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魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1344/2964

1344. 宿屋の夜 ~ロゼール帰宅・赤ちゃんの世話

※赤ちゃんの日常の都合により、おトイレ事情が含まれます。苦手な方・お食事中など、場面に相応しくないと思われます場合、どうぞご注意ください。

 

 旅の一行が、それぞれの目的を済ませて宿へ戻ったのが、7時前。

 夕食は少し前から提供され始めていて、タンクラッドとイーアン、ザッカリアとロゼールは先に食べていた。


 ミレイオとオーリンは、彼らが食べ始めてすぐに宿に戻って、ドルドレンがその10分後くらいに入った。バイラのいる駐在所に寄ったところ『先に戻っていて下さい』と言われたドルドレンは、帰って来た次第。


「コルステインがもう待っているからな。先に食べているが。俺が部屋に上がる時、赤ん坊はミレイオに預けるぞ」



 タンクラッドは食べながら、席に着いたドルドレンに、食事を勝手に始めた理由を伝え、そんなの知ってます、くらいの顔をする総長(※よくある)に笑うと、赤ん坊に『お前も忙しいな』と言った。赤ちゃん、ボーっとしているので無反応。


 ドルドレンとしては。赤ちゃんの世話をした方が良い気になっているが、自分は奥さん()と一緒なので、ここは黙る。イーアンはそんな伴侶を見て、ドルドレンは責任感が強いから、きっと夜も見てあげたいんだろうと察した。


 ミレイオが『分かった』と普通に答えて、赤ちゃんを見てニコッと笑うと、赤ちゃんもちょっとだけ笑う。宿の人から見えないように、包んだ布を引き上げ、タンクラッドは赤ちゃんの顔だけ出しておく。


「宿の人間には見せていない。俺が抱えている分には見えないからな。気を付けろよ」


「そうね。あんた、伊達にデカくないから、こういう時は使えるわ」


 何だその言い方は!と怒る親方に笑って、ミレイオは赤ちゃん用に汁物の肉を取り、『ほらお食べ』と摘まんで差し出す。赤ちゃんの口がパカッと開くと、ミレイオはポイと投げ込み、赤ちゃんはモグモグ。


 皆はそれを見つめて『動物にあげているみたい』と思ったが、確かに、赤ちゃんの牙は強力なので『あれが一番なんだろう』と理解する(※下手すると木の匙折れる)。


 イーアンも、朝食時に赤ちゃんに使ったお匙が傷だらけだったのを思い出すと、ミレイオの与え方が適切な気がした。それでも、うっかり指を噛まれたらと想像すれば、痛い・出血程度で済まないような印象もあり(※指喰われる)出来れば、分厚い金属製の匙が欲しいと思った。


 それを伴侶にポソッと伝えると、伴侶は宝石のような灰色の瞳をちらと向け『安心しなさい。買ったから』と一言返した(※万全)。


「え。買ったのですか」


「買った。と思う。まだ、荷を確認していないが、ミレイオに買い出しで頼んだのだ。薬用匙の、ヘラみたいな匙である。あれは金属で厚い。人が口に運ぶための物ではないからだろうが、厚さなど適当なものなのだ。肉を乗せて運ぶだけだから、それで良いと思った。

 俺は匙はともかく。歯ブラシがあったかどうか、そっちが心配」


「歯ブラシ。()()()()、と仰ってた。でも私、ものの多い世界から来ましたが、歯ブラシに強靭な柄を用いたの、以前の世界でも見たことないのです」


「仕方ないのだ。牙の生えた赤ちゃんは特殊である。それにこの赤ん坊は、顎の力も相当だ。イーアン、あれ、見たか」


 見たかと訊かれ、何かと思ったイーアンは、ドルドレンが、オーリンとタンクラッドに視線を向けたので、彼らを見る。話が聞こえていた二人は、苦笑いで顔を見合わせ『あれか』と呟いた。


「馬車に置いて来たけどさ。この()()()、鹿の骨砕いちまったんだよ。しゃぶってたら、柔らかくなったのかもね」


 タンクラッドの横に座っているオーリンが、可笑しそうに赤ちゃんを見て『な』と同意を求めると、赤ちゃんはちらっと見てゲップし、オーリンはハハハと笑う。


 それで、さっきはおしゃぶり()を持っていなかったのかと、驚いて言葉がないイーアンに、食べながらドルドレンは『()()()()()歯ブラシがないなら作る』と伝えた。

