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魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1387/2965

1387. 予告連続実現の朝・サブパメントゥ『沈黙の石』

 

「シャンガマック。朝食ですよ」



 イーアンが仔牛の横から声をかけると、奥で何か答えてくれたようだが、聞き取りにくく、イーアンはもう一回『お食事を持ちましたよ』と仔牛に顔を寄せて、大きめの声で伝えた。

 

 すると、何やらまた返事がされた後、聞こえなくて『何ですって?』と顔を寄せた、イーアンの真ん前で仔牛の横っ腹が開き、女龍は軽く顔を打った(※女龍『うおっ』て言う)。



「あ!すまない」


 仰け反ったイーアンを見て焦ったシャンガマックに、イーアンは顎を擦りながら『大丈夫。私強いので』と、痛くはないことを先に伝える(※痛くないけどイヤ)。


「はい。これどうぞ。食べて」


「あの・・・いや。タンクラッドさんに食べてもらえるか?」


「あら、どうして。昨日の夜も半分しか食べませんでした」


「父が今。ちょっといなくて。俺もそう、腹が減らないというか」


 差し出された皿を受け取らずに俯いた騎士に、イーアンは黙る。これか、と思う。親方が心配していた変化。


「ダメですよ。どんな時でも食べないといけません」


「うん・・・分かるんだが。本当に、喉が詰まっているくらいに。食べる気も起きない」


()()()()()()()()()?」


 繰り返した女龍の、少し驚いたような口調に、シャンガマックはハッとして慌てて『違う、そうじゃない』と言い直す。


「そうじゃない。動いていないから、腹が減らないんだ」


「シャンガマック。あなた先ほど、お父さんがいないからお腹が減らない、と言いました」


「同じだ。動いていないし、父もいないし、特にその。今は本当に食べなくても良いんだ。タンクラッドさんはいつも腹が空いているし(※誤解)彼が食べても」


「タンクラッドは、朝一番で味見もしましたし、オーリンが来ないので、彼の分も食べています。脂身があったので、フォラヴにも脂身貰っていますから(←ひたすら食べる親方)」


「イーアン」


 シャンガマックに『食べなきゃダメだ』と、やんわり皿を押し出すイーアンの背後から、名前を呼ばれ、イーアンは目が据わる。

 親方予告第二段階。振り向いて、背の高い伴侶を見上げた。伴侶もじっと見下ろす。


「俺が話す」


「ドルドレン。私はまだ、シャンガマックと話しています」


「大丈夫である。聞いていた。途中からだが、彼はお父さんが心配で、食事も喉を通らない」


「それじゃ困るでしょう。ホーミットは強いです。きっとすぐに帰ってきますし、シャンガマックに食べさせたかどうか、気にしますよ」


「ホーミットの気持ちは分かるが・・・今は、目の前のシャンガマックの気持ちを察してやるべきではないか?彼は一ヵ月以上、ホーミットと寝食を共にしたのだ。

 俺はシャンガマックが、20代の若い頃から見ている。彼を知っているつもりだ。俺が話すから、君は戻りなさい」


「ドルドレン」


 そんな大袈裟じゃないでしょう、と言いたかったが、イーアンは伴侶の名を呼んで、黙った。『大袈裟じゃない』なんて言おうものなら、イーアンが気遣いが足りないように映るだけ・・・だろうなと感じた。


 困ったように見つめる伴侶の目を見上げながら、『お皿は置いておきます』と言い、イーアンが下がろうとすると、伴侶はイーアンの腕を取って『食事はタンクラッドに』と皿を渡した。


 ()()()()はあるけれど。溜め息をついたイーアンは、伴侶の渡す皿を引き取り、二人をちらと見てから下がった。

 ドルドレンは、イーアンが馬車の荷台へ入った後、シャンガマックと話し込んでいた。



「タンクラッド、これどうぞ」


「機嫌が悪いな。有難う(※幾らでも入る)」


 荷台に座るイーアンは、斜め後ろにいる仔牛とドルドレンに顔を向けて『()()()数時間ですよ』とぼやいた。タンクラッドも食べながら『そうだな』と答える。


「あのホーミットが、何日も倒れているわけがありません。今日中に帰って来ると思います。それなのに、心配は分かるけれど。人間じゃないのだから、シャンガマックもあんなに萎れなくても」


