1342. 午前の馬車 ~赤ちゃんを考える・機構からの注文
※内容に、赤ちゃんのお世話上、おトイレの話題が含まれます。苦手な方・お食事の時間に差し掛かる場合、どうぞご注意ください。
出発した馬車の一行は、次の町を目指し、何が何でも今日は食料を買わねばと、急ぎながら進む。
タンクラッドとイーアンが連れて来た赤ん坊も増え、どうやら食事は肉で良いらしいとは分かったものの、オムツ用の布と、おしり拭きなどの用意がないため(※当然)それ用の備品も購入しなければならない。
と、思うのは人間の感覚で、この必要を譲らないのはドルドレン。
ミレイオが『洗濯は私がするから(←都度『消滅』能力活躍)オムツは替えが2枚でも良い』と言ったが、相手が人間じゃないとしても赤子に違いないなら、病気になっては大変と、ドルドレンはオムツ布を早々に入手すると決めていた。
「馬車で、赤ん坊が生まれるだろう?清潔にしないと、すぐに病気にかかる。ただれると大変だ。馬車の家族は薬を常備しているが、俺たちの馬車には赤ん坊用の薬はない(※魔物退治の旅)。
ミレイオは地下の力で、オムツの衛生を保てると言うけれど・・・人間の子だって、腹を下せば何度でも交換するのだ。2枚なんて、足りるはずがない。
おしりもちゃんと、拭かなければならない。拭いた布は、廃棄するのが一番だ。あの赤ん坊は、肉食らしいから、きっと排便も、強烈ではないかと思う」
大真面目な顔で、手綱を取りながら説明してくれるドルドレンに、横に座るイーアンは笑うに笑えず、うんうん、と頷く。ちらと見ると、前を進むバイラも小刻みに肩が揺れているので、きっと笑っている(※当)。
赤ちゃんに『排便も強烈』・・・って。イーアンは下を向いて、笑わないよう我慢するが、ドルドレンは困ったように溜息をつき、話を続ける。
「さっき。皆が片付けや支度をしていた時。俺があの子のオムツを替えたら、犬のような便の臭いだった。
それはもう、べっとりと黒くて『俺は肉しか食べない』と便で主張しているような具合である。先に何を食べたか知らんが、あれより更に、凄くなる可能性は想像に難くない。
これで、俺たちと一緒にいる時間、毎回肉を与えてみろ。四六時中、出すわけだ。
さっきだって、どれくらいぶりに食べたのか分からんが、オムツ一帯が埋まるほどの量を出したのだ。これが欲しがる量を与えてどうなるやら。オムツ2枚が迂闊であった!と後悔する(※オムツに後悔)のは目に見えている。
さっきの量、いくらタンクラッドに『お父さん時代』があったとしても、見たらきっと引いている。俺だから良かったようなものの」
「オムツ一帯が埋まる・・・便で主張ですか。四六時中、そうですね。確かに食べたら、すぐでしょうけれど」
横で俯く奥さんが、何となし、笑っていそうなのを見下ろし『イーアンはそうやって、笑うけれどね』と注意。イーアン、上を向かずに頷く(※顔が戻らない)。
「排便の回数・量が多いと、その分、おしりも拭くから痛いのだ。拭いた布を洗って使っては、ごわごわしている。それは、おしりに良くないと、赤子の世話していた子供時代に、俺はよく思ったものだ。
だから、使い捨てが出来るなら、おしり拭きは安心して行える。ただでさえ、あの子はおしり一面が、強烈な特徴を持つ便に埋まるのだ。それも『しょっちゅう』の可能性・大である。
本人もわざとではないのに(←赤ちゃん)自分の便が、ややもすれば、攻撃的とも思える量と質を兼ね備えた便なものだから、それでかぶれでもしようものなら、気の毒だ。
出来るだけ、大人が気を付けてやらないとならない。イーアン、笑わない」
だって・・・抑えていても我慢できないイーアンが、ドルドレンに凭れかかって笑うのを、ドルドレンは眉を寄せて注意。『俺は、何十人もの赤ん坊の世話をしたから、知っているのだ』と、これが正しい意見であることを伝えた。
おしっこも凄い量だったぞと、真面目な顔を崩さずに『おしっこは』と独特な感想を続けるドルドレンに、我慢できないイーアンはげらげら笑い、聞こえているバイラも、馬の首に顔を付けて、笑うのをどうにか堪えていた。
後ろの荷台では、前から聞こえるイーアンの笑い声と、ドルドレンの少し大きくなった声を聞いている、親方が笑っていた(※地獄耳の人)。
「イーアン、盛大に笑ってるな」
オーリンが可笑しそうに言うので、タンクラッドは頷いて『ドルドレンのオムツ話でな』と内容を教え、ミレイオとオーリンが一緒になって笑う。
