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魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1368/2964

1368. 旅の百三日目 ~気配・親方素敵朝食・父子朝食問題

 

 翌朝。夜明け頃に起きたイーアンが、もぞもぞ朝食の準備を始めた時。


 ふと。イーアンは何か不思議な感覚を受ける。はて?と焚火を熾す手を止めたが、固まっただけで他の動きをしないまま、じっと何を感じているのか、細かに探る・・・・・



 ――おかしい。体感で、体が内側からも揺れる気がする。


 年じゃないわね、と、とりあえずジョークを自分に思いつつ。この感覚は何だろうかと、ゆっくり手を動かし、顔を上げないよう、目を動かさないよう、周囲に気配を感じる龍気を広げる。


 どこかで。どこかで似たような感じを知っている。それが()()は共通していないのだ。似ていても――


 イーアンが龍気を広げた途端、その不可思議な『体感』は消えた。



 消えたと分かったイーアンも、龍気を少しずつ引っ込めて、動作はそのまま朝食の準備へ。今のは絶対変だ、とそれだけはしっかり分かった。


 誰かに言おうにも、誰も気がついている様子がない。ホーミット仔牛も佇む。


 あの男(←獅子)が動かない・・・?それを言うなら、コルステインは外にいたのだ。コルステインさえ、気がつかないなんて、とそれも不思議。

 自分以外にも、気配に敏感な仲間はいるのだ。それもサブパメントゥの二人は外にいて、気がついていない状態は変。

 そうすると、さっきのは。夜の間ずっとじゃなくて、今だけ?今、私がここに出た時だけ、だろうか。


 とにかく。体に受け取った感覚を、出来るだけ、言葉で近い表現が可能なように、皆に伝える内容を考えていると。



「おはよう。今日も早いな」


 ベッドを片付けた親方が挨拶し、イーアンはハッとして顔を上げる。

 おはようの挨拶を返してから、今起こったことを伝えようかと思ってすぐ、タンクラッドが横に座って『今日は?』と朝食の料理に微笑む。


「これですか。いつも通り。平焼き生地を焼いてね、今日は卵もあるし、お肉とお野菜炒めて」


 後で言おうと切り替えて。タンクラッドに、作ろうとしているものを教えると、タンクラッドはじっとイーアンを見つめる。


「何でしょう」


()()()()()()()()と分かっているが。お前が前、これを挟んで食べさせてくれた」


 ああ~、と思い出すイーアン。そうかそうか、タンクラッドはサンドイッチが食べたいのかと了解し、空を見上げてイーアンは頷く。空は少しずつ、明るくなる始まり。


「まだ早いです。ミレイオも赤ちゃんと一緒だと、すこしゆっくり来るから。あなただけ、先に食べますか」


「良いのか?でも朝食分が」


 それはまた別、と笑うイーアンは、熱くした鍋に油を敷く。親方も嬉しくてちょっと笑顔。


 この場合は炒め物ではなく、薄く切った塩漬け肉を2枚焼き付け、脇に卵を一つ落とし、ちゃかっとヘラで一混ぜ。黄身が混ざった白身の卵に火が通らないうち、肉を上に置いて、下敷き卵の左右を畳んだ。


「おお。これはまたちょっと違う」


「きれいに作るのは、こうした場所では難しいけれど。お味は一緒」


 炙った平焼き生地を半分に切って、内側の袋に、玉子&肉を滑り込ませると、イーアンは『はい』と親方に渡す。親方、受け取って感動。


「有難う。すぐに作ってくれるな」


「お野菜挟みましょうか。ああ、それはそれで。先に食べて下さい。こっちの半分の方にね、もう一個玉子作って。野菜も入れて。町から出たすぐ後だと、卵も野菜もあるから助かります」


 言いながら、タンクラッドの見ている前で、イーアンは野菜をナイフで薄切りにすると、芋と玉ねぎは鍋で少し焼いて、葉野菜はそのまま生地に挟み、また卵を鍋でちゃかっと一混ぜして、芋・玉ねぎ・玉子を生地に詰め込んだ。


「はいどうぞ」


「お前は・・・何て優しいんだ(※言えば料理くれる)」


 親方は最初に受け取った方を口に押し込む。『とても美味い』そう言うと、イーアンの大きな角を丁寧にナデナデ。角を撫でられながら、野菜&玉子も渡すイーアンはニコッと笑って『あなたには()()()、こうしていましたね』と。


