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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1326/2964

1326. フラカラ『秘密の部屋』の情報

 

 子供部屋から、龍の子の住まいへ移動したイーアン。と言っても、目と鼻の先。


『龍の子』の住まい自体が、とても大きい建物なので、そのために歩く時間があるだけで、連結ではないが渡り廊下も繋がっているから、てくてく歩いて進める。



 フラカラに呼びかけながら歩いているイーアンだが、龍の子たちが、通りすがりに見ているのが、どうも気になる。

 ここは彼らの生活の場だし、自分は女龍だし。見られても仕方ないのかも知れないけれど・・・こうした違和感、どうにか出来ないのだろうかと考えてしまう。それだけ、彼らと男龍たちに距離があるのだ。以前も思った、歴然とした力の差による、()()が。


 そう言えば、オーリンが迎えに来た時も、フラカラは『何で龍の民がいるの』くらいの勢いで(※低レベル認定)嫌そうだったことを思い出す。


「悩みますね。私は区別が悪いと思わないけれど、少々行き過ぎているハッキリ感」


「イーアン、こっちよ」


 歩きながら首を振り振り、イーアンがうーんと悩んでいると、フラカラの声が掛かる。気配で分かりそうなものだが、未だにイーアンには、気持ちが散漫だと気が付かない癖がある。


 そんな女龍に笑うフラカラが前から来て、イーアンの手を引く。美人なフラカラに手を繋いでもらうイーアン、ちょっとシアワセ(※悩みどこ行った)。



「手を繋ぐと。他の龍の子が気にしそうだけど。良いわよね?」


「良いですよ(※喜)。ファドゥもよくそうしました」


「ファドゥ・・・ちっとも来なくなったわ。子供部屋に、毎日来るのは知っているの。でもこっちには顔を出さないから」


 友達なのにね、とイーアンが呟く。金色の瞳が、その一言にすっと向いて『()()、で良いと思う?』思わずこぼれたフラカラの問いは、イーアンに切ない感情を生む。


「良いと思うのです。私の個人的な気持ちは。でも、あなた方のように、生まれてからずっとイヌァエル・テレンに生きる龍族には、違いが常に付きまとうのですね」


 そう、と頷いたフラカラは、イーアンの手を引きながら、長い廊下を歩き、右に見えた下る階段へ導く。

 少しの間、沈黙が流れ、地下に下りるのは初めてかなと思いながら、階段を下りるイーアンは、すぐにそれが地下へ向かうわけではないと知る。


 建物の床に潜る角度で下りた階段は、続く踊り場に明かりがさしていて、半地下の通路を進んだすぐ、左手の壁に簡素な木の扉を迎え、フラカラは戸を開けた。


「中庭?」


 木の扉の向こうは外で、そこは、少し手入れされた植物が囲む小さな空間。


 だが、自生していると言われたら、そうも見える自然さが、庭として管理しているのか、分からなくなる。フラカラはイーアンの質問に答えず、微笑みながら『こっちよ』と誘導を続ける。


 中庭に見える空間は、まとまった『庭』然とした風景ではなく、ぽつんぽつんと木が生えていて、茂みも木の足元を囲うため、道といった道がない。


 フラカラに連れられて、人のいない静かな外を歩くイーアン。少し不思議な印象の場所を進む時間は、思っているよりも長くて、穏やかな日差しと佇む暖かな空気に心が和んだ。



「イーアンに見せたいものがあるのよ」


「はい」


 (おもむろ)に話しかけられ、すぐに見上げると、フラカラは前を向いたまま『この先にね。()()()()()秘密の部屋』と真面目な顔で呟き、くすりと笑う。


「秘密の部屋ですか。外に?」


「外よ。部屋って言えば部屋だし。もうすぐだから、行けば分かるわ」


 イーアンは、フラカラの『秘密の部屋』は、意外なオープンさがあるのでは、と思ってしまった。外だし、ここは多分、他の龍の子も歩くだろうし、割に建物から近いし・・・(※開けっ広げの秘密?)