 うちには職人が4人もいるしね(←奥さん含む)・・・安心しきったように頷き、特に赤ちゃんに何を言うでもなく『赤ん坊も人それぞれ』くらいの許容量で受け入れていた。


 そんなドルドレンに、イーアンは改めて、伴侶が凄い人だと思った(※そりゃ私くらい平気だな、と)。



 食事中、赤ちゃんはちょいちょい、ミレイオとザッカリアから肉をもらい、ミレイオが水で薄めた汁物をタンクラッドに渡し、タンクラッドはそれを赤ちゃんに飲ませた。


 赤ちゃんはよく食べて、よく飲む(※肉と肉汁)。ドルドレンは排便が気になって仕方ない。赤ちゃんを気にかけながら、急ぎ目に食べ終わると『ミレイオが連れて行く前に、オムツを替える』と宣言し、ミレイオとタンクラッド付きで、ドルドレンは食堂を出て行った。


『ゆっくり食べなさい』と言われたイーアンは、彼らを見送りながら、きっと伴侶が二人に指導するんだろうと思った。

 席に残った、オーリンとザッカリアとロゼールと、赤ちゃん話を続けながら、イーアンはロゼールが今夜戻ることも知る。そうなの?と訊ねると、ロゼールは腰袋から紙を引っ張り出して渡した。


「はい。今日戻って、また来ると思います。それで、その時までに」


 これ、話そうと思っていたのですがと、イーアンに言伝を教え、ふむふむ了解するイーアンに『オーリンたちにも手伝ってもらえたら、種類が集まるからお願いします』と頼んだ。


「絵を描くのですね。指導用というよりも『こうした魔物がいた』と知識で」


「そうだと思います。何て説明する気かは知らないですが、あった方が良いのは分かるんで」


 最初の頃、そんな話をしたことを思い出すイーアン。


 モイラの宿に泊まった時、絵の具を買って伴侶に見せたら、伴侶は『魔物の絵も描けるか』と訊いたのだ(※217話参照)。その話の後、それどころではなくなったけれど、巡り巡ってこういった展開もあるのね、としみじみ請け負う。


 ロゼールは次回に受け取りたいから、それまでに、絵と、使った画材の領収書も用意しておいてと話した。機構に請求しておくが、先に自分が支払うと言うので、イーアンはお礼を言ってお願いした(※業務)。


「で。まぁ、それは良いんだけどさ。お前、どうやって戻るんだ。雨だぜ」


「はい?雨?」


「ロゼール、見て。雨だ。気が付かなかった」


 雨脚の強まる音を聞いた、オーリンが窓を見て、つられて窓を見たザッカリアも驚き、ロゼールを振り向く。ロゼールもイーアンも、窓ガラスに打ち付ける雨を見て『降っていたんだ』と意外。


「さっき降り出したんだろ。総長が戻った時、雨に濡れていなかったし。急に降って来たから・・・とは思うが、止むのがいつとは分からないね。今日は泊まったら?」


「うーん・・・そうですねぇ。いつも飛んで戻るから(←コルステイン一家)これじゃ濡れちゃうな」


 荷物もあるよ、とザッカリアも心配する。イーアンも『明日にすれば』と無難な方向を促すが、ロゼールとしては、今回ちょっと仕事が気掛かりで、もう帰ろうと考えていたところ。


「一応。総長にも『今日あたり、町に入ったら帰るつもり』とは言っておいたんです」


「総長だって、泊まれって言うぜ。かなり降ってる。この辺だけかも知れないが、山越える間は降ってそうだ。コルステインたち、雲の上までは行かないだろ?」


 オーリンは背凭れに片腕をかけて、後ろの窓を見ながら『龍なら雲の上まで行くが』と高度の低さを気にした。


「コルステインたちは、そうか・・・雲の下は飛ぶけれど。雨、濡れますよね」


 天気は仕方ないよ、と皆に言われて、ロゼールもそうだなと思う。土産の菓子もあるし、これは明日かと諦めた時、ドルドレンが来て『ロゼール、ちょっと来い』と声をかけた。


「はい。あの、俺今日帰ろうと思ったんですが、雨が」


「それだ。今日、帰るならコルステインが、今来ているから。連れて行ってもらえ」


 ドルドレン、堂々と『今日帰れ』と言う。ロゼールの森の緑のような目が大きくなり『雨、凄いんですよ』と、総長に外を見て!と視線を動かしたが、総長は頷く。

 普通に頷いただけの総長に、オーリンたちもビックリ。オーリンがちょっと笑って、窓を指差す。


「総長、これは可哀相だぞ。雨が強いから、ロゼールが」


「うむ。俺も『雨が降っているな』とは思った。だが大丈夫だ。コルステインが呼んでいるから、早く支度するように」


 えええ~ 冷たくさえ感じる総長の発言に4人が引いていると、ドルドレンは皆の視線に咳払い。


「俺が酷い奴だと思っているだろう。イーアンまで、そんな目をして。そうではない。コルステインは彼が雨に濡れないよう、送り届けてやると言っているのだ。だから『行け』と言ったのに」


「あ。そんなこと出来るんですか(※あっさり)。それなら、じゃあ」


 全く、と嫌そうな顔をした総長は、そそくさと馬車へ荷物を取りに行った部下の背中を見つめた後、食卓にいる3人に顔を向け『俺がそんなに酷いわけないだろう』とぼやいた(※イーアンは目を瞑って頷く)。