「嬉しいことを言うよな。すごく美味しいぞ。お前も食べろ」


 嬉しいタンクラッド、渡されたサンドイッチを一口齧って、イーアンにも向ける。イーアンはお礼を言って一齧り(※抵抗ない)。

『美味しいだろ』『美味しいです』二人でニコニコしながら、サンドイッチをひっそり食べる朝。



 ――イーアンは思う。彼は横恋慕になっちゃったけれど、遥か昔、自分とミレイオの魂の親だったかも知れないこと。


 お父さん的な動きをするタンクラッドを見ていると、それを最近はよく思う。

 始祖の龍の部屋で見た、ずっと昔の彼の初代。その人と自分たちの繋がりは、何も違和感なく、ストンと納得出来た。


 美味しそうに頬張って、笑顔を向けてくれるタンクラッドに微笑みながら、イーアンはいつか、彼にこの話をする日が来る、素敵なタイミングを心から望む。


 そして。それとは関係ないけれど・・・()()()()()、始祖の龍の部屋のことを思い出したのかな、とも過った。



「朝食。俺は先に食べたから、少なくても」


「良いのです。皆と一緒に同じ量を召し上がって下さい。今日はたまたま」


「俺がどんなに、お前が好きか分かるか?」


「よーく知っています。有難うございます」


 アハハと笑った女龍に、タンクラッドはつくづく『自分の妻だったら良いのに』と(※横恋慕王道)思いながらも、ちょっと切なく微笑み、今度はあれが食べたい、これも思い出した・・・と懐かしい料理の話を続けた。


 会話を続ける間、タンクラッドは彼女に恋しても報われない、この現状に、それはそれで良かったのかとも思った。

 コルステインが毎晩一緒に居られること。コルステインを、自分よりも大切に出来る男は、この旅の仲間にいないしと、考えていた(※やっと学習)。



 焚火を前に早い朝を楽しんでいる親方とイーアンは、このすぐ後にミレイオが来たことで、赤ちゃんの話題に移る。

 赤ちゃんは塩漬け肉はダメなので(※ミレイオがダメと言う)減塩燻製肉を与える(※ツウのように)。朝一で赤ちゃんに肉を与えていると、他の皆も起きて来て、朝食が少しずつ始まった。




「お前も行け」


 仔牛の中で、外の気配を感じる獅子は、眠る息子をちょっと揺すって起こす。


「うん・・・朝?」


「朝だ。他のやつらが食事を始めた。お前も行って来い」


「うう~・・・ん。そうか~ でもなぁ」


 普段は目覚めの良い息子が、今日は何だかだるそうなので、ヨーマイテスは気になった。

 どうかしたのかと思って、大きな手でうつ伏せの息子の頭をグイッと押す(※獅子だから)。息子は目を開けて、ニコッと笑うと、伸びがてら、(たてがみ)に両腕を伸ばして抱きついた。