「お前も、そう思うだろ?俺も思う。あれは『依存』だ。『信頼』じゃなくて『依存』の方が、心の割合を占めている」


 ドルドレンもそうだったな、とモグモグする親方に、イーアンは口拭き布を渡して『お顔に付いていらっしゃる』とつまんなさそうに教える。それから溜息をつき、揺れるベッドで大人しくしている、赤ちゃんを見た。


「シュンディーンは泣きませんね」


「度量が違うんだろうな。運命もあるから」


「シャンガマックは泣きそう」


「昨日は泣いた」


「あのホーミットが。確かに強いから、倒れて動かないとなれば、どれほどかとは思うでしょうけれど。単に、エネルギー切れって可能性も」


 ()()()()()って何だ、と遮られ『活力』とテキトーに答えるイーアンは、頷く親方を見ずに、思うことをこぼす。



「何日も帰らないなら、まだ分かります。でも初日で食べれないなんて・・・このまま、一日食べない可能性もありますよ」


「食べないだけじゃない。顔つき、ちゃんと見て来たか?親とはぐれた子供そのものだ。不安でしょうがない、って顔だ。あのくらい、依存が分かりやすい顔は()()()()に見た」


 親方の返事に、『久しぶり』の意味を訊こうとして口を開き、訊くのをやめて、イーアンは口を閉じた(※伴侶だ、と気づく)。やめたのにも拘らず、心を読むような親方は、最後の一口を匙で集めながら続けた。


「お前に会いたがった、ドルドレンがな。俺に馬車を預けて、ショレイヤで空に行った時も、あんな具合だ(※843話参照)。会いたいのと、縋るのは違うよな」


「意地悪、言わないで下さい。ドルドレンは、ちゃんと分っていますよ」


「今は、な。その時は分かっていなかった。心配の意味が、俺とドルドレン(あいつ)じゃ違ったんだ。ミレイオも同意している。皮肉なものでな、()()()()バニザットも理解していた」


「今と違って」


 そうだ、と答えた親方は、食べ終わった食器を引き取ろうとするイーアンに微笑み、『自分で洗うよ』と、水と灰を持って外へ出て行った。



「依存。私も、人のことは言えないけれど」


 呟くイーアンは、知らずのうちに人が陥りやすい心理を思うが、『ホーミットがくたばるわけない(素)』ので、食欲が消えるほど打ちひしがれるとは・・・の気持ちに、また戻る。

 とはいえ。親方が指摘した様に『依存中』なら、『信頼している通常があって、今が心配』と訳が違うのも分かる。


 お皿を洗った親方が戻り、仔牛に屈めるドルドレンの背中をちょっと見てから、荷台に乗ると、自分を見ているイーアンに首を傾げた。


「俺がもう一つ、懸念を話したが。分かるか?」


「何でしょう。『ドルドレンが理解するとどう』って、あれですか?」


「そうだ。ドルドレンがバニザットに理解を示すと、俺たちが()()()()()の話を出しかねん」


 そう言ったタンクラッドは、出発待ちが長引いている時間も気になる。赤ん坊が眠くなってきた様子なので、彼のベッドを揺らしてやり『寝てて良いぞ』と声をかける。赤ちゃんは石をしゃぶりながら、頷く(※分かってはいない)。


「もしかすると、()()()都合には良いかも知れんが・・・しかし、今はバサンダもいることだし」


 ベッドを優しく揺らす親方が、赤ちゃんに話しかけるような独り言に、イーアンは眉を寄せた。『どういう意味ですか』と訊ねると、タンクラッドは指を下に向けて『こういう意味だ』と答える。



