1349. 魔物増量理由の懸念・魔族の首
ドルドレンたちの一日。
『魔物出現報告のあった現地調査』半分、『見つけ次第退治』の予定が、魔物退治ばかりに早変わりし、この日は、魔物を探しては倒し続けて夕方になった。
退治中でも、ドルドレンとミレイオは交代で宿に戻り、赤ん坊のオムツの状況を確認し、運良く(?)ドルドレンが戻った時に、赤ちゃんが一度頑張ったくらいで、後は大人しいものだった(※イーアン・ザッカリアもビックリの現場)。
夕方手前、ミレイオが戻って来て赤ちゃんを見た後、イーアンに『眠ってるから、このまま夕食まで大丈夫かも。あんた、行って来てくれる?』の選手交代を依頼。
数も多いけど種類も多いと、ミレイオが『終わる気がしない』という。イーアン勿論、了解。
馬車にある魔族の種と、赤ちゃん&ザッカリアを宜しくお願いし、送り出された窓から飛んだイーアンは、ドルドレンたちが龍と一緒に魔物退治している現場へ到着後、尻尾と龍頭で応戦し、その場にいる魔物を悉く倒す。
広範囲に散っていると、ドルドレンもタンクラッドも剣なので、どうやっても間に合わない箇所が出る。この場合は私の担当だなと思い(←広範囲担当)イーアンは『まだ魔物の気配があるから、そこには自分が向かう』と伴侶たちに伝えた。
「すまないね。ここまで広がっているとは、俺も思わなかった。よほど増えたのだ」
「そんな感じがします。親玉はいました?」
聞けば、何体かそれらしいのを倒したらしいが『別の場所へ移動すると、また違う魔物が出る』と、伴侶も親方も、バイラもオーリンも、同じことを言う。
イーアン、ちょっと思う。これは・・・魔物が集まる場所でも、近くにあるのでは――
少し考えて、オーリンと一緒に向かうと言い、龍気の問題からミンティンも呼ぶことにした。イーアンの準備に、親方が眉を寄せる。
「お前とオーリン、ガルホブラフで間に合わない?」
「だったら、困る。という感じです。どのくらい、龍気を使うのかも分からないので。一応」
「イーアン、俺も行くか?」
親方は何か察したらしいが、イーアンは断って『ミンティンがいる』と微笑むと、笛を吹いて青い龍を呼び、親方と伴侶とバイラを帰した。オーリンは親方を送る為、一旦、離れてから戻って来た。
戻ってすぐ、オーリンも気にしているようで、待っていた女龍に何を感じたのか訊ねる。
「どうなの。何かあるんだろ?」
「想像しただけですよ。オーリンはあの時いませんでしたが、リーヤンカイのことを思い出したのです」
「リーヤンカイ。あれか、バーハラーの」
そう、と頷き、ミンティンに乗ったイーアンは(※いれば乗る)青い龍に『魔物が集中しているところへ行きますよ』と声をかけた。
連動でもないのに、そんなことがあるのか、と質問するオーリンに、イーアンも首を傾げて『ないとは言い切れない』自分も勘だから・・・と答えた。女龍は移動して数分もすると、一ヶ所に顔を向ける。ミンティンも同じ方向を見て、ちょっとだけ鈴がなるような声を出した。
「ふーむ。こうした嫌な予感は当たりやすい」
「どうした。思ってた通りか?」
「あれ。見えますでしょ。私は気配で感じているけれど。あの黒っぽいの。おかしくないでしょうか。浮いています」
「え・・・あ、ああ。あれ?そうだな。空中に何かあるのか」
二人と二頭が見つめる先には、黒っぽいシミのようなものがあり、そのシミは浮かんでいる。そして、見ている前で、何かが黒いシミから滑り落ちた。
「魔物だろうな」
「そうですねぇ」
「どうするんだ?イーアンだけ、行くのか」
その方が良いでしょうねと頷いて、しまっていた翼を出す、イーアン。龍と龍の民に『支えて下さい』とお願いし、黒いシミに向かって飛んだ。
「よし。じゃ、俺たちはこの辺のを倒すか」
飛んですぐに真っ白に光った女龍を見て、オーリンは自分の龍とミンティンに、見える下方に走り抜ける魔物を示す。
「イーアンの龍気が強くなったら、イーアンが先だ。どうなるやら」
そう言うと、ガルホブラフに魔物を焼くように指示し、オーリンを乗せた龍は、口を開けて滑空。
見送る青い龍も、何となく・・・龍の民の言うことを聞く気にならないものの(※自分のが↑と思ってるから)まぁ、と頷いて、イーアンの様子を気にしながら、四方に散る魔物を追いかけ、片っ端から凍り付かせた。
先に戻ったドルドレンたちは、町の外に置いてあった、回収した魔物の一部を荷物に宿へ戻り、馬車にそれを積んでから、宿屋の中に入ってミレイオたちに、まずは報告。
赤ちゃんも、ザッカリアも昼寝。二人で眠っているので、ミレイオだけが迎えた。
「今。イーアンがオーリンを連れて、対処している。何か感じたのかも知れない」
