1348. 別行動:シャンガマックの復帰希望
一方。シャンガマックは、魔法陣で昼休憩前。
気が付けば、魔法使いの墳墓で手に入れた(※1132話参照)、魔導書の4分の1まで進んだ。
まだまだ覚えることはあるが、シャンガマックは時々、仲間を助けに動く時、確実に自分の状態が上がっていることに自信を付けていて、そろそろ馬車に戻っても良い気がしていた。
――もう。馬車を離れるようになってから、1ヵ月以上経っている。
それを思うと、何度か参加しに出かけてはいるが、自分が知らないことも増えていそうだし、仲間の中での自分の役割を果たしていない気もして、シャンガマックの頭に、『戻る必要』が幾らも浮かんでくる。
ヨーマイテスは。昼用の獲物を獲りに出かけており、シャンガマックは早い昼を待つ間、これをどう、父に話そうかと考える。
普通に話せば、まず間違いなくへそを曲げる(※正)。
でもいつまでも、仲間と離れているのもおかしいので、一旦は馬車に戻り、皆と旅をしながら、また必要に応じ、魔法の上達を目指した方が良いと思う・・・そのことを。
「バニザット」
ハッとして顔を上げると、獅子は獲ってきた魚を魔法陣に落とし、炎を出して魚を焼き始め、影の濃い場所へ引っ込む。シャンガマックも彼の側へ行き『あのね』と考え事を相談したい、と持ち掛ける。
獅子の碧の瞳が、何やら感づいたように動いたのを、シャンガマックは見逃さない。
じっと見つめると、獅子は嫌そうに『ろくでもないことが起こりそうな気がしている』と、口悪くぼやく。
笑うシャンガマックは『ろくでもないこと。そうじゃないよ』と答えたが、指輪をしている二人に、頭の中の考え事が筒抜けであることを、シャンガマックは思い出さなかった(※父は知っている)。
連絡珠同様、頭の中の声を伝えないためには、指輪を外す以外ないのだが、外そうとすると常に父に見つかるので(※『なぜだ』と言われる)付けっぱなし。
でも、付けていても、直にヨーマイテスに呼びかけない限りは、ヨーマイテスも反応しないから(←素知らぬ振り)いつもではないのだろう、と理解した(※父は過干渉)。
思っていること・考えていることが、丸々、父に通じていると思っていないシャンガマックは、どう話しだそうかな~と考えながら(←これもまとめて流れる)『最近、思うんだけど』と言い出す。ヨーマイテス仏頂面。
「悪く取らないでほしいんだよ。最初に言うけれど」
「どうやっても、悪くしか受け取れない時の予防線だな」
「何でそんなこと、言うの!そうじゃないよ、って俺は言っている」
ハハハと笑って、獅子に寄りかかり、鬣を撫でながら、笑顔そのまま『俺も魔法が使えるようになってきた、と思うんだ』騎士は遠慮がちに、第一段階へ進む。獅子の目が据わる(※『来たな』って感じ)。
「そうか」
「うん。ヨーマイテスも褒めてくれるだろう?危なくないように操るのも、一連で出来るし。道具によって、応用する形も威力も変えられるし」
「そうだな」
「だからね。最近はあまり魔物も退治していないし、そろそろ魔物相手に、この魔法を使っても良いと、俺は思うんだが。ヨーマイテスはどう思う?」
ひたすら小出しにする息子の笑顔が覗き込み、獅子はふーっと溜息(※いつもの息とあんま変わらない)。
「魚。焼けたんじゃないのか」
「あ。本当だ。ちょっと待って、食べながら話そう」
「もう終わりでも俺は構わん」
そんなこと言わないで!と笑いながら、シャンガマックはいそいそ魚を取りに行き、こんがり美味しそうな焼き魚(←切り身)を持ってくると、獅子の口に差し出す。
据わった目のまま、口を開ける獅子に食べさせ、自分も頬張ると『美味しいな。いつも有難う』と、獅子に満面の笑みでお礼。
尻尾は無意識でも振ってしまうが、獅子の顔は頑なで、息子のお礼に小さく頷くだけ(※何言われても、息子の作戦に思えるヨーマイテス)。
「思えば、ここには魔物が出ない。そうしたこともあってか、俺も少し緊張が緩んでいるが、やはり現状は『魔物が横行するテイワグナ』なんだ。
ここに来て1ヵ月は経っている。それなりに力も付いた。魔物退治に」
「ここに魔物が出ないのは、そうした場所だからだ。それと、この外に出た奴は、俺が倒している」
俺は魔物退治をしているぞ、と。ヨーマイテス的には『ここでも役目なら果たしている』と息子を押さえたつもりだった、が。
褐色の騎士は、口に入れた魚を飲み込むと『そうだったのか?』驚いたように訊き返す。
「驚くことじゃないだろ。獲物を取りに行った時、近辺なら俺が倒している」
「ヨーマイテス、俺に言わないから」
「言う必要がない。完了している。お前が気にして練習出来ないのも困る」
「ああ。俺は。一人で何も知らず、のうのうと練習していたのか!」
いきなり悲しそうに声を上げた息子に、ヨーマイテスは困惑する(※顔変わらない)。
なぜだ?なぜ、息子はいきなり悲しんでいるんだ。狼狽える父の心境は伝わらないが(※遮断技)息子の心の中には『俺だけ何もしていなかったのか』と、彼が自分を責める思いが溢れる。
「バニザット、のうのうと練習だと?そんなわけないだろう、言い過ぎだ」
「でも。皆が毎日どこかで戦っていて、ヨーマイテスも、ここで魔物退治をしていたと知ったら。俺は一人、何もしていなかったんだ」
「お前が決めたんだぞ。お前が、自分が魔法を使えるようになるまで、ここで集中して頑張る、と。それを『のうのう』なんて言い方するな!お前は、のうのうと練習したか?違うだろ?
