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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1338/2964

1338. ペリペガンの呪い ~タンクラッドの救出劇

 

 吼える白い龍の声。濃霧が怯えたように切れ切れに散り分かれた時、龍の顔はハッとしたように一方に向く。



 ――タンクラッド!


 自分の声を聞いたからか。いやしかし、それにしては早いのでは。どうしてここに?と思ったが、ともかく感じる、猛烈な彼の力。

 この霧の異界の外から、タンクラッドが、自分たちを助けるため、力を使っていると分かる。


 見ればその方向に、ブワッと突如引っ込む勢いで霧が吸われ、瞬く間に巨大な渦が出現する。


 イーアンは自分の龍気も取られていると気づき、一瞬焦ったが、タンクラッドの力は、(イーアン)とこの場所の精霊の力を混ぜ、相殺していると思い出し、イーアンはぐんぐん龍気を上げ始めた。



 ――タンクラッド。タンクラッドが助けてくれる。彼が隙間を作ったら・・・オーリンとバイラを出さないといけない!



 イーアンは急いで、オーリンに呼びかける。龍の状態でも、言葉は頭の中なら通じるのか。やったことがないよ~と思いつつ、必死にオーリンを呼び、オーリンの反応が得られたので、すぐに『バイラと渦へ』と伝える。


 一方通行なのか。コルステインやミレイオたちが、頭に話しかけるのと違う。こんな時、連絡珠を使いたい。自分の呼びかけに応えてくれるのは分かるが、言葉らしい言葉が戻らないので、自分の伝えたい内容も、オーリンに届いているのか、分からない。


 ――オーリン、オーリン!バイラと一緒に渦へ向かって!タンクラッドが来てくれた!


 この言葉を何度も何度も繰り返す、大きな白い女龍。自分の龍気が、大量に連れて行かれるのを感じながら、同時に、辺りの白さが、そこら一帯から引き続けているのを見る。



『タンクラッド!』


 助かった~!!イーアンは彼の登場に、オーリンたちの退路を心配しつつも、安心で嬉しくなる。オーリンに呼びかける間に、ぐっと胸に湧き上がった嬉しさのあまり『タンクラッド~!』と彼の名を呼んだ


『イーアン?イーアン!俺だ。分かるか、タンクラッドだ』


 ビクッとする白い龍。頭の中に、タンクラッドの声が響く。連絡珠もないのに、連絡珠のように鮮明に聞こえる声・・・ビルガメスが自分に呼びかけたあの時と似ている、その澄んだ空間に響く声に、イーアンは急いで『聞こえます』と返した。


『そこにいるな?待ってろ、ここから切れ目が見え始めた。お前たちは中だろう?』


『そうです、そう!切れ目?どこですか?私は龍です。バイラとオーリンが下にいて』


『俺から見えるのは・・・霧の消えていく中に黒い建物がある。道もある。俺が、時の剣で切り開いている間に出口を見つけろ!イーアン、龍の姿は戻せ。龍気を遣うなら、いつものお前でも同じことだ』


 はい、と答えて、イーアンは大急ぎでオーリンたちを探す。渦に吸い込まれる、自分の龍気の感覚が強過ぎて、オーリンの龍気が分かりにくい。


 オーリンはどこ?と首を振って下を見ると、黒い馬が走るのを並ぶ長屋の隙間に見た。


 彼らはメツリの家をとっくに出ていて、集落の中を移動している・・・方向を見ると、渦のある方へ道を選んでいると分かる。イーアンはすぐさま龍の姿を人に戻し、翼と尻尾だけ出して、黒い馬に向かって飛んだ。



 *****



 片や。タンクラッド。


 リーヤンカイの穴の中と同じように、時の剣を振りかざしては切り刻む。イーアンとオーリンたちがここを見つけて出て来るまでと、剣を振るう腕を休めず、目の前にゴウゴウと音を立てて渦巻く巨大な流れを作り続ける。