 じーっと見ている女龍の顔が可笑しかったのか、フラカラは突然声を立てて笑い始め、驚くイーアンに『そんなに不思議じゃない』と言う。


「秘密の部屋、って呼べばそうなのよ。他に言いようがなくて」


「そうなのですね。フラカラの特別な場所に、案内して下さって有難う」


 けらけら笑ったフラカラは、赤い長い髪をかき上げ、さっと顔が真剣に変わる。この変化、龍の子独特なんだなぁと、イーアンはしみじみ見つめる(※最初はファドゥもそうだった)。


「本当に特別。あのね、ファドゥたちに言わないで」


「はい?言わないですよ。秘密なのに、他の人に言いません」


 イーアンがすぐに答えると、フラカラは真剣な顔に不安そうな色を浮かべて『見つかったら取り上げられるかも』と呟く。


 本当に心配している様子だが、イーアンにはちょっと分かりにくい。


 万が一、知られたら。男龍が取り上げるくらいの()()な場所・・・こんなに建物から近くて(※歩いてるけど敷地内)。ファドゥの方が、彼女より長生きだと思うけれど、彼も知らない?(※大御所くらいの長生き自慢)


 ファドゥは、タムズと同じ時に生まれているとか、聞いているのだ。休眠を繰り返して長生きにこだわり、彼はウン百年と、生きているような気がするんだけれど。


 眉を寄せて悩む女龍は、フラカラの手が離れたことに気が付かず、そのままスタスタ歩き続けて、フラカラにクロークを引っ張られた(※がくんってなる)。


「あ、はい」


「イーアンったら。考え事?着いたのに」


 振り向いたイーアンに、フラカラはニコッと笑って、クロークを掴んでいない方の手で、横を指差す。


 イーアンは彼女の白い指が向いた先を見たが、そこにはこれといったものはない。下草が花を付けて、ちらほら咲き、指先から外れた場所に低木が点々とあるだけ。


 目をぱちぱちしてから、ゆっくりとフラカラを見ると、彼女はイーアンのクロークを掴んだまま、二、三歩その方向へ進み、イーアンを引き寄せて、自分の真ん前に立たせる。向かい合う形で、フラカラを見上げる女龍。


 フラカラは何も言わず、女龍の両肩に手を置くと目を閉じた。


 その途端、周囲に透き通った紅色の風が吹く。あ、と声を上げそうになったイーアンは、声を出す間もなく、風の消えた場所に目を丸くした。



「ここは」


「秘密の部屋。()()()の、秘密の場所」


 イーアンが振り返った場所は、既に先ほどの中庭的な印象はなく、大きく(たわ)んだ石柱が取り囲む、石の御堂のような中に二人はいた。


 御堂の外は草原で、潮風の香りがする。良く晴れているのは、昼間だから変ではないが、ここはもっと晴れている気がする。

 撓んだ形に造られたのか。きれいで緩い曲線を描く12本の石柱は、中心に向かって集まり、帽子のような屋根を支えている。ここはさながら、『鳥かご』のよう・・・・・


 でもどうやって、ここへ?と訊ねる女龍に、可笑しそうに笑っているフラカラは、イーアンの背中を押し、中心を囲んだ小さな壁に進ませると、壁の内側に見える階段を覗き込む。


「この階段を下りるのよ。ワクワクする?」


 しますっ! 胸を張って頷くイーアン。美人の隠れ部屋行きに、ワクワクしないわけないのだ(※おっさんのように)。

 真顔で『ワクワクしっぱなし』と答える女龍に、フラカラは笑いながら手を繋ぎ、『イーアンは楽しい』と言ってくれた。


 手を繋ぐたびにシアワセな女龍。はー、女龍で良かった~(※違)こういう時、心から思う。


 3代目の女龍がちょっとズレていることに、フラカラも楽しんでいるようで、明るい自然光の照らす階段を、二人は一緒に下りた。



 そして下りた場所は大きな部屋。そう、とても・・・大きな。


「えーっと。()()()()()、です」


「うん。何もないでしょ?」


「そう見えます。あるものと言えば、あの、あれ?小さい台がありますが、それくらい」


 階段の続きは、だだっ広いだけの部屋で、明るく差し込む光もどこからかと疑問を持つくらい、()()()()ない。


 壁には彫刻が、と思いきや。彫刻ではなくて絵だった。浮いているような立体的な絵で、見事な腕だなぁと感心するものの、絵は何となく。イーアンの記憶を手繰り寄せるに、充分な特徴・・・もしや。


 何も言わないまま、フラカラが歩く後ろをついて行き、彼女が石の台の横に腰を下ろしたので、イーアンも並んで座る。


「窓も何もないの。でも絵があるでしょ。絵って、大切なのよ」


「絵の存在。あまりイヌァエル・テレンでは聞きませんね」


「そうなの。必要ないから。でも私は好き。絵の意味があるのか、よく分からないけど、何となく、ここに居ると落ち着くの」


 龍の子の住まいにも、彫刻はある。着色はなくて、白一色の雲を思わせる品の良い彫刻。それは扉や壁に施されているけれど、装飾の柄は大きな意味を持たなさそうである。この不思議な部屋の絵に比べれば・・・そうだろうなと、イーアンも頷いた。


