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魔物資源活用機構  作者: Ichen
出会い
14/2942

13. 食事を取りに

 

 部屋を出たドルドレンは、廊下に一歩踏み出して呆れた。


 あれほど注意したのに、廊下にも階段にも、目に余るほどの人数がうろついている。明らかにこの部屋の扉に耳をつけて話し声を聞いたと思われる、野獣(アホ)な奴等がそわそわしてドルドレンを見ていた。

 冷え切った眼差しを向けたドルドレンが大きく咳をすると、瞬く間に皆散って隠れた。


「もう一度だけ念を押す。この部屋の扉を開けようとしてみろ。不届き者は、野原に首だけ出して土に埋める。明朝に掘り起こされるまでだ」



 冷たく言い放つ予告に、人影がない廊下から次々怯える返事が響いた。



 ――夕食を持ってくる前に幾らか片付けることがあるな。 

 まずポドリックを見つけて、今夜中に荷造りをすること・明朝に部屋を移動することを指示しなければ。いくらか強引だと自覚はあるが、ポドリックには勘弁してもらう他ない。7年来の友人だし、事情を説明すればすぐ理解してくれると思う。


 留守中に緊急の報告はなかったようだから、今夜は会議はないだろう。

 ・・・・・しかし、明後日から遠征だ。遠征期間中に、セダンカの話を各地域の支部にも大まかに報告しておく必要がある。

 明日は午前が遠征行動会議で、午後は準備と人員配置だろ?それだけで一日終わる。遠征中のイーアンの無事をどう守るか。俺が留守の間、彼女を任せる適任。駐在の誰かにいただろうか――



 足早に階段を下りて大広間へ向かうドルドレンの頭の中には、この後に取るべき行動リストが組み立てられていた。やることが多いな、と声にならない声で呟く。


 すれ違う騎士たちは、夕食の時間で一様に大広間へ向かうため、話題の総長の姿を見つけると何やかんやと後を追って声をかけてきた。うるさい金魚の糞を適当にはぐらかし、歩きながら「ポドリックを知らないか」と目的の人物の居場所を質問する。


「ポドリックですか? さっき食堂に並んでいました」


 後ろを振り返らないで質問している間に、誰だかわからないが後ろから情報をくれた。「ありがとう」と礼だけ言ってドルドレンは食堂へ急いだ。



「ポドリック、いるか」


「ここに。俺に用か?」



 食堂の通路から出てきた、食事を運ぶ大柄な男。


 ――焦げ茶色の短髪に少し垂れた黒い目と大きい鼻で、筋骨隆々の姿にはちょっと不似合いな愛嬌のある顔をしている、ショーエン・ポドリック。半年前まで副隊長だったが、ドルドレンの昇格に伴い、彼もまた一班の隊長に昇格していた。


 ポドリックの性格は大雑把だが、人が好いので部下には慕われている。この日もポドリックと一緒に食事をしようとする部下が側にいた。



「人払いか?」


 ポドリックが部下を顎で指して訊ねる。部下は、ああ、と理解したように離れようとした。


「いや構わない。すぐ終わる。あのな、用件だが、今夜中に荷造りして明日の朝には部屋を移動してもらいたいのだ」



 ??? 表情は普通のまま。内容は普通ではない。総長の用件がすぐ理解できない。ポドリックは盆を近くの机の端に置きながら、ぽかんとして総長を見た。部下も聞いていて、彼らは怪訝そうな顔でポドリックの部屋移動の説明を待った。



「何かあったのか」


 総長の様子から、自分の失態とかではなさそうだ、と判断したポドリックは、ざっくりあらすじを求める。


「お前が頭の回転が速くて楽だよ、ポドリック。

 実はな、もう聞いているかも知れないが、今日の帰り道に女性を保護したのだ。しばらくの期間、この支部で身柄を預かるのだが、現時点の空き部屋は具合が悪い。」



 ドルドレンの早口に、ポドリックは段々おかしそうに顔をゆがめ始めた。部下たちから見てもポドリックが笑うのを堪えているのが分かる。大男は、ドルドレンが目を合わせないのも余計におかしくて、一つ咳払いしてから質問を返した。


「なるほどな。ドルドレンの真横の部屋なら、客人の身の安全は保証できるからな」


 友人として、打ち明け話に同意する。ドルドレンが何となく赤らんでいるのが珍しいので、ついからかいたくなるが、ここは部下の手前。上司をからかうのだけは控えた。


「そうだ。で、可能かどうかを」


「可能じゃないと困るんだろう? いいよ、今夜は引越し準備でもするよ。部屋に特に未練もない。

 荷物は少ないから朝には移動できると思う。明日掃除してもらえば夜には入れるだろうな。」


「ありがとう。急ですまない」



 ふふん、と笑ったポドリックはドルドレンの肩を叩いた。ドルドレンの無表情に複雑な色が漂う。『引っ越し祝いに瓶一つ寄こせよ』とポドリックは笑った。ドルドレンは『承知した』と頷き、自分も食堂へ向かった。



 食堂では、流れ配膳式で食事を受け取る。

 厨房の前に並列用の通路があり、厨房と通路の間のカウンターに食事が種別で置かれているので、通路入り口から盆を持った各自は、進みながらそれぞれの料理を皿によそい、出口から出る頃には食事は盆に全て乗っているという形。


 ドルドレンは盆2枚を両手に持ち、自分と被保護者の二人分であることを厨房に伝える。厨房は騎士が交代で行なう仕事のため、夕方の広間で珍客を見た者もいる。噂対象のドルドレン本人が来たとあって、仕事そっちのけで話を聞きに寄って来た。


 それらを鬱陶しそうに振り払い、ドルドレンは機械的な正確さで皿に食事をよそって、さっさと2階へ上がって行った。



 無表情でピリピリしているドルドレンが去る姿に、食堂でも、広間でも、ドルドレンと珍客の話が盛り上がった。





お読み頂きありがとうございます。

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