 それじゃ分からないと、言い終わる前に、ドルドレンが仔牛の側を離れ、真っ直ぐにこちらへ来るなり『相談がある』と親方に話しかけた。


「何だ?」


「コルステインを呼べないか?事情を聞けたら・・・もしくはシャンガマックを、サブパメントゥに連れて行ってもらいたいのだ」


 伴侶の言葉に、イーアンは固まった。親方が『下を指差した意味』を理解し、親方と目が合って、彼が『な』と言った具合に瞬き。

 親方の()()()()()()が現実になろうとしていることに、イーアンは項垂れた。



 *****



 その頃。ミレイオ。腕組みしながら、サブパメントゥの墓標の前で仏頂面。



「嫌だわ。この辛気臭さ。大っ嫌いよ」


 ぼやきながら、ひょうひょうと恨めしそうに吹き抜ける風に揺れる枝を払う。『うざいわよ』咳払いして、花も葉もない枝を振り回す木を睨む(※木には通じない)。


「全く面倒臭いったらないわ!ちょっと()()()()するくらい、出来ないのかね」


 あーあ、と盛大に舌打ちして、首をゴキゴキ回したミレイオは、コルステインが来るのを待つだけ。交代でコルステインが来るまで、ミレイオはここを動けない。


「もー・・・馬車が出ちゃうじゃないのよ!出るのは良いけど、地下(ここ)にいたら、何時間経つか分からないから、困るのに!」


 馬車が出ちゃう、出てもいいけど、と。よく分からない文句をわぁわぁぼやき続ける、この時間。


 ミレイオがコルステインを待つ場所は、旅に出る前に一度立ち寄った、『ホーミットの墓』。それまで、親父の名前もろくに知らなかった。興味もないから、別にそれは構わないが。


「う~・・・面倒。ニーファが待っているのよ。彼に『仲間と行く』って言ってあるし、イーアンが昨日、一個持って帰ったお面の・・・そうよ、大量に午後引き取ったから、あの中から良さそうな状態の選んだりしなきゃ。ここから上がる前に、家寄っておくか。忘れてたわ」


『出る前に、あれしてこれして』と腕組みしつつ、ぼやいてブツブツ。ハッとしては『早くしろ~!』と待たされていることにイライラ。ミレイオは忙しく、待機していた(?)。



 *****



 同じサブパメントゥでも、墓標の下では、獅子が何度も吼えていた。


 吼えるだけ吼え、飛び上がっては天井にぶち当たって、罵声を浴びせかけ(←天井)、何度も力を使おうとしては、遮られることを繰り返す。


「ちくしょう。バニザット!バニザットに呼びかけることも出来ない」


 バニザット!! 獅子の息子を呼ぶ声は、土の中の空間で消える。押し込められたこの場所で、体は回復しつつあるが、出ることが出来ない。


「俺が回復したかどうか?!そんなもん、俺が分かるんだから放っておけ!ちくしょう、出せっ!」



 ――気がついたら、サブパメントゥの中。驚いて、いつ自分が入ったのかと頭を動かした途端、コルステインが現れて、『まだ』と言い放った。


 何がまだなのか。何があったんだ、と事情を聞いたら『お前。まだ。ダメ』と返って来た。

 言いたいことが分からないので『とりあえず出るぞ』と一言聞かせたら、いきなり押さえ込まれ、()()に放り込まれた。


 ここは『沈黙の石』。サブパメントゥで、最も強く、最も濃い、サブパメントゥの気が溜まる場所。そして、サブパメントゥ以外のどこにも通じない、孤立した場所でもある。


 ヨーマイテスの城、狭間空間に抜け出ることも出来ない、唯一、面倒な性質。


 だがそれは、今回のように『()()()()()()()しまった以上は』の話で、普段は閉ざされることもない。


 閉ざすのは、このサブパメントゥで、一番強い力の持ち主だけが、出来ること=コルステインのみ。


 弱るだけ弱ったサブパメントゥが、集中的に回復するための場所で、他から遮断して、存在を保つために使う。

 こんなことだから、そもそもこの場所は、何かを『封じる』目的もない。

 コルステインさえ動かなければ、別に誰がどう使用するにしても、何も起こらない(※『高気圧酸素カプセルホテル』的な場所で、鍵を外から締められた状態)のに――



「おい!出せ!コルステイン!!いい加減にしろ!」


 喚いても怒鳴っても、蓋をされた空間から出ることは出来ない。擦り抜けることが不可能なこの場所に、ヨーマイテスはガァガァ吼え叫んでいた。

お読み頂き有難うございます。

ブックマークと評価を頂きました!有難うございます!とても嬉しいです!

お礼に絵を描きました~



挿絵(By みてみん)



魔物の絵です。もし宜しかったら、活動報告に載せましたので、見てやって下さい。

(↓3/6の活動報告URLです)


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2751599/

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