1330. 真夜中の魔物VSコルステイン
※少々、通常より短めです。
おかしな気配を察した、コルステインは森林の中を進む。
青い霧は辺りに広がりながら、自分に触れる物を確かめ、木々や自然の命には反応せず、音一つ、振動一つないままに、目的へ近づく。
何故か。まとまっている気がしない。
いた、と思えば消え、近い、と感じてすぐ離れるような。そして魔物だけでもないが、精霊や妖精、サブパメントゥなど、他の種族というのでもない。気配は空気に伝わるが対象が分からない。
コルステインの変化した姿は、誰も警戒させることなく、気が付けば森林一帯を覆い、森林の一部が青い霧の中に収まる。
月明かりの下、森林を覆う青い霧が通過する場所は明度を下げ、曖昧な色に包まれて、少しずつ移動している霧の晴れた側から、くっきりした夜の影が現れる。遠目から眺めるなら、奇妙な状況を見せているが、この中にいて、これに気が付く者は一人もいない。
霧は広範囲に広がり、ゆっくりと。しかし、四方への距離は、かなり離れても感知する状態であるため、どこに倒す相手がいるのか、気体状のコルステインは丁寧に探す。
馬車からあまり離れていない気がしたが、どうも・・・おかしい。最初に感じた気配は、とっくに届いて良いはずの距離。だが気配だけは感じるのに、どうしてもこことした場所を得られない。
なぜだろう、と思いつつ、コルステインは不意に、自分の掠めた一ヶ所に違和感を感じ、ひゅっと霧の広がりを縮めた。
そこは馬車のあった場所から遠くなかったが、斜面を下りた抉れのある地形で、コルステインはそこへ向かう。数秒後に目の前にした光景は、ただの木と土しかない夜の森の一画。
だが、コルステインには分かる。違うものが隠れている。霧は人の姿に変わり、ここがそうだと決定。
斜面の削れた場所にひょろ長い木々が幾つか張り出しており、コルステインはそこに顔を向けると、口をスーッと開ける。開いた口と同時に、木々は消滅し、一瞬で風景が変わる。
青い瞳に映ったのは、ぼやけた蜃気楼のような場所。そして自分をめがけて飛び出してきた、崩れた人型の何かの群れ。
視覚にはっきりとしない背景から、一斉に飛び出した人型の相手に、コルステインは躊躇なく口を開けて全てを消す。空間にざわめいた人型の群れは、夜空色のサブパメントゥの前にあっという間に消えうせた。
コルステインはカクッと首を傾げ、これが魔物だったのか、と思う。ただ、まだ続きはある。魔物らしきものが飛び出してきた、不自然な背景の中へ進むことにする。
黒い鳥の足は土を踏まず、滑るように前に進み、歪むぼやけた空気の中に、足は踏み入れられた。
コルステインが入った途端、どこかで人の声がして、それはすぐに笑い声に変わり、待つこともなく、大声の嫌味な嗤い方に変わった。
『女か男か。誰だか知らんが、ここを引っ張り出して後悔するぞ』
コルステインには気配だけが伝わる。笑い声も、脅し文句も、コルステインにはちっとも分らない(※言葉聞こえてない)。
気配が動いていることは分かるから、濃度の高い気配の方を向くと、口を開けかけ・・・でも、閉じた。
この気配は、魔物ではない。
でも変だなと思うのは、魔物の気配はまだあること。考えても分からないコルステインは、とりあえず、相手の形を見ておこうと片腕を突き出した。
高笑いは再度大きく響き『ここで勝てると思うのか』と叫ぶ。が、コルステインは無視(※分かんない)。
突き出した腕から、紫色の電光がほとばしり、気配の濃い場所は音より早く弾け飛ぶ。蜃気楼の靄の世界に、何かが焼けたように突然の火が燃え上がる。
それを見て、コルステインは頷いた。『ここは見えないふうにしてあるけど、誰かの部屋』と。そして別に、違う次元でもない。最初からそうだろうとは思っていたが、ただ見えない場所というだけ。
コルステインは、燃え立つ火を確認した瞬間、勢いづいて、一千本の稲妻を両腕から走らせる。
容赦なく全てを焼き払うサブパメントゥの主に、声は慌て始め、叫び続けるが、コルステインに感じるのは、誰かの動揺と混乱のみ。
そんなものはどうでも良い。その場所に幾らも散らかっていた魔物の気配は消え始め、時々、紫の稲妻の柱の中に、黒い影が僅かに現れては、苦しみながら消えるのを見たが、自分に何かが飛ばされたらしくても、コルステインは気にならなかった。
飛ばされたものは、サブパメントゥの体に触れることも叶わず、近くまで届くこともなく、呆気なく黒い石に代わって落ち、転がる。
コルステインはゆっくりと歩きながら、紫色の眩しい光に輪郭だけを浮かび上がらせ、ぼやけた空間を焼き払う。どこまで続くのか、割に広いその場所を両腕から紫電を放ちつつ、火の海に変え、僅かに姿を見せた者の形を、瞬間瞬間、消える手前で記憶に刻む。
それは、後で、タンクラッドに教えてあげるため。
自分が倒している相手の形を、大きな青い目は着々と記憶し、ほとんどの場所が火の中に埋もれた時、最後の一人を目の前にした。
自分の前にいる相手が最後だと、縮んだ気配で知る。
黒い人間みたいな恰好で、体中が膨れている。大きさは大したことがないが、人間にしてはいろいろぶら下がっていた。下半分に、魔物のような気配もある。
こいつがそうか、とコルステインは理解する。こいつが、魔物半分と後、何か――
『お前は誰だ。どこの世界の者だ。お前は俺を殺せない』
コルステインに向かって、グラグラと体を揺すった相手は、その言葉を言い終わらないうちに自ら、体を吹き飛ばす。しかしその時、コルステインは口を開けていて、破裂と同時に、相手は無念にも消え去っていた。
そして、消え去った相手の足元には、幾つかの黒い縮こまった石が落ちていたが、それは少しずつ小さくなり、コルステインの見ている前で、ちっぽけな砂粒のように変わった。
コルステインは、その砂粒のようなものを少し見つめてから、さっきも自分に何か飛んできたな、と思い出し、ちょっとだけその場に浮上する。
地面から数mほどの高さに浮いたところで止まり、コルステインは真下に両腕を向けた。黒い鳥の足をした両腕が、地面に向いた時、すり鉢状の穴が生じ、それは径を瞬く間に広げながら、ガラガラと地面を削り始める。
地面を消滅させるコルステインは、炎に包まれたこの場所の地面を全て、巨大なすり鉢に変えてから、炎も何も引きずり込んで、ぽっかりと開いた穴の中心をじっと見る。
『うん。ある。あれ。そう』
コルステインが、すり鉢の一番深い場所に見たもの。それは黒い粒の集まり。
気配はするが、魔物ではないし、多分、この気配は粒の向こうに何かあるんだ、と理解する。
黒い粒が変な感じなので、一ヶ所に集め、これをタンクラッドたちに教えることにする。
顔を上げてみると、もう周囲は普通の森に変わっていて、ちょっと焦げていた(※ちょっとでもない)。
でも、やっつけたから、と頷いたコルステインは、他に何もないことを確認して、再び青い霧に変わると、タンクラッドの眠るベッドに戻って行った。
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