「では。フラカラはこの部屋で・・・一人、こうして座っては、物思いに耽るのですか」


「そんなところかしら。龍の子の部屋は、自分の部屋だけど、いつも誰かが側にいるの。イヤじゃないのよ、そうではなくて。何と言うか。上手く言えない」


「分かります。私も一人で居られる場所は大切でした。あなたの特別な場所に、私を連れて来て下さって嬉しいです」


「話しがしたかったのよ。誰のことも気にしなくていいように」


 フラカラはイーアンをちょっと見てから、壁の絵に視線を戻し、小さい溜息を付いた。その話の内容は何となく、見当がつくイーアン。『女龍のことですか』と訊ねると、彼女は顔を俯かせた。


「成れない。成りたい。頑張っても頑張っても」


 フラカラの声が小さくて、イーアンは何て言えば良いのか悩む。

 ビルガメスに前、聞いている話では『無を可には出来ない。龍の子は龍にならない。そのくらい彼らも知っている(※632話最後参照)』こうした結論。


 一度訊いてみたかったことがある。それは彼女を傷つけるかも知れない。だけど、悩むフラカラが気の毒でもあり、自分が女龍の立場であるのも複雑な会話を、この先も続けるのは良くない気がした。


「フラカラ。その。質問が」


「なあに?訊いて」


「傷つけるかも知れないですが、私は本当に知らないから訊ねます。

 龍の子が、龍に変わる。その可能性は、誰かが話していましたか?もしくは、そうした話が遺っているとか」


()()よ」


 へ? 思いがけず、あっさり『()()』と指差された先を、急いで振り向くイーアン。遠目が利かないイーアンは、よく見えないが、どうも天井近くに理由がある様子。

 見て来ていいか、と訊ね、どうぞと促されたので、イーアンは翼を出してパタパタ飛び、側へ行った。



「うお。これ。え。これ、でも」


 あちゃ~・・・と思う絵が、そこにはあった。この部屋(ここ)しか見ることがなければ、フラカラが勘違いするのも無理はない。


 人の形をした女性が、龍の形に変わり、続きが龍の形に近い人の姿。思うにこれは。これ、さっきからそうじゃないかと思っていたが、あの『灰色の世界』の、()()()()()()()()絵に似ているのだ。


 そしてその絵は。きっと。女龍(私たち)そのものが、人間から、龍の姿、龍から女龍(※もれなく角付き)に成長する話を描いている。


 3代に続いている女龍の特徴―― 皆が似ている顔、髪の毛の質、体の大きさなどは曖昧な描写で、ただ()()()女が変化した風にも見える。


 でも。ここはイヌァエル・テレン。比べる絵が、他に圧倒的に少ない(※というか、皆無)。


 普通の女=人間や龍の民の女性、の認識ではなく、()()()()()()にある以上は『龍の子の女性』と、フラカラは信じたのだ・・・イーアンは目を瞑る(※ぐは~って感じ)。これ、言うに言えないよ~・・・・・



 ここで、ふと、イーアンは思う。関係ないが、龍の子の敷地?ここはどこなのだろう、と。


 そして、一つ過る。もしや。もしも。あの、全くそう思えないけれど。あの灰色の世界の関連だとしたら。絵の特徴は似ているが、あの遺跡ほどぎっしり彫刻ではない、ここ。


 何かの理由で、別に造られた同じ系列なのでは――


 そう思うと、イーアンはさっと、他の絵を見渡す。今、自分が見た絵は、人間が女龍に変わる絵。ということは。


「これが最初、ですよ。恐らく、これは始祖の龍。とすれば、この続き・・・この。あった!海。やっぱりそうか。海の上に大きな龍。サブパメントゥを沈めた怒りの海。

 であれば。あれば・・・あれば~ あった、あった!これかっ これだわ!おお、お導きです!凄い」


 ほんの1時間前くらいに教えてもらった、『混沌の海』の絵が。イーアンの目の前にあった。そして、海の中に見えていた巨大な絵の、説明されずに終わった続き―――



「イーアン?」


「あのう。ちょっと、すみません。絵を見ても良いですか?」


 話の途中で申し訳ないのだけれど。

 イーアンの顔から、20㎝の場所に、混沌の海を精霊が『清めている』場面があり、イーアンはそれを目一杯の記憶力を動かして、細部まで叩き込んだ(※で、この後、フラカラにやんわり事実を伝えた)。

お読み頂き有難うございます。

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