ドルドレンは、眠る赤ん坊の様子をちょっと見てから、小さい声で伝えてミレイオを見た。ミレイオは『自分も、イーアンの方が良いと思った』だから彼女と交代した、と教えた。
「何か変だったもの。あんなに立て続けに出て来るって、滅多にないでしょ?」
腕組みして座っていたミレイオは、首を傾げて『何かありそうで』と言いながら立ち上がり、戻ってきた3人にお茶を淹れる。
受け取りながら、バイラも『私が初めて、魔物退治に参加した時(※908話参照)。あの時も凄かったですが』と呟き、少し黙る。
「今日の状態は、ミレイオが気にするように奇妙です。山を埋め尽くす数の魔物も恐ろしかったけれど、今日はもっと。何と言うか。こちらが倒すと、次の順番が待ち構えているような。終わりが見えなくて」
「そんな具合だったな・・・あれと似てないか?夜明け前に海から出ただろう。レゼルデに会う前だ(※1168話参照)」
タンクラッドの思い出したのは、鹿の姿で現れた精霊・レゼルデの手前、海上の一戦。ドルドレンも『ああ、そうだ。似ている』と頷く。ミレイオも同感。
「あれも結局は・・・何か。海底に問題があったんですよね?」
詳しくは分からないままの、あの一件。バイラがタンクラッドに聞いたのは、片付けたのがコルステインだったから。
そうだなと、答えたタンクラッドも、実は良く知らない。
コルステインは、よほどのことでもない限り、聞けば教えてくれるし、説明もしてくれるが、一つ困ると言えば『コルステインが重視していないと気にしない』こと。例え『何でだろう?』と思っても、コルステインにとって、その物事が大したことでなければ、そこから先を探らないのだ。
だから、聞いても分かっていないことも多い。あの時も、コルステインは簡潔に教えてくれたが、親方も、あまりちゃんとは思い出せないままだった。
とにかく、連続して別の種類の魔物が、次々に出て来た今日について、4人は『質が変わりつつある』と懸念を持つ。
話ながら外を見れば、少しずつ日が暮れ始め、『イーアンたちはどうしているか』とドルドレンが呟いた。
「冠付きでいるから。まだイーアンの龍気や、ミンティンがいる、と分かるが。しかし」
「お前もそこまで分かるか。ミンティン、オーリン(+ガルホブラフ)はいるんだよな。イーアンが何だか気になるが」
「またぁ?」
小さい声で驚いたミレイオが、ドルドレンとタンクラッドを見る。イーアンはどうしているの!と叱るように訊くミレイオに、タンクラッドは面倒そうな溜息をつく。
「あのな。ミンティンと、オーリンが一緒なんだ。イーアンだけ別世界なんてなったら、どっちかは知らせに来る。どっちの龍気もまだ、俺が感じられる距離だ。イーアンがどうも、分かりにくい・・・ってだけで」
「おかしいじゃないのよ!あの中で一番、龍気が強いのよ。私も何か、途中から『薄いな』とは思ったけど」
「お前だって、気が付いているんじゃないか。俺たちにだけ当たるな」
何でも良いから、探して来い!と怒るミレイオに、タンクラッドは『言うんじゃなかった』とぼやきながらも立ち上がる。ドルドレンが親方の腕を掴んで止め、自分を見た親方に苦笑いで首を振った。
「タンクラッドの言うとおりだ。ミンティンの龍気も感じられる状態で、イーアンに万が一の変化があれば、確実にミンティンが来る。オーリンとガルホブラフだって、それくらいする」
「ドルドレン」
タンクラッド、ちょっとドルドレンの理解に嬉しい。
それから、蔑んだ目でミレイオを見ると『お前と違うな。旦那の意見は』と嫌味を言い放つ。ミレイオが歯軋り。横でバイラがお茶を淹れて、ミレイオに渡した(※宥める)。
ドルドレンは彼に座るように言い、ミレイオに『きっともうすぐ戻るから』と微笑むと、赤ちゃんの寝顔に『お前も・・・そう思うな』赤ちゃんの頬っぺたを人差し指で、ちょびっと撫でて呟く。
そんなドルドレンを、ミレイオは少し黙って見つめると、困ったように、くすっと笑う。
「あんたは。いつもそうやって、イーアンを信じてきたのよね」
「そうだ。彼女はいつでも。俺より先に動き、俺たちを守る。俺が側にいれば、彼女に無理をさせないようにするが、オーリンが側にいる場合、オーリンは彼女を戦わせる。それは時として、俺よりも正しい気がするのだ」
「『戦うのが、イーアン』。そういう意味だな」
タンクラッドもよく知っている。静かに続けると、ドルドレンは赤ちゃんの頬を撫でながら、ニコッと笑って頷く。
「人間の女性だった、最初の頃から。イーアンは傷だらけでも、疲労しても、意識が消えても。立てなくなるまで剣を持った。
今や、段違いの強さだ。そんなイーアンが、自分を知っていて・・・危険を目の前に、戻るとは思えん」
