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魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1375/2964

1375. 囚われ人の願い ~突入

 

 イーアンが一人突っ込んだのを見て、すぐさま獅子に変わったヨーマイテスに、シャンガマックが飛び乗る。



「ミレイオ!()()()()()おけ」


 女龍に続いて、竜巻に向かい駆け抜ける獅子は、吼え声ともつかぬ声で、馬車にいるミレイオに命じると、シャンガマックはそれを合図に結界を張る。


「遮断する。後はイーアンだ。イーアンを中に入れなければ」


 金色の結界に包まれた騎士と獅子は、あっという間に時の竜巻の中に吸い込まれ、その姿を消した。



「バイラ、ドルドレン、こっちよ!」


 寝台馬車の御者を引き受けていたミレイオが大声で呼び、引き返す馬車と黒馬は、竜巻と逆方向へ走り出す。


 名指しで『離れろ』と命じられたミレイオだって、どこまで行けば無事なのか。そんなことは分からないが、大急ぎで、林道を戻るように、馬車を引き返して逃げるのみ。


「追いつかれる」


 馬車より早く走るバイラの馬が、ミレイオに並んで焦る。ミレイオもちらと彼を見て『分かってる』とだけ答える。

 どうにも出来ない状態で、全身の皮膚を凍り付かせるような竜巻の存在に焦る。だが、親父が『下に離れろ』と言った理由にハッと気がつく。


「え、でも」


 まさか、と横のバイラを見て、振り向いても見えない荷台の面々、そして後ろの馬車の仲間をざっと頭に並べ『そうよ』その一言を呟いたすぐ、ミレイオはバイラに頼んだ。


「影よ、影のある所!まとまった影に入るわよ」


「影!ええ、ええ?えええ!」


 ドルドレンたちに伝えて!と怒鳴られ、バイラは何だか分からないなりに頷くと、急いで後ろの馬車に走って伝える。ドルドレンはさっと表情が変わり、今度は総長がバイラに『タンクラッドを呼んでくれ』と頼んだ。


 全く頭が追い付かないバイラ。とにかく従う。森林の木々を飲み込みながら迫る巨大な灰色の渦を、何度もちらちら見ながらも、荷台の親方に御者台へ行くよう言うと、タンクラッドは赤ちゃんをオーリンに預けて立ち上がった。


「俺は平気か?」


()()するなよ」


 この大急ぎの事態で冷静なやり取りを交わした二人。バイラの伝言で、親方は剣を背負い、即、走る馬車の屋根に飛び移る。

 屋根から御者台へ移動し、自分を呼んだドルドレンに『代わるか』と叫ぶ。もう、声さえ、竜巻の接近による轟音で消えかける今。


 さっと、上を見た総長は頷いて、御者台へ飛び降りた親方に手綱を持たせると、何も言わずに、ふっと跳んだ。


「おお。さすが」


 跳んだドルドレンは、親方よりも速く、距離長く跳び、走る馬から、横の木の枝、枝から幹を蹴って次の枝、そして前の馬車の屋根に移り、そのまま御者台へ跳び続けて入った。


「この風圧、引きずり込まれそうな風の中で。あんなの見ると、さすが総長だと思うな」


 誰にも聞こえない、掻き消される声で笑うタンクラッド。見事な跳躍だと、事態に似合わない笑顔で褒めた。


 ミレイオの横にどんっと下り立った総長は、焦る顔を向けるミレイオの手から手綱を受け取る。


「先へ!飛んでくれ。馬車は導かれた()()へ」


「有難う、気を付けるのよ!すぐ呼ぶからね!」


 何の理由も話すことなく、お互いの考えが通じている様子で、ミレイオはお皿ちゃんを掴むと、馬車をドルドレンに任せて、びゅっと飛び出した。


 横に並び、走る馬の背からバイラが『ミレイオはどこへ』と叫ぶ。手綱を捌くドルドレンは彼に『地下だ!』サブパメントゥへ行く!と大声で答えた。


「サ。サブパメントゥ!?私たちが?」


「馬車ごとだ!ミレイオが導く。そこへ突っ込むぞ」


「待って下さい、無事じゃ済まないかも」


「済まない場所に行くと思うか?俺たちは誰もが、恐らく()()()()()()()も動けるのだ」


 あ!と気がつくバイラ。黒髪の騎士は前を見つめながら『間一髪』と続けた。


「バイラ!ミレイオを見て突っ込め!躊躇うな」


 間一髪、の言葉の先に、叫んだ総長の顔が向いた方を見たバイラは、次の瞬間、前方から少し外れた斜め先で、ミレイオが腕を振って招く、黒い洞穴に覚悟する。


「はい!総長も気を付けて!」


 ぐっと顎を引き、『行くぞ』と馬に拍車をかけると、真ん前で口を開ける岩棚下の洞窟へ、バイラは馬ごと飛び込んだ。

 バイラに続いて、ドルドレンの馬車も速度を上げて洞窟へ走り抜け、続くタンクラッドの馬車が洞窟入り口に来た時、ミレイオは御者台に飛び乗る。


「サブパメントゥに()()()()


()()()だよ」


 友達と一言交わしたお互い、真っ暗闇の世界へ、馬車は洞窟越しに滑り込んだ。



 *****



 一方、誰より真っ先に、竜巻へ入った女龍イーアン。砂塵に似た竜巻を作る粒に、それが『時間』であると気がついて驚きながらも、龍気全開で挑む。


 真っ白い光の塊と化し、龍気に守られながら、ぐんぐん進む竜巻の壁。


「分厚い。どれくらい進むのかしら」


 龍気の外がどんな環境か、出来るだけ考えたくないところ。

 どんな時でも、ちょっとは冗談ぽい部分があるのが、イーアン持ち前の性質なので、この竜巻が()()()()やらだとすれば・・・の想像から『龍気の外に出たら、一気に老けるかも』と笑えない恐れも過る。


