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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1336/2965

1336. 呪われた集落ペリペガン 

 

 タンクラッドが、ミレイオに馬車を追い出された頃。

 イーアンとオーリン、バイラの3人は、正方形の石畳を抜け、囲む壁に開いた扉を潜っていた。



 馬が丸ごと通れる大きさで、バイラは馬を下りることなく、そのまま進む。

 明度は相変わらずはっきりせず、壁を潜った先も外で、3人は霧の中を進むのだが、先ほどと違うのは、足元の道が土に変わり、左右に家屋が長屋のように並ぶことだった。


 影と言えば、影。だが影さえ呑みこむ白い霧は、いつまでもイーアンたちの側に漂い、少し離れたところは、水に滲んだ墨のように不明瞭。



 イーアンは、オーリンの胴体に尻尾を巻いたまま歩き、バイラは馬の背に揺られながら、オーリンもお腹の白いフサフサの尾に手を置いたまま、一言も喋らなかった。


 自分たちの前を進む人数は、先頭を歩く人が既に見えないほどの濃霧の中、見えたり消えたりで曖昧にしか数えられない。誰もが同じ格好をしているし、(かつら)も頭よりずっと大きいから、その印象だけでも、皆が同じに見える。


 頭でっかちで、衣服の形は定型的。タンクラッドは『男も女もいた』と話していたが、『ここに女性はいない』と、3人は思っていた。気が付けば、背丈も似たようなもの。何だかこの統一感は、とても奇妙だった。


 思うことはあっても、ただ黙って後を付いてゆく自分たち。足音と呼吸の音しか聞こえない中、それぞれの胸中には忙しく、観察と想像が巡る。


 イーアンはこの場所に『魔族』も『魔物』もいない、それについては認めた。どれくらいの広さがある場所か、見当は付かないにしても、自分の龍気に反応していないことや、邪気・魔族独特の感覚が近くにないのが理由。


 こっちが見つけるか、あっちが見つけて動くか―― いつもそのどちらかなのだ。

 そして続けて思うこと。彼らは人間だろうが、彼らのいるこの場所は()()()()()()()()()()()


 龍に変わった時の違和感は、どこかで似たような感じを受けた記憶があるのに、どうしても思い出せなかった。いつの攻撃の時だったっけ、と眉を寄せるイーアン。

 今ほど、龍に近い自分ではなかった状態に受けた記憶であれば、それはすぐに思い出せないかもと困る。

 でも。どこかで。似たような感覚は知っている気がして、それがずっと引っ掛かっている。



 バイラとオーリンも、自分たちを連れて行く無言の集団に、疑問と不審が募るばかり。


 あの、最初にここに入って並んでいた、松明の列は、一体どこへ消えたのか。

 延々と並ぶ松明の道、そこを進んでいると思い込んで、同じ場所をずっと歩いていたとすれば、この場所もまた、似たような()()()でもあるのか。


 会話した男の言葉。オーリンにとっては『龍の目の色』。バイラにとっては『言語の謎』。彼らが『家族を返せ』とこちらを魔物呼ばわりしたことよりも、彼らの正体そのものが気になって仕方ない。


 横にずらりと並んでいる家屋は、ところどころに隙間があり、それが路地のような間隔を保っていそうではあったが、軒並み連ねて・・・とは言葉通り。屋根に段差も切れ目もなく、同じ高さの同じ壁を持つ黒っぽい家は連結した造りだった。



 歩いてどのくらい経ったか。時間にして10分前後。初めて歩く場所は、緊張と警戒を伴い、それよりもずっと長く感じたが、冷たくなる足元に、イーアンたちが不自然さを感じた時。


 前の数人が立ち止まり、彼らの影が動かなくなったのを見て、オーリンがイーアンの肩を掴む。イーアンは考え事をしていると、そのまま歩いてしまうので、ハッとして浮かせた足を戻した。バイラも手綱を引く。


 一人が後ろを振り向き、何かを言ったようだが、言葉の分かるバイラは、イーアンたちを挟んで殿(しんがり)なので、聞き取れなかった。自分たちと彼らの間は5~6mほど空いていて、言葉は伝えているというよりも、様子を見て呟かれたようだった。


