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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1331/2964

1331. 旅の九十八日目 ~黒い粒

 

 明け方前に起こされたタンクラッドは、コルステインに報告を聞く。


 その内容に、驚いたり心配したり、情報にギョッとしたりで、夜明けが来る前に、眠気を追い払った頭で質問の出来る限りをすると、最後に『現場へ連れて行ってくれ』と頼んだ。



 白む手前の空に、コルステインは少し目を細め『すぐ。帰る。良い?』と訊く。


 それで良いから連れて行ってくれとお願いし、コルステインに抱えられて、タンクラッドは現場を見に行った。

 この朝は、気温が前夜と違って、一面の霧に覆われていたので、タンクラッドは目印らしいものよりも、コルステインの飛ぶ速度と方角だけで、距離と位置を割り出した。


 白い霧に包まれて、明け方前の風景はいつもと違う神秘さを伴うが、現場に着いてすぐ、そんな印象は吹き飛ぶ。


 現場一帯は焦げ臭く、大きなすり鉢状の(えぐ)れ方をした地面に、度肝を抜かれた。ただ、焦げ臭い理由は『その辺全部が丸焦げ』ではなく、何かが燃えた後に臭いだけが残っているんだと気が付く。

 すり鉢の縁に立つ木の枝葉が、少し黒く炭化している程度で、どうも、他には何も影響していないと知った(※焼却⇒すり鉢処分へ)。


 コルステインの鉤爪が、すり鉢の一番深い場所を示し、タンクラッドに『あれ。黒い。変。触る。ダメ』お前は触るなと教える。

 タンクラッドも、それが何かを見当を付けているので、頷いて『対処はイーアンに相談する』と答えた。


『うん。イーアン。ミレイオ。大丈夫。お前。人間。ダメ。ザッカリア・・・うーん。平気?でも。イーアン。触る。する』


『そうだな。一番大丈夫なのは、イーアンだろう。ミレイオも問題ないとは思うが、一応イーアンだ』


 タンクラッドはそう答えながら、周囲を見渡し、ここに人が来ないことを願う。コルステインは、もう帰るというので、馬車に送ってもらい、白む空に『また夜に』と挨拶して戻した。



 こんな明け方で、イーアンを起こそうかと、タンクラッドが荷馬車の扉に手をかけた時、丁度ミレイオが上がって来た。


「おはよう。早いじゃないの」


「おお、ミレイオ。お前でも良い、話を聞いてくれ」


「挨拶しろ(※挨拶大事)」


「おはよう」


「『お前でも良い』って何よ、失礼しちゃうわね」


「良いから聞け!急いでるんだよっ」



 朝一番、煩いタンクラッドに眉を寄せて、『早く話しなさい』と促し、馬車の扉を開けると、ミレイオは朝食の準備をしながら、タンクラッドに火を熾せと命じる。


 焚火を熾しながら、タンクラッドはたった今、コルステインに聞いた話と、自分が見てきた現場の話をする。ミレイオの表情が見る見るうちに変わり、食材を切る手を止め『ちょっと。それ』と呟く。


「フォラヴは?あの子が」


「それがな。昨晩、彼は『海の水』の件で、今ごろ妖精の世界だ」


 ええ~! ミレイオは焦る。『だめよ、誰もいなさそうな場所だけど、こういう時に限って誰か来るのよ』どうにかしないと、と声に出して、慌てる声を大きくする。


「ミレイオ、落ち着け。まだ夜明けだ。俺が聞いてから、30分も経っていない。お前でもどうにか出来るかも知れんが、絶対に大丈夫とは言えない分、お前は動くな」


「私、私はサブパメントゥよ。平気よ。どうしよう、その()()()()!集めて隠さなきゃ!」


 だから、待てよ、とタンクラッドは火をつけ終わって立ち上がる。焦るミレイオに『コルステインも俺も、イーアンが適任と思っている』それを伝えると、ミレイオは目を見開いて首を小刻みに振って否定。


