132. ハルテッド恋心
朝がきつい。ハルテッドの朝はもう少し遅くても良い。
朝が早いと化粧も大変。ノリが良くない。でもここは男しかいないから適当で良いかーと思えもする。
昨日呑みすぎた。でも呑めるなら、あの人達の隊に入れば良かった。何でベルと一緒じゃ駄目だったんだろ。
兄貴と一緒だったら、もうちょっと好きに出来たかもしれない。
ドルドレンはイーアンとくっ付いているから、邪魔するのも野暮よね。
でも兄貴は良いんじゃないの?とハルテッドは新しい環境に慣れずにいた。兄貴は馴染んでるのかな、と思うが、あれは負けん気は強いからわかんねーなー、ということで終わり。
馴染みが少ないと、こんなに気を遣うのか、とうんざりしていた。クローハルの隊の連中は悪いヤツじゃないの。でもパーばっかで会話浅い。
隊長も顔と口で生きてるのかしら。戦うところ見てないから分からないけど、あれで強いのかなー・・・・・
でも百戦錬磨の騎士が、イーアンの解体で吐くって。と思ってしまう。女があんなことしないと思ってるだろうから、そしたら無理ないのかも知れないけど。でもねどうなのそれって正直、気になる。
もちょっとないのー?面白い男いないのかなぁ、と朝っぱらから退屈な溜息をついた。
うーん、と伸びをして時計を見る。時間は7時。
化粧して、胸つけて、えーっと朝ごはんか。その後は演習だかなんだか。あんなの繰り返して強くなるのかね、と思っちゃうけど。
「ふー・・・」
自分の股間を見て、止まる。髪の毛をかき上げながら、「こればっかは取る気になんないね」と独り言。朝は目立っちゃうけど、こういうもの、と認める。
男が嫌なんじゃない。女の良い所も、自分は両方持ってる。その優越感みたいなのは親譲りか。親の遺伝と言われるのは嫌だったけど。私は私。俺は俺。良いじゃん、それでね。と思う。
思い出す昨日。何でイーアンは夕方、私のこと断ったのかな。
「彼女は私のこと嫌いじゃないんだよね・・・」
ちょっと年、行ってんのかな・・・とは思う。年齢による顔つきみたいのはあるから。でももし10コくらい上でも、44でしょ?44であれなら若いと思う。40過ぎたら化粧なしでいられる女の方が少ないだろ。
『胸ないから』って絵を見せなかったなー、と初日を思い出す。
人それぞれで、ぺったんこでも良いんじゃない?と思うけれど、本人はヤなんだろうな。
あの絵は何か意味ありげだし、男にない絵がどーんと入ってるなんてカッコイイ。無理して見ちゃいたくなるけど、嫌われても困る、と自制。
「イーアン。私のことどう思ってるのかしら」
ベッドで胡坐をかいたハルテッド。股が治まんないと着替えられないからな、と。
髪の毛くるくるしてる。可愛いな、と思った。きょろきょろしてるところとか、丁寧に喋るところとか。
魔物の時の豹変はびっくりしたけど、素が出やすい性質だと思えば、正直ってことだな、と納得。
「あ」
いろいろと一気に思い出す。
私のこと誉めた。『頼もしい・優しい』って言った。・・・・・ちょっとビックリした。女に向かって言う言葉じゃないよな、とあの時思った。あれ、私を男だと思って言ったのか。
微妙な気持ちで驚いた。嬉しいような、戸惑うような。
ソカの時もそうだった。私の目を見つめて『ソカを使わせて怪我させたら一生後悔する』と言った。そんなふうに私を思った人なんて、今までいただろうか。
魔物の首を取ること。あんなの難しくなかった。あの程度で良いなら、しょっちゅう出来る。もっときつい人生だったもの。
魔物を落としたら、イーアンは喜んで走ってきて、私に抱きついた。めちゃめちゃ喜んでいた。
分からなかった。女として友達に見たのか。男だって分かってて・・・いや、違う。男なら、多分彼女は抱きつかなかった。 ・・・・・だと思う。
「女でいようとする男、って感じで受け入れてくれたのかな」
よく分からない。でも。嬉しかったから抱き締め返した。
ドルドレンは嫌だろうな、と過ぎったけど。彼女がすごく喜んでくれたから、抱き締めたくなった。
なんだろう。女同士だから?私が―― 俺。俺が。男の部分で?
