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魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1388/2963

1388. ミレイオ地下と地上往復・家族十色

※3/8日まで、朝一度の投稿です。どうぞ宜しくお願い致します。

 

 「スゴく・・・煩い」


 うんざりするミレイオは、墓標のある場所で待ちくたびれる。自分の耳に付けている、金の輪を外したくなるが、これも仕方ないと、疲れる声でぼやいた。



()()()が『沈黙の石』とはね。話は知ってたけど、私も関心がないことは気にしないからな。

 バカって言うか。皮肉って言うか。自分の仰々しい墓がある場所に、閉じ込められちゃうなんて。何だろうねぇ」


 呆れた顔で笑うミレイオは、『親父の考えていることが全然わからない』と呟く。

 でも、今、足の下で叫び散らしているのは聞こえる。以前、この墓に置かれて用意されていた『金の輪(※688話参照)』のために、全部聞こえる。親父には、ミレイオの考えていることは伝わっていない様子だが。



 今日は、夜明け前から忙しかった――


 シュンディーンと一緒に眠っている真夜中に、急に耳に金切り音が響き、うわッと驚いて目覚めた。


 赤ちゃんは起きなかったが、その後立て続けに『出せ!ちくしょう』と親父の怒鳴る声が聞こえ、ビックリした。

 そのすぐ後に、今度はコルステインが呼びつけ、何かと思ってサブパメントゥの自宅の外に出ると、そこまで来ていたコルステインが『来る』と、一言。


 どうしたのか?と訊ねるミレイオを連れて、コルステインは大まかな状況を説明した後、親父の墓標が立つ場所へミレイオを下ろし『待つ。する。コルステイン。また。来る』と言うではないか。


 ちょっと待って、と引き留めて、あっさりいなくなろうとするコルステインに『赤ちゃんもいるし、いつもは明け方に地上へ行くのよ』と訴えると、コルステインは忘れていたようで、ふむふむ頷く(※気にしない)。


 コルステインはどうも()()があるらしくて、それが済むまでで良い、と言う。そして閉じ込めたけれど、出てこられると困るから(※都合)見張っていて・・・とか。


 ミレイオは事情は分かるにしても、とりあえず地上に一度行かせてくれと頼み、赤ちゃんを皆に預けることになり、それで一旦は馬車に戻った次第。で、また呼ばれて、ここにいるのが現状。



「これ・・・()()()()でも効き目ってあるのねぇ。さすがっちゃ、さすがだけど」


 見張っていて、と頼まれた、足元の土に差し込まれている、黒い羽根一枚。


 抜けることがまずない、コルステインの羽根がグサッと刺さり、土は微動だにしない。が、この下に親父が閉じ込められて、暴れようが何だろうが出られない状況とは。


「あの男が、暴れて出られないって。どれだけ、()()()()、強いのよ」


 呆れるように苦笑いするミレイオは、吹き荒ぶ風に飛ばされないよう、羽根を見張るだけ(※羽根だから飛ばされるには飛ばされる)。


 ミレイオはそれ以上、特に追求しないが、()()が強いのではなくて、()()()()が強い証明なので、これがあるかどうかで、場所が反応しているだけ。サブパメントゥ一番の気の持ち主が、ここを封じている・・・それが『場所』に受け入れられている()でもある。



「あ~・・・うるっさい。諦めて、出るまでジッとしてろっての」


 直に呼びかけられないと、聞こえないものだと思い込んでいたけれど。サブパメントゥで、ヨーマイテスが何かを訴えると、この耳に聞こえるらしいことに、()()、気がついたミレイオは、げんなり疲れる。


「『バニザット、バニザット』。世界にそれしかないみたいに、よく喚くわ・・・そうね、()()()()()()()()だものね。私が出る方が早いだろうから、そしたら伝えてやるわよ」


 自分も()()だけれど。こんな風に心配されたことはないな、と思うミレイオ。可笑しくて、ちょっと笑った。


「これも、何かの巡り合わせなのよね。やれやれ、面倒な関係だわ」


 ハハッと笑ったミレイオは、自分が親を慕う気持ちがないことを、改めて感じた。その代わり、自分はどうしても会いたかったり、どうしても行きたい場所があったことも。


 それがミレイオの『空』であり『光』だった。


 待ちぼうけの時間に、目の前に立つ親父の墓石を眺める。そこに彫られた絵柄は自分の体の絵と同じ――


「これが全部の()()なのかな。それとも、全部の()()なのか」



 何でもいいけどさと、呟いて。

 近くに寄って来た青い霧を見つけたミレイオは、ふわふわと余裕気に近づく霧に『早く~!』と、くさくさしながら叫んだ。



 *****



 そうして上がってきたミレイオ。まだ()()()()顔は終わっておらず、どうにか馬車が野営していた地点に戻って、お皿ちゃんに乗ってから道を下る。


「ああ~、思った通りだわ。もう昼近いんじゃないの?」


 嫌んなっちゃう、とこぼし、片手に持った包みを落とさないよう、馬車の後を追う。道は一本だから、馬車に追いつくまでそう掛からなかったが、昼食の場所を探しているところだった。


