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魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1396/2964

1396. シャンガマックの心情推察

私情の影響多大なるかな。数日もご報告なく滞りました更新に、心よりお詫び申し上げます。

 

「バニザット。元気がない」


「そんなことはない」


「あいつらは今日もここに泊まるのか」


 獅子の質問に、シャンガマックが頷く。が、その顔は獅子に向けない。



 獅子は少し考えてから『お前、ドルドレンと連絡を取れ』と息子に言う。さっと向いた息子の顔に、嫌そうな表情が見える。


「出かける。スフレトゥリ・クラトリを動かす。夜には戻ると伝えておけ」


「今・・・?うーん」


「俺が話してやる。連絡しろ」


 シャンガマックはノロノロと腰袋の連絡珠を取り、総長を呼び出して父に代わる。獅子は肉球でばふっと珠を押さえ付け、ものの10秒で珠を転がして返した。


「行くぞ。お前のそんな顔、いつまでもさせておくわけ行かん」


「俺の顔・・・そんなに酷いか」


「そうは言ってないだろ」


 はぁぁぁぁと溜息をつく獅子は、大袈裟に(たてがみ)を振ると、ウシの体内に両手を広げて『土の下。水の上。お前の目はこの続き』と呟くように言う。その途端、ズズズと仔牛の体は地面に呑まれた。



「戻って来たと思ったら、俺が何を聞いても生返事だ。あいつらに、何か言われたのかと思うだろ」


 移動しながら、獅子は人の姿に変わり、息子を抱え寄せて、上を向かせる。手を当てていないと、すぐに顔を俯かせるので、何があったんだとしつこく聞いた。


 実のところ。頭の中は筒抜けなので、何となくは分かっているのだが。


 細切れの情報を繋いで判断するのは、さすがに昨日の今日でする気になれず(※学習)息子に直に聞き出すヨーマイテス。



 怒らないで聞いてくれ、と先に断った息子。何やら不穏な言い方だと思いつつ、ぽつりぽつり、落とすように話す内容を聞いてみれば。やっぱり――


「俺は関係なさそうだな」


 としか、思えない内容で、うっかり口にしてしまったら、息子が沈んだ。慌てて『いや、お前のことは俺のことだ(?)』と言い直し、息子の機嫌を窺う。


 息子の頭の中にひしめいていた悩みは、どうやらフォラヴの事だとは分かっていたが、昨晩、女龍が『朝来い』と呼びつけたのは、今回の問題に焦点があるからと言っていたし、それ絡みかと想像していた。


 ところが息子は、女龍に指摘された『自分の態度の変化云々』より、その後のフォラヴによる仕打ち(※公開処刑ともいう)の方が堪えている。


 息子もフォラヴの詰め方には、ぐうの音も出なかったらしく(※金縛りにあったから)、詰められた論点に『ヨーマイテス()』は、ほぼ無関係であり、単に打ちのめされてしまった形になった。



「何で『俺に怒らないで聞け』と言った」


「ヨーマイテスを大切に思っての行動だったのに。俺は言い返せなかったからだ」


「そんなこと・・・バニザット~(※言わない)」


 カワイイカワイイ、息子をぎゅうううと抱き締めて『そんなこと考えるな』とヨーマイテスは教える。


 もう、充分っ! 充分過ぎるほど、大切に思われていると感じている―― それをきちっと、目を見て伝えた後、フォラヴに何をされたのか。そっちに話を向けると、息子はもっとげんなりする。


