1356. 別行動:間に合った合流
ドルドレンたちが、赤ちゃんの威力(?)に、わぁわぁ騒いでいる頃。
森林の奥でフォラヴとイーアンは、持ってきた荷物を出して、『海の水・分解』に向け、準備中。フォラヴの話だと、過去の旅の仲間・魔法使いが指示した流れに沿った手順があるという。
「私達の今、仲間に魔法使いは、いないですものね」
「はい。恐らく、その立場がシャンガマックなのでしょうが。彼がもしいてくれても、過去の魔法使いと同じことが出来るかどうか・・・分からない以上は」
「この準備自体は、妖精の女王が教えて下さいましたの?」
イーアンも手伝いながら、疑問で一杯。こんなにいろいろ使うもんでしたか、と、素で驚くほど細かな道具たちの設定。これは女王が教えたのだろうか?と思うと、あの女王様が(←すっきり要点系の印象)と意外に感じる。
「いいえ。彼女が見せて下さったのです。私は現場を見ました」
「現場」
過去を見せてもらったという意味か、と分かり、驚く女龍に、妖精の騎士はちょっと目を合わせて微笑む。手を動かしながら、彼は自分の見た過去の光景を話してくれる。が。
イーアンとしては、それも興味深いが、見ただけで・・・この道具の数々と正確さを、再現出来るのかと(※軽く心配)そっちのが気になる。
万が一、万が一。見落としていたり、使うものが思い違いした品だったら。それって、どうなのフォラヴ? そこに気が付いてしまった以上、心に不安がムクムク沸くイーアン(※だと思う)。
不安を抱きつつも、うんうん、返事を続けるイーアンに、フォラヴは何となし、彼女の思いを(←疑)感じ取ったようで、ぴたと手を止めると、屈んでいた背を伸ばして女龍を見た。
「大丈夫ですよ、イーアン。私は見た際に、女王に質問して答えを頂いています」
「あ。え。あら。まぁ(※読まれた!って戸惑う)そうでしたか。うむ、はい」
女王も人の道具などには詳しくないけれど、大方、察しは付きましたもので・・・可笑しそうに、少し笑うフォラヴの続けた言葉に、イーアンは不安が復活。
――えええっ 『詳しくない』って言った! さ、『察しがついた』?! それってテキトーなのではっ
ハッとするイーアン。フォラヴは騎士だから・・・これが、私やタンクラッドたちなら、当たり前に確認するものが、騎士生活の(←云わばフツーの人)彼には、『大体でOK』認識なのでは(※当)。
準備として、物品を配置する手が遅くなるイーアンは、フォラヴの指示に従って並べたり、物を揃えたりしているが、『今日は見送った方が良いんじゃないか(※要再確認)』と本気で心配し始めていた。
*****
『海の水・分解』にヒヤヒヤしている女龍が、どうにかこうにか、危なっかしいフォラヴを思い留まらせようと、頑張って頭を使っている時。
彼らから離れた場所で、移動し続ける、鎧を着けた牛がいた。
「もう少し?」
「さっきも言ったが。こいつは遅いんだ、バニザット。そんなに急ぐこともないだろ?」
「うん。でもね。地下を通っているから・・・地上を通るよりは早いのかと思って」
「そりゃそうだ。とは言え、歩いてるんだから、そんなにあっさり着かないぞ」
鎧牛の体内で話し合う、シャンガマックとヨーマイテス。
ヨーマイテスは、到着に時間が掛かることを気にする息子を、何度も引っ張り寄せては、膝の上に座らせているが(※父の愛情表現①)外が気になるシャンガマックは、すぐにソワソワして、窓を見ようと動く(※息子34才)。
窓を覗いている息子の胴体を引っ張って、ヨーマイテスは『落ち着いて待て』と言い、自分の足の上に座らせる。
「さっきからお前は。すぐに窓の外を見ようとする。俺がここに居ても、そっちのけだ」
「そんなことはないよ。ただ、出発してから、もうかなり経つような」
