表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1346/2964

1346. 旅の百日目 ~ずさんな警護団・魔物退治と時の剣

 

 翌朝。昨晩の土砂降りに洗われたように、すっかり晴れた、町の風景。



 ロゼールの帰った後の、旅の一行は朝食時に集まって、本日の予定を話し合う(※歯ブラシは一番に頼む)。

 どうも、ここには()()()()()()()としたことから、バイラの話と、自分が昨日、町長に聞いた内容を合わせ、ドルドレンが行動の目的と、時間割を決める。


 魔物退治のために来ている自分たちだが、あからさまに分かる相手からの『魔物が出るまで待っていて』『倒したら、念のために暫く居てくれ』の希望は避けている。

 魔物が出るまでの時間が『毎晩、毎日』のような状態なら、留まるが、いつか分からない状況では、そこに期日の制限なく滞在も出来ないので、断るようにしているが。


 ここはそうではないと分かったので、とにかく報告に上がった地域を調べ、魔物はすぐ側にいるとして退治に臨む。


 職人組4人、騎士二人、バイラ。そして、赤ちゃん(※オマケ)の計8名。


 ミレイオが抱っこしていたのを、腕を伸ばした赤ちゃんに反応した親方が受け取り、親方が赤ちゃんを揺らしながら、オーリンが新しく作ったおしゃぶり(※夜中に作った)を(くわ)えさせて調子を見つつ、イーアンは焼き肉を赤ちゃん用に小分けにしながら、ドルドレンの話を聞く。


 その自然な状態を、バイラはしみじみ『この人たちは順応性が高い』と見つめていた。いつもならここで、バイラはちょっと笑ったり、自分も赤ん坊のために出来ることを話そうとするのだが。


 今朝は気持ちがそこまで回復せず、苦しいものを抱えた状態で黙っているだけだった。


 そんなバイラをずっと気にしているドルドレンと、横に座ったザッカリアは、いつものバイラがこんなに沈んでいる状態に気を揉んだ。


「ということだ。イーアンとザッカリアが残ってくれ。赤ん坊はもうすぐ眠るだろう。

 ミレイオは最初から分かっていたことだが。俺もどうも、ビルガメスが言うに、魔族の種にやられないようだ。男龍サマサマである。

 だから。オーリンとタンクラッド、俺とバイラ、ミレイオで二手に分かれて調べよう。オーリンも魔族の種は問題ないから、タンクラッドは龍の着物で出かけるように。

 俺とバイラとミレイオで移動するが、俺とミレイオは交代で、赤ん坊の様子を見に来る。オムツ交換の可能性だ」


 どうやっても、オムツ重視な総長に、何となく皆が笑いそうになるが、ドルドレンとしては『一番弱い存在の安全と健康を守る』意識なので、オムツが汚れて嫌な気持ちはさせたくないという配慮。


 ちらと皆を見たドルドレンは『食事中だから控えるが』と、先に言うと咳払い。


「お前たちだって。自由に手洗いに動けるから、意識も散漫することなく、他のことを頑張れるのだ。笑いたいような顔つきに見えるが(※全員)笑うことではない。

 自分でどうにも出来ない時代(←赤ちゃん期)は、他人がどれくらいそこに注意を払って、丁寧に対処してくれるかで、日々の在り方は大きく異なる。

 昨日も話したが、赤ん坊は衛生管理が何より大切だ。大人と違うのだ」


 可笑しそうな職人たちの、真面目につくろった顔を、疑わしそうに眺め、ドルドレンは食事を続けながら『俺の感覚は、行き過ぎではない』そう呟いて、それではと、決定した今日の動きをお浚い。


