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魔物資源活用機構  作者: Ichen
泡沫の示唆
1428/2965

1428. 別行動中:三者それぞれの夜~イーアン・フォラヴ・シャンガマック

 

 テイワグナへ向かう、青い龍の背の二人。


 乗ってすぐに、『イーアン、どうでしたか』と後ろのロゼールが訊ねた。振り向くと、その笑顔が楽しそう。イーアンも笑顔で頷いて『来て良かった』と最初に言う。


 支部の皆が元気だったことも、懐かしい支部の時間も、自分の工房、自宅に少しでも触れた時間も、全部嬉しかった。


 王様の話は長引くと思っていたが、呼ばれた目的の『龍図』を受け取った後、機構の近況を聞き、感謝と感激で一杯だった。


 イオライセオダでも、ダビに会い、親父さんやボジェナ、ボジェナのお父さんとも話せたこと。

 グジュラ防具工房でご家族にも挨拶できたこと、オーリンの友達にも詰め込むように話が聞けたこと。

 オークロイ親子に鎧の一部を、テイワグナ用に作る計画を教えてもらったこと。


 それを全部話すと、ニコニコしながら聴いていたロゼールは『皆も絶対嬉しかったですよ』と言ってくれた。


「俺はとんぼ返りですが、こうしてちょくちょく会えるの、とても楽しみなんです。特別に思うから、と言うのもあるけれど・・・やっぱり、イーアンや総長たちの顔が見れると嬉しいじゃないですか」


「嬉しいこと言って下さる。私もロゼールの気持ちが分かりました」


「トゥートリクスが、すっごく寂しそうでしたよね」


「ああ、言わないで下さい!彼は『俺も行きたい』と、ぼそって言うんですよ~」


 ロゼールが笑って『いつも言いますよ』と頷く。でもね、と続けるロゼール。


「ショーリも行きたいと言うし、ヘイズも行ってみたいとか(←彼は食材買いに)。暇だからでしょうね、最近、ブラスケッド隊長も、俺に『次は俺も行こうか』って言うんですよ。

 もし皆に同行申請許可したら、旅の馬車は大所帯どころじゃなくなりますよ」


 そう聞かされると、イーアンも大笑い。手を打って笑い、『馬車が足りない』と困ったように答える。ロゼールも笑っていて『路銀も莫大』と、二人で暫く冗談めかして笑い合った。



