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魔物資源活用機構  作者: Ichen
魔物騒動の一環
1341/2964

1341. 旅の九十九日目 ~子煩悩職人たちの朝

 

 この夜。バイラとタンクラッドに、改めて『集落の一件』一部始終を聞いたミレイオは、食事を摂らずに、地下へ戻った。その腕に、皆の洗濯物と赤ん坊を抱えて。



 多くを話さず、だが何かに気が付いたようなミレイオの態度に、ドルドレンは詮索も追及もしなかったが、ミレイオは後ろめたそうに『何かちゃんと分ったら、話す』と自分から言い、コルステインが来たのを確認してから帰った。


 コルステインがいるので、魔族の種があるにしても、とりあえずは安心。

 皆は明日の朝の出発時間を決め、就寝。タンクラッドはコルステインに、今日の出来事を話し、ちょっと気になったことを訊ねた。


『お前が知っているかどうか・・・サブパメントゥは、生まれると。親がいなくなることもあるだろうか』


『何?親?ない。無理。生まれる。ない』


『そうじゃなくてな。まず、生まれる。子供が生まれるだろ?あれ?違うか、創るのか。そうだな?よし、だからな。子供を創るわけだ。その後、だ。親がいなくなる。それは有るか?』


 コルステインは暫く考えて、うん、と頷く。そういう子供は他のサブパメントゥが育てるが、上手く育たないとも教える。

 理由を聞くと、他のサブパメントゥは、子供がどういう意味で作られたか知らないから、とか。


 理由を説明されても、タンクラッドにはピンと来なかったが、とりあえず、親が消える事態は起こると分かり、お礼を言うと、逆にコルステインに質問された。


『どう。何?子供。親。ない。する?誰?』


『さっきの話だ。俺がイーアンたちを助けた後。そこで子供を渡されたんだ。相手は人間だぞ。だが、その子供は人間じゃなかった』


『サブパメントゥ。人間。一緒。ない』


 だよなぁ、と頷く親方は『自分も、その赤ん坊がサブパメントゥかどうか分からない』と答えた。するとコルステインは、サブパメントゥなら、イーアン()は無理だろう、と言う。


 それも納得する。とは言え、精霊が精霊を倒す・・・なんてことも考えにくい。

 呪いをかけた精霊から、直に聞いたバイラたちの情報で、()()()()()()()()()()()宿命のようなのだ。


 考えても分からないので、タンクラッドは、とりあえず赤ん坊はミレイオが連れて行ったし、今日は寝ようとコルステインに言い、二人は休むことにした。



 *****



 そして翌朝。ミレイオが来る前に、イーアンとオーリンが戻り、イーアンはいそいそ朝食を作り出す。作っていると、ミレイオが地下から戻って来て、馬車に入る前に『おはよう』と挨拶。いつも通りの挨拶に、イーアンも笑顔で返す。


 ミレイオは洗濯籠を荷台に入れると、イーアンの側には行かず、荷台の辺りから『この子』と腕に抱えた子供を指差す。


 うん、と頷いて見つめるイーアン。小さな子は起きていて、大きな目は真っ青。よく見ると白目もあるが、子供だからなのか、青さが目立ち、その目の色はコルステインを思い出させた。


 野原に咲く小さな花のように黄色っぽい肌。動物の耳に似た、茶色い毛の生えたペタッとした耳が、金色の短いくるくるした髪の毛と対照的。

 金髪には赤毛がひゅっひゅと混ざって、どことなくミレイオっぽい髪の毛。


 昨日着ていた、赤ちゃん用の民族服は着替えさせられていて、どう見てもミレイオのお手製子供服(※派手)姿。その服から出ている、むちむちした手足は、甲の部分から印象が変わり、指先が鳥の指のようだった。


 青い瞳は、じーっと女龍を見つめていて、ぷっくりした頬をふるっと揺らすと、ミレイオを見上げる。首が据わった頃の赤ちゃんみたいな動作が可愛くて、イーアンがちょっと笑う。