「ダメ。ダメよ、あの子だって無敵って言われているけど。何かあったらどうするの。あの子に何かあったら、私は許さないわ。行かせた自分も許せないもの」


「ミレイオ!イーアンなら行くぞ。彼女は自分を知っている。龍を傷つけられる奴なんかいない。コルステインは実際、種を飛ばされてもビクともしなかった。彼女は『何か飛んだ』としか思っていなかった。彼女の側にさえ、種は来なかったんだ。

 恐らく、イーアンも一緒だぞ。イーアンは最強の女龍なんだ」


「だって。分からないわよ、何があるか。あの子はどん臭いし(※間違ってはいない)」


 本気で嫌がるミレイオだが、心配する理由が笑えて、親方はちょっと笑いかけて睨まれた。『笑うんじゃないわよ』低い声で凄まれ、すぐに片手を上げて『笑ってない(※ウソ)』と答えた。



「とにかくな。肝心要な現時点、皮肉なことにフォラヴがいない。放っておくわけに行かないから、手を打たないと出発も出来ない。イーアンを呼んで、頼むしかないぞ」


「待ちなさいよ。呼んでどうするのよ。彼女にだって、種は」


「いい加減にしろよっ 旅の仲間で一番、()()()()に強いのは『女龍』か『サブパメントゥの主』だぞ。種を返すことが出来なくたって、触ることは出来る。何かに」


「そうです。それは私の仕事」


 ハッとして顔を上げたタンクラッド。目をぎゅっと瞑って『もう』とこぼすミレイオ。馬車の扉は開いていて、イーアンがゆっくり出て来た。


「タンクラッド。行きますよ。道案内して下さい」


「ダメよ、イーアン。何かあってからじゃ」


 縋るように止めるミレイオに、イーアンはニコーっと笑って『平気ですよ。私は()()()()』安心させるようにそう言うと、グワッと首を龍に変え、尻尾を出してミレイオに巻いた。


 真っ白なフカフカの尻尾に巻かれ、顔の真ん前に龍の頭。鳶色の瞳は、ミレイオが一秒前に見つめた瞳の色。


「あんた」


 困ったように呟いて、ミレイオは向かい合う龍の白い顔を撫で、自分を巻いたくるくる巻き毛の尻尾に、苦笑いした。

 後ろで見ているタンクラッドは、イーアンのこういう余裕と真剣さを混ぜた態度に、とても胸を揺さぶられる。やはり彼女は、なるべくして空の頂点にいるんだ、と感動に包まれる(※そして横恋慕高まる)。


 イーアンはまた顔を戻し、尻尾はそのままに『ミレイオはここで朝食をお願いします』と言うと、ドルドレンにも一応話したからと伝え、親方を見上げる。


「それは種ですね。何に入れますか」


「何に入れても変わらないなら、俺たちが最も信頼する入れ物を使うべきだ」


「ふむ」


 イーアンは鼻をちょっと擦って、何か思いついたように馬車に戻ると、手に皮の切れっ端を持って出て来た。それから翼を出して、何も言わずにタンクラッドの背後に回り、彼を片手で抱えて浮かぶ。


「お前。俺を片手で?」


「残念ながら自慢にならず、私の筋力関係ありません。龍気サマサマ」


 アハハと笑ったタンクラッドに、イーアンも笑いながら浮上する。『この方向へ』とタンクラッドが指差し、頷いたイーアンは翼で宙を一叩きすると、あっという間に森林の上を飛んで消えた。


 見送ったミレイオは、大きな溜息を付いて『強くなっちゃって』と呟き『でも()()()のに』と苦笑いしながら、大人しく朝食の支度を続けた。




 森林の示された場所で降りた二人は、その異様な光景に少しの間、何も言わなかった。タンクラッドは、夜明け前に見た時の印象と違うことにより。イーアンは、()()()()()()()に驚いたことにより。


「コルステイン。さすが」


「俺もさっき見た時より、明るいから驚いているぞ」


 顔を見合わせ、乾いた笑いが二人の顔に浮かぶ。『魂消た』とした感想が、ぴったりの風景。

 イーアンが見渡す、すり鉢の直径や、軽く100mはある。そこにあったであろう、樹木も茂みも岩も地面も、一切が黒焦げのすり鉢に変わったのだと、見て分かるほど、土の表面さえ炭化していた。


