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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1327/2965

1327. タムズの目的

 

 こうしてイーアンが、まったく思いもよらない展開により、『フラカラの秘密の部屋』の新しい情報を受け取った後。


 フラカラに丁寧に、彼女が憧れた絵について、やんわり解説し・・・想像通り、彼女が大いに落ち込み、それを慰め、秘密の部屋から戻る道すがらで、フラカラが『でもそうよね』と切り替えた(※早い)ところで。


 イーアンは、()()()()が経っていることに気が付いた。



「しまった・・・やっぱり。()()()()だったか」


 うわ、やっちまった!と夕方の空に焦るイーアン。隣を歩くフラカラは大きく深呼吸し、『これで良かったのかも』と呪縛でも解けたような、さばさばした笑顔を向ける。


「私が真面目に言い続けて、友達にも信じさせていたの・・・皆に話さなきゃ」


「あ。ああ、そうですね。あの、カーレとか。タチレア・メアとか」


 うん、と頷く、ハルテッドに似た美人は、ちょっと切なそうな微笑みを浮かべたが、すぐ『今日。有難う』とイーアンに微笑むと、屈んで額を近寄せると、額に人差し指をトンと当てる。


「ここに・・・ファドゥみたいに祝福をしてくれる?」


「あら。んまー。勿論ですよっ」


 あなたは別におでこじゃなくても、とは口が裂けても言えないが(※変態自覚あり)イーアンはニコニコしながら、あっさり立ち直ったフラカラの額に、ちゅーっとして、シアワセを噛み締める。


 どれだけの時間を費やしたか分からない、フラカラの『女龍への焦がれ』。

 それを、ほんの数十分で『でもそうよね』と断ち切れる辺り、これぞ龍の子の気質!と拍手したくなる。


 そんなスバラシイ気質に祝福あれ!(※恐らくお友達も問題ないと分かる)と、イーアンは心から賛美を籠めてちゅーっとしておいた(※長め)。

 そして、フラカラにでこちゅーをした後、また会いに来ると約束すると、フラカラも『またね』と、晴れ晴れした笑顔を見せて、さっさと帰って行った(※これまた早い)。



「素晴らしいですよ。人間だったら、そのまま再起不能とか鬱とかなりかねない、憧れの年月なのに」


 さすが~と感心しつつ、イーアンも帰宅のため、翼を出して浮上し・・・夕方の空に、また時間を思い出す。


「ハッ!ちゅーで浮かれた!しまった、もう夕方ですよ~ こんなに遅くなるつもりじゃなかったのに~」


 イヤイヤしながら女龍はオーリンを呼ぼうとしたが、オーリンより早く、タムズが来た(※子供部屋すぐそこ)。


「随分ゆっくりだったね。イーアン、君も龍気が()()()?」


 唐突に核心に迫る質問を、ケロッとした顔で投げる男龍に、イーアンは『秘密の部屋』をがっつり隠して『消せないけど練習中』ということにしておいた。タムズは何となく疑わしそうな目を向けたが、『そう』で済んだ。


 秘密の部屋(あそこ)は、恐らく、別の次元なのだとこれで確認。時間も経っていたし、タムズが私の龍気に気が付かなかった。

 確かにこれは言えないな、と思う『秘密の部屋』の存在。

 取り上げるなんてことが出来るとは思い難いが、男龍たちなら、何かの手を使って封じる可能性もある。


 フラカラは、()()()()通したことがないのだろう。

 ファドゥにも教えてないなら、きっと女友達にも伝えていないはず。そんな貴重な隠れ家に入れてくれたことに、イーアンは心から感謝をした。そして、秘密は守るからね・・・とも思った。


 夕方の空を飛ぶタムズとイーアン。タムズはミンティンを呼び、青い龍と二人は、一緒にイヌァエル・テレンを出発した。




 *****




 その頃、馬車は。

 夕方の野営地に着き、無表情のミレイオが調理器具や、彼曰く『偏った栄養の食事』にしかならない食材を、焚火の側に置いていた。


「ミレイオ。明日は町ですから」


「分かってる。じゃなきゃ困るわよ」


 バイラが苦笑いしながら、積極的にお手伝いする中、タンクラッドを始めとした他の男は、焚火に寄り付かなかった。

 あからさまに寄り付いていないにしても、嫌味を言われないよう(※八つ当たり大)に、ロゼールを気にかけることで『大切な時間』とする。



「どうだ。昼は食べなかったみたいだが」


 ドルドレンが寝台馬車に乗り込んで、ロゼールのいる部屋を覗く。若い騎士は困ったように笑って『大丈夫ですよ』と答えると、ベッドに座っていた腰を上げて、荷台に出た。大丈夫と言われても、気になる総長。