「今。何を言ったのか」


 イーアンも呟き、自分の声が彼らの耳に拾われると知っていての、質問。すると、先ほど振り向いた男性の前にいた人が、少し近づいて来て、馬に乗るバイラに話しかける。


「『馬を下りろ。こちらで預かる』」


「『私の馬は渡さない。話があるなら、このまま聞く。魔物の話を知りたいのは、あなた達だ』」


 迷い込んだ場所に、魔物も魔族もいない様子から、バイラは自分たちが『付いて来てやっている』と立場を示す。迷い込んだのはさておき、言うことを聞かなければいけない状況ではない。


 相手は色に塗られた顔に、僅かな表現があったのか。しかし、霧のために明度のはっきりしない空気で、その上、化粧された顔に、イーアンたちは彼の表情を読むことも出来ない。


 バイラに断られた男性は、一度だけ首を振ると、馬の顔に手を伸ばしたが、すぐさま前の仲間が彼を止めた。彼の手がぴたりと止まり、彼が振り向くと、先頭を歩いていた最初に会話した男性が来て、何かを短く伝え、彼を追い払った。


 そして最初の男性は、バイラを見上げ『馬を下りなくても良い。その代わり、中に入れない』と告げると、戸惑ったバイラを無視して、前にいる仲間たちが散ってゆくのを見送って、次にイーアンとオーリンを見た。


「『屋内ではない。土間で話す』」


「なんて?」


 直に話しかけられたオーリンが訊き返し、さっとバイラを見る。バイラは通訳し、きっと自分が馬を下りないからだろう、と理由を話すと、オーリンとイーアンは『それでいい』と頷いた。


 バイラは自分たちの反応を見ている男性に、土間へ案内を頼み、彼は了解したように少しだけ首を揺らすと、左手に並ぶ家の一つへ入って行った。

 3人もその家の側へ行き、開いた扉の奥に少し躊躇う。扉を開けて一歩入れば、そこは確かに土間。奥に壁に続く影が見えるから、それは廊下なのだろう。

 この土間に、足を置きかけて、イーアンはオーリンに視線を動かす。彼も地面を見つめて『ヤバそうだよね』と薄ら笑いが困っている。


 二人が悩む土間の地面には、大きな文様が描かれていて、それはこれまで見た、どの遺跡のものとも似ておらず、円を描く模様の中心に、灰の山が丁寧に盛られ、その灰の山の隙間に、白い骨が見えていた。


「模様は顔料で描かれているのですね。それにしても、剥がれもなくて・・・ここを日々歩くとしたら、なぜ削れないのかしら」


 イーアンの声が、急いで観察する土間の中に、妙な点を次々見つけては、小さくなる。


「あの灰の色は、木灰ではなさそうです。色が違う。これだけの湿度の中で、灰に塊もない。新しい灰なのか。

 あの骨の白さ、焼いた白さではありません。加熱の濁りも見えない。虫などに食べさせた後、あのような具合に」


「やめといてくれ。気持ち悪くなってきた」


 オーリンが目を閉じて失笑し、後ろのバイラを見ると、彼は『手前にいて下さい』と二人に頼んだ。『あの男は家の奥に入ったようだが、彼が戻って来ても、出入り口の近くにいるように』と。



 3人がひそひそ話していると、バイラが言った通り、奥の暗い影から先の男性が戻って来て、普通に、土間の真ん中を進んで近づき、灰の山を跨ぎ、戸口に立つ訪問者の二人に『壁沿いに腰掛けるように』と、土間の左側の壁に添えた台を指差した。


 身振りを見た二人は首を振って断り、バイラが代わりに返答し『言葉が通じるのは()()()()だから、自分から離れると会話出来ない』と言うと、男性は頷いた。割とあっさり受け入れたので、とりあえず3人は、戸口付近で、土間には一歩入ってはいるが、その状態で話をすることになった。


「『龍、名前はあるのか。龍の女。龍の男』」


「名前を聞いています。どうしますか?()()()()()ですが」


 話しかけられて、バイラがささっと通訳する。『変の意味は?』と訊ねる二人に『龍の女、龍の男と。テイワグナ人が、男の龍を、龍の人と呼ばないのは変です』一々、気になるというバイラに、オーリンは観念したように『良いよ』と促す。