「可愛い顔しています」


「うん。可愛いわよね。あのさ。サブパメントゥかも知れないから、あんたに近づけないのよ」


「はい。昨日、やっぱり弱っていたのでしょうか。私に乗って」


「かもしれないけど、この小ささじゃ喋れないから、理由までは」


 サブパメントゥの要素はあるだろう、とミレイオは言い、地下に連れて戻ったら、割と早く目が覚めた話をした。



「まだ初日だし、はっきりしないけど。寝過ぎた子供が夜中起きている、ってだけかもだしさ。

 でもね。食べないの。何か食べさせた方が良いのかと思って、水や果汁とかさ。小さい果物とか、口の前に持って行っても、反応しないの。

 食べても食べなくても平気、なら。サブパメントゥよね。精霊とか知らないけど。


 オムツしていたんだけど、汚れもないの。食べてなかった可能性、あるでしょ?でね、サブパメントゥの人型って()()()()()()()()いる奴は少ないのに、この子、温かいわけ。これも特徴的よ。


 でさ。明るくない?今日。平気そうでしょ?昨日もね、うちって明るいじゃない。大丈夫かな~と思ってちょっとずつ明るい部屋に連れて行ったら、何ともなくて。だからこの子、()と近いのかも知れないのよ」


 昨日一晩で、ミレイオはこの子の属性を確かめた様子を伝え、()()()()()()()()だったが、そこで一旦、話を終えると黙って『って感じ』と女龍に振った。

 イーアンも、ミレイオが何かまだ、心当たりがある様子を垣間見たが、それはそれとして。



「そうですよね。ここは明るいのに、ケロッとしています。

 お食事は?ミレイオに近いとすれば、食べたら・・・食べれる、のでしょうか」


 食べようとしなかったけど、そうかも知れないと、ミレイオは赤ん坊の顔を撫でる。笑わないけれど、赤ん坊は見上げて、ミレイオを見つめ、小さな手を動かしてミレイオの指を掴む。


 フフ、と笑うミレイオが嬉しそうで、イーアンも微笑む。


「どうしますか。私が側に行けないとなると、一緒に移動が」


「そこなのよ。赤ちゃんだから、試すのも可哀相じゃない。何かあっても困るし」


 ということで。とりあえず、朝食は作り終わったから、煮込んでいる時間に『お試し龍族』。


 オーリンは『もうちょっと寝たい』と言って、さっさと寝台馬車に入っているので、イーアンがグィードの皮を装着し、イーアンでテストする。


「ちょっとずつね。ちょっとずつ」


 ショショウィの時を思い出すイーアン。少しずつ、子供の反応を見ながら、グィード・クロークと衣服セットで近寄る。子供は見つめているだけで、何も変化なし。


 ミレイオもイーアンもひやひやしながら、子供を見ていたが、イーアンが40~50㎝くらいの距離に来るまで、何もなかった。


 ようやく。その距離に来て、子供はビックリしたように目をまん丸にして、ミレイオにしがみつく。


「あ!ダメだ。イーアン、ごめん」


 いえいえ、と急いで離れるイーアン。ミレイオは、子供に『大丈夫?よしよし』とあやしてから、イーアンを見て『だけど、どこも変にならなかった』ことを教えた。


「丸きり無理、ってんじゃないのよ。多分。龍気で驚いただけかも知れない。コルステインだって、触ろうとして崩れかけるじゃない?この子は、見た感じ変化ないのよ。

 ヒョルドみたいなね・・・ちょっと触るくらいなら平気なのかな。でも、ヒョルドがあんたに触った時って、もっと龍気少なかったし、もう()()()()()じゃないから、やめとくか」


