表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1399/2964

1399. 別行動:星の思い出

 

 一日。ほっつき歩いた二人(※正確にはウシが)。


 夜には戻ると、連絡はしたものの。すっかり忘れて、今は馬車の仲間から離れた丘の上に座る。



 ――今日、町を出発してから。

 シャンガマックは、最初こそ、スフレトゥリ・クラトリの中で『気弱なボソボソ』を繰り返していたが、ある程度して、ヨーマイテスに『降りるか』と誘われて降りる。そこから、少し気持ちが軽くなった。


 ヨーマイテスは、特にどう、ということもなく。息子が好きそうな遺跡に、引っ張り回しただけ。


 考えなくても楽だから、としたこともある。

 遺跡なんて散々、世界中、海も山も、地の中さえ出かけているヨーマイテスにすれば。選ばなければ、そこら中、遺跡だらけにも思える。


 だから、危なくない、息子の好みに合う遺跡(※熟知)を片っ端から、近い順に回ってやった。


 思った通り。息子は、最初の遺跡で既に態度が変わり、子供のように壁にへばりついて『これは』『いつの』『誰が』『こっちは』と、博識な父に質問し続けた。


 あっさり凹みが直ったので、そのままそこにいても良かったのだが、ヨーマイテスは今回、そうすることなく、離れるのを惜しがる息子を抱えて(※強制的)結局、『終日遺跡巡り7か所の旅』を済ませた。



 途中、腹が減ったかと訊ねたが、息子は目をキラキラさせて『それより次が気になる』と。すっかり元気になって(←この時、遺跡3か所終わったところ)いた。


 父としては、食事はさせたいので、息子を4か所目の遺跡に預けると(※保育所)獲物を獲りに行き、4か所目の遺跡の庭で、焼き鳥を食べさせた。


 この昼食時間で、息子の笑顔が爆発的に可愛かった(※父も重症)。その時のトッピングに近い一言。


「何だか、懐かしい。いつも二人でこうして食べていたのに。やっぱり毎日が良いよ」


 サブパメントゥの孤高の獅子は、冷たかった心臓を射抜かれる(※いやとっくに射抜かれてるんだけど)。

 そうかー・・・返事はそれだけだったが、獅子は尻尾が千切れんばかりに振り回して喜んでいた。


 そんな父の無表情な喜びに、心の底から楽しそうに笑う息子・シャンガマック。


 自分も食べて、父にも食べさせて、モグモグする獅子に顔を寄せて、ちらと碧の目が自分を見ると、ニコーっと笑う。仔犬のような漆黒の瞳に、獅子は頷く(※息子ちょうカワイイと思う)。


 元気回復シャンガマックは、嬉しさがこみ上げるのか。食べさせながら、獅子の首を抱き締めて『いつもこうなら良いのに!』と何度も頬ずりする。


 この時間、食べ終わるまでこれが続いたので、父は最高の気分だったが、同時に、一抹の不安も残った。



 次の遺跡へ移動し、息子がせっせと調べている後ろで、ヨーマイテスは一度だけ、気になっていることを質問した。


『バニザット。お前は、お前の人間の親に会いたいか』


『え?』


 きょとんとして振り返った息子は、思いがけない質問に驚いたように『どうして』と目を丸くする。

 獅子はすぐに答えず、じっと息子を見つめ、息子はその沈黙に不安そうな表情を浮かべて近寄った。


『何でそんなことを急に。俺は一言も、そんな話をしたことはない』


『そうだ。お前から、人間の家族の話を聞いたことはない。ただの一度も、お前は話さなかった。俺に話したのは、お前が子供の頃の様子を少し』


『どうしたんだ。俺が何かしたのか?ヨーマイテスと一緒に居て楽しいよ。話した方が良い?』


『そうじゃない。そうじゃないんだ。お前が、俺を通して違うものを見ているのかと』


『やめてくれ』


 獅子の呟いた理由を大声で遮ったシャンガマックは、不安な顔に少しの苛立ちを含んで、座る獅子の前に跪く。そして獅子の顔を両手に挟んで、真正面から辛そうに一言、こう言った。


『ヨーマイテスが俺の家族だ』


 獅子は静かに頷き、息子の必死な顔を見つめる。自分に棄てられるとでも思ったのか、引き留めるような態度の息子に、獅子はもう少し話した。



『お前が()()()と言った。俺と毎日過ごしていても、俺を()()とでも思っているように感じる・・・お前は、家族を愛する男と、俺は知っている。

 離れた家族の面影を、俺に見ているように思う。お前の父、お前の家族、お前の家、お前の居場所。お前はそれを心に抱いている。居心地と安心を求める子供のように』


『失う?ヨーマイテスがいなくなるなんて、俺は思ってないよ。ずっと一緒だと、言ってくれるし、何も疑っていない。何を急に言い出すんだ。俺がそんな風に見えるのか。子供のよう、とは』