「もうじきテイワグナの空に出ますよ。ミンティンは、ゆっくり飛んでくれているけれど、空の道を知っているから無駄はないのです」


 笑いが落ち着いた時、イーアンはニコリとして教える。ロゼールも広い夜空の左右を見て『もう』と呟く。


「オーリンと来た時は、もっと時間が掛かった気がします」


「初めてだったから、かも。コルステインたちとは、地上の空を飛ぶでしょうし、もっと時間が」


「はい。彼らはサブパメントゥを通過すると早いそうですが、俺に気を遣うから」


 歓談していたのもあってなのか。本当に呆気なくテイワグナまで来たような気がする、ロゼール。

 朝方のような()()()()()()()()ではなくても、やはりミンティンと飛ぶと早い、と実感するイーアン。


 青い龍は、これでものんびり、飛んでいるつもり。

 イヌァエル・テレンを通過して、それからすんなりテイワグナ入り。イヌァエル・テレンを知り尽くす龍は、地上の空も知り尽くす。


 背中で『早い』『あっという間』と聞こえる乗員の声に、龍は静かに、ちょっと笑うだけだった。




 *****




「もう、遅いですよ。もうすぐ休みますか」


 少しだけ開いた大きな扉から、柔らかで幻想的な光が差し込み、背中越しにかかった声に、ゆっくりと振り向くフォラヴ。


「はい・・・もう少し、ここにいます。でも、そうですね。今日は早めに休みましょう」



 扉の向こうの女性が覗く部屋には、数日前から入り浸るフォラヴだけ。

 銀の城の一部屋は、特に誰が使うこともないまま、淡々と年月が流れていたが、ここ数日は、常にフォラヴがいる。


「あなたは、そろそろ戻られるのですか。ピュディリタ」


 椅子から腰を上げ、扉の近くへ歩きながら、訊ねるフォラヴに、ピュディリタは頷いて外へ視線を動かした。


「後少しで。迎えが来ると思います」


「そうですね。いつもこのくらいの時間に・・・私を気にかけて下さって有難うございます。どうぞ、ピュディリタも、()()()早く休まれますように」


 フォラヴの言葉に、ピュディリタはちょっと笑って『私の家から持ち出せない以上、私が調べるのが一番です』と答えた。



 フォラヴがここに来たことを知った、数日前――


 以前、話も途中で終わってしまったことから(※1347話参照)、ピュディリタはずっと、フォラヴの再来を待っていた。


 ピュディリタの父である『アレハミィ』を調べる彼に、自分も手伝いたい気持ち。それは、父の思い出に触れることが出来る錯覚を浮かべ、ピュディリタの幼少時の記憶を揺さぶった。


 偉大な父と信じているが、他の誰もが『アレハミィ』の名を避ける。妖精の女王さえ、彼の名を出して、まともに話が続くことはなかった。


 理由は分からないまま。きっと、父が人間の体を求めたからではないか、と・・・それが真実なのか、僅かにしかない記憶に『父の誠実さ』を加えたかったピュディリタ。妖精の世界で作られた『アレハミィ』についての記録は家にあるし、彼の資料となるべき、彼自身が遺した書もある。


 でもそれは、母との約束で門外不出だった。フォラヴを招ければ早いが、ピュディリタの家には、決まった誰かしか入れない。その理由もまた『アレハミィ』に関わること――



 だから彼女は、フォラヴが調べる書物と、彼がいつも過ごしている中間の地で得る情報を共有したく、自分も、自宅に遺る父親の情報を提供する。


 それをこの数日間に渡って続けており、いつフォラヴが戻ってしまうだろう?つぎはいつ来るだろう?と、様子を見るのも、ピュディリタの朝晩の日課になっていた。



「ピュディリタ。あの光は。迎えが来たのでは」


 フォラヴの片手に持たれたままの本を見つめていたピュディリタは、その声にハッとして外を見る。『呼び声の書』の部屋の窓に、外から近づく光が大きくなり、彼女は頷く。


「ええ、あれはそうですね。では戻ります。明日は、まだいらっしゃる?」


 毎日、帰る間際にこの声を貰うフォラヴは、少し笑って『はい』と答えた。

 訊ねたピュディリタも、ちょっと可笑しそうに笑みを浮かべて『ではまた明日』と挨拶し、早めに休むようにと言い残して廊下に消えた。



 彼女が廊下を戻る姿を、少しだけ見送ってから、フォラヴは扉を閉めて窓際へ行く。


 明るさのある妖精の世界の夜。そこに、ふんわりと水色の光を灯す、『()()と言うには。静かですね』フフッと笑った妖精の騎士の目に、水の妖精が引く蕾の()()

 気前良く『馬代り』を引き受けてくれる、性質の大人しい魚のような妖精は、水色の光を伴って城の外に到着し、ピュディリタがそこに向かって歩いているのを見つめた。


「お休みなさい。孤高の妖精を父に持つ、ピュディリタ」


 フォラヴは囁くようにそう言うと、大きく息を吸い込んで、『さて。もう少し』と調べ物に戻った。


 今、フォラヴが調べているのは、最初にアレハミィを調べた時と異なる方向。意外なことに、そうして調べ始めてから、もしやと思う手掛かりがどんどん見つかる。


 夢中になって閉じこもり、ひたすら過去の妖精を追う日々。フォラヴは寝食も忘れるほどのめり込むため、寝ずの日もあった。



()()()寝ませんと。ああ。もう、何日・・・? ちょっと、居過ぎてしまっただろうか。明日には、戻ろうか・・・・・ 」


 彼女に心配させて済まないかも、と苦笑し、もう少し読んでから・・・そう思いながら、本を置いた長椅子に腰掛け、足を伸ばして。妖精の騎士は、間もなくして、夢の中へ入って行った。




 *****




 魔法陣の洞窟にも、()()()()()()()()の二人が休む夜。


「まだ眠そうだ。もう寝ろ」


「うん・・・眠い。でも風呂がまだ」


「朝に連れて行ってやる。今日は寝ろ」


 到着したすぐ、ヨーマイテスにベッドを出してもらったシャンガマックは、倒れ込むように横になり、両手で顔をぎゅっと擦り『風呂入ってないなぁ』と困ったように笑う。


「入っていないが、仕方ない。さっきも教えてやったが、お前があの場所に行くと、()()()の時間と狂うんだ。それで日数を使っただけで、()()()で言う何日分じゃない」


