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魔物資源活用機構  作者: Ichen
護り~鎧・仲間・王・龍
137/2943

137. 以心伝心の工房従業員

 

 気持ちの良い朝を迎えたドルドレン。


 約束が果たされるだけで、これほど満ち足りるのか。なぜ毎日ではないのか。


 それだけが寂しいが、もしかするとこの待ち遠しさと、満ち足りる感が交互にある方が良いだろうか、とさえ思う今日の朝。しかし・・・・ それは今夜は大人しく眠る事を許諾する事でもある。それは嫌かも。



 夜から朝まで素肌の温もり。うん。最高だ。だが、昨日イーアンに寒いと言われてしまった。

 急ごしらえでイーアンのベッドから上掛けを持ってきたので、とりあえず上掛け2枚で事なきを得たが・・・・・


 もしかするともっと寒くなったら、『寒いからしない』と言われる可能性もある。それは問題だ。イーアンはこのくらいの気温でも寒いのだ。きっと温暖な地域から来たのだろう。


 俺が温めれば良いだけだ、と言ってはみたが『出てるところが寒い』と、あっさり却下するほど寒がられては立つ瀬もない。こんな事なら毛皮を持ってくればよかった、とぼやかれた。俺の温もりは、魔物に負けるのか。


「今日中に温かいベッドの用意だな」


 今日の重要事項に温かい寝具の用意を加え、眠る裸のイーアンをしっかりと抱き締める。

 寒いとくっ付いてくれるから、朝の自分の()()()()も早朝から燃え上がりそうになる。朝も頑張れるのだが、でもイーアンとしては朝はいけないらしい。


 一度、朝の勢いで抱こうとしたら『がっつかないで』と押し退けられた。若干傷ついた。大人しく言う事を聞かないと、夜が消えそうだったので我慢した。


 夜はがっついても良い。朝は元気でもダメ。毎日はダメ。一日おきなら可。寒いと危険。


 これらの条件は何なのか。これもいつかは解決しなければいけない。結婚したら良いのだろうか。細かい疑問は一つ一つ、丁寧に対処が要る。


「イーアン。愛してるよ」


 ぎゅうっと抱き締め、とにかくこの裸の温かさを満喫する。ああ、幸せ。愛妻(※未婚)に満たされる。

 イーアンが起きたら忙しいから、朝晩は二人の愛の時間だ。イーアンが暇なら良いだけのことなのだが。



 ふと。工房に従業員を置いたらどうだろう、と思いついた。


 イーアンが休む暇がないのは、イーアンだけだからだ。ダビもいるが、ダビは騎士だから専属にはならない。ふむ。イーアンが安心して俺と営みを増やすために・・・・・


 うーん。でもダビが一番適任だ。手っ取り早い。あいつを騎士業兼作業員にでもしてみるか。あと何だかイーアンの作業を言わなくても出来るヤツ、アティクも入れて。ふむふむ。この二人は安全だ。

 ダビは人間に関心がなく、アティクはイーアンから見て動物枠(※誤解)だ。当人もイーアンを何とも思っていない。


 いいんじゃない・・・? ドルドレンは自分の隊のこの二人を使って、工房の人数を増やしてみようと決めた。


 どうせ彼らは戦闘時に前線では戦わない。それに最近の遠征ではイーアンが同行するから、以前のような肉弾戦はまずなくなった。演習は交代で俺がつけばどうにかなる範囲。


 これでいこう。勝手に決めるとイーアンが何て言うか分からないから、起きたら相談だ。善は急げだな。


 眠るイーアンをせっせとまさぐり、首や肩にキスして、ドルドレンは自分の素敵な思いつきに喜んだ。


 この後、まさぐり過ぎて『落ち着かない』と手をはたかれた。ちょっと機嫌悪そうに起きた愛妻(※未婚)に擦り寄って、機嫌を取りながら一日が始まった。



 着替えて、朝食を済ませる間に、朝一番の思い付きをイーアンに話すと、イーアンは嬉しがった。『自分も誰か、ちゃんと出来る人が常時手伝ってくれたら良いな、と考えていた』という。


「こういうの、以心伝心というのでしょうね」


 イーアンが胸に来ることを言うので、イーアンを抱き締めて頭にキスをした。



 朝食後。イーアンはアティクを見つけて、毛皮の煙がけを朝一で始める。

 煙がけは準備が済めば、後は燻している時間だから、工房に来てもらったギアッチに、窓越しでイーアンは授業を受ける。


 ドルドレンは工房に一緒について行ったので、アティクに今日の案を話してみる。アティクは『構わない』と二つ返事で請け負った。手当や給金も工房の利益が出るまではお預けだが、騎士の給金は変わらないと伝えておく。


 加工した部品を持って、朝から意気揚々としたダビが工房に入ってきたので、ダビも捕まえてドルドレンは話す。ダビは見るからに分かりやすい反応で『もちろんです』と答えた。


 アティク同様、作業員の給金や手当については利益が出てから、と伝えると『そんなのなくてもやる』と言った。本人もそうしたかったらしい。

 こうした意見を聞くと、もっと早く適所を作ってあげたら良かったか、とドルドレンは思った。



 本人たちの了承を得たので、次にすることは全体会議で彼らの従業員化を申告だ。遠征報告のついでにでも言えれば楽だな、とドルドレンは思った。話が楽に動くには、工房利益も出したい。


「イーアン。シャンガマックの鎧はいつ頃に仕上がるか」


 ダビと目を見合わせて、イーアンは指を、1、とか2、とか立てて確認する。ダビもうーんと唸りながら、3本目の指で何となく首を縦に振る。イーアンも3本目の指を立てたところで、同時に頷いた。


