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魔物資源活用機構  作者: Ichen
泡沫の示唆
1418/2965

1418. 夕食時の龍境船談論


 ハイザンジェルに戻る内容。それは、国宝登録手前の品のため。国王が『龍図』と記した、一つの古い地図のため――


 夕食の時間は穏やかに流れる。イーアンは頭を抱えていたが、ドルドレンは一応、伝達としてもう一度、期日を繰り返して聞かせた。



「4日目には、その古い布は()()として登録されるわけだ。

 イーアンが受け取った笛は、奇跡的に本当にミンティンが来ちゃったもんだから、国宝とは言え、現場でイーアンに譲渡されたが(※ミンティンサマサマ)」


(国宝)。その場で譲渡とは、すごいよなぁ」



 ドルドレンに改めて聞かされた話に、親方が可笑しそうに笑った。ミレイオも『私もあの日。空の変化に鳥肌が立った』と微笑んで思い出す。


 バサンダとバイラは、当然、何にも知らないのだけど。何とも貴重極まりない話を耳に入れる時間に、とても興奮していた。

 その横で、ザッカリアとオーリンが、赤ちゃんに肉を食べさせながら『一緒に行きたい(※帰国願い)』と、ボソボソ話し合う。


 イーアンは暫く唸っていたが、放っておけないタイミングのようでもある為、ここは早く行こうと決定する。



「ああ。仕方ありません。どれくらいかかるのか、分からないけれど・・・どうしよう。今夜も空です。

 アオファの鱗を持って、一度戻ってきますから、魔物退治に苦戦しそうな数だったら使って頂いて」


「有難う。そろそろ頼まないと、と思っていたのだ。明日は昼過ぎに、ダマーラ・カロの町だと思う。町長に会いに行ったら、すぐに渡したい」


 ドルドレンは残りが少なかった、アオファの鱗を貰えることにお礼を言い、『イーアンは明日の朝に出るのか』を確認。

 奥さん、嫌そうに頷いて『夜明け前に出る』と答えた。


「お空ですとね。呼ばれたり何なりすれば・・・イヌァエル・テレンの場所にもよるけれど、割に早くここまで来れますが」


 地上の空を行き来するのは、そこそこ時間が掛かるから、すぐに戻れないだろうと教えておく。ハイザンジェルは小さい国だけれど、テイワグナとの境界にある山脈が、国一つ二つ分の広大さ。


 高速で飛ぶ龍族とは言え、『流れ星みたいな速さ~』と、もり立てられることもあるにせよ、せいぜい音速である(※流れ星秒速ウン十km→燃え尽きる)。

 デカイ龍に変わって距離を稼ごうかと、安易なイーアンはちょっと思ったが、それも別に、大した違いは生まないだろう(※気づく)。そして、無駄に龍気が減る。


 仕方なし。イーアンは早起きして、アオファの鱗を一旦、馬車に届けてから、ハイザンジェルへ出発することにした。


 オーリン曰く、『一回、イヌァエル・テレンに上がった方が早い』ので(※分かるけど面倒臭い)とんぼ返りで大忙し決定。

 今日の内に済ませておくことも、急いで考え、あれこれと頭を抱えていると。


 伴侶は『もう一つの話は』と、この話を終了して、話題を変えた(※イーアン、ちょっと寂しい)。



「もう一つの話は、龍境船だ。バイラが面白いことを教えてくれたのだ。

 これについて、ザッカリアのことも混ざる。何一つ、本当のことかどうか分からないが、少しの間、皆が龍境船にどう感じるか、話し合いたい」



 名前を呼ばれたザッカリアは、さっと総長を見る。それから目が合って、じっと見つめると、総長に『お前にもきっと分からないこと』と微笑まれた。


 空は夕暮れにかかり、イーアンはちょっとソワソワする。ドルドレンに、迎えが来るだろうから、早めに教えてとお願いする。ドルドレンは了解し、午前中にバイラと話した内容を全部伝えた。


 ドルドレンとバイラ以外は―― バサンダも ――とても驚き、話の鍵のようなザッカリアは、一番びっくりしていた。


 話し終えたドルドレンはすぐ、イーアンに顔を向けて『ここからイーアンに訊きたいのだ。どう思うか』それで呼んだんだよ、と言うと、イーアンは少し笑って首を振る。


「私は、どう思うも何も。いやしかし、今朝のことです。私はイヌァエル・テレンで目覚めましたから、暫く空を眺めていました。私も、バサンダに聞いた『龍境船』の話が印象的で」