「顔色。お前は色が白いから、よく分からん。大丈夫なのか。昨日は青ざめて」


「俺は総長の部下です。そんな心配しなくて良いですよ。考え事してましたから、ここに居たけれど」


 うむ、と眉を寄せたままのドルドレンは頷き、荷台に座った部下を見つめ、夕方の明かりの中で『お前にな』と話し出す。ロゼールも総長を見て促す。


「今日明日は、このまま馬車にいてもと思うのだ。だが、コルステインたちがお前に会うのは断っておいた」


「え。良いですよ、会うのは問題ないから。俺、あの時、動けなくなって世話に」


「ロゼール。休め。豪胆な度胸の持ち主だと知っているが、俺はお前があんなに取り乱したのを見たことがない。少し馬車で休んでから、ハイザンジェルへ戻れ。コルステインたちにも会うな」


「いや。あの、違いますよ!誤解しないで下さい。彼らは俺を助けてくれたんであって」


 ロゼールが慌てるのを、ドルドレンは小刻みに顔を振って否定する。()()()に関わらず休息するよう、部下に命じた。ドルドレンとしては、それがとても大切に感じた。


 戸惑うロゼールは、『お礼、言いたいですよ』と困った顔で頼む。その声に、同情的な視線を向ける灰色の瞳には『ダメ』の含み。ロゼールは粘る。


「彼らが悪いわけないですよ。総長はそう思ってるんですか?」


「どうだろうな、ドルドレンは複雑だな」


 総長の答えより早く、剣職人の低い声が遮った。馬車の扉に寄りかかったタンクラッドは『ロゼール。具合は』先にそれを確認し、騎士が『問題ないです』と答えると、大きく頷いて見せる。ドルドレンは彼に訝しんで黙った。


「ドルドレン。お前の気持ちは分かるが、お前だって自力で動けない時に助けられたら」


「そうだ。だが俺は彼の上司だ。タンクラッドの感覚で話すな。これは俺の部下に対する指示だ」


「じゃあな、()()。言っておくが、コルステインは心配するぞ」


「それはタンクラッドが説明してくれ。俺は騎士修道会総長である以上、どこにいても部下の管理をする」


 頑なに弾く総長に、タンクラッドは口元含む顔半分を大きな手で覆うと、控えめに、聞こえるように、溜息。その鳶色の瞳は夕焼けの光を受けて、琥珀色に輝き、視線は総長に固定される。ドルドレンは嫌そうに目を細めた。


「何か言いたいか。言いたいなら」


「言おうか。お前が俺に勝てる気がしないけれどな」


 言え、と挑発に乗る総長は、剣職人に少し苛立つ。ロゼールは二人のイケメンを観察するのみ。


「ドルドレン。彼は貴重な情報を、それと知らずに手に入れた。コルステインたちがいなかったら、到底、手の届かない代物を」


「そうだ。危険と隣り合わせで、しかも未だに危険の有無が晴れん。賭けに等しい代物のために、俺の部下が命をあやうく」


「していないだろ。コルステインたちは守った。お前、俺がいて迷惑だと感じた月日。俺に()()()()()、謎解きを任せていた。それは無くて良かったか?無駄だったか?」


 タンクラッドの畳み掛けは早く、ドルドレンは苦々しい表情に目を瞑り『お前の知恵に進んだ』それは認める。タンクラッドはそれを聞き、ドルドレンの側に座ると総長の顔を片手で押さえ、顔を寄せて囁く。


「だろ。コルステインたちも、ロゼールも。何に繋がると思う?()()()()()()犠牲者まっしぐらの()()を守る手立てだ。それでも、お前は礼一つ、言わせないのか」


 ドルドレンはこの。親方接近攻撃に弱い。ちょっと照れながら目を逸らし『そうじゃないけど』と小さい声で答える。タンクラッドはちょっと笑って、総長の頬を優しく撫でると『俺もそう思う』少し顔をおどけて見せた。


 総長が畳まれるまでの、呆気ない数分間。


 ロゼールは『タンクラッドさんは()()で、男女問わずにやっつける人』として記憶した(※間違いではない)。

 畳まれたドルドレンは、どことなく身の置き場に困っているようで、ロゼールを見ようとせず、トイレ休憩を済ませて戻って来た、フォラヴとザッカリアを見つけると『お前たちにちょっと』とそそくさ行ってしまった。


「タンクラッドさん。有難うございます」


「別に・・・コルステインたちには、お前に()()()()理由が分からないだろ?ドルドレンの立場的な気持ちも、分からないことはないが、説明して折り合いを付けるなら、()()()()()()だ」


 お礼を言った若い騎士に、剣職人が少し冗談っぽく言うと、騎士も笑って『そうですね。コルステインたちに伝えるの、難しいですよ』と頷き、最初に()()だと感じた話をした。