「言いにくい」


「言え。今の話だと、丸で歯が立たない相手みたいに聞こえた」


「実際、そうだったんだ。どうしてか。体が動かなくなった」


「動かない。その意味は。もしかして、言い返せなかったのは、口が動かないからか?」


「そうだ。だけど。動いても、言い返せなかったかも・・・・・ 」


 声が小さくなるシャンガマック。顎も何も動かなかったのは事実だが、例え、あれが普通の状態でも。もしかしたら、フォラヴの意見に何一つ、返せなかったのではと思う。


 ヨーマイテスは、沈む息子をじっと見つめ(※頭の天辺しか見えない)彼の気持ちを察しながら、幾つか思い出すことがあった。


 黙っている父に、シャンガマックは問いかける。独り言のような声で、下を向きながら、ボソボソと話すので、耳に届きにくいその声を拾えず、父は『頭の中で話せ』と導く。



『うん・・・俺。俺は。フォラヴより弱いのだろうか。()()()気になった』


 どちらかというと、()()()気になっているように思えるのだが、父は息子があまり、自分自身を把握するのに慣れていないと分かるので、静かに答える。


『フォラヴは人間じゃない。お前と比べるな。違う種族だろ?』


『でも俺には、ナシャウニットの加護がある。それなのに』


『ナシャウニットの加護より、妖精の力の方が強い時もある。そんなもの、状況に応じることだ』


 そうなのか?と顔を上げた息子は、強さに打ちのめされているのが、ありありと分かりやすい。


 さっきまで気にしていた俺の存在はどこ行った、と思う気持ちもあるが(※正)ヨーマイテス、ここは父らしく答えることに徹する。


『うーむ。あのな。何でも万能に通じるわけじゃない。お前も散々、それを経験しているだろう。どうして忘れるんだ』


 この手の話は、しょっちゅうしているはずなのだ。どうも、状態が変わると忘れるのか、息子は父の答えを聞いて、『あ・・・そうだね』とぼんやり気がついた様子。


『バニザット。ちょっとお前、変だぞ。何か気に掛かることでもあるのか』


 ヨーマイテスから見ても、息子の状態は少し引っ掛かる。この前の甘え方から、徐々に気になる部分ではあるのだが、どことなく()()()()がちらつく。



「ヨーマイテスにも言われるなんて。俺は変わってしまったのか。()()が離れない。それのことか」


 数秒置いて、顔を上げたシャンガマックは、口に出してそう言った。その顔が、自分が見えなくなったような印象を浮かべ、ヨーマイテスは何やら、早急に手を打った方が良いと感じた。



 *****



 その頃、ドルドレンとフォラヴは、町の通りを馬車で進んでいるところ。


 バイラは駐在団員と仕事なので、町内会館に残った。昨日の魔物退治の報告書を出した、騎士の二人は、書類さえ終わればこの町ですること終了。


 フォラヴが『布を買いたい』と朝から話していたので、ドルドレンは付き合う(※犠牲ともいう)。


 二人なので、御者台に一緒に座り、フォラヴが『〇〇にあった店と、〇〇の辻の近くにあった店と』と指示するのを、ドルドレンは大人しく手綱を取って聞いてやる。


 町は色とりどり。この表現がとても似合う町で、人の数こそちらほらとは言え、ただ通過するだけでも見応えは充分。


 敷かれた石畳は、意味深な色をした切り石を並べてあるし、店の並ぶ通りは、ガラス越しに衣装や面、道具などの民族調の品が飾る。

 店と店の間、他の建物や、壁のある角などは、何年かけて描いたのかと、驚くような絵柄が、何色もの絵の具を細かく使って隙間なく描かれている。

 青空さえ、町の一部のように鮮やかに覆う様子は、ミレイオじゃなくても感動する。


 旅人を虜にするこの町は、魔物が来なければ、こんなに山奥でも人の往来が絶えなかったと、昨日ニーファに聞いた。それは本当だろう、とドルドレンは思う。


 フォラヴが目指すお店は、短い時間で通過した夕方に、ちらりと見かけた店。


 話を聞くだけでも『よく見付けたな』と思うほど、ひっそり佇むこじんまりした店で、玄人好みの匂いがプンプンする(?)そこは、町の入り口から奥まった路地を、一本抜けた場所らしかった。



「店を探して動いているが。さっきから。お前が好きそうな店屋は()()()ある気がする」


「はい。美しいですね。でも総長。その・・・今通り過ぎるお店。よくご覧ください。品数。少なそうでしょう?あちら側のお店も飾ってはありますけれど、色が。ちょっと偏っているように見えませんか?」