『落ち着け。お前の悩みを探っているんだ。悪く取るな。客観視しろ』


 ヨーマイテスの言葉に、数分前の笑顔が崩れたシャンガマックは、すぐに返事が出来ず、ごくっと唾を飲み込んで俯き、さっと顔を上げた。



『俺の過去を育てて守ってくれた家族も、もちろん大切だが。会いたいかと聞かれたら、会いたいとも思うけれど。

 でも、()()()()()()()良いんだ。ヨーマイテスと離れてまで、育った家族に帰ろうと思わない』


 咄嗟に言える、本当のことはそれだけ。

 指摘されたことについては、狼狽えていたが、シャンガマックはそう伝えると、獅子の碧の瞳を見つめて『本当だよ』としっかり伝えた。


 獅子は頷いて『分かった。悪かった』静かに謝り、次へ行こうかと促した。



 そこから、少しだけ大人しくはなったものの。それでも別の遺跡に着けば、やはり楽しさや嬉しさが先に立つようで、シャンガマックは喜んだし、笑顔も見せた。


 獅子もそれ以上は、話をぶり返さず、息子の質問に答えて楽しみ、夕方も終わる頃、また食事を二人で済ませて、帰路についた――



 のだが。ヨーマイテスは、寄り道することにした。


 馬車の連中はどうせ、そろそろ休むだろうと思えば、まぁ騒がれる前に(※戻ってこないとか)帰れば良いだろうと、廃墟の遺跡へ最後に寄った。


 そこはテイワグナでも、ほぼ誰にも知られないと思われる場所にあり、大きな丘陵が延々と続く。丘陵のずっと奥に山脈があり、丘の幾つかに、遥か昔、この場所に住み着いた民族の遺跡が遺っていた。


 遮るものがないため、丘陵の上に造られた遺跡は見事に荒廃し、土台と柱の根元くらいしかない。


 だが、その場所はヨーマイテスにとって、少し気を引く場所でもあったので覚えていた。風が吹き抜ける夜なら、息子も気持ちが良いだろうと、スフレトゥリ・クラトリを停め、丘の上の遺跡に降りた。



 息子はその眺めに息を呑み、素晴らしい場所だと感動を伝えた。


 ヨーマイテスも人の姿に変わり、息子の横に立つ。夜風は吹き抜け、見渡す限り、二人しかいない夜の丘陵にテイワグナの大きな自然を感じた。


 短い草が敷き詰めるように生える丘に座り、二人は東の空を上がった月に顔を向け、暫くの間、今日の遺跡の話をした。



 終わらない遺跡の話に埋もれていたが、ふと、ヨーマイテスが空を見上げて『お前が前に話した星』と指差したのをきっかけに、シャンガマックは嬉しそうに『覚えていてくれたのか』と頷き、星の話に移る。


「あれが俺。ええと・・・星図を持って来ていないから。前に見せたの、覚えてる?(※968話後半参照)」


「覚えている。お前が広げて見せた。『急に()()()がある』と話した」


 ヨーマイテスがあっさり答え、シャンガマックは感嘆の吐息を漏らす。その顔に、どうした?と訊ねたヨーマイテスに、騎士はハハハと笑った。


「すごい記憶力だ。あんなちょっとのことを」


「ちょっとかどうか。俺には大事な記憶だ」


「そうか・・・有難う。あのね、あの時は言えなかった。あの、()()()と教えた緑色の星は」


 少し照れたような、言い淀み方をするシャンガマックに、大男は彼の頭を撫でて先に言う。


「俺か」


「そうだよ。それで、その。ええと。横の、少し白っぽい緑色の星は」


「お前だな」


 二人で微笑み合い、シャンガマックは嬉しくて『俺だよ』と呟いた。


 また見上げて、シャンガマックはそっと空を指差す。『ね。緑色のは、俺の星の近くだ』あんなに大きな星はヨーマイテスだ、と教え、ヨーマイテスもニコッと笑って『()()()いない』と答える。


「ヨーマイテスが、過去のバニザットの話をしてくれた。動く星の話で、俺は何一つ聞き漏らしたくなかった」


「知ってるよ」


「今、こんなに近くに居てくれる。俺は幸せだ。俺も先祖のようになって、早くあなたの」


「それは言わなくて良い」


 嬉しそうに希望を話そうとした息子を遮り、え、と止まった顔に、ヨーマイテスは手を添えた。大きな手が頬に添えられて、シャンガマックは黙る。自分を見つめる碧の目が宝石のように輝く。


