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魔物資源活用機構  作者: Ichen
泡沫の示唆
1400/2965

1400. 旅の百十日目 ~目的ある別離

 

 ドルドレンは朝方、考えることがあった。昨晩、皆と話したことの中にはなかった題目。


 でも、昨日の午前中からずっと、頭にそれが残っていて、自分が出さねばいけない結論かもしれないと思い始めていた。



 それはシャンガマックのこと――


 彼とホーミットを、また二人にしてやった方が良いのだろうかと、その事だった。

 これの決定には間違いなく、最終的に総長の自分が可否を告げる立場なのだし、そう思えば、今日明日でしっかりと決定する()()が欲しかった。



 フォラヴが気にしたように、情緒不安定。イーアンが厳しく言い切ったように、感情性の判断間違い。タンクラッドも少し話していたが、依存の立場。


 そして、ドルドレンも理解した。ドルドレンだけは、他の者と視点が異なる。シャンガマックは、テルムゾに入った時のドルドレン()状態ではないかと感じている。 


 ()()というほど、課せられた感じはないにしても、シャンガマックもまた、旅路において、心や精神、今後への心構えに、『自身を調える時間』が来たのかも知れない。

 

 これについて、ドルドレンだけの一方通行では問題があるので、確認も要ると感じ、恐らくその『確認』による感覚が、決定打になるのではないかと思っていた。



 宿の朝はゆっくりで、いつもなら、夜明けには目が覚めるイーアンもまだ眠っている。顔は枕に付けたまま、窓に視線を向けると、外は少しずつ朝の光に染まり始めていた。


 一定期にしか稼働しないこの町で、普及も何もないので、食料の買い物を済ませたら、出発。アオファの鱗は昨日、駐在の警護団に使い方を教えて渡してある。


 バサンダも『次の町まで同行』となったため、一段落した今日は『シャンガマックの話をする』に良い気がする。


 頭では勿論・・・一緒にいた方が良い、と考える。でも、もし。彼の自己を見つめる時期の到来であれば、彼にとって、一番良い状況でその時間を過ごさせたい。


 それは、奥さんやタンクラッド、ミレイオたちが例え『甘え』や『依存』と感じるにしても、それが()()()()()()()()場合もあるだろう、とドルドレンは思う。


 人それぞれ。受け取りやすい状態がある。


 擁護されずに育ったら、一人で選ぶ力が付いているから、一人で立ち向かうのかも知れない。奥さんたちはこっちなんだ、と思う。


 でも、自分もそうだが、シャンガマックも、誰かが常に適切な導きを与えてくれた環境に育った。それはまたそれで、導かれることへの素直な目が、立ち向かうための正解を選ばせてくれるのだ。


 シャンガマックは、お父さんと一緒が良いのだ。それで越えられるなら、それが良い。


 もしかすると、シャンガマックとお父さんは、二人一組として繋がった運命かも知れないし、その可能性が否定出来ないなら、彼らを引き離してまで成長を求めるなんて、誰にも出来ないことなのだ。


 誰かの目に『甘え』に映ろうが『依存』に映ろうが。二人一組が一番力を発揮できるなら、それで良いじゃないか、とドルドレンは考える。



 灰色の瞳で、横に眠る奥さんの寝顔を見つめる。


 黒い螺旋の髪が掛かる白い肌。そっと髪を指でずらしてあげて、薄っすら紫色の入る龍族独特の白い肌を撫でた。


「君は・・・文句なしに強いけれどね。俺だって、君が一緒にいるから頑張れるのだ。君は()()()()()()()立ち向かっていきそうだが」


 以前、男龍の試練で学んだ『一人で頑張る・一人で立ち上がる・一人で生きる力を持つ(※Byコルステインの指導)』ことを思い出し、()()()()()()()シャンガマックはマシなんじゃないか・・・そんな風にも思う。


「イーアン。学んだから、もう大丈夫だが。でも俺はやっぱり引き離されたくないのだ。そんなものである」


 うん、と頷いて。ドルドレンは角の生えた奥さんを両腕に抱え込む。


 奥さんは寝ぼけ眼で、うーんうーん言いながら、頭をグリグリ押し付けて、ドルドレンの広い胸に大きな角がゴリゴリ当たる痛さに、ドルドレンは笑った(※で、イーアンも起きた)。




 *****




 町の壁の外で佇む仔牛の中でも、ヨーマイテスがドルドレンと似たようなことを考えていた。


 昨晩遅くに戻った二人は、帰り道に話し合ったことがあった。別行動で、旅の仲間を支える方法について。


 簡単に言ってしまえば、『二人の状態に戻したい』わけではあるが、意味があれば、別行動で問題ないのではないか、とした見解で話は続いた。


 ただ、やはりドルドレンたちに不利が生まれないように対処する必要はあるし、別行動についても、利点があれば許可もしやすいだろう・・・とした話で終わった。


 ヨーマイテスが導いた、息子の心境。

 それは、()()()()()()と放って良いものではないと思う。ヨーマイテスにも、息子と出逢ったことで大きな影響が起こったのだ。息子もまた、自分と出逢ったために生じた、成長の運命を迎えていると捉えて、大げさではないだろう。