ミレイオに抱っこされている赤ん坊は、昨日のようにぎゅっと丸くなって眠る。どうも、この子はこうして眠るのだ、と分かり、オーリンが今、弓用に持ってきた、半割りの丸太を削って、ベッド作り。
「変わった寝方だよね。人間じゃないからだろうけど」
「うーん・・・うーむ。こういうの見ると、やっぱりサブパメントゥなのかしら?と思うんだけど」
どういう意味?と訊ねるオーリンに、ミレイオは『元が何かによる』と教える。
ミレイオはちょっと特殊なので、参考にならないが、他のサブパメントゥは大体、原形がいるため、その習性が現れやすいと言うと、タンクラッドが気が付いた。
「もしかして。鳥が元だと、鳥の習性。とか(←『コルステイン口移し』思い出す:1310話参照)」
「そうそう。コルステインがそうでしょ?首の傾げ方とか、目の動かし方とかさ。ホーミットもね、あいつも動物でしょ(※実父)。人の姿の時でも、首揺らすじゃない。獅子みたいに。ああなるのよ」
私はないけど、と自分との別をきちっと添えて、ミレイオは腕の中の子を見つめ『この子も、こうして眠る動物が元なのかな、って』と呟いた。
この時。聞きながら親方は、全然関係ないけれど『コルステインの口移しは鳥の習性では』と確信した(※残念)。しかし、複雑そうなタンクラッドは、他の二人に気になることなく話題は続く。
「耳は、犬みたいだよな。動物だとしても、見たことない耳の形だ。指は鳥みたいだし」
丸太を彫る手を止めて、オーリンが赤ん坊の頭から足の先まで、丸まっている状態で手尺採寸し、再び丸太を削り始める。
タンクラッドもじーっと赤ん坊を見つめながら『サブパメントゥ・・・の合いの子』思っていたことを口にする。
え?と顔を上げたミレイオに、タンクラッドは他の種族と何かしら、可能性がありそうな気がすると伝える。首を振って『そんなわけないわよ』の一言を返したが――
実のところ。ミレイオも、その可能性がないと、言い切れなくなっていた。
――以前。トワォの守っていた僧院から、イーアンたちと引き揚げて来た、宝の山。
自宅のお宝部屋に押し込んだ、その多くの宝飾品に、ミレイオは不思議なものを見たことを、昨日思い出し、赤ちゃんが眠っている間に調べていた。
精霊を倒す宿命・・・・・?
ザッカリアに聞いた後、バイラにも『精霊が現れて』と辛そうに思い出しながら話す内容を聞き、ミレイオは『もしや』と過った。ミレイオの勘の良さの一つ、在り得ないと思うことも考慮、がある。
サブパメントゥで、精霊相手に倒せる存在。やったことはないが、要は力の差。
どっちかの力が勝れば、消されてしまうのだ。とは言え、イーアンのように『空最強』の立場でも、弱~いサブパメントゥに手を握られたり、平気でされる場合も。あれは彼女に属性があるからだ。
その属性―― そこに何か秘密がある。
イーアンの場合は、元から持っていた属性、と言われている。本人も知らないし、男龍もそう見当を付けているだけ。
となれば。赤ちゃんも。もしかしたら、『属性』が一種類ではない可能性があって、それで精霊を上回る力を持っているとか。
サブパメントゥで生まれて、純粋なサブパメントゥでも・・・もし、生まれつき強大な力の持ち主なら。
この姿で現れるのはおかしい。すご~くおかしい。意味が分からないのだ。こんな、誰かが世話をしないと、死んでしまうかも知れない弱さで創られる、その意味がない。
想像すると意味深な、この赤ん坊。もしかしたら、属性絡みの理由があるのかと、ミレイオは考えた。
サブパメントゥが関わった、龍? トワォのような存在は『龍ではない』とイーアンが男龍に聞いたそうだが、龍の要素は持っている。
そして、サブパメントゥの何かも、入っていると・・・それは、遺物の宝に、彫刻されているのを見て知った。
昨晩は、赤ちゃんの不思議な様子にそれを思い出し、何かこの子の出生に近い情報があるのでは、とミレイオは考えていた。
光に耐性があるサブパメントゥは、いないことはないが、自分ほど動けるのは知らない。この子は大丈夫そうで、そして体温もあり、かと言って完全に人間らしい姿でもなく。
フォラヴか、シャンガマックがいれば。昨日、寝る前に赤ちゃんの横に寝そべって、ミレイオはそれを思った。
妖精か、精霊か。この子は、彼らが持つ属性には、どう反応するのだろう。
