表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1390/2965

1390. 町の手前で ~赤ちゃん視点・心知らず・面の力

 

 ()()()付きで上がって来た地上。ヨーマイテスは影を伝って、()()()を口に(くわ)えたまま、馬車のある側まで移動。


 ミレイオは、デカイ獅子に胴体を(くわ)えられてぶら下がっている状態だが、腕には赤ん坊を抱え、コルステインたちに危機一髪、消されかけたショックで(※本当にとばっちり)珍しく大人しかった。


 シュンディーンもボーっとしている。シュンディーンとしては、ヨーマイテスがいる分には安心なので(?)獅子の口内にいようが何だろうが、気にならない(※場所は気にした方が)。



 ここで少々、解説。赤ちゃん目線――


 この数日、ニコニコしているの(←シャンガマック)が来なかったので、赤ん坊は、いつヨーマイテスの側に行けるのかと思っていた(※思うだけ)。


 今日。シュンディーンは、昼頃に戻ったミレイオを見て、ミレイオがヨーマイテスの近くにいたと気がつく。ヨーマイテスの気配が、ミレイオから伝わることで、気になった。


 ミレイオがタンクラッドと会話を終え、立ち上がったので、ヨーマイテスのところに行くと勘づいた赤ん坊は、『自分も連れて行ってくれ!』と腕を伸ばしてアピール。


 アピールのお陰様で連れて行かれ、地下へ入ってヨーマイテスの気配の近くへ移動。ミレイオに抱っこされたまま、ヨーマイテスは近いとだけ分かっていたシュンディーンは、近いから安心していたところ。


 いきなりミレイオの頭の近くで、ヨーマイテスの気配が大きくなったので(※これがミレイオの耳に衝撃の場面)ビックリする。

 どこにいるのか見えなくても、ヨーマイテスが近く感じ、赤ちゃんは『なぜなのか』とミレイオを見つめ、ミレイオは赤ちゃんに謝って顔を撫でた。


 この時、ミレイオの手から落ちかけた輪がシュンディーンの爪に嵌る。シュンディーンはそれに気がつかなかったが、ミレイオは爪をいじろうとするので、嫌がった。


 すると、爪を通してヨーマイテスが『出せ』と叫び、赤ちゃんには『ヨーマイテスが()()()』ことが伝わる。


 赤ちゃんは、ミレイオの力の発動時と同じように、ヨーマイテスの膨らむ気配に、いつもは抑えている力を解放。どこにヨーマイテスがいるのかを知らなくても、近くにいるヨーマイテスが動いたのは、赤ちゃんの反応条件だった。


 勿論、赤ちゃんなので。何がどうなるのかなんて、考えもしない。


 そのため、コルステインたちの膨大な気が、爆発的な勢いで現れた時、赤ちゃんは驚いた(←仕掛け人)。だが助かったことに、すぐさまヨーマイテスが現れ、赤ちゃんはミレイオ共々、救出された次第(?)――



 こんなシュンディーンの救出劇(※どっちが救出なのか)で、戻ってきたヨーマイテス。影伝いで、馬車から離れた木々の後ろに出ると、ミレイオを口から落とす。


 どさっと落とされたミレイオが睨み『礼くらい言え』と呟くが、ヨーマイテスは意外なくらい大人しかったミレイオに、ちょっと眉を上げて(※獅子だから分かりにくい)『それだけか』と返した。


「礼はお前じゃないな。シュンディーン、よくやった」


「んん」


 ミレイオの片腕にいる赤ん坊は、さっと動いて獅子の側へ行こうとしたが、それより早く、獅子は一方に顔を向けて、再び影に走り出した。


「ちょっと!どこ行くのよ」


 動きに驚いたミレイオが叫んだ声の最後と被る、ヨーマイテスの返事『魔物だ』の一声は、もう影の中。


 慌てて立ち上がったミレイオは『今、()()って言った?』と、ハイハイして逃げ出そうとする赤ちゃんを捕まえ、急いで獅子の走った方を振り向く。


「うっ。本当だわ!やだ、結構いるの?」


 どこから出て来るのか、唐突に増えた魔物の邪気に、ミレイオも焦ってお皿ちゃんを出して飛び乗る。

 まずは赤ん坊を馬車に置いてこなければ、と馬車に体を向けた時、頭上を真っ白い光の塊がすっ飛んで行った。


「イーアン!」


 ミレイオの声は聞こえない。白い塊は流れ星のように飛び去り、向こうで何か鈍い音がしたと思いきや、今度はデカい獅子が飛ばされてきた。


「ぐわ!何?!」


 木々の合間をうまい具合に擦り抜けたのか、獅子は、勢いで飛ばされた体をねじって着地。が、失敗(※恥ずかしい)。ざざーッと滑って、木漏れ日を体にちりばめながら、大慌てで広い影に駆け込む獅子。


「ちきしょう!あの()()っ」


 体を起こして、罵る獅子の声が悔しそう。影に入ったヨーマイテスは、ハッとして自分を見ている離れた場所のミレイオと目が合い、『あいつが』と言いかけて黙った(※恥の上塗りは避ける)。



 何が何だか分からないミレイオ。イーアンが出て来たのは、まぁ。でも親父が、直後に吹っ飛ばされたのは、何やらイーアンが?


