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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1329/2964

1329. フォラヴ再び帰郷・コルステインの夜

 

 夕食は長引いた。早い時間に、することもなくて食べ始めたミレイオたちと、時間差が出て、後から食事にありついたフォラヴやイーアンたちは、たっぷり2時間ほど使って夕食を終えた。



 食事中の会話は、タムズが話したことと、イーアンが空から持ち帰った情報について。イーアンは全てを話すわけにはいかないので、受ける質問への答えも、理解を促す説明も、()()()()()()()


 フラカラとのことや、古代の海の水がイヌァエル・テレンにも在ることは、伴侶にさえ話せない。

 それはイーアンの中で、何となく、置き場に困る『隠し事』のような存在感だが、この感覚が『人間として』の状態によるのも、もう理解していた。


 自分は龍族だ、と。こういう気持ちの時、きちんと頭の中で繰り返す。だから、言えないこともある。


 ふと、フォラヴも同じような心境かもと彼を見れば、(まさ)しくその状態に思えた。

 フォラヴは静かだったが、皆の話に加わりながらも、話し方にいつもの流れるような早さがなく、言い淀んでは間を開けて、短く返答することを続けていた。



 暗い時間に差し掛かったくらいで、ミレイオとイーアンは片付け始める。ミレイオは、今日も地下へ戻るので、イーアンにも『お風呂、入んなさい』と持ち掛け、連れて行くことに決定。


 二人で後片付けをてきぱき済ませ、ドルドレンに『お風呂入ってきます』と伝えてから、皆の洗濯物を集めたイーアンは、カゴに洗濯物と着替えを用意し、ミレイオの待つところへ。


 ミレイオに後ろから抱えられて、地下へ潜る時。ぼそっと、思わずこぼした、イーアンの気持ち。


「言えないこと。結構ありました」


「あん?私なんか、開けっ広げよ。何でも喋っちゃう。()()()()()()()


 ミレイオの返事の最後に、アハハハと笑ったイーアン。ミレイオも笑いながら、二人は地下の黒い穴へ吸い込まれて消えた。


 夜の暗がりに僅かな時間響いた、二人の笑い声のすぐ後には、交代のように青い霧が近づいて来て、霧の後ろには、青黒い火の玉も幾つか揺らぎながら、馬車へ近づいていた(※ホラーチックだけど、コルステイン一家)。



 ロゼールがコルステインたちに、お礼を言う間。


 フォラヴは少し離れた場所に出て、彼らに影響がないように気を遣う。馬車に乗っていても良いのだが、一人考えたい気持ちもあった。


 バイラが総長と次の町の話をし終わり、総長が荷馬車に入った後、森の木々に寄りかかるフォラヴを見つけ、彼は近くへ来た。妖精の騎士が微笑むと、バイラもニコッと笑う。


「どうかしましたか」


「いいえ。私は彼らに、()()があるかもしれないので。それで少しの間、こちらへ」


「現役の騎士に『危ない』とは思わないけれど。()()が良いですか?」


 バイラの気遣いに、フォラヴは微笑みながら首を振って『ご一緒に()()()()はいかがですか』と訊ねる。小さく笑うバイラが了解して『それじゃ、少しお邪魔します』と答えた。


 二人は少しの間、黙って同じ木に寄りかかっていた。黙っている時間が苦痛にならない、お互いの状態。


 フォラヴは距離を持っていて、バイラは『居ることが大切』とした感覚で。

 10ほどの年齢差があっても、二人は馬車にやんわり灯る明かりを見つめ、暗がりの木々の中に立つ。不意に、バイラが溜息に似た吐息をついたので、フォラヴは反射的に彼を見た。

 バイラはフォラヴを見ないまま、静かに、聞こえにくいほどの小さな声で、騎士の反応に答えた。


「あなたは()()出かけますか」


 妖精の騎士は、唇が動きかけ、声を発することなく、開いた唇をそのままに止まる。そのつもりでいたことを、彼は読んだ。バイラは、答えの戻らないことを気にする風でもなく、ちょっと目を伏せた後、また馬車を見た。


「行くなら。今です。私が伝えておきます」


「バイラ。あなたは」


「ザッカリアのことなら。私が彼を出来るだけ、面倒見ます」


 警護団員はそう言うと、さっと妖精の騎士に顔を向けて『行くなら。今。無事に早く戻って下さい』と落ち着いた声で頼んだ。フォラヴは数回の大きな呼吸に取り乱されることはなく、6度目の吸い込んだ息と共に、『はい』と答えて、そのまま森の奥へ歩いて行った。


 バイラは彼が影に飲まれるまで見送り、『無事で』と誠実な祈りを呟いた。



 *****



  夜の闇に、青い炎が揺れて消え。寝台馬車にロゼールも乗り込んだすぐ後。

 馬車に戻ったバイラが、タンクラッドとコルステインだけが残った馬車の間で、『フォラヴを送り出した』ことを伝えている頃。


 フォラヴも既に、木々の中をすり抜けて、次から次へ移動していた。


 妖精の国に帰ることは、そう面倒な道順でもないのだが、妖精の国の()()()に直接の移動は出来ない。

 自分がもっと、いろんな事を習得したら出来るのかも、と思いながら、フォラヴは順繰りに『目的地』に近づく。移動し始めて、そう時間も使わずに妖精の国には入っている・・・・・


「アレハミィは。彼は、もっとすんなり、移動したのだろうか」


 ふと、素性も知らぬ男の事を思い出して、自分と比べる。妖精の騎士は、女王に会うことが出来たら、彼の話も訊ねてみようと思った。



 空に掛かる銀の月は、テイワグナで見るよりも、細く、金属のように輝き、真綿のような柔らかな白い明りを、妖精の世界に与える。


 木々は背が高くて、自由に枝を広げ、黒々した影を落としていても、怖れるには至らない。そこかしこで小さな愛らしい光が飛び交い、大きな太い幹の間をすり抜けて遊ぶから、フォラヴはいつも微笑んでしまう。