「そうなの(※意識したことない)」


「布ですから、色褪せもするし、扱う店主の好みも影響します。民族衣装を置く店は、衣装しかないことも。

 反物で販売している店は、布そのものを大切にしている場合が多いので、良い状態・良い品が自然と増え、こちらもじっくり選べます」


「じっくり選ぶのか(※時間気になる)」


「だって。大切なお金です。そして買ったら、ずっと使うものです。それは丁寧に選ばなければ」


「丁寧に(※長い予告を受けた気持ち)」


「作られた方々の気持ちも買うのですよ。そう、お考えになったことはない?」


 ないかも、と答えるドルドレンに、妖精の騎士はニッコリ笑って『教えて差し上げます』と、布選びの基準を学ばせる心意気を見せた。

 ドルドレンはすぐ。きちんと、遠回しに断った(※『俺は馬車で待っている』って)。


 少し寂しそうな妖精の騎士は(※即答で拒否受けた)小さな溜息をついてから、話を変える。



「先ほどの連絡は?あの珠はシャンガマック」


「うむ。シャンガマックだ。正確にはお父さんだ。8秒足らずで切られた」


 ハハハと笑うフォラヴに、ドルドレンも笑って『いつもだ』と教える。フォラヴは『それで?』と短い連絡の内容を訊ね、ドルドレンは首を傾げる。


「いや。出かけるとか、話していたな。夜に戻るから呼ぶな、とか何とか」


「そうでしたか。もしかすると、()()()()良いのかも知れませんね」


「うん?どういう意味だ?」


「ちょっと思っただけ。シャンガマックが、やや、情緒不安定に見えて」


 部下が何かを感じているらしいので、ドルドレンは店に着くまでの間に、少し思うことを伝えてほしいとお願いする。フォラヴは馬車に揺られながら、空色の瞳を総長に向け、ちょっと考えてから話した。


「私が朝。彼を止めました。あんなことはしたくありませんでしたが」


「分かっている。お前、言わないだけで強いのだ」


「そんなこと話していませんよ。私のことはさておき。彼の話」


 コロコロと笑うフォラヴは、総長に褒められたのをサラリと流し、友達の変化について、過去と比べた様子を教える。

 それは、ドルドレンの『上司』としての目線ではなく、友達の視線。ドルドレン相手には聞けない言葉を、シャンガマックはフォラヴ(友達)に伝えていた様子。



「フォラヴには、そう話していたか」


「シャンガマックとは、演習の話と、服の話くらいしかしません(※事実)。でも彼は、服に関心が薄いので、8割方、業務の話です(※相手には『ほぼ8割、服の話』と思われている)。


 さほど、仕事に疲れた様子はありませんけれど、ずっと支部にいると『家族を思う』や『兄の子供が』と、彼の部族の話が増えました。だからシャンガマックは、よく恋しく感じているのかも、と思いました」