 魔物退治の仕事も、オムツ交換の重要を取り込んで。

 きちっと、範囲分担・調査時間・交代制(※オムツ担当)を伝え、皆が頷く。


「よし。では行くか。昨日、町長には俺たちが『龍に乗る』と話しておいた。ショレイヤとガルホブラフは、町の外で呼ぶ。

 バイラは俺のショレイヤに乗ってくれ。ミレイオはお皿ちゃんだな。オーリン、タンクラッドを頼んだ」


 宿屋には、イーアンとザッカリアが部屋に残ると伝え、この二人と赤ちゃんがお留守番。


「ザッカリア。イーアンは赤ん坊に触れない。お前が抱っこして疲れたら、ベッドに寝かせなさい。食事や水・・・じゃないな。肉汁の手配は、イーアンに任せてある。

 くれぐれも、この赤ん坊の口には気を付けるように。一度でも噛まれたら指が消える(←赤ちゃんによって)」


「分かった。気を付ける」


 頼んだぞ、と総長に言われて、ザッカリアは子守りの責任を引き受けた。

 イーアンは実質、『役立たず状態』の自分に、何となく居心地悪いが、こればかりは仕方ないので、とりあえず全身グィード・セットで、龍気を紛らわすだけ。


「魔族の種は馬車の荷台だ。もし、危険があれば」


「大丈夫です。その時は私が持って遠くへ運びます。結界なんて私には使えないけれど、龍気の中に留めるくらいは出来るでしょう」


「うん。頼んだよ。では、俺かミレイオが交代で様子を見に来るから」


 こうしたことで、イーアン&ザッカリアは赤ちゃんと一緒に、宿の部屋で待機。ドルドレンたちは町の外へ、魔物調査のため、出かけて行った。




 *****



 町の外で二手に分かれ、オーリンたちと反対側へ飛んだ、総長とバイラとミレイオ。バイラが昨日調べた地域をまず見回り、集落の二つに『龍がいる』と喜ばれ、すぐに苦しい事情を聞き、どちらの集落でも彼らを励ました3人は、いざ。見当を付けて来た場所へ向かう。


「バイラ。龍と一緒だから、精霊の剣が使えないだろうが」


「大丈夫です。あれ以降、剣はこれまでのものも一緒に連れていますから」


「そうだな。剣が二本下がっていると、強そうなのだ」


 ドルドレンに褒められて、バイラは声を出さずに笑うと『見た目だけ』と答え、笑顔を戻しながら溜息をつく。後ろに乗るバイラの溜息に、ドルドレンは少し間を置いてから話しかける。


「昨日の。駐在所で見た資料だが」


「はい」


「俺の立場でそれを見たら。俺なら、そこを壊す勢いで怒鳴り込むだろう」


「そうでしょう。私は移動する立場の、役職も中間くらいですから」


「うむ。しかし気持ちは一緒だ」



 昨晩。バイラが夜遅くにずぶ濡れで戻った時。赤ちゃんとミレイオを地下に返し、奥さんに先に寝ていてと伝え、ドルドレンだけが宿の一階で待っていた。


 バイラが戻った姿に、すぐに風呂へ案内し、剣などの装備は預かったのだが、その短い時間で、彼の態度が気になって仕方なかった。

 いつもなら簡潔に、離れていた時間の報告する男が、口を閉ざし、こちらも見ずに、辛そうに呻きながら、何度も唾を飲み下す様子には、ドルドレンも『何かあった』としか分からなかった。


 風呂を上がる前に彼の着替えを馬車に取りに行き、着替えと靴を脱衣所に置いたドルドレンは、彼が一階のホールに戻るのを待ち、風呂から出て来たバイラに、取り置いてあった食事を勧めた。


 食べながらバイラは、起きて待っていてくれたことに礼を言い、そして遅くなったことを詫びたが、何があったかを話そうとすると、その口は重くなった。


 ドルドレンが問い質さずに静かに側にいたことで、バイラは少しずつ、自分がこうなった理由を話したのだが、話し終わる頃にはがっくりと項垂れて、ドルドレンの中にも彼を理解する気持ちが満ちていた。


 バイラの話。どこでもありそうだ、と言えばそれまで。だがそれで済ませてはいけない、状況が起こっている。



 ――リャンタイの町の『警護団が来ない』話から始まり、この地域を管轄する、警護団内の動きや指導状況の資料を読み、驚いて、近々の記録などを調べたバイラは、愕然とした。


 魔物に襲われたことに対処しないのは、どこも同じだが、襲われても誤魔化したり、被害で死者が出ているのに伏せたり、挙句に『魔物退治の申請が出た場所は見回りを中止』『〇〇地区警護団は〇〇地域の管轄を一時見合わせ』と指示が出ていたこと。

 また、民間からの被害申告数の多さにも驚き、これまでにない被害状況ではと、調べたバイラは、既に集落の一つが消えたことや、死者の放置なども知り、杜撰(ずさん)な現状に、怒りと悲しさで心がいっぱいになった。


 テイワグナ警護団が、しっかりしないといけないのに。

『魔物退治で〇月より派遣された、ハイザンジェル騎士修道会の団体が来たら、退治を任せる方向で』と書かれた文を見た時には、その資料を二つに破った。


 悔しさも情けなさもこみ上げて、バイラの茶色い瞳は溢れる涙に濡れた。多くの民と友を殺されても、尚、命を懸けて戦う人たちが来てくれたのに。

 無様なこの感覚、情けない他人任せな警護団(俺たち)の軽さ・・・思えば思うほど、止まらなくなる嗚咽を抑えて、その場で泣いた。


 怒りが静まることはなくても、バイラはするべきことを考えた。駐在所で調べた内容の幾つかを、日付と地区と記述した人物の名も添えて、二枚の紙に抜粋して書き写した。それを油紙に包んで腰袋に入れる。