 赤ちゃんは、ヨーマイテスが戻ったので、一生懸命、ミレイオの腕を逃れようともがく。

 それを押さえ込んで(※赤ちゃんイヤイヤしてる)ミレイオは眉を寄せたまま、腹立たし気に口を歪ませる獅子の顔と、龍気がボンボン増えている方向を交互に見て『何?』と呟く。


 悩むミレイオ。とりあえず、親父は影から出ないし、赤ちゃんは逃げたがっているし。イーアンはどうも、向こうで魔物退治。


「まぁ。いいか(※ってことにしておく)。私も疲れたし。イーアンが出てくれたなら、先に馬車に戻」


 言いかけて、馬車に顔を向けたら。馬車は停止していて、誰かが凄い勢いで走って来る。次から次に・・・と驚くミレイオの目は、それが誰だかすぐに分かった。


「ヨーマイテス!!」


「あら。名前叫んじゃってるわよ」


 物凄い、足が速い。馬車から結構、距離があったと思うのに、ものの十秒くらいでシャンガマックが突っ込んできて、ミレイオの前を素通りし(※気がついてない)影にいる獅子目掛けて飛びつく。


 獅子も、一番会いたかった相手が、自分の名を呼んで走って来たものだから、ガオガオ言って(?)飛びつかれたまま、後ろに倒れた(※飼育員さんと獅子)。


 ミレイオと赤ちゃん、凝視。

 現役の騎士の足の速さに感心し(※そこじゃない)ちょっとサムイ感じの、目の前の愛情光景に、数秒、固まってから、ミレイオは何も言わず、赤ちゃん片手に馬車へ先に戻った(※お疲れミレイオ)。



 ギューッと抱き合う、獅子と騎士。シャンガマックは涙を流して喜ぶ。


「どうしたかと!俺を呼んでくれたから、すぐに来た」


「指輪があるのを忘れていた。お前に会え」


「良いんだよ!良いんだ、無事で良かった!もう、絶対離れないから」


「そうだ!とんでもない奴らめっ(※思い出した)バニザットに連絡一つさせなかった!」


 ハッとしたシャンガマックは、抱き締めていた獅子の首から顔を離して、獅子を見る。


「どうした?誰かに捕まっていたのか?俺はコルステインに()()()んだよ。でも今、ここにいるのは」


「お前がコルステインに?何が何だか・・・今、ここにいるのは(※ここでまたハッとする)これは、女龍が俺をぶん投げたからだ(怒)!」


「イーアンが?」


 獅子は喜びのあまり、忘れていた『女龍に吹っ飛ばされた』先ほどのことを話す。驚くシャンガマックは、獅子の後頭部や背中を撫で回して『どこか怪我は?』と焦って心配する。

 大きな手足と腹部と尻尾も満遍なく調べながら、しきりに父の打撲を(※ダメージゼロ肉体なんだけど)哀れむ。


「何でだろう?イーアンが、ヨーマイテスにそんなことをするなんて」


 魔物が出たから、先に倒しておこうと思ったことも話す獅子に、シャンガマックの表情が険しくなった。


「ひどい。イーアンに理由があるとしても。魔物を倒そうとするヨーマイテスに気づいていたはずだ。何か急いでいても、話せば済むのに」


「話すどころじゃないな。俺を見るなり、間髪入れずに尻尾でぶっ叩きやがって!あの龍気の大きさで、もう少し長く触られたら、()()()()()()


()()()・・・・・! 彼女は知っているはずなのに」


 なぜイーアンが、そんな酷いことをしたのか。シャンガマックは想像出来ない。


 分かるのは、今、父が話している事実と、イーアンもまた、彼が弱っていたことを知っている、その事実。理由が何であれ、乱暴にも遠慮がないことに、シャンガマックの苛立ちは募る。