「話しが進まないのもな・・・名前を言ってどうにかするのって、確かサブパメントゥだろ?ああした力を使われるにしても、俺は今、空の最強と一緒だ。大丈夫だ」


「あら。うーむ、頑張ります」


 ということで、バイラは二人の名前を言うのを嫌そうにしつつも、少し発音を変えて教えた。すると相手は、まずはオーリンに『オライ』と呼びかけ、次にイーアンに『イェン』と呼んだ。

 この3人が互いにそうした呼び方をしていないのを、聞いていそうでも、教わった名前を繰り返したので、二人はそれで頷く。


 バイラも名前を訊かれ、バイラは自分の名・ジェディを『ジーダ』と昔の読み方で伝える。彼は『ジーダ』の名を繰り返し、確認した後、最後に自分の両手を胸に当てた。


 男性は、自分の胸に置いた手をそのまま『メツリ』はっきりそれだけ口にする。オーリンが『メツリ?』と繰り返したら、彼は頷いてもう一度『メツリ』と教えた。名前を教え終わった時、メツリの模様だらけの顔に、少しだけ緩んだ印象が浮かんだ。



「『ジーダ。ここは精霊の怒りを受けた場所。『ペリペガン』の集落。私たちは彷徨う。霧の中で生きる。私たちは死ぬ。人は減る。だから来たら、()()()』」


「何だって・・・じゃ、まさか」


 呟いたバイラの目はぐっと大きく見開かれ、自分たちは捕獲されたのかとギョッとした。バイラの驚き方を見つめ、メツリは()()()()()()のように、表情も声の強弱も変えずに、続ける。


「『一番新しい日。来た人間は、魔物だった。魔物と人間が混ざる体を持つ。

 それは入り、ペリペガンの家族を奪った。何人かの家族を倒し、倒れて生きていた家族を捕まえた。私たちは取り返したかった。だが、魔物は強く、取り返す私たちをまた倒した。私たちは魔物にペリペガンを奪われると思った。

 私たちが沢山倒れた。魔物は集落の奥に入ったが、霧が消え、ペリペガンは魔物から逃げた。精霊が許さない。私たちが消えることを』」


「何と。それが。それが、魔族の」


「『ジーダ。分からない。分かる言葉を使え』」


 バイラは目を閉じる。これをどう、イーアンたちに伝えよう、と一瞬悩んだ。急いで考えたことをまとめ、メツリに『今の話をまず、龍に話す』と言うと、メツリは了解した。


 この短い説明の間、イーアンとオーリンは、バイラの顔がどんどん引き攣っていく様子に、少なくとも安心ではなさそう、と判断していた。


「この人、なんて言ったの?」


 訊き難そうに、オーリンは小さい声でバイラに訊ねる。イーアンも垂れ目をぐっと垂れさせて、嫌な予感に備える。



「あのですね。私が話し終えるまで反応しないで下さい。彼らは精霊の怒りで、許されない罪を背負った集落だそうです」


 二人の龍族の顔が、ぴきっと固まる。バイラはごくっと唾を飲みこむと、うん、と頷く。


「想像通りです。彼らに命はあるけれど、この場所はテイワグナじゃない。彼らは人口が減ると、()()()()()ここに入れて・・・いるような、言い方でしたね。だと思うのですが。

 ええと。そして、出たり消えたりするこの場所に、この前、魔族が入り込んだんです。彼らは犠牲になりましたが、皮肉にも精霊の呪いで閉ざされたことにより、魔族による全滅を逃れた・・・そうですよ」



 イーアンは静かに目を閉じて、ゆっくりと溜息(※『あ~やっぱり』って感じ)。


 オーリンも息を吸い込むと、吐き出しつつ、メツリを見て『()()()()()()()してるよな』と困ったように笑った。

お読み頂き有難うございます。


昨日、ブックマークを頂いたお礼に絵を描きたくても、時間が足りずに描けなかったので、今日仕上げました。

もし宜しかったら、お礼の絵を活動報告に載せましたので、お時間がありましたら。そして気が向いたら、覗いてやって下さい。

↓2月4日(木)の活動報告URLです。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2734130/


今日は、アレハミィの絵を載せました。


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