「ヨーマイテスも。一緒が良いよ」


 掠れた寝起きの声で、やんわり呟くお願い。獅子は抱きつかれ、シアワセな言葉を言われて、『そうか』とだけ答える。

 バッタバッタ振る尻尾はそのまま(※大喜)『だが、食事はどうする』それは大事だろうと言うと、騎士は潜り込んだ(たてがみ)の中で唸る。


「大事だ。だけど俺は、ヨーマイテスと一緒に食べたい」


「バニザット~・・・・・ 」


 嬉しくて困ってしまうヨーマイテス(※尻尾振りっぱなし)。

 うーんうーん、悩みながらも、息子の食事を優先し『俺はあいつらと食べられない』とか『明るすぎる』とかそれっぽく促すが、息子は離れない。


「いつも一緒に食べていたんだ。何だか寂しくて」


「もう寂しいのか。俺も寂しいが(※本音)これはどうにも出来ないだろ。食事の度に離れるんだったら、魔法陣に居るのと変わらないぞ。風呂はこれからも連れて行くが」


「そうだけど。風呂に行ったからか。食事も離れるのが嫌だ」


 獅子は、ほだされる。息子の甘え方が強烈に嬉しい。何か考えておく、とだけ言い、とりあえず今は食べて来るように促した。


「行かないと呼びに来る。イーアンやミレイオが来ると煩い」


「そうか・・・そうだね。ヨーマイテスが責められてしまう。俺が離れたくないだけなのに」


「俺も離れたくはない(※立て続けに本音)」


 迷惑かけると良くないから・・・シャンガマックはため息をついて体を起こすと、獅子の顔を撫でて寂しそうに微笑み『すぐ戻る』と約束し(※大袈裟)仔牛を出た。


 息子が渋々のように出て行った様子に、喜びをひしひし胸に感じながら、ヨーマイテスはゴロッと仰向けに寝る。


「あんなに甘えて。家族愛の強い男だとは知っていたが、ここまで強いともう、一時的にでも離れるわけに行かない(?)。

 多分、俺と一緒に居ることで安心しているんだろう。一人でも過ごせていたのを、俺が変えたってところだな(※自信ついた)。

 うーん、俺が変えてしまったからには、()()があるな(※常にだけど口に出したい)。どうにかしてやらないと」


 嬉しい悩みに眉を寄せつつ(※獅子だから変わらない)、ヨーマイテスは幸せ満喫の独り言を楽しむ。

 どうしようかな、と考えていると、あっという間に息子が戻って来た。


「ヨーマイテス。半分持ってきたよ、食べよう」


「おお、バニ・・・おい。そりゃ何だ」


「え?シュンディーンも一緒だ」


「見りゃ分かる。やめろ、そいつは置いて来い」


 でも、とシャンガマックが笑う側から、シュンディーンはヨーマイテスを見るなり、騎士の腕から、ちゃっと飛び降り、ちゃかちゃかハイハイして、嫌がる獅子によじ登る。


「こうなるだろ!だから嫌だと言ったんだ」


「シュンディーンは、ヨーマイテスを探していたんだよ。大好きなんだ」


 俺の気持ちはどうなるんだ!と怒る獅子に構わず、赤ちゃんは獅子の(たてがみ)に、モフっと埋もれて気持ち良さそう(※デカいソファ)。

 中に乗り込んだシャンガマックも、赤ちゃんの素早い動きに可笑しくて笑い、怒る獅子の顔を覗き込んで『家族みたいだ』と無邪気に笑顔を見せた。


「俺と・お前。がな。家族なんだ。こいつは違うって」


「でも。小さい弟みたいだよ。()()()()でも変じゃないくらいの年だ」


「バカ言うな!バニザット、お前」


 とは言いかけたが、シャンガマックが獅子の鼻にちゅーっとしたため、獅子は黙った(※チョロい父)。


「怒らないでくれ。他の皆もシュンディーンを可愛がっている。少しの間だけだ。すぐに皆に返す」


「分かった(※やられた)」


 あっさり落ちた父に笑いつつ、シャンガマックは『それでね』と赤ん坊の頭を撫でて、父に食事を食べさせる。



「もう出発する。今日もこの林道を進むようなんだが。イーアンが()()()()()()を感じたとか」


「気配?イーアンが?いつだ」


「夜明け頃。彼女は、父やコルステインはどうだったのか、気にしていた。夜の間におかしなことはなかったかと」


 獅子は食事を飲み込んで、少しだけ考えるように黙ると『あれか?』と呟いた。褐色の騎士が見つめているので、自分も同じような感覚はあったかも知れないことを伝える。


「ただ。夜中だぞ。真夜中に一度だけだ。夜明けは知らん。俺は起きていたし、イーアンが龍気を広げたのは分かったが・・・それとは違うのか」


「コルステインは帰ってしまった後で、聞きようがない。何か側にいるのだろうか。一昨日、ミレイオとシュンディーンを()()()()()でも」


「待て。ミレイオと?こいつか?何だその話は」


 顎に手を当て、一緒に考えていた騎士は、父の一言で『あ、そうか』と話していなかったことを思い出し、ミレイオたちが奇妙な場所に連れて行かれたことを教えた。


「でも。ミレイオが影に入って、サブパメントゥから抜け出たから逃げられたらしい」


「サブパメントゥに入って逃げた?ミレイオは他に何か」


「いや。これだけだ。あ・・・ちょっと待て。ええとね。『連れ込まれた場所は、同じ場所のようで、そうではないと思う』と、話していたな。最初にいた場所よりも、森林が若く見えたとか」


「ふむ。そういうことか。サブパメントゥに入れて運が良かったな」


 何やら見通した様子の獅子。シャンガマックは父を見つめ『何か分かったの』と訊ねる。獅子は欠伸をしてから、次の一口をもらい、『そうだな』と答える。



「ミレイオが連れて行かれたのは、時間がおかしい場所だ。『()()()目当て』か、もしくは『こんな特別さ』が目当てってとこだろ」


 そう言うと、背中の小さいやつに視線を動かした。小さいのはお腹いっぱいで、フカフカの(たてがみ)の中に埋もれて、ウトウトしていた。

お読み頂き有難うございます。

本日は朝1回投稿です。夕方の投稿がありません。

仕事の都合により、どうぞよろしくお願い致します。

この回に出ました朝食の先取り。写真にありますのでご紹介します。



挿絵(By みてみん)



タンクラッドは、自工房でよく作ってもらった料理を思い、イーアンにちょっと持ちかけました。

イーアンは気取らない料理なら得意。

さくっと作って渡したのは、この4つ切り写真の左上・出来上がりのものです。

右上、右下、左下は、それぞれ使用された平焼き生地や、具の様子です。


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