「俺。何度も同じことを言った時があったんです。え~っと、雲の魔物退治の後で。地下に連れて行かれて、俺は良くしてもらっていたけれど、皆が心配するから『無事』を知らせたかったんです。

 だけど、何回も理由を説明してお願いしたところで『後で』って言われちゃうんですね。感覚が違うのか」


「違う。全然違うんだ。これは、イーアンのいる龍族も似ている。俺は天地のどちらとも、話すことが多い立場だが、慣れるまでに時間が掛かった」


 タンクラッドさんでも大変なんだと、同情するロゼールに、親方は『お前と共有出来て助かるよ』と笑った。

 それから、ちょっと間を置いて、タンクラッドはロゼールを労う。


「お前は、飛び込みのように始まった()()に、嫌な顔一つせず。昨日は怖い思いもしたのに、全然怖気づかないな。そこまでして、貴重なものを手に入れたことに、感心する」


「いえ・・・俺は目的を知らなかったから、感心されるような状態じゃ。でも、有難うございます」


 エヘッと笑うオレンジ色の髪の騎士に、剣職人は思う。彼が本当に、何も知らないのに動かされている、この現状。これの意味を偶然とは思わないように、記憶に留めようと。



 それでな、と今夜のことを話そうとした矢先。親方は、龍気を感じて空を見上げた。ロゼールが『どうしたんですか』と訊いたので『イーアンだ』すぐ帰って来ることを教えた。


「だが、龍気が大きいぞ。目を瞑ってろよ」


「はい?目」


「来た!目を瞑れ、ロゼール!」


 タンクラッドの掛け声と同時、ロゼールは真っ白な強い光が差し込んで、うわッと叫ぶ。『何ですか!これ』イーアンじゃないですよね、と目を押さえながら大声を出す騎士に、『男の龍が来る』とすぐに答える。


「え?男の龍?でも、前に支部に来た時はこんな光の時、最初だけで」


「テイワグナに入ってから、イーアンと一緒に、他の男龍も力を増したんだ。それ以来、彼らが来ると」


「タンクラッド。眩しいかね」


 説明中に遮られた、光の中から聞こえた声に、タンクラッドは笑い出す。目を押さえる手をそのままに『いつでも眩しい』と返事をすると、光の中で『んま~』の声もする。


「自分が光る分には、分からないもんですねぇ」


「彼らは()()()ことに慣れないね」


 そうですねと答える、ノホホンとしたイーアンの声に、ロゼールも笑う。気が付けば、馬車の近くでもミレイオやザッカリアたちが『見えない』と困って笑っているのが聞こえた。


 少しずつ、明度が下がり始めて、間もなく。タンクラッドとロゼールは、すぐ近くにイーアンと大きな男龍、後ろに青い龍がいるのを見る。

 タムズが来たことは分かっていたタンクラッドだが、タムズ大好きなドルドレンの声がしないな、と思っていたら、既に貼り付いていた(※撫でられ中)。


「総長、この人大好きって知っていますが。支部ではここまで()()()()()()状態、見たことないです」


 ひそひそっとタンクラッドに伝えるロゼール。親方も笑うのを押さえて『ドルドレンは、愛情表現を一切隠さない』それは良いところだ、と前向きに答えてあげた。


 よく、イーアンの工房や、馬車を作っている時に、この男龍が来ていたっけと、ロゼールは思い出す。

 しかし総長の、人が変わったような抱き付き加減を見ると、いささか、魅力的な存在も問題があるように思えた(※ロゼは客観的)。



 男龍は、皆に挨拶をすることはなく、何やらイーアンとちょっと会話した後、腰に貼り付く幸せそうなドルドレンをそのままに、フォラヴとザッカリアを見た。それから、ロゼールも。


「君が。コルステインたちの側に付いた男。来なさい」


「お。俺。俺ですか」


「私は、龍のタムズ。君の名前は」


「ロゼールです」


 ロゼール、来なさい。タムズは言いながら、腕をザッカリアにも伸ばし『ザッカリア、おいで』と呼び寄せる。

 タムズは、目が合ったフォラヴにも同様に頷いて『問題ない距離まで来れる?』と訊ね、妖精の騎士は緊張しながら『はい』と答えると、少し間を置いた場所まで進んだ。


 3人を集め、横にイーアンがいるタムズは、最後にドルドレンに話しかける。


「君は()()ね。今は、向こうに行っていなさい」


 軽く追い払われて、ドルドレンは寂しそうに言うことを聞き(※素直)ちょっと項垂れながら、手招きするミレイオとバイラの場所へ移動した。



 そんな寂しそうな総長の背中を見送ったタムズは、フフッと笑ってから、自分の側にいる3人に改めて顔を向ける。


「さて。君たちの話を聞かせてくれ」

お読み頂き有難うございます。

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