「イーアンいるのかな。いなかったら食事、作って行ってあげた方が良いわよね・・・どうしよう。すぐ戻らないとダメなんだけど」


 食事これからか、と呟いたミレイオは、とりあえずあまり事情は言えないので、ゆっくりと周囲を見ながら動いている馬車へ入る。

 馬車二台の後ろを歩く、小さな仔牛にちらと目をやったが、躊躇うものの、一先ず通り過ぎた。



「ミレイオ。おお、良かった」


 寝台馬車の御者台にいるタンクラッドが、横に来たミレイオに挨拶。ミレイオもちょっと笑って挨拶を返すと、そのままタンクラッドの横に座る。


「お前に」


「ちょっと待って、私()()。先に話す。これまずね、次の町行ったら、これニーファって面師に渡して」


 ミレイオはタンクラッドを遮って、持っていた包みを御者台の足元に置く。剣職人の鳶色の瞳と目が合い『お面』と短く言うと、彼は『ああ、見せるって言ってたな』と了解する。


「見せるだけだろ?」


「そう。彼が何て言うか分からないけれど、ちょっとこれ自体()()()じゃないの。ニーファの話したお面の原型なら、そうした人たちに渡しても・・・とは思ったんだけど。別に私のものじゃないしさ。

 一応、年代鑑定ってことで、見てもらったら引き取った方が、ニーファに渡して迷惑かかっても嫌でしょ?」


 そうだな、と頷く親方は、面の件については引き受け、まだ話はあるのかと促す。ミレイオは首を回して『あるのよ』と面倒そう。


「お昼、時間ないから・・・あの子は?イーアンいるの?空じゃないなら、イーアンに作ってもらって」


「いる。御者台()だ。赤ん坊が荷台にいるから、俺と一緒でもないと側にいられない」


 じゃ、イーアンにお願いしておいてとミレイオは話し、それから『ドルドレンたちに会わないで、地下にまた行く』ことも伝える。親方は何も言わず、首を少し傾げた。


「もう一回行って・・・それで終わりだと思うんだ。終わったらすぐ戻るわ。町には泊まるわよね?」


「ドルドレンはそのつもりだな。風呂もあるから」


「うん、じゃ。移動中に戻れなかったら、町であんたたち探す。やってる宿は2軒なんだって。だからどっちかで」


「分かった。俺の話も聞けるか?時間は3分」


「言って頂戴」


「ホーミットの容態を知ることは出来るか?俺じゃないぞ、これを言うのは。バニザットでもない。彼は願っているが、言い出したのはドルドレンだ。

 (ついで)に言っておく。俺もイーアンも止めた(※責任回避予防線)。

 これが最善だ。『サブパメントゥに行けないか』とまで言っていたが。そこまでするなと、止めてから、もしお前が戻ったら聞いてみると」


 話した途端、ミレイオの目が据わったので、親方は突っ走るように一気に最後まで伝え、じろっと見たミレイオに頷いた(?)。


()()()元気よ・・・元気じゃないのかも知れないけど。でも吼えてるから、そんな心配ないわよ。ただ、ちょっと他の絡みが合って、戻れないだけ」


「本当か?それなら、まあ・・・そうか。なら良いだろう。異様に気に掛けるからな、ドルドレンが」


 ミレイオは面倒臭さ絶頂の溜息を落とし、『一応言うけど、()でもないからね。絡みの理由は』私は()()()()()・・・げんなりした言い方をするミレイオに、親方は詳しく聞かずにおく。


「分かってる。お前がそんなことするわけない」


「有難う。当たり前よ。ホーミットは多分、今日中には戻ると思うわよ。曖昧なこと言えないから、これはあんただけで留めておいて。サブパメントゥは時間の流れが違うからさ」


「分かった。もう行くのか?」


 行く、と立ち上がったミレイオ。荷台の赤ちゃんと目が合って、ニコッと微笑むと『あんたも来る?』と冗談交じりに呟いた。

 赤ちゃんは距離もあって、呟きなんて聞こえないはずだし、言葉も分からないが――


 さっと両腕を伸ばした。


「え」


「お?」


 親方とミレイオは顔を見合わせ、また赤ちゃんを見る。赤ちゃんは短い腕をギューッと突き出して『んん』と抱っこをせがむ。


「連れて行けって、言ってるんじゃないか?」


「んな、まさか。あんたじゃないの?」


「俺見てないぞ、あれ。お前だ。ミレイオ」


 放っておくと、ベッドから落ちそうなくらい身を乗り出しているので、ミレイオは躊躇いつつも『そうなの?行くの?』と言いながら、側へ行って抱っこしてやる。赤ちゃんしがみ付く(※戻されたくない)。


「本当に行きたそう。まぁ、良いか。サブパメントゥだし」


「良いだろう。シュンディーンがそうしたいみたいだからな」



 ということで。ミレイオは赤ちゃん付きで、サブパメントゥに戻って行った。親方は『気を付けろよ』と挨拶し、この数分後に昼休憩の場所に入った後、ミレイオの伝言で()()()()()を伝えた。