「上手く行けば3日です」


 二人の以心伝心がちょっと心にヒリヒリする・・・・・ ドルドレンは眉根を寄せて胸を押さえながら『そうか』と頷いた。



 ――何この連帯感。結構ヒリヒリする。熟年夫婦並みの安定具合が強烈に悲しい。入っていける範囲ではないことを本能で知る自分がいる。



 胸を鷲掴みにしたドルドレンは机に片手をついて『そうか。では他の品は』と息も荒く、弱々しい声で第二の質問をする。



「手袋はいけるでしょう」


 ダビがちらっとイーアンを横目で見てニヤッと口角を上げる(この時点でドルドレン、ジャブヒット)。

 イーアンが『わ~』といった感じで目に輝きが増える(ドルドレン、鳩尾(みぞおち)に一発食らう感覚)。

 包みを思わせぶりに開くと、そこには金属と虹色の新しい部品がどっさり。イーアンの鳶色の瞳がまん丸で星がキラキラ(ドルドレン、リングに膝をつく状態)。


 ドルドレンが見ても、全くピンと来ない。何がそんなに嬉しいんだか、全く伝わらない。何にも伝わらない。面白くも何ともない。


 しかしイーアンは一気に喜んで(←まずい)『すごいわ!ダビ有難う』とダビの手をがっちり握って上下にぶんぶん振った。



 ――やっぱりな。やると思った。前も魔物の時こんな感じだったもの。あれ確か、魔物用に即席でダビが鏃加工して射掛けたときだったな。


 ダビは照れてるけど、多分部品を誉められて照れてるだけだ。こいつの場合は。だからまだ良いようなものの。ギアッチは『ははは』とか笑ってるし、アティクは見向きもしない。安全と言えば安全組だが。


 イーアンはこの先、この喜びを体現する癖を抑える日は来るのだろうか・・・・・



 悲しそうな目でイーアンを眺め、小さく溜息をついてから『で。手袋はどう?』とドルドレンが訊くと、イーアンはダビのおかげで早く作れそうだ、と話した。倉庫にある普通の革手袋を5つ使って、今日中に上がるのでは、と。


「上がる?よね?」


 イーアンがタメ口。振り返って質問したダビは、無言で目だけで『可能じゃない?』みたいな反応。イーアンはちょっと考えて片手で、ぺぺっと指を使って数字を見せる。ダビが一回天井を見上げてから、自分も指を立てて応答。片手しか使っていないのに、何故か2桁が正確。

 それでお互いに納得した様子で、『一日で10はイケるって』とイーアンが嬉しそうに報告した。



 ――二人の距離に言葉が存在していない・・・・・ 『つー・かー』の距離だ。手話でイケる関係って。それも手話が独特過ぎる。他の誰も入れない。俺さえ、俺さえ、夫だよ、俺。総長だよ。でも二人の間に入れない・・・・・



 ぐっ、と妙な呻き声を漏らし、ドルドレンが心臓辺りを押さえて俯く。涙が出そう。こらえなきゃ、総長だから。総長だもの。泣いたらダメ。厨房の奥で泣こうか。


 イーアンが異変に気がついて、背中を擦る。『どうしましたか。ドルドレン具合が』とても心配そうにイーアンは背中を擦って、机に突っ伏すドルドレンを座らせる。


 ドルドレンを労わりながら、ダビに『すみません、ドルドレンにお茶を・・・ここでお湯を沸かしてお茶を淹れられるようにしたいのです』とドルドレンに飲ませるお茶の(ついで)に、鍋と茶器を頼んでる。


 ・・・・・これは。どちらかというと、俺が(ついで)では?


 ダビは『そうでした。用意してあるので(ついで)に持ってきましょう』とはっきり序である事を言葉にする。ダビは自分の工房に取りに出て行った。



 ドルドレンのお茶を沸かす間、ギアッチは授業を終えて帰り、アティクは外で『俺にも茶をくれ』と普通に頼んでいた。ドルドレンは、自分の存在が薄くなっている事に気がつきたくなかった。 ――俺のためのお茶は・・・・・



 ――この人達、イヤかもしれない・・・俺が儚く見える。俺が薄い。気にしなさ過ぎる。こんな家庭やだ。こんなの仲間って言わない。


 ちょっと灰色の瞳に涙が浮かんだ。イーアンが結局皆にお茶を淹れて、『具合が悪いからお茶』の特別感は消えた。



 お茶を飲み終えて、少し鼻をすすり上げながら、ドルドレンは昼まで報告書類を見なければ、と執務室へよろよろ歩いていった。


 ドルドレンを見送ったイーアンたちは、自分たちの作業を続けた。


 毛皮はアティクに任せ、手袋は5つ分を午後に完成させる事にした。試作で作っていた歯を埋め込んだ手袋も、ダビに見せて感心されたので、改良してもっと早く作れる加工を考案した。

 午前中は工房で過ごせる、ダビとアティクは楽しんでいた。アティクも何やら一度出て行って、戻ってくると、自前の干し魚を燻しついでにチャンクの上に網をかけて炙った。


 晴れた午前。お茶と煙をかけて炙った干し魚で、3人は工房の仕事開始を満喫した。彼らの笑顔の中に、先ほどまでいたドルドレンの影はなかった。


お読み頂き有難うございます。

朝見たら、ブックマークして下さった方。ポイントを入れて下さった方がいらっしゃいました!とても嬉しいです。直にお礼を言う事は出来ませんけれど、この場で心から御礼申し上げます。有難うございます!!

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