 この時、駐在に泊まりで入っていた団員は、既に眠っており、バイラは苦々しい思いで彼を一瞥すると、戸の鍵をかけて外へ出た――



「ラ・・イラ・・・バイラ?」


 名を呼ばれて、ハッとしたバイラは、慌てて顔を上げる。心配そうに振り返る総長が『話して良いか?』と遠慮がちに訊ねたので、急いで頷き『すみません。どうぞ』と促す。総長は下方を指差し、この辺りだと教える。


「どうする。降りるが、大丈夫か」


「はい。大丈夫です。行きましょう」


「無理はさせたくないのだ。真面目なバイラだから、心を痛めて」


()()()()()しっかりしたいです。気にしないで下さい」


 そうか、と彼の答えを受け取り、ドルドレンは横に並んで飛ぶミレイオに『降りる』と教え、頷いたミレイオと龍は、同時に下降し、下方に広がる大きな谷へ向かった。



 *****



「うじゃうじゃいるな」


「まぁ。この程度なら、あまり困らん」


 余裕だね!と笑う龍の民に、タンクラッドは下を見ながらフフンと鼻で笑い、時の剣を振っては、山肌を駆け下りる魔物の群れを消し飛ばす。


「ガルホブラフに影響があっては敵わんからな。力は恐らく出ているだろうが、最小限だ。ほぼ使ってない」


「それでも、()()()()()()()って楽だよな」


 なんか飛ばすって言うなよ、と笑う剣職人。オーリンも攻撃しようかと思ったが、タンクラッドの剣だけで問題なさそうなので、乗っているだけ。


「それ。時の剣ってさ。もとから()()()()()()みたいなやつ、出てたか?」


「カングート戦で手伝っただろう(※457話参照)。あの時からだな。それまでは普通の剣だ」


「あ、そうなの。じゃ、やっぱり()()()()ってことか」


「うん?系列」


 剣を振りながら、光の鎌を飛ばす親方に、オーリンは振り向かないまま頷くと『ミンティンとイーアン、俺とガルホブラフがいただろ』と言う。だから触発されたんじゃないの、と。


「まぁ。そうだな、そうかも知れん。この剣であの奇獣を倒したわけだから」


 剣を振るって、山肌を下りる魔物をどんどん消し続ける親方は、ザハージャングと剣の関係をぽつりと呟く。オーリンが振り向き『あいつか。あの双頭の』彼の黄色い瞳に緊張が走る。


「この話・・・イーアンに話そうと思って、いつも忘れるんだけどな。丁度良いから、タンクラッドに教えてやるか」


 少し考えたように、声が低くなったオーリンは、黒髪をかき上げて『あのな』と剣を見つめた。


「龍の民の町。俺の親がいるところだ。その剣の持ち主だった、最初の男の事だと思うが、()()があるんだぜ」


「何?本当か。最初の・・・ということは、始祖の龍の」


「だろうね。ズィーリーたちの時代は、イヌァエル・テレンが閉ざされていたから。

 彼がその奇獣を倒す前なのかなぁ。その辺はよく分からないが、絵でね。地面に・・・こう。デカい絵があるんだよ。

 よくこれまで消えなかったなと思ったら、他のやつが言うには『消えない絵』なんだってさ。何度擦れても戻るんだと」


 オーリンの話に引き込まれかけては、魔物を倒す親方。余裕のある時に訊きたいが、オーリンも気まぐれなので、次はいつ話すか分からない。今しかないかも、と思えば、魔物退治しつつ、龍に場所の指示を出しつつ、の傾聴状態。『それで』と促すのが精いっぱいで、逃げそうな魔物も、めざとく見つけて倒す。


「どうもね。その剣が生まれた理由だと思うんだよ、俺が見た限り。

 地元のやつは、剣のことも、この魔物退治の話も知らないし、感心がないから、絵があっても何とも思ってないんだけど、剣の出生みたいな感じだろうね。既に男がいてさ・・・あっ!と、あれ大玉だろ?!」


 え?と驚く親方、引き込まれた瞬間、魔物の大玉が出たと叫ばれ、急いでガルホブラフをそちらへ向ける。ここからはオーリンも、龍に動きの指示をしながら大玉の上まで移動して、タンクラッドが降りて切るまでに動きが入り、話はそれまで。


 大玉退治で、相手の爪のような部分を回収対象として、一先ずそこに置き、小物の逃げたものを追いかけた二人は、その種類の魔物全てを、気配が消えるまで倒し切ってから、回収場所へ戻り、それから町の近くへ飛ぶ。


 タンクラッドもオーリンも、この時にはもう、先ほどの話は後回し。回収したものを町の外に置くと、休む間もなく、続いてドルドレンたちの手伝いに急いで向かった。

お読み頂き有難うございます。

ブックマークを頂きました!有難うございます!

お礼の気持ちに絵を描きました。

もし宜しかったら本日活動報告に上げましたので、いらして下さい。

↓2/9の活動報告URLです。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2737023/


2/11日は、1日お休みします。どうぞ宜しくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