 ――馬車を出て、この近くまで来た時。何もない場所だが異様な濃霧の怪しさに、タンクラッドは時の剣を振ってみた所、勘が当たったか。濃霧に妙な隙間が見えた。

 時の剣の金色の光は、霧に消える前に()()()()()と知り、これはマズイ場所と判断した。


 そして、剣を再び振り上げる時、足元に何か懐かしい感覚を覚え、ふと顔を動かしてみれば、そこに、やんわり龍気の光。

 何だろうと近づくと、白い手のひら大の鱗が何枚か落ちていた。摘まみ上げなくても、それが誰のものか分かる。鱗をざーっと手で集めて、『イーアンが中にいる』と分かったや否や。


 タンクラッドの意識も、怒り混じりに膨れ上がった。時の剣を持つ手が震え、イーアンがこの中に閉じ込められたことに、剣は自然に振り上げられる(※他二名もいるはず)。


 相手が誰だか知らないが、そんなことはタンクラッドにどうでも良かった。


「イーアン」


 名前を一声叫んだ後、イーアンを助けるため、タンクラッドの剣は唸りを上げて、怪異な霧を相手に、金色の光の鎌を放つ。


 これとほぼ同じ一瞬で、龍の声が辺りを劈く。その声は怒りの如く、霧を振動させて白い空気が不安定に揺れた。揺れた霧が粒を増やして、そこらに水が落ちる。


「イーアン!中だな!イーアン、待ってろ」


 タンクラッドは大声で叫んで、龍の咆哮に返し、力を集めて剣を持つ右腕を勢いよく振り回す。

 それはあっという間に渦を作り、右へ左へと振り上げる彼の腕の動きが、そのまま空間をかき混ぜる大渦へ変わった。


 渦は広がり、自分がこの場所の()()と、イーアンの龍気を混ぜていると分かったが、この場所の()()を越える、もう一つの気―― 龍気 ――を使わないと消し去ることが出来ない。


「耐えろよ、イーアン」


 心配は過るが、中にオーリンもいる(※今更思い出す)と思えば、イーアンの龍気を容赦なく引き込んだ。

 頭の中には、バーハラーの一件が。後悔したあの時が離れないが、今のイーアンはバーハラーより強い!と信じて、霧を切る剣の手を止めなかった。右手だけだったのを両手にし、両手で剣の柄を握って空間を切り裂く。


 その時、頭の中に『タンクラッド』と声が響く。誰より愛する(←コルステインどこ行った)女の声に、タンクラッドは即、反応。続いてもう一度『タンクラッド~!』と嬉しそうに聞こえたその声に、たまらず返す(※コルステイン…)。


『イーアン?イーアン!俺だ。分かるか、タンクラッドだ』


 頭の中で返した途端、イーアンは『聞こえる』と言い、そこから指示を出し、ハッとして、龍の姿を戻しておけと命じた。以前、彼女が使う龍気は、人の姿でも龍の姿でも同じと聞いたのを思い出す。それなら、龍の姿を維持せずに龍気を使う方が、彼女の負担が減ると思っての命令(※本人忘れてた)。


 イーアンは了解して、オーリンたちと一緒に出口を探すと答えると、そのまま声は消えた。


使()()ぞ。お前の龍気。お前が倒れそうになったら、俺はお前をイヌァエル・テレンに運ぶ。心配するな、バーハラーの二の舞にはさせない」


 龍気の限度が分からない以上、リーヤンカイで、時の剣を使った時間を目安にするしかない。バーハラーより、女龍の方が強いとは思うが、それでも心配はあった。




 *****



 黒い馬に向かったイーアンは、オーリンを乗せたバイラに安心して彼らの上に行き、走る馬を止めずに『タンクラッドが来てくれました』と叫んだ。


 見上げて驚いたバイラとオーリンの顔に『彼が渦を作っている』と教え、あの渦が出口だと大声で教える。


「イーアン、大丈夫か!俺も龍気取られてるんだ、イーアンは」


「私は平気です。オーリン、どうしよう。オーリンが取られては大変では」


 俺は龍気で()()()()()から!とちょっと笑ってくれたオーリン。でもその顔がいつもより疲れて見える。


 イーアンも知らなかったが、龍の民の龍気は、彼らにとってどのような影響を齎しているのか。龍気がなくなったイーアンは倒れるが、オーリンのことを知らない自分に気が付いて、イーアンは焦りが増す。