 イーアンの答えに、ドルドレンは、うんと頷いて先を続けるようにお願いする。イーアンは食事を食べ終わって、食器を置き、自分を見ている皆に続けた。



「支部の工房で、タンクラッドとミレイオ、あなたと私の4人で、読んだ民話。

 その時は、知る由なかったけれど、あの民話に出て来た『天の人』は、()()()()()()のではと思ったのです(※643話参照)」


()()()()()()()()話、あれがいきなり繋がったと、俺たちも思っていた」


「そうです。タンクラッドが読んで下さって、ミレイオとタンクラッドは、若い頃に知った、危険な海域の話をされて」


 親方は読み聞かせしただけで、実は先に、ドルドレンたち3人も民話を読んでいたが、とりあえず親方が満足そうなので、そこは流した(※脱線するから)。


「バサンダは、ティヤーとアイエラダハッドの『流れのおかしい海域』に、乗り込む船を『龍境船』と教えて下さいました。

 私は昨日、この話を伺った後にすぐ空へ戻りましたから知らないけれど、ドルドレンたちも同じように、民話と繋げて考えたでしょう。私の続きは、民話の中で、漁師の前に現れた『天の人』を思いました」


「龍族じゃない・・・空の誰かなんだろ?俺もミレイオに聞いた話で、ちょっと思ったよ」


 午前中に、馬車の中で聞いた話を教えるオーリン。それからミレイオと目を合わせ『話したら?』と促されたので、今度はオーリンが、自分とミレイオで話し合ったことを伝えた。


 オーリンの話が終わってすぐ、質問をしようとしたイーアンよりも早く、タンクラッドがイーアンに言う。


「お前が()()()()()()、パッカルハンの壁画。覚えているか」


「私が()()()()()()?人聞きの悪・・・え。ああ!ああ、覚えていますよ!龍のような絵があって、下が雲か海か、流れるような線に宝石がちりばめられて」


「あれだ。お前は『見事』と褒めて、手を出さなかった(※この言い方に、バイラたちが緊張)。あの壁画に描かれた、横向きの龍。その体にも、宝石は幾つも入っていた。

 全体を見れば、そうした芸術性の傾向だった時代にも思うが、()()()()()()()のも悪くない、と思わんか」


 そう言うとタンクラッドは、ポカーンとして、何やら頭の中で合点が行った様子の女龍に、ちょっと笑ってから子供を見て『お前の龍・ソスルコのような模様だったぞ』と教えた。


 ザッカリアの細い体が、見て分かるほど大きな呼吸で揺れる。思い切り目を開いたレモン色の瞳が、焚火の明かりに輝く。


「海の中に、島があったんでしょ?バイラの話だと、ティヤーに近い南の、海の中の国かも知れなくて。博物館の、ソスルコみたいな龍の絵は、そこから持ってきたって」


 そうだよ、と相槌を打つバイラに頷き、ザッカリアは、さっとオーリンを見る。黄色い瞳が面白そうに笑みを浮かべ、話してみろと呟いた。


「オーリンは、子供の頃にアイエラダハッドで、船の模型を見た」


「そう話した」


「置物は、海から離れたアイエラダハッドの、雨もない、水もない地域で大事にされてたんだよね」


「だな。そう思う。雨は降らなかった。水はどこからか、調達していただろうけど」


 話を繋げるように相手をしてやる龍の民に、ザッカリアは『そこはアムハールの空』と確認し、フフッと笑ったオーリンが頷くと、最後にイーアンに顔を向けた。急ぐような言い方と確認に、イーアンは気がつく。


 ザッカリアの目は、度々、彼に起こる『何かを見通す目』でなく、『自分の考えを練って伝えようとする』力強い目。


「イーアン。俺はもう話せない。イーアンも」


「分かりました。まだでしょう。私も言いません」


 二人の短いやり取りに、周囲は『えっ!』と声を上げる。でも二人はお互いを見つめていて、周囲を見ない。


 ザッカリアに即答したイーアンは、彼が()()()()()()()に見たものを感じていると、察した。


 男龍もあの話をしていない。彼らも『龍気が通る道』と話していたが、ザッカリアによって左右される出現であるため、例え何かを理解していても、それ以上を言わないのだ。


「この話は、今はここまでだ。俺にとっては」


「はい。承知しました」


 がっちり了解して頷いた、白い女龍。その信頼のある顔に、ニコッと笑ったザッカリア。


「え、なぜなのだ。何かすごく良いところまで、一気に運んだ気がするのに!」


 ビックリするドルドレンは、同じように引き込まれる皆の代わりに、すぐさま訴える。


 龍境船の話を齎したバサンダも、ドキドキしながら聴いていたので、ここまでか~!と思うと、勿体ないやら、でも充分のような気持ちやら。ちょっと笑って『素晴らしい一幕を有難うございました』と口にした。


 ドルドレンの訴えに、イーアンは『大丈夫ですよ、きっとまた違う方向から話が出てきます』と頷く。


 絶対、何か知ってる!と分かった親方は、イーアンに『何を知ってるんだ』と畳みかけるが、その時、空が弾けるように輝き――



「行くぞ。イーアン」


 降り注ぐ男龍の声が、白い光を渡す夕闇の空から落ちて来た。


 皆が一斉に目を閉じた直後。イーアンの笑う声だけが響き、再び、皆が目を開けた時には、辺りは夕闇に戻る中で、女龍も男龍も既にいなかった(※笑って逃げた)。

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