赤ちゃんが普通のサブパメントゥに思えないミレイオに、今、彼ら二人の存在が近くにないことは、知りたいことが、煙に包まれているような気持だった――
「おい。ミレイオ」
名を呼ばれてハッとして、ミレイオは親方を見る。彼は腕を伸ばしていて、赤ん坊をよこすようにと無言で訴えていた。
「良いわよ。私が抱っこしているから」
「お前の手作りだろ?今着せてる、その服。あの民族服じゃ、呪われてそうだから。着替えを作っておけ」
「あ・・・そうか。そうね」
昨日、オムツを替えようとした時、オムツが汚れていなかったから戻したのだが、服の生地が固いことが気になって、ミレイオは簡単な小さい服を縫ってあげた。赤ちゃんだから、丸ごと胴体を包む服で、手足の部分は付けず、ちょっとボタンで留める形。
ミレイオの持ち生地で作ったから、紫と金の布地で、ボタンは金属製。あんまり動かない子の印象だったので、少し緩いくらいの大きさで着せてあげた。
タンクラッドに言われて、それもそうかと了解したミレイオは、赤ちゃんをそっと渡すと、自分の棚から布を選んで『暑くないやつ・・・こんなのかしら』とブツブツ独り言を言いながら、何枚か取り出す。
それから赤ちゃんをもう一度採寸し、ミレイオは布を裁ち始めた。
こうして荷台は、オーリンが赤ちゃんのベッドを作る音だけが響き、横でミレイオが静かに縫物をする。タンクラッドは赤ちゃんを腕に乗せて、何となく揺らしていた(※赤ん坊抱っこすると、自然にこうなる)。
寝台馬車では、ロゼールが支部に帰る準備をしていて、ザッカリアがギアッチと連絡を取っていた。何か機構に伝えることなどがあれば、とロゼールが気を回したことで、ギアッチも執務室でサグマンたち(※懐かしい執務の騎士)とやり取りしながら、話を続ける。
これにより、ロゼールは幾つか書き留めて『じゃ。今日じゃなくて』と確認し、また次回に来る時までに頼むことを了解した。
連絡を終えてから、ザッカリアは書き付けされた紙を覗き込み『絵、描くの?』と質問。ロゼールも頷いて『今のうちに写しておくよ・・・俺が帰る前に総長に渡して』と清書する。
「魔物の絵?この前、工房のおじさんたちの『武器の作り方』の絵を見たよ。ああいうの?」
「そうみたいだね。イーアンが絵を描けるじゃないか。だから、って言っていたよ。
ギアッチが今、魔物退治の資料を、普通の人たちにも教えてあげられるように作っているから、絵もね。魔物を覚えているなら、描いてほしいのかもな」
「絵をどうするの?同じ魔物はいないかも知れないよ。外国に行く人たち用なんでしょ」
うーん、と唸るロゼールは『俺もこの前、イーアンと魔物退治に行ったけど』とザッカリアを見る。ザッカリアも一緒だったから、うん、と頷く。
「スランダハイの鉱山。あっただろ?あれがさ。お前は知らないだろうけれど、ハイザンジェルで倒した魔物に似ていたんだよ。そっくりじゃないけど『なんか似てる』って分かるんだ」
だから、絵があると『この魔物はこういう感じって、最初にアタリを付けやすいと思う』・・・と、答えるロゼール。
「間違えてたら、危なくない?違う魔物だったら」
「それはどうとも言えないよ。それに民間の人が戦うわけじゃないから、知識だよね。こういう魔物の場合もあるよ、と分かるだけでも」
「逃げるの?逃げやすいようにするとか?」
ザッカリアの質問は長いので、ロゼールは笑って頷くと『それを今。ギアッチが一生懸命、資料にしている』と教えた。
「よし。これで良いか。タンクラッドさんやミレイオたちも、絵は描けると思うから。
あれだったら、手伝ってもらえば、イーアンだけに負担がないな。ええと、絵の具や紙の経費は請求してもらうか」
次に来るまでの間に、出来たら幾つか用意してもらうよう、総長に言わなきゃねと、書いた紙を眺めたロゼールは頷く。
こんな形で・・・自分が関わるなんて。これも運命だな、と不思議さに可笑しく思って笑った騎士に、ザッカリアは『次いつ来るの?』と普通に訊いていた(※特別感消えた)。
お読み頂き有難うございます。
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ペン画ですが、活動報告にお礼の気持ちに絵を描きました。
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