『昔のあんたじゃない』・・・微妙な決まり文句に、イーアンは若干、胸の中に切なさが過る(※過去がひどい人)が、それはさておき。


 触れないのは寂しいが、【触れないサブパメントゥ=強い系サブパメントゥ】の式が浮かぶイーアン。それをミレイオに伝えると、ミレイオも『私もそんな気がする』と言う。


「ホーミットもさ。『グィードの皮付き・あんた』なら、ちょっとは触れるじゃない。ずっとは無理で。

 この子、そうかもね。でもなぁ・・・なーんか、サブパメントゥそのもの、って感じもしないのよねぇ」



 何でだろう?と首を傾げつつ。皆が起きて来たので、ミレイオは赤ちゃんと一緒に、皆に挨拶。


 ザッカリアは馬車を下りるなり走って来て、赤ちゃんに喜んで挨拶し、そーっと小さい手を撫でた。赤ちゃんもザッカリアは平気のようで、小さい鉤爪のある指で、ザッカリアの指をキュッとつかむ。


「可愛い!」


「抱っこする?」


 こうやって抱っこするのよ、とミレイオが赤ん坊をザッカリアに抱かせ、ザッカリアは嬉しそうに赤ちゃんを両腕に抱えると、青い目に『名前が欲しいよね』と呼びかけた。


 そんな嬉しそうなザッカリアと、笑顔の止まないミレイオを見ながら、ドルドレンたちも微笑みつつ、イーアンから食事を受け取って朝食にする。


 タンクラッドは食べる前に、『万が一、赤ん坊を守る時のため』という名目で、ミレイオに警戒されながら、赤ん坊に近づき、触れると判明した。


「やっぱな。大丈夫だ。()()()()が、とお前は言うが。コルステインが大丈夫なんだから、俺がダメなわけはないと思ったんだ」


「赤ちゃんだもの。あっちは何百年も生きてるけど、この子、まだまだ未経験だらけよ。一緒にしないで」


 言い返すミレイオを見ず、ザッカリアに抱っこされた赤ちゃんの、茶色い毛のある耳を撫でるタンクラッドは『お前も守ってやるからな』と微笑む。


 赤ちゃんはタンクラッドを見て、両腕を伸ばす。お、と思ったタンクラッド。げ、と嫌そうな顔するミレイオ。

 残念そうなザッカリアが、赤ちゃんを渡したくないようにしても、赤ちゃんはタンクラッドに手を伸ばすので、タンクラッドは抱っこしてやる。


「そうか。お前も俺が良いのか」


「んなわけないでしょ。あんたがデカいから、なんか目についただけよ!」


 赤ちゃんは鉤爪の短い指で、抱っこしたタンクラッドの顔に触り、ニコニコしている剣職人を真似したか。ニコッと笑った。その口元に、小さい牙。


「こいつ。歯があるぞ。牙みたいだ」


 まだ赤ちゃんなのに、とミレイオが止めるが、タンクラッドは赤ん坊の口元をちょんちょん触って、パカッと口を開けさせた。


 その手慣れた様子を見つめる皆は、『彼は過去にお父さんだった』ことを思い出し、何だか可哀相な気がしてきた(※タンクラッド離婚有の黒歴史は皆さんが知っている)。


 皆の同情の視線に気が付かない親方は、赤ちゃんの口を覗き込んで『おお、おお。立派な牙が生えて』と感心する。何ですって?と横に来たミレイオにも『見てみろ。牙だ』と赤ちゃんの口を見せる。


「これ。普通の施設は、この時点で無理だな(※それ以前にいろいろ無理です)」


 ハハハと笑ったタンクラッドは、赤ちゃんを片腕に抱っこしたまま、イーアンの側に行って『ちょっとだけ、茹でた肉くれ』と頼む。イーアンはそそくさ用意し、小さくして、ふーふー冷まして、親方に肉を乗せた匙を渡す。


 このイーアンの、()()()()()()()()も・・・知る人ぞ知る、イーアンの『過去この人も(※親方に続く黒歴史)』の同情に繋がった。ドルドレンは切なくて仕方ない。