「そうだね。ごめん、待たせて」


 気にするなと即答し、獅子は息子に『寝ろ』と促す。えへっと笑った息子の頭に、大きな肉球をばふっと乗せ、彼の目を塞ぐ獅子。

 獅子の手が乗った後、シャンガマックの呼吸の音は変わり、あっという間に眠りに就いた。


「お前はいつもそうやって、夢中になっちまうんだ。俺が側まで行けない場所だから、止めようがない」


 困ったやつだな、と小さく笑って、獅子は息子の横に寝そべると、ぎゅうううっと体を丸めて息子を包む(※獅子布団)。



 ファニバスクワンの絵、最初に訪れた場所の一枚目を見たいと言うから(※1405~1406話参照)連れて行ってやったら、これだ――


 獅子は、息子が無意識で腕を伸ばし、毎晩の如く、(たてがみ)に潜り込むのを見つめながら、ここ数日の動きを思う。



 ――魔法陣に戻って来た夜。翌日に、獅子は息子の願いを叶えるため、一枚目の『ファニバスクワンの絵』まで連れて出た。


 のんびり行くこともない、行きの道。獅子の背中に乗せ、暗闇のサブパメントゥを通過し、時間も短く着いた先。


 息子はあの海の岩礁に立ち、ファニバスクワンから受け取っている石を放ると、割れた海に入って行った。

 岩礁の横穴に待つヨーマイテスは、頭の中で連絡を取るようにと伝えておいたが、息子からの連絡が途切れて『ここもか』と舌打ち・・・するも遅く。


 ヨーマイテスはそこに、二晩待つ羽目になった。


 最初の数時間で落ち着かず、ウロウロしながら『俺も何か用事を済ませておくか(←特に思いつかない』の気持ちから、サブパメントゥに動いたり、久しぶりの狭間空間に入ったりとしたのだが。


 気になって仕方ないから、何度も岩礁の横穴に出ては、息子に呼びかけ、少し待ちながらを繰り返していた。

 そのせいで、『いつ息子から連絡が来るか』とソワソワし続け、用事も何も手につかないヨーマイテスは、結局、岩礁の横穴で息子を待った。


 初日・翌日と夜も越えて『いい加減、戻ってこい』と悪態をつき始めた頃、翌々日の夜明け前に、海が割れたのを見て安堵(※息子は毎度、海中から放られる)。


 放り出されて、落下し、バシャンと海にまた落ちた息子に、獅子はすぐさま海に飛び込んで、息子の服を噛むと、岩礁の横穴まで引っ張って上がった。



 嬉しそうなバニザットはずぶ濡れの体を笑って、成果を話そうとしたが。獅子はそれを止め『まず帰ろう』と命令に近い一言を先に伝えた。意味を察してハッとした顔に『日が経っている』と教えると、息子は大慌て。


 謝るバニザットを宥めて、背中に乗せたヨーマイテスは、夜明け前の大地を駆け、途中で獲物を調達して息子に食事をさせ、すまなそうに何度も謝る中で、ぽつりぽつりと挟まる『一枚目の絵』について聞いた――



「で。戻って来たら、夜だ。途中でバニザットが、眠りこけて落ちるから(※強制停止)」


 何度も背中からずり落ちる息子に、これじゃ危ないと判断し、道の半分も進まない所からスフレトゥリ・クラトリに頼って戻った帰り道。

 行きはよいよい・・・そのままの帰路は長く時間が掛かって、魔法陣に到着するまで、息子は熟睡していた。


「話しも半ば。まぁ、どうもファニバスクワンの絵の一枚目に、面白がるようなことが見えたらしいし。行った意味はあったんだな」


 待ちくたびれたぞと、続けてぼやく獅子は、それも許せる範囲(※息子大好き)。



「明日な。風呂に入って。ゆっくり教えろ」


 鬣に埋もれて、すーす―寝息を立てる息子に呟くと、獅子も目を閉じて、息子の温度にしみじみ嬉しく思う夜を過ごした(※離れるのイヤ)。

お読み頂き有難うございます。

本日と明日4日は、朝一度の投稿です。

今後、仕事の都合で一日1度投稿が増えると思います。その都度お知らせいたします。どうぞ宜しくお願い致します。

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