 ドルドレンは『呼んでくれ』『ミレイオに聞きたかった』と困っていたが、タンクラッドは『時間が足りなくてな』の一点張りで通した。


 イーアンは元気がなかった。彼女が料理中に、タンクラッドは側へ行ってミレイオの話を教え、その後、彼女の話を聞けば。

 午前中、御者台で延々と()()()()()()聞かされていたらしかった。


 タンクラッドもそうだが、イーアンも早くに独り立ちしているので、『伴侶の家族の考え方を聞き続けるのは難しい(※気持ちは分かるけど無縁)』とぼやいていた。


『私、家族に良い思い出ありませんもの』本音を吐露する姿に、親方としては同情するのみ。


 家族仲が良い環境は、世間一般的に『良い』に決まっているのは、理解するにしても。

 不運にも、そうした環境で過ごせなかった人間もいるわけで、そうした相手に『愛情に包まれた家族愛』を聞かせる場合、相手の反応をよく観察する必要はあるだろうに・・・と親方は思う。


 イーアンは(まさ)にその状態を食らっており、最初こそ『そうですね。そうですね』と、聞き上手の老婆のように相槌を打ち続けて、ドルドレンの語る『どれほど家族の愛情が大切か』を聞いていたそうだが、本人曰く『徐々に蝕まれるような』痛みに精神が苛まれた様子。


「そりゃな。知りもしない愛情のことで『そう思うだろう?』と繰り返されてもな。知らないんだし」


「はい。皆無。別に、仲の良い素敵な家族を羨んだりも、この年でしませんけれど。でも、言う相手(※この場合、私)は考えてほしかった」


 溜め息をついたイーアンは、調理を続けながら、呟きを落とすように話す。


 「ドルドレンの優しさや思い遣りの広さは、私も尊敬していますし、彼の大きな愛情と理解に救われてばかりなので、それを()()なんて考えません。

 シャンガマックが依存状態としても、その成り行きも分かるし、依存自体を否定や拒否をする気もないです。そこから発生する問題があれば、根本を確認して対処しようと、思うにしても。


 ただ、家族の背景から生じた、培われてこそ得られる愛情や温もり、大切さを、ずっと説かれるのは、私に経験もないことで、逆の育ちにある以上は、話に同意を求められ続けることに、苦しいものがあります。

 私は、愛され、安心し、信頼を持つ、守られた家族の出ではないから」



 イーアンは、お空の赤ちゃんsを世話する時。『可愛いから、問題なんかないんですけれど』と前置きして、でも最初は、毎日通うなんて思わなかったことも打ち明ける(※親方相談所)。


『本当は数日置きでも良いと思った』ことを話し、だけど、シャンガマックとドルドレンが『母親は必要』と説いて、結局は毎日通うことになった経緯を聞かせた。


「嫌じゃないんですよ。赤ちゃん、可愛いので。本当に。本当に別に」


「分かってる。分かってるから(※親方は理解する)。お前は優しいからな。受け入れているだけなんだ。でもお前の気持ちも尊重する必要、あったよな」


 お鍋で料理を作る女龍は、力なく頷く(※今更だけど話したかった)。親方はイーアンの角をナデナデ。

 相談も受けつつ、午前に気の毒な時間で憔悴した女龍を慰め、親方は苦笑いで『シュンディーンは預けたから、午後は荷台にいろ』と勧めた(※イーアン大きく頷く)。イーアンは話しを変え、ぽそっと呟く。



「ミレイオ。疲れていたのですね」


「うん?そう見えたな。話で、そう感じたか?」


「いいえ。私が見える位置にいなくても。あの方は()()()()()()はずだから」


 お、と声を漏らすタンクラッド。彼の気がついた顔に、頷くイーアン。『龍気』と添えてすぐ『この距離で気がつかないなんて』よほど疲れていると教えた。


「疲れで、龍気に気がつかないもんなのか?」


「さぁ・・・サブパメントゥの体質は、一口に言えませんから、断言ではないですが。ミレイオも特殊なようですし。でも、そう言っちゃったほうが分かりやすい」


 女龍の言葉に、まぁな、と納得する親方。二人でちょっと笑った後、仔牛を見る(※考えてることとタイミング同じ)。


「どうするのです。シャンガマックに伝えるのですか」


「何を」


「だから。最初に、私にお伝え頂いたこと」


 親方は、少し考えて、イーアンが差し出した味見を受け取って試食しつつ、『いや』と呟いた。腕組みし、もう一度考えてから、思うことを教える。



「どうするかな。『元気ならどうして戻らないのか』『確認したい』と言いそうだ」


「シャンガマックは、あの性格で問い詰めは」


「俺がバニザットに話している間。側に()()()()いると思わないか?」


 困ったように笑った親方は、仔牛に呼びかけているドルドレンを見て、イーアンに訊ねた。イーアンもゆっくり頷き『それもそうです』と答えたが、目は笑っていなかった。

お読み頂き有難うございます。

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