 怒りが昂って息が荒くなりかけるが、とにかく今は、父を連れ帰ることだけを考えて『スフレトゥリ・クラトリを連れて来る』と言うと、父を影に待たせ、仔牛を取りに行った。



 *****



 怒りを胸に仕舞って、大切な父をスフレトゥリ・クラトリに乗せたシャンガマックが、イーアンへの言葉を考えながらも、仔牛の中で、父にあれこれと話を聞いている時。



 イーアンは魔物の親玉を退治して、最初の地点へ戻って来た。小道の脇には民家の馬車が3台寄せられて、戻ってくる白い龍の女に手を振っている。


「数が多かったけれど。集中的で一掃出来たから、早かった」


 散らばらずに出て来た魔物の群れを、一気に片付けたイーアンも一安心。手を振ってくれる人々の元へ降りて、無事を確認。


「どこか怪我はしていませんか。何か困っていませんか」


「いいえ!有難うございます!龍の女が助けに来るなんて、感動しました」


 感動は良いから、とイーアンは笑顔(※業務的)。とりあえず、皆さん無事なので、間に合って良かったと伝えた。


「どこまで行きますか?魔物はまた出るかも知れません」


「この先に、無人の休憩所があります。そこで、下の村に向かう商隊と、今日の夕方で待ち合わせを頼んでいますから、商隊の護衛もいるし大丈夫です」


 心配は消えない返事の内容。彼らは、イーアンたちが向かう町から出たばかり。これから、近隣の村を経由して、違う町へ『戻る』と言う。


「今みたいな数が出ると大変ですよ。どうしよう、お守りを渡そうか」


「助けてもらっておいて、言うのも恥ずかしいかな・・・でも、少しはどうにかなります。

 龍の女の強さに、これを紹介するのは恐縮ですけれど、私たちには()()()が。味方であり、武器でも防具でもありまして」


 3台の馬車には、それぞれ日用品以外の商売道具や工具も積んでいるようで、一人が馬車の荷台から、仮面を出して見せる。イーアンがこれを見るのは初めて。自分が集めた仮面と似ていて、ちょっと構えた。


 見せてくれた人は面師の一人で、『このお面があると、お面に宿った力を借りるようなことが出来ます』と言う。


 不思議そうな女龍の顔にちょっと笑って、他の人が面を付けた動きをその場で見せてくれた。突然人が変わったような、人間離れした動きに、イーアンびっくり。


「わ!すごいです。そんなに違いますか」


「そうです。誰でも使えるものじゃありません。私達は作り手だからかも知れない。だから・・・魔物と戦うことは怖くても、逃げることは。人間の体力よりも優れているので」


 へぇ~・・・イーアン、目を丸くして拍手。龍の女が庶民的で、皆さんは笑ってお礼を言う。


「町にはまだ、面師がいます。あなたが行ったら喜びます。どうぞ町に行ってみて下さい」


 イーアンも了解して、彼らの無事を祈り、尻尾の鱗を3枚ほど取ると、皆さんに渡す。彼らはとても喜んでくれて『家宝にする』と言ってくれたが、そうじゃなくて魔物避けに持ち歩いて、とお願いした。


「効かなかったらごめんなさい。効果のほどは知らないのですが、私、一応、龍だから(※控えめ)。もしかしたら、そんなウロコでも魔物避けになるかも知れないし」


 謙虚で遠慮がちな龍の女に、彼らは笑顔で『大事にします、有難う』と挨拶し、イーアンと皆さんはお別れした。



 彼らの馬車が見えなくなるまで見送って、夕方の日差しを受けて小道に立つイーアンは、大きく吸った息を吐く。


「もうそろそろ、日暮れ。夜が来れば、コルステインも来ます。どうにか、()()()かな」


 尻尾で引っ叩いたのは悪かったけれど、と苦笑いして、あの獅子なら頑丈だし平気だろう(※でもない)とイーアンは思い直す。


 イーアンが大急ぎで守ったのは、馬車で移動する民間人の前に、ホーミットだった。


 民間人がいるのに気がついたのは、その後。現場に来てから、すぐに見つけた。だがその前に、魔物の気配を感じて急いで飛んだ理由は――


『シャンガマックのお父さんを、止めて』


 支部にいるロゼールから連絡を受けたから。ロゼールはコルステインから伝えられ、驚いたロゼールがギアッチに頼んで、ザッカリアの連絡珠で総長に呼びかけ、総長からイーアンへ。


「療養中に逃げ出した・・・ってことですよね。何してんだか(※女龍、獅子を理解せず)」


 逃げ出したとは理解したものの、どこにどう出て来るのか、何時に出るのか(?)も分からない獅子に、目安も付けられないため、イーアンは危なっかしそうな状況にだけは、自分が先に対処しようと決めた。


 伴侶に『魔物をホーミットが倒しに出ると、マズいようだから』と言われ、もしもそんなことがあれば自分が行く、とイーアンは答えたばかりの時。



「本当に魔物出ました。重なるものですよ・・・・・ 」


 間に合って良かったけどね、と言いながら。女龍は翼を出して、待っていてくれる馬車へひょろろ~と飛んで戻って行った。仔牛の前で、仁王立ちで空を睨みつける騎士がいるとは思わず。

お読み頂き有難うございます。

ブックマークと評価を頂きました!有難うございます!

お礼に絵を描きました。1205話に登場した、精霊クスドです。



挿絵(By みてみん)



クスドは鍾乳洞に棲んでいて、ドルドレンに次の精霊を教えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