「急ぎましょう!もう近いですよ!家屋の列が長くて、次の道に出るまで大回りですが、もう見えてきている」


 叫ぶバイラは、次の角で馬を直角に操って、手綱を引くと、またすぐに走り出す。蹄が土を蹴り上げ、湿った土が掘られて、後ろに飛ぶのが見える。霧は、さっきよりずっと浅くなっている。


「もうすぐ、そうです!もうすぐですよ!集落の人たちには済まないけれど!」


 そう言いながら、あ!そうだ!と、イーアンは尻尾をグルンと自分の前に回すと、自分の尻尾の鱗を4~5枚ぺりぺり取って、ちゃかっと聖別。


「これ。アオファのような()()はないかも知れないけれど。魔除けにはなるかも(※控えめ)」


 神頼みで(※あなたは龍)目を閉じて『これが魔物も魔族も、撥ね返しますように!』と祈ると、イーアンは鱗を通り過ぎる道に投げた。



 馬が走り抜ける道には、人っ子一人おらず、誰もが家の中に入っているように、晴れて行く霧の集落の風景に、二人を乗せた黒馬と、白い翼で飛ぶ女龍の姿しか見えない。


 渦は大きさを変えず、イーアンは少し眩暈がしたが、これはバーハラーもそうだったんだ、と感じていた。あの仔も頑張ったんだから、私も頑張らなければ!とはいえ、龍気が消える速度が凄まじく、眩暈はどんどん酷くなる。

 自分だけなら早く飛べるが、さすがにバイラたちを置いて行くわけには・・ここでイーアン、気が付く。


「馬ごと。()()()私が運べば。そうですよ、龍になって」


 そうよそうよ!と、今まで焦って気が付かなかったことに舌打ちし、イーアンは馬に乗る二人に止まれと呼びかけると、驚いて『もうすぐなのに』の返事をした二人に、自分が運ぶことを伝えて、返事も待たずに龍に変わった。


「うぉ!龍で馬ごと?」


「そのつもりですよ。来た!(※化け物のように)」


 慌てるバイラとオーリンが目を丸くしている間に、白い龍は狭い家屋の隙間に腕を伸ばし、そっと黒馬ごと、大きな指で掬い上げると(※馬大人しい)落とさないように、ぐーっと腕を引き戻し、大渦に向かって動き出す。


 イーアン龍の大きさが、既に現在地と渦の距離、三分の一くらい。片手に持った馬と仲間を、草原のような首元の(たてがみ)の内側に隠して、あっという間に龍は渦へ突っ込んだ。




 渦の向こうに、急に現れた白い龍を見たタンクラッドは、心が躍る。


「イーアン!早く来い!」


 大声で叫ぶ顔は喜びを抑えきれない。龍が出るまでと、疲れて来た腕にもう一頑張りさせた直後、白い龍が頭をぐっと下げて飛び出してきた。


 ズォッと音を立てて、何かに鷲掴みにされた体を引き抜くように、白い龍が渦を抜け切り、長い尾をぶるんと振って最後の尻尾も霧から抜けた時、タンクラッドと龍の目が合う。



『タンクラッド!』


「イーアン!」


 涙が出るほど嬉しい親方は、剣を下ろして持ったまま、見上げる龍に両腕を広げた。白い龍は片腕を折り曲げていて、そっと腕を下ろすと、そこに黒い馬と男二人。


「バイラ、オーリン!無事だったか!(※タンクラッド完全に忘れてた)」


「助けに来てくれたんですね!有難うございます!」


「ヤバかったぞ~!有難うな!」


 馬も親方を見つけて、自発的にパカパカ駆け寄る。タンクラッドは仲間の無事を喜び、イーアンを見上げ、ふと、顔が凍り付く。その顔に、寄せた馬の上の二人もハッとして、白い龍を振り返った。


 白い龍は、渦を見つめて首を揺らす。口を開けかけて締め、躊躇いながら、渦の向こうを見ている。


「どうしたんだ。イーアン。イーアン?」


 オーリンが大きな声で名を呼び、戻れよと言うと、龍は目だけを動かして、小さく首を振った。そのすぐ後、タンクラッドが『何だと』恐れるような声で呟く。



 渦はどんどん小さくなり始める。イーアン龍が意を決したように、もう一度、中に飛び込もうとした時、タンクラッドは『行くな!』と叫んで、龍が振った大きな長い尻尾に飛び乗った。

お読み頂き有難うございます。

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