「やだなぁ」
ふぅっと息を吐き出す。なんなんだろう。どっちでいればいいのかな、と思う。
イーアンに好かれたい。 ああ、それはそう思う。
女だから?違う。 友達で?それはあるけど、それだけでもない気がする。
イーアンは不思議だ。 女らしい女じゃない。男って言われたら男にも見える。でも線が細くて女かなと気がつくか。
子供みたいに見えることもある。でもほうれい線とか分かるから、年上っていうのもよく見れば認識。だけどそんなの、喋ってると気にならない。
ドルドレンがいうみたいに、本当、魔物退治の時は別人みたいにザックリして冷たい目つきになった。声も抑揚がないし、笑顔もない。魔物をどれだけ早く的確に倒すか、って冷えた心で考えている感じだった。あれはコワイ。
でも終われば、やらかい笑顔。垂れ目で、へへ、みたいな。解体しても頭割っても、へへ・・・って、そりゃちょっと引くけど、でも目的があるんだなというのは分かる。
動きに躊躇がない。余計な言葉はない。自慢もしなきゃ、ただ満足してる気がした。
あと会議の時。初めて出たけど、イーアンの考えてた事が意外で呆気に取られた。マジですかって感じだった。
片目のおじさんに質問されて、すごいフツーに答えてるの。出るわ出るわ、何それみたいな話。あんなちょろっと見ただけで、あんな事思いつくの?ってビックリだわよ。
「だからクローハルさん連れてったんだな」
イーアンいなかったら、どうやって倒してたのかと思った。こっちも言われたら動くけど、あの人達だけじゃ一日かかってそうな気がした。怪我人とか出そう。
・・・・・イーアン。私のこと、どう思ってるのか。 嫌いじゃないのは分かる。男だって知ってると思うけど、偏見もなさそうだし。ドルドレンの手前、言わない事もあるだろうな。
でも、知りたい。会ったばかりだけど、第一印象みたいなので良いから知りたい。
「俺。どう思ってるんだろ」
素で呟く自分。彼女の事、俺はどう思ってんのかな。化粧しなかったら。胸つけなかったら。髪結んでたら。 で、『私』って言わなかったら。
男だって思ってくれたら、違う反応見せるのかな。男状態でも結構カッコイイと思うけど。どうなんだろう。
「俺でも。もしまた魔物倒したら、イーアンは抱きつくんだろうか・・・」
抱き締めたときの体の細さに驚いた。女って、もっと。むくむくしてると思ってた。胸とか尻とか足とか。あんなに薄くって大丈夫かよ、って思った。
ソカを使うって知った時は、すごい心配だった。あんなソカも初めてだけど、あれを作った上に自分で魔物を倒すとか言うし。
ダメだっつーの。ドルじゃないけど、ダメだよ。ダメ。
ソカは上手かったけど、あんな武器使ってホント、万が一当たったらと思ったら、取り上げるしか思いつかなかった。
・・・・・人生で何回か、女は抱いた事はある。だけど別にそんな楽しいわけでもなかった。ちょっと気持ちーくらいかな。
遊びと言うか、流れと言うか。面白半分。こんなもんだよね、って。女装で男が騙されるのは面白いけど、女は気楽な友達。遊びでそういう関係もあるってくらいだった。 うん、でも。
「イーアン。また抱き締めたり出来んのかな」
長い茶色のストレートヘアを手荒にかき上げるハルテッド。股間の朝は治まった。
俺が男だったら、ダメなのかな。男の状態で抱き締めらんないかな。
ドルドレンと一緒にいるのを思うと、何となく舌打ち。
「手ぇ出しにく」
今日。クローハルさん気絶しないかな。抜け出してー。会いたいなー。
兄貴に頼んでみようか。クローハルさん拉致って、って。
「いーや。とりあえず遊び行っちゃおう」
女の格好で行けばぐいぐいイケそうだから、とにかく距離縮めてみるか。よしっと口角を吊り上げるハルテッド。そうと決まれば化粧、化粧。
「化粧しよ、って言って、顔触るのもありか」
面白がる企みはどんどん増える。騎士の訓練は退屈だけど、イーアンところは面白みがある。しばらくイーアン尽くしで楽しむ事に決めた。
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