「イーアンも凄いけど。それを、そんな風に言えるあんたも。さすが、選ばれた旦那って感じよ」
ミレイオは聞いていて、この信頼の強さを羨ましく思う。
自分は『イーアンが危ない』と知れば、居ても立っても居られないのに、ドルドレンは待つことを選べる。イーアンのために。一番、心配しているだろうにと思うと、見上げた心に褒めたくなった。
声に出さずに少し笑った、黒髪の騎士は、褒めてくれたミレイオに顔を向けて『もうじき戻るよ』と答えた。
その言葉は、時間をかけずに数十分後に叶う。
夕焼けの空に龍気が一度増え、バイラを除く皆が窓に顔を向けた。眠っていたザッカリアも気が付いたか、パチッと目を開けて窓を見て目を細める。
それは横に寝ていた赤ちゃんも同じ。目を開けた赤ちゃんの青い瞳がキラッと光って、目の合ったタンクラッドがすぐに抱き上げた。
「んんん」
「お。何だ、怖いのか。大丈夫だ、よしよし」
赤ちゃん、初めて。何となくだが、感情を声にした。お風呂で力むのを聞いていたドルドレンでも、赤ちゃんの今の反応は『感情の表れ』と分かる違い(※力んだ時も、うんうん言ってた)。
怖がっているのか、何なのか。赤ちゃんはタンクラッドにしがみつき、窓を気にして『んんん』と唸り続ける。
しがみ付き方が、シャツに潜り込みそうな勢いなので、タンクラッドは『廊下に出ている』と皆に言い、赤ちゃんと一緒に部屋を出た。
「赤ちゃん。どうしちゃったんだろう」
起き上がったザッカリアも心配そう。首を傾げるミレイオは『何か感じているのよ』としか言えなかったが、その理由は、すぐに見える形になった。
「来た。来たぞ!イーアンだ。オーリンも(+ガルホブラフ)、ミンティンも」
ドルドレンが窓に寄って、向こうの空に見える白い光に手を振る。『イーアン!』近所構わず叫ぶ総長に、ザッカリアがすぐ『ここは宿だから』と注意した。
「心配だったのだ」
「でも。知らない町だからダメだよ」
注意を受けたから、それ以上は黙るドルドレン。でも我慢するまでもなく、龍は近くまで来て、イーアンとオーリンだけを残して空に上がり、イーアンがオーリンの背中を抱えて宿の部屋に降りた。
「遅くなりました」
「心配したか?」
と言いつつ。オーリンは降ろされるなり、ぱっとイーアンから飛び退く。その動きに、部屋にいる4人は、オーリンをさっと見て、それからイーアンに振り向く。二人は苦笑い。見れば、イーアンは片手に何か包みを持っている。
「それ。外のが良いだろ?」
「私もそう思います。ちょっと、出て話しましょうか」
「待て待て。何なのだ。外に出るのは構わないが、何か持ち帰ったのか」
ドルドレンはすぐに止めて、外に出る手前に話しなさい、と奥さんに言う。
奥さん、大きく頷くと、腕に持った包みを皆から離し、もう片手で指差し『これはですね』とゆっくり。それに続けるオーリンの声。
「(オ)魔族」
「(ド)な。何?!」
「(イ)そうなりますでしょ?魔族の首です。切り取ってきました」
「(バ)うへっ!」
「(ミ)ちょっ、何考えてるの、あんた!」
「(ザ)えっ!それ首入ってるの?!」
あ~、まぁまぁ、と・・・慌てふためいてドアに避難する皆に、片手で落ち着くように示すイーアン。
「(イ)死体ですから。これ、種もありません」
「(ド)そうじゃないのだっ!何を持ち込んで」
「(イ)落ち着いて下さい。ドルドレン、裏声ですよ」
落ち着けるわけないだろう!!! ドルドレンの裏声が甲高く、笑っちゃいけないけどオーリンが失笑する。バイラもミレイオもザッカリアも、イーアンの包みをガン見。
苦笑いした女龍は、『では。外へ出ます』ともう一度言うと、そのままパタパタと窓から出た。通りに人がちらほらいて騒ぐので、イーアンはちょっと手を振る(※女龍人気)。
「せ。説明、説明しなさい。そんな危険なものを」
「ドルドレン。それを言おうと思ったから、外でと最初に伝えたのです」
「うちの奥さんは、奥さんは」
動揺が激しいドルドレンはクラクラし始める。そんな大声を聞いたタンクラッド、しがみ付く赤ん坊のために廊下で待っていたが、何だか穏やかではない言葉(※地獄耳)にやれやれと笑って、扉を開けた。
「ミレイオ。赤ん坊を抱いててくれ。俺がイーアンの話を聴こう」
「そうだね。こういうのは、タンクラッドが良いかもな。外出るぞ」
オーリンも部屋を出て、赤ちゃんはミレイオに。フラフラしている総長をちらっと見ると『休んで待ってて』と龍の民は済まなそうに笑い、苦笑いのタンクラッドと一緒に宿の外へ向かった。
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