 しゃがんで、すり鉢の縁に指をなぞるイーアンは、その黒さが『このすり鉢を、焼いて作ったわけではない』ことに気が付く。つまり、すり鉢自体は、イーアンと同じ方法、()()で作られたもので、引きずり込まれて粉砕された、炭化後の有機物の姿がこの色だと理解する。

 ここまで粉状になるとは、どれほどの高温で焼かれたのか。コルステインの圧倒的な力は、見せつけられるその都度、脅威でしかない。


 そんなイーアンの、無言の驚きを感じて読み取っているタンクラッドは、立ち上がった女龍に『お前もだぞ』と一言告げておいた。


「私、何が」


「コルステインに怯えただろう。だが、お前の威力だって同じようなもんだ」


 あら、と呟いて。イーアンは苦笑い。タンクラッドもちょっと笑うと、すり鉢の中心を見るように言い『飛んで行って、見て来い』と促す。


「あの真ん中に集められたのが、コルステインに()()()()()()だ」


「はい」


 イーアンは、片手に持っていた皮をぐるっと解いて、穴の真ん中へ飛ぶ。それから着地しないように、近い高さから観察した後、皮の切れ端を広げて被せた。


 穴の縁で待つタンクラッドは、見ているだけ。イーアンが何かしたなとは分かるが、彼女のしようとしていることまでは聞いていない。

 数分して、イーアンは丸めた皮を掴んで戻って来た。それを見て、種を皮に包んだことは、タンクラッドにも分かった。持ち帰る気なのだ。



「それで全部か」


「そうです。今、自分でも確認したけれど。どうしよう。タンクラッド、私は片手にこれを持ち、あなたを片腕に抱えても、種から身を守れると思いますか」


「非常に嫌な質問だぞ。『そうだな』と答えにくい」


 ですよね、と頷くイーアン。とりあえず、龍の皮に包んだ種を脇に置き、タンクラッドを抱えると、彼と一緒にすり鉢の中央へ飛び、二人でもう一度確認。

 親方曰く『俺は何も感じない』との意見を聞けたので、先に親方を馬車に戻そうとしたら。


「種、ここに置いて行って。うっかり人が持って行っても。動物が(くわ)えるかも知れないし」


「じゃ。種を先に馬車へ?」


 その方が良いだろうと、タンクラッドは言い、『()()()()()状態に(あつら)えてあるぞ、これ』少し笑って、包みに視線を動かす。


 それもそうかと頷いて、イーアンはタンクラッドに待っていてもらい、『すぐですからね』と言うと、種の包みを持ってびゅーんと飛んで戻った。



 イーアンが戻るまで、時間にして5分もなかったが。

 この間で、タンクラッドは自分の意見が正しかったと知る。彼女が馬車へ飛んで、2分程度経った時。



 霧の中に、何かが動く気配。タンクラッドはすっと身を隠し、その気配を静かに待つ。

 そして知ったのは、旅人ではなく、現地の人間が近くにいること。


 集落らしいものは、地図にも何もなかった記憶。だが、近い場所まで来た相手が、霧の中に見え隠れするその姿は、どう見ても地元の格好だった。


 数人の男女がひそひそと話し合う内容、その端々をタンクラッドは聞きながら、腰袋の連絡珠を手に『イーアン。宙で待て』と送ると、その男女が消えるまで暫しの間、剣職人は僅かな時間で相手の情報を集めた。

お読み頂き有難うございます。

仕事の都合により、明日2月1日(月)~2月4日(木)までの3日間、朝一度の投稿です。夕方の投稿がありません。

2月4日(木)は、通常の朝夕投稿に戻ります。


本日の活動報告にご報告を載せました。(↓1月31日の活動報告URLです)


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1714731/blogkey/2731765/


今冬、度々都合でご迷惑をお掛けしておりますが、どうぞ宜しくお願い致します。

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