閉じて『力が漲るよう』と呟いた騎士に、大男は碧の瞳を向け『そうかも知れない』そう答えた。


「バニザット。どこまで読んだ」


「本の内容?いや、まだ読み始めてそんなには」


「ファニバスクワンの絵、お前が見た2枚のことは」


「ああ。それは書いてあるよ。でも俺が思っている解釈とは違うし、先祖が見たのは直ではないようだから」


 そう言いながら、シャンガマックは本を開き、自分が先ほどまで目を通していた部分に、薄く残る絵を指で示す。


 これがそうだよ、と父に見せると、屈みこんだ大男は絵を見つめ『過去のバニザットなら』小さな声で呟き、横に並んだ顔にちらと目を向ける。


「何?先祖だったら、どう」


「組むんだ。あいつは。自分の力に持ち込むために、自分の使いたい相手の要素を見つけ出して、組み合わせて繋げる」


「組む?組むって、でも。この絵のどれが」


「バニザット。俺の腕を見ろ。こういうことだ。お前が俺を守るために、俺に与えられた精霊の力を操っている。分かるか?お前も似ていることを()()()()()()ぞ」


 父の言葉にごくっと唾を飲み、まだ光放つ自分の加護と父の両腕を見て頷く。



「つまり。今、この光が生まれた理由と、俺たちが探している『絵の使い方』は同じで、今」


「そうだ。今なら効果も、()()()分かりやすいかも知れんな」


 大男はちょっと笑って、『ファニバスクワンの絵にある要素を、お前に取り込め』と言った。シャンガマックはその意味が、突然理解出来た気がして、ハッとして視線を本に戻す。


 そこに描かれた絵と、自分の新しい記憶の絵を重ね、解釈した物語の幾つかに出て来た、『移動する力の強弱』を思いつく。



「分かったぞ」


 自分が何をするべきか、いきなり流れ込んだ方法。その理由を知ろうとは思わない。たった今、自分が求めるなら、流れこんだ啓示にも似た感覚を、すぐさま実行すること――


 シャンガマックは急いで、頭に湧いた知恵をその場で確認し始める。

 それを見守るヨーマイテスは、息子の唐突な動きに、遥か昔、同じようにして自分の内側と会話した男の影を思い出していた。

お読み頂き有難うございます。

仕事の都合で、本日も朝1度の投稿です。今後、一日1度が増えると思います。

その都度、追ってご連絡をします。どうぞ宜しくお願い致します。

いつもいらして下さる皆様に、心から感謝して!

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