 枝は自由に揺れ、風は話しかける。鈴の音は遠くからも近くからも聞こえ、涼しい夜気に響き渡る。足元の草も、月光で青く照り輝き、騎士の足取りを軽くするために、撥ねるように動いてくれる。



 この美しい妖精の世界に。魔族が入るなんて――


 次の大樹を探して、歩みを止めないフォラヴは夜空を見上げ、小さな溜息をつく。

 そんなこと、決して許さない。自分の運命は、妖精の世界(ここ)も守らなければいけない、と知った時から、フォラヴの心に消えない炎が宿った。


 魔物の王を倒す旅路に参加して。途中で交代する立ち位置の自分。

 そして交代した誰かが、私の代わりに総長たちを支える間―― 私は、この妖精の国を全力で守るのだ。


「私の家族の()()を奪い返すために」


 二つの目的を持った、自分の運命を知ったあの日。

 フォラヴは、これまでの自分を変えようと決意した。動き出した運命の波に、傍観者でいることはやめようと誓った。声を上げず、自分の問題は自分だけで解決に進む、そんなことも()()()()()だと理解した。


「待っていて下さい。もう既に、遥かな年月を待たせているけれど。後少し。もう少しお待ち下さい。

 私が必ず、囚われたあなたの亡骸を取り返しに行きます。私が動けば、妖精の世界も安全の条件を投げることになる。

 それでも。私に()()()()()()を信じて、私はあなたを迎えに行くでしょう」


 ぐっと握り締める拳。噛んだ唇。白い肌を更に白く、血の気が引いた怒りの眼差しを静かに閉じ、フォラヴは大きく息を吸い込むと、見つけた大きな木の幹に腕を伸ばし、広がる幹の中に滑り込んだ。


「まずは、一つずつ―― 」



 *****



 フォラヴが出かけてから、数時間。


 地下からミレイオとイーアンが戻り、ミレイオはまた地下へ帰り、イーアンがちょっと馬車の間を覗いて、コルステインに『お休みなさい』の挨拶をしながら向けた笑顔に、コルステインも微笑んだ後。



 馬車の一行が眠りに就き、コルステインはいつも通り、タンクラッドの横に寝そべって、ぼんやりしていた。


 数時間前、ロゼールと話し、彼の様子が落ち着いたことを知って、コルステイン一家は安心。

 何度もロゼールが礼を言う間、リリューはいつまでもロゼールを抱えて放さなかった。リリューは、メーウィックも好きだった。


 寝返りを打ったタンクラッドに、もう一度、大きな翼をかけ直し、コルステインは再び思いを巡らす。


 ――メーウィックが助けた、リリュー。リリューが生まれたのは、メーウィックがいたから。


 消えかけていたリリューの気持ちが、メーウィックの優しい心で元気になった。だからずっと、リリューはメーウィックと一緒に居たがった――


 リリューは今。ロゼールと一緒にいる時間が、もっと欲しいと言う。家族になれば良いんだ、とコルステインにも頼むので、コルステインは毎回それを断る。

 ロゼールを家族にしても、人間のロゼールではなくなるから、リリューはそれは嫌じゃないかと思う。


 話を続けると、きっとリリューは諦めない。だからすぐに断る方が良い、とコルステインは考える。


 コルステインなりに、家族の状態を理解している優しさ。リリューには伝わっていないようで、最近は言うことを聞かなくなった。



 フーム、と考えるが、コルステインには深く考えるのは難しい。堂々巡りで頭が疲れる(※仕方ない)。

 リリューは何かあるたびに、ロゼールを呼びたがる。旅の仲間に必要なものがあれば、ロゼールを呼ぶのは、()()()()だが。

『水の壺』の話は、ホーミットに聞いて、やっちゃったかと思った(※コルステインたちは知らなかった)。


 あの水は、タンクラッドの欲しいものでもある。ロゼールやタンクラッドが使えば良い、と思った。

 だけど、何かしないといけないらしい、と知ったから、後は任せた(※丸投げ)。


 ここで、ふと思い出す。


 どうしてタンクラッドは、バニザットの力のことを知りたかったんだろう・・・(※それはよく分かってない)

 タンクラッドが『知りたい』ことは、何だか分かった。だから『海の水』を取りに行った。

 でもそれは、どうして知りたかったのか。



 コルステインは首を傾げ、大きな青い目をキョロッと上に向け、暫く考えた。


 考えても、ピンと来ない(※いろいろすぐ忘れる)。何だったんだろう・・・翼の下で、すーす―寝ているタンクラッドを見つめ、彼はなぜ自分に、ホーミットへ話すように頼んだのか、それも思い出してみたが、やはり何も直結しなかった。


『うーん。何?種族。沢山。平気。する。タンクラッド。それ。知る。したい。何?』


 バニザットの状態や、海の水の効果から『種族関係ない触れ合いのため』とは分かるが、それがどうしてタンクラッドに知りたいことだったのか。



 この時、コルステインはさっと気配を感じ取る。

 気配は魔物で、側にいると分かり、少し感覚を向けて状態を調べる。が、何か変。何かが違う。


『魔物。違う。魔物。半分?』


 魔物の気配なのに、魔物だけではない気がする。以前も、これと似たような気配を感じているが、何だったかまで覚えていない。


 コルステインは体を起こし、タンクラッドを一度、青い炎で取り巻いてから、ゆっくりと離れる(※炎=虫除け)。

 気配のする方へ顔を向けると、霧に身を変えて、すぐに森の中へ移動した。

お読み頂き有難うございます。

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