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魔物資源活用機構  作者: Ichen
護り~鎧・仲間・王・龍
139/2943

139. 兄弟のすれ違い

 

 ハイルの部屋に、兄・ベルが来ていた。二人で酒を飲んでいる状態は、普段だと男女の付き合いに見えるところが、ハイルに化粧と胸さえなければ男同士。



 ベルは、弟はどうやったって男、としか思えないので、女装して女の態度でいても『男』。

 ただ単に、物好きで、やりたい放題の弟である。もう年齢も、お互いにいい歳になってしまったというのに、どちらも特定の相手さえいない。


 旅の一族だったから、行きずりは普通。ベルも誰かに執着したことはない。弟はもっとない。



「なのにね」


「何が」



 急に言われても答えようない・・・バカにした目で兄を見るハイル。ハイルは、兄の沈黙も、『なのにね』の一言も見当は付いている。



「早速会いに行っちゃったよ」


 うるせえ、とハイルが酒を注いで呷る。仲は良い二人だから、言葉遣いは荒くても、酒を飲むのも落ち込むのも喜ぶのも一緒だった。何でも喋れて、何でも困ったら押し付けて(一方的に弟が)、何でも解決してきた(主に兄が)。



「良かったな。直に言われたんだろ。そのまんまでって」


「うん・・・・・ そうだな。でも」


「まだ何かあんのか。望み過ぎると消えるもんだ。自分で消しちまう」


「愛って何なんだろうな」


「へえ?!」



 お兄ちゃんビックリし過ぎて、間抜けな反応で返す。

 つい酒の容器を持ってる事を忘れて、自分の頭を押さえようとして、ざっぷり酒を被る。飛沫を避けたハイルが顔をしかめて『何やってんだ』と奇行を咎めた。


「おま、お前が『愛』とか。とんでもないこと言うから」


 酒を髪から振り払って、咳き込みながら、ベルはびしょ濡れの酒臭いベストを脱いだ。


「とんでもなかねえよ。そういう言葉あんだろ。臭っせえなぁ」


 兄のぐしょぐしょ加減に、嫌そうに雑巾を投げるハイル。『も一回風呂入れよ』と椅子の背もたれに片腕を引っ掛けて、兄を見ながら酒を飲む。



「ハイル。お前はそんなに彼女にやられたのか」


「やられた、とか変な言い方すんな。ベルが思ってるような感じじゃねーの。愛情って、ああいうのなのかな、って思っただけだ」


「愛情。それって理解してもらった、ってやつ」


「理解してもらうってのは、別によくあることじゃん。女装平気なやつも多いし。そういうんじゃなくてさ。なんつーの。中身っから丸ごと的な、上手く言えねぇ。

 ・・・女装でもいいよ~とか男のカッコもいいよ~、とか上っ面拾ってる感じじゃないやつだよ。


 俺の行動ってかな。そういうことする根本(こんぽん)があって、それがあなただよって言われてんの、それ愛でしょ」


「んー。分かる気もする」


「分かれ。愛情だよ、愛情。理解とかじゃないの、始めっから愛情なんだよね」


「んー。多分それも分かる気がする」


「分かれよ」


 とりあえずベルは酒臭いまま、座り直して酒を新たに注いだ。多分大丈夫かな、と弟を見る。弟は直にイーアンに諭されて、それをどうにか分かったんだ。初めて聞く言葉だっただろうから、結構噛み砕くのは時間かけたのかも、と思う。真面目な女性が相手ってのは、自分たちには珍しいから。



「じゃ、あれか。お前、友達。ちゃんと出来たってことか」


「ん? ともだち」


「何で今、棒読みした。友達だろ、イーアン。良かったじゃんか」


「え。違うよ」



 ・・・・・なぜ? なんで違うの?友達でしょ。


 瞬き回数が増えるベルを、冷めた目で見るハイル。その目が冷め切っている。時々(しょっちゅう)ベルが自覚する、『お前バカでしょ』と言いたげな目つき。何だその目は。



「何でイーアンが友達なの。好きな人じゃん」


「なんでえ?!」



 椅子を倒して、腰を浮かして驚くベル。なんでそうなる。どうしてそうなった。


「だって、俺のこと好きだって言ったもん」


「バカ。違うって。それはお前の自由さが良いねって言ってんの。わかんないの?愛情は恋愛と違うんだよ」


「ベルは分かってない」


「いーーーーーーーーーーや、分かってる。お前より全然分かってる。お前より社会も知ってれば、お前のケツを拭き続けたせいで現実もよく知ってる」


「ベルは分かってない。俺は感じた」


「お前が感じたって、大抵一方的なんだよ。お前がいい加減に分かれ。

 イーアンはドルの女だ。そんだけ真面目にお前に言ってくれるのに、なんでハイルは彼女の気持ちを自分勝手に受け取れるんだ」


 自分よがりにすんじゃない、とベルは注意した。


 ハイルの不機嫌さは絶頂。憎々しげに兄を睨みつけ、『うるせぇんだよ』と毒づく。酒を呷ってから、もう一杯注いで、それも飲み干した。


「いいじゃねぇか。彼女は俺でも良いんだ。俺がどんなでも、自分を疑うなって言った。自由な俺が好きだって」


「ハイル! 違う。自分の気持ちの置き所を探すのは分かるが、それを人に押し付けるな」



 ハイルは立ち上がって、兄を見下し『もういい。放っておいてくれ』と扉を指差した。

 こうなると会話がなくなると分かっているベルは、弟を睨み返して溜息を嫌味につき、『やめておけ』と一言残して部屋を出て行った。



 自室に戻るベルの心境は。


 とりあえずもう一度風呂に入ろう・・・だった。自室に着替えを取りに行き、遅い時間に風呂場へ行った。弟の面倒な自己満足に呆れながら。



お読み頂き有難うございます。

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