 匙を受け取った親方は、口を閉じた赤ん坊に、肉を見せて、それから『これ食べるか』と口の前に運ぶと、赤ちゃんはパクっと匙を口に入れる。匙の感触で、親方が急いで引っこ抜くと、匙に噛み跡が残った。


 赤ちゃん。茹で肉をむしゃむしゃ・・・・・


「そんな感じ、だよな。お前の牙」


 赤ちゃんは、察しの良い親方が気に入ったのか。また口を開ける。


 笑った親方がイーアンの横に座り、イーアンは肉を小さくして冷まし、受け取った親方が赤ちゃんに食べさせる。これを数回繰り返したところで(※皆さんは無言で見つめる)赤ちゃんは、げふっとゲップして、満足した。


 ふと、イーアンは茹で肉のおつゆも冷ましてみて、小さい容器に入れた。

 親方は、それを見て理解した(※この二人もツーカー)。手を伸ばし受け取って、赤ちゃんの口元に運ぶと、赤ちゃんは思った通り、ごくごくと母乳のように飲み干した。


()()だな。完全に」


「そうですね。肉ならいつでもあります」


 イーアンと親方は顔を見合わせて、ハハハと笑う。

 複雑そうなミレイオは、食事をしながら、自分が昨晩あげた果汁は嫌だったんだと・・・これを見て知った。


 ザッカリアは親方の横に座って、赤ちゃんの食べる様子をずっと見守っていたが、自分も世話したくて『俺も』と赤ちゃんに食事をさせたいと訴えた。が、赤ちゃんが満腹なので、ザッカリアの出番は昼に流れる。


 最後に起きて来たオーリンは、赤ちゃんがゲップしたところから見て、食べた何だと話を聞くと、『そうかよ』と笑顔を向け、ちょっと待ってなとまた馬車へ戻った。

 荷台から何かを持って来たオーリンは、満腹そうにボーっとしている赤ちゃんの前にしゃがむと、その手に持っていた骨を見せた。


「これさ。弓の部材で取っといた、鹿の骨だ。俺が獲った鹿のな。きれいだから」


「お前、いくら何でも骨は」


 苦笑いした親方が首を振った途端、赤ちゃんはさっと手を伸ばし、オーリンの見せた骨を掴むとしゃぶり始めた。親方の笑顔が固まる。オーリンはニコニコしながら『そうなるよな』と予想的中に嬉しそう(※赤ちゃん、人間扱いしてないから)。


 こうして赤ちゃんは、『肉食』であることと、『骨』がおしゃぶり代りであるとはっきりし、他にも『親方は気に入った様子』なのと『イーアンは触らないなら気にしない』のと『オーリンは、触るくらいなら平気』・『ザッカリアは問題ない』・『ミレイオは近い存在』など、幾つかのことが分かった。


 着替えさせたミレイオが言うには『男の子だと思うけど、サブパメントゥならあまり関係ない』情報も加わり、この子に名前を付けるなら男の子の名前、とした。



 ちなみに。


 ドルドレンも赤ちゃんを世話しようと思うので、ビルガメスの毛の上から、グィードの皮の切れっ端を巻いて、抱っこしてみたところ、全然問題ないと分かった。


 元々、馬車の大家族育ちのドルドレンは、赤ちゃんの扱いに慣れていて、出発までの間に赤ちゃんが用を足したのにも、誰より早く気づき、何も言わずにオムツを替え、何も言わずに抱っこして寝かしつけていた(※自然体)。


 ロゼールもそろそろ帰るのだが、実家は兄弟も多いので、赤ちゃんのよだれを拭いてあげたり、落としたおしゃぶり(←鹿の骨)を拭いて持たせたりと、普通にこなしてくれた。


 この中で、一番赤ちゃんから縁遠いバイラは、皆の意外なスキルに驚きつつ、これは施設の必要がないのではと、思い始めていた(※赤ちゃんは肉食である理由も大)。



 そして馬車は、すっきり晴れた朝の道に、ゆっくりと動き出した。

お読み頂き有難うございます。

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