「バニザット。お前はお前だ。誰とも比べるな。お前は俺の息子。俺はお前の父」


「ヨーマイテス。それは」


「『不安』だ。お前の『不安』を見つけた。言ってみろ、俺は誰だ?」


 あ、と声に出してから、シャンガマックはすぐに『あなたは俺の父』と答える。頷く大男は『お前は誰だ』と訊ねる。


「俺は、あなたの息子」


「そうだ。それ以上でもそれ以下でもない。無論、それ以外もない」


「ヨーマイテス、その意味は」


「考えてみろ。感じてみろ。それで、お前の中に一番最初に抵抗したものを、とっ捕まえて、()()()()()


 褐色の騎士は、父の言葉に何度も瞬きし、質問ではなく、自分の中に答えを探そうと切り替えた。

 ヨーマイテスは彼の心の動きを知り、黙って待つ。


 待っている間、自分を見上げている艶やかな漆黒の瞳に、何度も躊躇いや怯え、寂し気なものや、郷愁の色が見えた。ヨーマイテスはそれらを一つ残らず、見つめながら、見上げる息子の顔を支えていた。



 ――強くないことを、最初から気にしていたバニザット。


 最初は、人間であることを気にした。ミレイオが俺の息子と知った後は、ミレイオと自分を比べた。魔法の練習が始まってからは、事あるごとに過去のバニザットと自分を比べる。今日は、フォラヴと比べた。


 気がついたのは、『ヨーマイテス()に目を向けてもらえる条件=強さ』のように、どこか感じているのではないか、とその部分。


 バニザットの性格の良さを見ていると(※褒める)人間の家族は、無条件の愛情で育てただろうが、彼らとの過去に育てられたのは、愛情だけではなかったんだろうと思う。


 目指す相手がいて、憧れを持つ対象がいたのかも知れない。それを越えたかどうかは知る由ないにしても、バニザットの性質だと、きっと常に憧れと自分を比較して、共感を喜んでいる気がした。


 甘えた時代が蘇ったか。それに圧されるように、子供心の素直な『認められたい』感覚まで息を吹き返した、そうしたことではないのかと想像すると、意外にもすんなり、バニザットに当てはまった。


 そうだとするなら。


 俺に認められるために、弱さ強さを意識するな、と言ってやるだけで。知識の多さで優劣を付けるな、と教えるだけ。そして、永遠に愛するだけ――



 考え終わったのか。

 すっと瞼が下りた息子は、何か悟ったように、言葉を探そうとして。

 それが伝わるヨーマイテスは、彼の顔をちょっと上に押した。目が合って、静かに囁いて訊ねる。



「俺はお前に、何て言った。『簡単に死なせない』と言わなかったか」


「え?うん、言った。どうし」


「お前から離れないって意味だ」



 ポカンとした顔を向け、シャンガマックは自分を見下ろす大きな男の、温かな瞳を見つめる。

 大男は、少しだけ微笑むと、シャンガマックの頭に手を添えて、ゆっくりと額を付けて目を閉じた。



「息子よ。愛しているぞ」


「あ。う・・・はい。俺も愛してるよ、父さん」


「お前が強かろうが弱かろうが。何を知っていようが知らなかろうが。俺にはお前だけ。お前を愛しているんだ。お前が教えたんだ」


 涙が溢れるシャンガマックは、頷いて、何かを言おうとして、しゃくり上げて、言葉にならなかった。


 そんな息子を両腕に抱え、大男は自分の膝に座らせると、大切そうに屈みこんで優しく抱き締める。


 コルステインが、タンクラッドにそうするように。ミレイオが、イーアンにそうするように。リリューが、ロゼールにするように。


 サブパメントゥの心からの愛情が、ずっと一緒に居ようとする相手に注がれる時。皆、こうして相手を抱え込んで抱き締めて、守ろうとする。



 ヨーマイテスにも、シャンガマックにも、こうすることは最近の日常だったけれど。知らない間に、日常になっていたけれど。


 今夜は、種族が違うことをしっかり受け入れながら、種族を越えてしっかりお互いに流れる愛情に、魂の底から繋がった縁を感じていた。

 何度も感じて、何度も強くなる、二人の運命を――

お読み頂き有難うございます。

ブックマークを頂きました!有難うございます!


今回、この二人の話を書きながら聴いていた曲があります。

女性の声ですから、男女の愛情を歌っている感じではあるのですが、まーそこは・・・えー。例外もありとして。

『I Wouldn't Mind』 - He Is We で検索頂くと、ギターの穏やかな曲が見つかると思います。

歌詞も彼らお互いの感覚に近い気がして、後は曲調が素敵なのです~

もし宜しかったら、是非聴いてみてください!


いつもいらして下さいます皆様に、心より感謝して!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