「経っていない。今回は、目的地が山ン中だ。あいつら(←馬車の仲間)が北西部に動いたから、時間が掛かるんだ。妥当な時間の掛け方だぞ。こいつはウシだし(※牛歩の歩み・まんま)」
うーん、と唸りながら、シャンガマックは父を見上げ、それからまた外に顔を向ける。ヨーマイテスとしては、もう何十回も繰り返しているので、大袈裟な溜息で嫌味ったらしく訴える。
その溜め息に笑って、シャンガマックは振り向き『ごめん』と謝る。ヨーマイテスの顔が笑っていないので、もう一度謝った。大男の仏頂面はそのまま。
「お前は、これだけ俺といても、それでも馬車に帰るとなれば」
「違うよ。そうじゃないから。ただ」
「もう良い。俺と一緒に居た時間は、馬車の連中に比べると」
「違うってば。愛してるよ、ヨーマイテス」
「そうか」
父があっさり頷いたので、シャンガマックも真顔で頷く(※ちょっと笑いそうになったけれど我慢)。大丈夫、大丈夫、と愛情を伝えて、すぐにやきもちを妬く父の顔を撫でる(※『父は子供』の認識)。
顔をナデナデされつつ、大男はとりあえず息子の言葉『愛しているよ』に満足(※父は満足範囲広い)。そしてここで、愛されついでに(?)父は思い出す。
頬を撫でてくれている、笑顔の息子に顔を寄せ、自分の眉間下の鼻筋を見せ『獅子の時にしたこと、しろ』と命令する。
笑顔の固まる息子(←『えええ??』って感じ)に構わず、獅子の状態で鼻に口付けた、あの嬉しさを思い出した父は、無垢な気持ちで同じ行為を命じる(※サブパメントゥだから分かってない)。
「あ。え?ええと・・・『獅子の時にしたこと』って言うと」
「お前は俺が許可したから、ここに口付けた。しろ(※強制)」
笑顔が強張るシャンガマック。しょっちゅう抱き締めたり、風呂にも一緒に入ったり、額を付けたりもするけれど。
人の姿の父の鼻に口付け・・・は、ちょっと刺激が強い(※獅子だから良かったわけで)。
ええっと~・・・真っ赤になって困るシャンガマックに、父は『何だ。イヤなのか』と畳みかける。
うーん、うーん、嫌じゃないけどと言いながら、赤くなりつつ頑張って、父の高い鼻に口付けた息子は『総長たちの前では、出来ないよ』と小さい声でごにょごにょ断っていた。
「構わん。あいつらに見せてやることじゃない。俺とお前の親愛だ」
父は満足そうにそう言うと、うんうん、何か納得したように頷き、赤く火照って俯く息子の頭をナデナデ(※よく出来ました、って)。
どうも本当に息子が恥ずかしがっているのは、筒抜け思考のおかげで(※父過干渉)ビシバシ伝わっているが、如何せん・・・獅子と人の姿状態に、何の違いがあるのやら、分からないヨーマイテス。
息子が『恥ずかしさで一杯な心境』に不思議なものはあったが、これからも頻繁にさせるつもりなので、気にしないことにした(※鼻ちゅーお気に召した)。
そして、こんなシアワセ感を味わっているヨーマイテスは、ふと 顔を右側に向ける。
「違うな。いや。そうか、女龍だ。こんな場所に?」
「え?女龍・・・イーアン?」
呟いた大男の言葉にシャンガマックが見上げると、大男の碧の瞳が、外を見つめるように固定されていて『そうだな。他に妖精がいる』と答える。
「ここらで上がるか。女龍はさておき。妖精が一緒だとすると、俺の勘じゃ、立ち会った方が良さそうだ」
「何かあるのか?イーアンとフォラヴだな?二人だけ?」
驚く息子を見下ろしたヨーマイテスは、『すぐ分かる』と頷くと、スフレトゥリ・クラトリに地上へ出るよう命じた。
そうして出て来た地上の風景。ようやく窓から光が差し込み、ヨーマイテスは光の当たらない場所へずれる。