魔物退治をしていないことに『何もしなかった』と思うのも間違いだ。俺が、お前の分まで引き受けているんだ。分からないのか。
お前に力をつけさせるために、お前の集中を乱さないために、俺が出来ることをしていたんだ」
ヨーマイテスは、ちょっと怒った。
まるで、ここにいることを『サボっている』とした言い方に、魔物退治をしなかった時間を、丸ごと否定しているように聞こえ、何のためにここに居るんだ、と叱った。
ハッとして、悲しそうな顔を引っ込めたシャンガマックは、『ごめん』と謝る。怒った獅子に、済まなそうに頭を下げて『ごめん。よく考えもしないで』反省を続けて、少し黙った。
「こっちへ来い」
獅子が、寝そべる自分の横に首を向けたので、シャンガマックは頷いて移動し、横に座る。獅子は大きな手を伸ばして息子を引き寄せると、自分の鬣に押し付けた。
「お前の良いところは、沢山ある。だが、真面目なのも方向を間違えると、困りもんだ。自分が使った時間の意味を、自分の言葉で台無しにするな」
「うん。ごめん」
「俺に謝るな。自分に謝れ」
シャンガマックは少し落ち込んだ。声にせずに頷いた後、ヨーマイテスの豊かな鬣に両腕を伸ばして抱きつくと、毛に埋もれながら目を閉じて溜息をついた。
「どうした」
「俺は。ダメだなぁ、と思って」
「そういう方向に繋げるな、って今、教えたんだ。ダメなんて言うな」
「でも。ヨーマイテスの気持ちも傷つけてしまった」
「俺は傷ついていない。怒ったが、それはお前を育てるため。お前の努力を、お前自身が踏むのを許さなかっただけだ」
大きな言葉を、即答で伝えてくれる賢い父に、シャンガマックは彼への尊敬と、自分の未熟さとを並べて味わう。体を起こして、獅子の顔を見ると、獅子の碧の瞳もこちらを見ていた(※父に筒抜け)。
「行くのか」
「うん?行くって?どこへ」
「魔物退治だ」
いきなりその話に戻されて、シャンガマックは何度か瞬きする。『その、俺が行こうと思っているのは』慌てて、自分が馬車に戻ろうと思ったことを、この機会に繋げようと言葉を考えるが、即興が苦手なシャンガマックは続かない。
獅子は自分で言ってしまったものの(※息子に甘い)嫌そうに目を閉じて天を仰ぐ。
「馬車だろ?お前が魔物退治に出たい、先は」
イヤイヤ。渋々。息子が言い難そうにするのを見ていられないヨーマイテスは、仕方なし、先に振ってやる。息子を見ないようにしていたが、首っ玉にぎゅうっと、息子の両腕が締め付けられる。
「あーあ(※やっちまった感と後悔)」
「ヨーマイテス!大好きだよ。有難う!分かってくれて!」
ぎゅうぎゅう抱き締める息子に、無意識で喜ぶ尻尾は振るものの(※バッタンバッタン振る)心境は真逆。げんなりしながら、『別に』と低い声でぼやいて返す。
「何て優しいんだろう!ヨーマイテス、本当は嫌かなと思ったんだ(※100%そう)。だから言い難かった。だけどね」
「もういい。あんまり言わないでくれ。本当は嫌か、って?当たり前だろ」
憎々し気に答えるが、シャンガマックは嬉しくて仕方ないので、獅子を抱き締めて『スフレトゥリ・クラトリで行けば良いよ』と妥協案(※でもない)。
はいはい、と頷くヨーマイテスに笑いながら顔を寄せて、獅子の真ん前から目を見つめる、笑顔のシャンガマック。
獅子、ものすごい不機嫌(←自分で言ったくせに)。ニコーっと笑ったシャンガマックは、獅子の顔を両手で挟んで、額を付けると『本当に有難う』と目を合わせたまま呟き、金茶色の毛のある広い鼻に、感謝を込めて口付けた。
獅子は。これで充分だった(※チョロい父)。
息子が顔を離したので、獅子はもう一度するように命じ、笑ったシャンガマックがもう一回、鼻に口付けると、顔に変化はないものの『じゃ、行くか』と、あっさり出発を促した(※尻尾は大振り)。