「ふぅん・・・そうか。彼の言う『家族』の意味を知ったのは、随分前だ。

 彼が『家族』と呼ぶ場合、言ってみれば()()()()()()が、彼の家族なのだ。馬車の家族と状態が似ているから、気持ちはよく分かる」


「でも『馬車の民』は、もう少し団体的な感覚でしょう?シャンガマックは本当に全員、血の繋がり状態です」


 だから、総長よりももっと、家族への思いが()()かもとフォラヴは言う。この『強烈』は別に褒めていないな、と分かる言い方なので、ドルドレンは頷くのみ。


「シャンガマックは、休みや夜、部屋にこもって魔法の何たらとか、薬作りをしていた。夜は星空を見て、何か書いていたりとかな。

 あれはあれで、楽しそうだったし、特に故郷に帰りたがっているようには見えなかった」


「それは彼の好きなことですもの。でもそれも『理解し合える友達が欲しい』と・・・たまに私に言いました。

 シャンガマックくらいの知識になると、会話について来れる騎士はいませんし、彼が『誰かと共有したい』と望んでいるのは知っても、私もとても無理です。

 故郷には、彼よりも薬草や精霊の魔法に長けた古老がいる、と話してくれたこともあります。今、もしかするとホーミットが」


 フォラヴはそこまで話すと、自分を見て頷く総長の頬に、さっと手を添えて、総長が驚くのも束の間、くいっと総長の顔を前に向け『そこのお店!』と教えた。


 ああ、と放心状態で了解したドルドレンは、馬車を路地に通し、玄人好み系の店が並ぶ、細い通りに出ると、意気揚々と部下が下りるのを見送った。


 店へ入ったフォラヴが、店屋さんのおばさんに話しかけるのを眺めながら、ドルドレンは考える。



 ――シャンガマックは今。お父さんとしてホーミットを迎え、疑似部族の心境なのかも知れない。


 強い家族愛を持っている男だから、仲間を守る時も前に出て勇敢に戦う、そんな熱い勢いの源泉は、そこだと捉えていた。

 彼にとって、支部の仲間は家族同様に見ていた・・・と思っていた。でも少し違ったのか。


 それを今、ゆっくりなぞるドルドレン。


 旅に出てから。最初の数ヶ月で、旅の仲間の人数が支部に比べて縮小し、仲も密度が高まるような、四六時中、共に過ごす状況で。

 彼は、馴染んでいただろうか?思い出せば、彼は淡々と一人だったような。支部の延長で、人数が少なくなっただけ・・・・・?


 彼を理解する話。彼の好きな話。


 ハッとするドルドレンは、一つ思いだす。

 自分の体が動かなくなった時、側で面倒を見てくれたシャンガマックが、俺に話してくれたこと。



『あなたは興味がないかもしれないけれど。村の手前で、遺跡を見ました・・・(※852話中半参照)』



 あなたは興味がないかも知れないけれど―― シャンガマックは、自分が見つけて嬉しかったことを話していた。眠り続ける俺に、一日の報告として。


 これを皮切りに、ドルドレンはあれこれもと繋がる。彼はいつでも、誰かと自分の興味のあることを共有したがっていた。


 話題に『遺跡』だけ拾ってみれば、タンクラッドやミレイオは良い相手だが、彼らは()()()()()仲が良いから、年の離れたシャンガマックは入って行けなかった。


「イーアンも遺跡は好きだが。俺と一緒だからな。話しかけにくいだろうし(※だって旦那なんだもの)」


 イーアンは仕方ないにしても、と頷くドルドレン。

 館長が調査に出た時も、魔物退治そっちのけで楽しんでいた。単に、自分の好きなことが、世界の謎解きに役立つからと・・・そうしたことだと、ドルドレンは感じていた。


「でも。違うのだ。彼は、好きなことを覚えた環境、()()()()を感じていたのだ」


 彼の故郷を、感覚を通して、好きな趣味を通して、感じ続けて。ホーミットがそれをある時、ひょんなことから導いた。



 ドルドレンはここで、大きく息を吐き出して、御者台の背に寄りかかり、両手で髪をかき上げた。


「そうだったのだ。恐らく、そうである。シャンガマックは、今。

 ホーミットという、完全に信頼を寄せる、第二の父親の存在によって。彼のずっと、焦がれていた郷愁を、現在に引っ張り込んだのだ。そして、その中にいる」

お読み頂き有難うございます。


事情が少々複雑に混みあいまして、情けなくも打破できませんで、この滞り。

Ichen、ご報告なしにお休みをするなど、まして連日などありませんでしたため、いらして下さいます皆様に、大変申し訳なく思います。

少々、オツムの都合で(※大マジ)余儀なく身動き取れませんでしたが、今後、このようなことが起こらないため、お知らせを徹底しようと思います!


私がエタりそうと思われた方、大丈夫ですっ!

エタる時は、ご報告します!例え他人の口からでも~(※最後は他力本願)

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