父が『外を見てみろ』と言ってくれたので、腕を解いてもらった(※捕獲されてた)シャンガマックは、そそくさ窓へ寄って表を見た。外は木々が並び、陽光の差し方から、どうやら午前の森林と知る。
「森林だ。山の中とヨーマイテスは言ったが、ここは広い山なのか。平らに感じる」
「傾斜はあるだろうな。ただ、山岳地帯じゃないから、どこもかしこも傾いているわけじゃないだろ」
そうなんだね、と頷いて、外の様子を少し時間をかけて観察し、シャンガマックは父の場所に戻る。
「後、どれくらい?イーアンたちがいるのに、総長たちはいないのか」
「どうやったって、馬車は入らんだろう。この様子じゃ、道もなさそうだし。二人でいるんじゃないのか?」
どうしてかな、と呟く息子の顔をちょんちょん触り、自分を見上げさせると、ヨーマイテスは一言『この前の水だ』と何てことなさそうに言う。
「海の水?あ、もしかして。フォラヴが」
「だろうな。早速、何かしら、確かな情報を持ち込んだんだろ。イーアンがいるってことは、龍族の情報も入ったかも知れん」
「総長たちは一緒じゃないのか。もう、作り始めているのだろうか」
父の想像に、シャンガマックの落ち着きが消える。上手く行ったかどうか心配もあるし、過去の旅路ではバニザットが導いた一件を、実行しているのか・もしくは、実行済みかと思うと――
「よし、出るぞ。近くにいる。女龍が俺たちに気が付いた」
ソワソワし始めた息子の肩を抱いて、ヨーマイテスは教え、ウシの腹を開かせる。ぱっかーんと開いたそこには、思いっきりガン見している、女龍とフォラヴが振り向いていた。
「『気が付いた』も、何も。真後ろじゃないか・・・・・ 」
困って笑うシャンガマックがそう言うと、父は『だから気が付いたんだ』と肯定した(※気配関係ない接近による)。
「シャンガマック。ホーミットも!どうしてここへ?よく戻って下さいました!」
「ああ。これは助かりましたよ」
何故か―― ほころぶ笑顔で歓迎するフォラヴはともあれ。普段なら目つきも変わる、犬猿の仲のイーアンが、騎士とセットのヨーマイテスに、ホッとしたように笑った。
その笑った顔に、ヨーマイテスは何か良からぬものを感じたが、気にしないシャンガマックは喜んで飛び出すと、挨拶もそこそこ。すぐさま、その場に置かれた、ずらりとある代物の質問を始めた。
フォラヴが説明し、シャンガマックが質問を続け、イーアンはやっと肩の荷が下りる。
シャンガマックとフォラヴは友達同士、気兼ねなく質問と返答を繰り返すのだが、徐々に、シャンガマックの表情に変化が見え始めた。
イーアンはその変化を見逃さない。よしっ!と心の中で拳を握り締め、ちらっと自分を見たシャンガマックに小さく頷く(※君の疑問は合っている!のつもり)。
褐色の騎士も瞬きで返し、その後、牛の中にいる父を見た。イーアンも、ちょいっと反応を盗み見る・・・思ったとおり。ホーミットの眉根が寄っていた(※顔怖い状態)。
「おい、妖精」
野太い低い声で話しかけた大男に、フォラヴは『はい』と純粋誠実な返事をする。空色の瞳に映るのは、何やら怒っていそうなサブパメントゥの大男。ウシの体内に陣取って、迫力満点。
「何でしょう。私が近くに行きますか?」
「そこで良い。聞こえる。お前、その準備で力を使う気だったのか」
「そうです。これは私が妖精の世界で」
「やれやれ。間に合ったのも運命だな」
軽く遮って呆れたように、ぶるっと長い金茶色の髪を震わせた大男は、自分をじーっと見ている女龍に顔を向ける。
「止めろよ」
「止めましたよ」
二人の低い声の短いやり取り。シャンガマックも困惑しつつ、その意味を理解し、そしてフォラヴもまた『何だろう?』と今更、気になり始めた(←危なかった)。
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