「嫌ですよ。絶対イヤ。ホーミットの話だと、結構前に消えた人々のようだし、親方の昨日の推測だって、軽く見積もって50年。最低50年分の時間がここに・・・・・ 」


 そこまで考えると、良からぬ未来しか思えなくなる。早くここ出たい~、と必死に飛ぶ女龍(※これでも本気)。

 イーアンの想像する構図は、竜巻の壁の向こう側に、人が生活している場所が地域ごとあるような。


 だとすれば、夜明けに現れたバサンダはどうやって来たのか。その前に、ミレイオと赤ちゃんを連れ去った一瞬は、こんな大それた形ではなかった話も、不思議で一杯。


「不思議だけど、全体的に不思議尽くし。ここで私が悩んで、意味もない。

 どこなのか、どう行けば。でも待てよ・・・竜巻(これ)が発生して、()()()()目掛けている感じだったわけだから。『迎えに来た』ってことですよ。馬車と皆さんをどうする気かは、別として」


 そうであるなら、とイーアンは龍気を広げる。()の存在が分かれば『飲み込んだ』と気がつくのでは。


 あまり使いたくはないが、この竜巻を抜けるまで。そう決めて、どれくらいここを飛んでいるのかも、気にしつつ、イーアンが龍気の範囲を360度に広げたすぐ。


「見えた」


 進行方向の粒子が千切れ、少しずつ切れ切れに散り始め、それらは薄れて透けるように向かう風景を見せ始める。

 あれか、と呟き、緊張をごくっと飲み込む。イーアンは龍気を少し抑えて、視界に入り始めた風景へ向かった。



 霧が晴れるように、の表現は違う、その場所。イーアンが近づいて思い出したのは、昔、以前の世界の美術館で見たシュールレアリスムの絵画。


 見えて来たのは山野と小川、左右に森林、手前には少し開墾されたと思われる、形の整わない畑。そして、畑の先に林を挟んで、煙の上がる人里。


「意外と広い・・・ですが。何でこう、落ち着かないのか」


 目がおかしくなったのかと思うほど、その風景は一定しない。最初に見た風景は、イーアンの瞬きを待たずに、左端が千切れるように消えた。え?と思ってそちらを見ると、別の風景がはまり込んでいる。


 驚いた女龍は、その後にまた同じような変化を右側に見て、上、下、と繰り返す様子に、()()()()()()の意味を考え始める。


「これは・・・ペリペガンでも厄介だったのに。面倒そうですねぇ」


 自分を囲む竜巻の壁も終わりに近づく。イーアンはどうしたものかと戸惑いながら、少しずつ高度を下げ、千切れるように変わる、まるでルービックキューブのような奇妙な世界に入った。


「私がいるところが『カクっ』と変わったら。それって。どうなるの?」


 自分の体半分、『カクっ』と消えるのかとか思うと、女龍は嫌そうに眉を寄せる。おっかないので、自分を守る龍気頼み。龍気は、むんむんに濃度を上げるつもりで出しておく(※つもり)。


「濃厚龍気だから大丈夫!と言うものでもないでしょうが・・・でも、そうですよ。

 ()()()()()()()()とは言っていたようだけれど、()()()()()()()かは、聞いていません」


 うへ~、と嫌な声を出すイーアン。うっかりしてしまった。


 今になって後悔しても、後の祭りだが、入り込んだ後に、ここをもしかすると、消してしまう羽目になるとして。消した後、自分はどこへ行くのか・・・までは考えていなかった。


「うわ~。『龍の愛・実行』にだけ、思考がのめり込んでいました。どうしよう~」


「イーアン!」


 女龍が本気で頭を抱えて、後悔まっしぐらのそこで、下から名前を呼ばれる。ハッとして下を見て『シャンガマック』と叫ぶと、暗い顔に安堵が浮かんだ。


 彼の姿は朧気にしか見えないが、金色の崇高な光がシャンガマックと分かる。


 イーアンは喜んですぐに結界へ飛び、やけに大きめな金色の結界の真上で『シャンガマック!』ともう一度呼びかけた。結界はすぐに一部がすうっと薄れ、笑顔の褐色の騎士が見上げる。


「入れるか?入ってくれ」


「はい!」


 断られても入りますとも!イーアンは助かったとばかり、いそいそ、龍気を縮めて翼も畳んで、すぽっと結界に入った。尻尾を消していなかったから、金色の光の中に入ってすぐ、ひゅるんと引き寄せたら。


「おい!気を付けろ!当たったぞ」


「ぐはっ」


 長い尻尾は、騎士の跨るデカい獅子の顔にバチンと当たって、不愉快な顔を向けられ叱られた。


「ホーミット。そうでした、いたんだった」


「ちっ。勝手に飛び込みやがって。ここから出たかったら、言うこと聞けよ」


「くそぅ。仕方ない」


 睨み合う両者に困りながらも、シャンガマックは父の(たてがみ)を撫でて落ち着かせつつ、父から目を離さない女龍に『結界で移動する』と教えた。



「よし。進む。バニザットの結界から出る時は、俺が指示を出す・・・ほら見ろ、早速来たぞ」


 女龍から目を逸らした獅子は、命じながら歩き、前方に動いた影を見据える。


 結界はこの時、既に竜巻の粒子を後にしており、捻じれた時の空間に入り込んだ3人の前に、ちらほらと頭の大きな影が姿を見せ始めた。

お読み頂き有難うございます。

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