 これをひしひし感じるヨーマイテスは、早目にドルドレンに『別行動』の要求をしたい。


 眠る息子の髪を撫でて、獅子は別行動用の利点を考えていた(※そして『コルステイン説得方法』→消されないため)。




 *****



 ドルドレンは朝食の席で、シャンガマックの話をすることにした。そして、彼は今日、朝食に参加しづらいのではないかと思い、先に手を打つ。時間は6時半。


 眠そうな奥さんに『朝食7時半からと皆に伝えておいて』と頼み、宿の台所に、2人前の食事を先に包んでもらい、それを持って馬車の馬を一頭連れ、町の外へ行った。


 朝の通りは静かで、色鮮やかな絵の町を一人通る時間は、とても不思議な異国情緒。

 人っ子一人すれ違うことがなかったのもあり、これから会いに行く部下とお父さんへの、物語の始まりのように感じた(※ポエムなドルドレン)。


 仔牛は先日と同じ、壁の外にボーっと立っており、この様子をもしも町の人が見たら、きっと仔牛の世話を心配するだろうと思う風景(※はぐれ仔牛状態)。

 でも話しかけたら『触るな』と、低い声で叱られるのだ。そんな想像をすると、自分たちは慣れたが、実に変わった道連れなんだなと、ちょっと笑ってしまう。



 それはさておき。宿から馬でポクポク進んで10分足らず。用件は早めに――


「シャンガマック。起きているか。俺だ、ドルドレンだ」


「一人か」


 急に仔牛が来客を見上げて、ドスの効いた声で確認。ビクッとしたドルドレンは『そうだ、俺と馬だけ』と正直に答える。


「いいだろう。馬なら面倒もない」


 仔牛は生意気(?)に、馬なら構わないと許可。許可の数秒後、片方の腹がぱかーんと開く。これは見慣れないな、と毎度奇妙に感じるが、とりあえず用があるので、ドルドレンは馬を下りて、先に食事を差し出した。


 お父さんが獅子・・・いつもながら、迫力がある。

 その獅子が、仔牛のお腹の中から『それは何だ』と言うので、覗き込んだドルドレンは『朝食を持ってきた』と伝えた。


「何だ。食事を届けに来たのか」


「話しもある。シャンガマックは」


「寝ている。大きな声を出すな。食事を受け取ったなら、早く起こすこともない。俺に言え」


 そう来るだろうな、と思っていたので、ドルドレンは屈めていた背を一度伸ばし、仔牛の横にしゃがむ。


 上から覗き込んでいたのが、下から見上げる形になり、仔牛の体内から、デカイ獅子が見下ろしている状態で、ドルドレンは大切なことだけを、短く伝えた。


 話を聞いている獅子は、少し驚いたような目の動きを見せ、ドルドレンが『どうだろう』と答えを求めると、獅子は(たてがみ)を揺すった。


「ドルドレン。俺に話して、何がある」


「他意はない。ホーミットは知らないかも知れないが、俺にも同じようなことがあったと思う。だから、良い環境で、シャンガマックには」


「その()()()()とやらに、俺に預ける意味があるのか。もしくは」


「そう見える」


「こうしていても、俺とバニザットは一緒だ。そうではなく、この前のような別行動で」


「きっと。そうした方が、()()()()と思った」


 遮られては遮って。お互いの言葉が最後まで終わらないうちに、被せるように話を進める二人だが、互いに嫌な思いはなかった。


 獅子は、じっと勇者を見つめ『お前が勇者か。随分変わったもんだな』と皮肉のような言い方で笑う。

 その皮肉の意味は分からなかったが、ドルドレンは獅子が、自分を過去の勇者に比べて褒めているのだとは分かった(※正)。


()()()()()だったら、助けに来てやろうとも思える」


 ドルドレンはニコッと笑って、頷くだけ。答えをもらうまで、違う話に流すのは控え、続く言葉を待つ。

 少し沈黙が流れ、何かを考えていたような獅子は、ふーっと息を吐いた。


「他のやつは?何か言っていたか。俺は構わんが、バニザットが困るのはダメだ」


「まだ話していない。俺の独断だ。でもこの話を今、ホーミットにしている以上は、俺が責任を取るから、もし今すぐ動くとしても、俺は皆に説明する」


「その言い方だと、()()俺に話す予定じゃなかったな?」


「そうだ。『シャンガマックは?』と、最初に聞いた。

 昨日の朝食の席で、場が気まずくなったままだ。それもあるから、今日から別行動をするなら、その前に、仲を少し和らげられたら、次に会う時も気持ちが違うだろうと、考えていた」


「そうか。ドルドレン。バニザットに話したいか」


 獅子は息子を起こそうかと含んで、どうするかを目で訊ねる。獅子の目を見つめてから、勇者は微笑んで首を少しだけ傾げた。


「いや。先にホーミットと話したのだ。きっと()()()()()()だったのだろう」


「お前は・・・ドルドレン。分かった。それじゃあな、一つ頼んでおくか」


 ドルドレンの言葉に、少なからず感心した獅子。序にと思い出したことを伝える。頼みを聞いたドルドレンは、ちょっとだけ眉を寄せて『本気で』の言葉を呟き、獅子が『あいつは冗談を言わない』と答えた。



「そんなことは俺が望まない。俺どころか、誰も望まないのだ。

 大丈夫だ。タンクラッドに呼んでもらって、出来るだけ早い時間で、俺がコルステインに話す」


「そうしてくれ。じゃないと見つかったらどうなるか」


 ハハハと笑った獅子に、笑えないドルドレン。『大丈夫だ』と約束し、それは急ごうと決めた。

お読み頂き有難うございます。

明日は、朝一度の投稿です。夕方の投稿がありません。


事情により、これから、こうして朝一度投稿が増えるのですけれど、どうぞ宜しくお願い致します。

活動報告は写真を添えて、ちょこちょこ投稿していますから、物語にちなんだ話もありますので、もし宜しかったら、どうぞいらして下さい。

いつも、来て下さいます皆様に心から、本当に心から感謝して!


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