「それでだな。これから風呂だ。有難いことに、この宿屋は俺たちと入れ替わりで客が出たから、今日は俺たちだけだ。

 イーアン、先に入りなさい。その後、タンクラッドとお前たちが入ると良い。俺は赤ん坊を風呂に入れる」


「あら。え?でも、ミレイオが連れて帰るから」


「そうだ。だがミレイオが風呂に入れている間、脱糞でもしようものなら、ミレイオは耐えられないだろう。俺なら対処できる。今日は二回も肉を食べたのだ。あの食べっぷり。確実に出す」


 真剣な顔で淡々と語る総長に、オーリンが笑い出す。ザッカリアは『だっぷんて何?』と恥ずかしそうにするイーアンに何度も訊く。


「そういうことだから。赤ん坊の下の世話くらいは俺が出来るため、ミレイオには風呂上りまで待機してもらうことになった(※ミレイオもこの話を聞かされて、二つ返事了解)」


 笑うオーリンとイーアンに、『今はまだ()()()()()()()から、恐らく、風呂で温まれば出すだろう』と厳かに予言するドルドレン。

『脱糞』を教えてもらえなかったザッカリアは、何となくそれが『う〇ち』のことかと分かり、自分もタンクラッドおじさんたちと風呂に入ろう、と決めた(※カワイイ世話しかしたくない)。


 湯船で出されたら大変だと、ドルドレンは小声で呟きつつ、奥さんとオーリンが笑うのを気にしないで(※二人はいつも笑ってる印象)また2階へ上がって行った。



 甲斐甲斐しいドルドレンと入れ違いに、ロゼールが馬車から荷物を持って戻り、『ちょっと外に出ただけでスゴイ濡れたよ』と困って笑う。


 ロゼールが戻ったので、イーアンたちも食堂を出て、ロゼールに帰り道の安全を祈り、イーアンはお風呂へ。オーリンとザッカリアは、ロゼールと一緒に2階へ上がり、コルステインに知らせてお別れの挨拶をした。


「またすぐ会う気がするよ。でもお前も大変だろうし、無理はするな」


「はい。オーリンの友達からもそう言われています。気を付けます」


 うん、と笑顔で頷き、オーリンは若い騎士の頭をポンポンする。ザッカリアも『皆に宜しく』と笑顔の挨拶。次も来るんだと思うだけで、お別れは寂しくなくなった。


 コルステインが下に行ったと、部屋から出て来たタンクラッドが教えたので、ロゼールはタンクラッドとミレイオ、総長、赤ちゃんにも挨拶を済ませ、さっさと宿の外へ向かった。



「雨に濡れないって、そうなの?」


 廊下で見送った男たち。オーリンがタンクラッドに質問すると、タンクラッドは彼を見て『あっただろう、前』とコルステインが雨の日に、見えない天井を作ってくれた話をした。


 ああ、そう言えばと思い出し、ポンと手を打つオーリンに、親方は『工夫すれば何でも可能なんじゃないのか』とサブパメントゥの能力の応用に笑った。


 赤ちゃんを抱っこしたミレイオは『私もそれくらいの力は欲しかったわ』と赤ちゃんを見て、呟く。


「あんたの洗濯物、綺麗にするくらいしか出来ないのよ」


 いやぁねと苦笑いしたミレイオに、ドルドレンは『衛生と食事の世話が出来るのは大切』と励ました。


 それから赤ちゃんの着替え、おしり拭きとオムツ、風呂で出した時用『藁を入れた紙袋』の準備を始めた。

 早風呂のイーアンが戻り、交代でタンクラッドたちが次に風呂へ行き、ドルドレンはミレイオとイーアンの3人で、赤ちゃんと待機。


 気を遣って、10分程度で風呂を上がってくれた、職人と子供にお礼を言い、ドルドレンは赤ちゃんと荷物(←いろいろ)を抱えて風呂へ行った。



 その後ろ姿を見ながら、皆は『総長は赤ん坊の世話が好き』と囁き合う。


 イーアンも笑顔で見送ったが、もし自分たちに子供がいたら、きっと彼は、とても良い父親になっただろうと、思わずにいられなかった。

 それは少し切ないものが心に生まれたが、こうしてそんな一面を見れただけでも、イーアンは嬉しく思った。


 そうして皆が、ドルドレンと赤ちゃんの風呂の様子を、楽しみに待っている間(※予想通りか知りたい)。8時を過ぎた頃でも、バイラはまだ戻ってこなかった。


 夜の雨はますます激しくなり、遅くにバイラが戻って来た時には、彼は頭から足の先までずぶ濡れだったが、それよりも彼の激しく気落ちした様子に、待っていたドルドレンは何があったかと驚いた。

お読み頂き有難うございます。



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