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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1312/2965

1312. 別行動:龍尾の指輪とメーウィックの不思議

 

 魔法陣の上にある洞窟、翌朝――


 シャンガマックは早くに夢から覚め、目を開ける前に(たてがみ)のフカフカを撫でる。体がすっぽり埋もれる、豊かな長い毛の中、温かくて、フワフワしている手触りの目覚め。

 目を閉じたまま深呼吸して、両腕でぐーっと抱き締めてから『一生、これが良い』起きがけの掠れた声で呟く。



「一生、こうして起きるんだ」


 側で聞こえる低い声に笑って、シャンガマックが頭を起こすと、碧の瞳がこっちを見ていた。おはようの挨拶を交わし、外が少し明るいことに気が付き、騎士は上体をよいしょと立てると『遅く起きた』と目を擦る。


「遅くない。まだ獲りに行ける。待っていろ」


「有難う。でも、いいよ。昼でも」


 そうもいかないだろと、獅子はゆっくり立ち上がり、洞窟を出ようとして振り向くと、起きたばかりの息子の顔をベロっと舐めた(※息子、仰け反る強さの一舐め)。


「ハハハ、何?」


「挨拶だ」


 ふざけたように獅子もちょっと笑って、そのまま影に消えた。可笑しくて笑い、よだれを手で拭いながら、シャンガマックは幸せな状況に感謝する。


「ヨーマイテスも嬉しいんだ。それが分かるから、感謝しかない。こんな、想像もしない、素晴らしい家族を授けられた俺は、本当に人生に愛されている」


 洞窟の入口へ行き、太陽の上がる空を見て、褐色の騎士は精霊に感謝の祈りを捧げる。しっかりと名を呼んで、心からの感謝を伝え、また洞窟の中に戻った。



 ヨーマイテスが戻る前に、今日の準備をしておこうと、荷物を引っ張り寄せて、魔法の応用に使う道具と並べる。ふと、ヨーマイテスが出しっぱなしにしているベッド(※箱)に、指輪が落ちているのを見て、『あれ?』と思う。鎖の付いた、指輪・・・・・


「これ。俺の指輪か。変だな、腰袋に入れておいたのに」


 どうして寝床におちているんだろう?と手を伸ばしかけた時、『バニザット!』間髪入れずに大きい声がして、ビクッとしたシャンガマックは、急いで手を引っ込める。声の方を見れば、影の中に獅子が動く。


「それは触るなよ。俺が持ってきたやつだ」


「ごめん。俺の指輪みたいに見えたものだから」


「ああ、違う!謝るな!そう言うつもりで言ったんじゃない」


 獅子は口に(くわ)えていた鳥を下に置くと、側に来て息子の心配そうな顔に『注意じゃなかった』と改めて教える。うん、と頷いた息子に『謝らないでくれ』と言うと、獅子は体を人に変え、指輪を摘まみ上げてベッドを仕舞った。


「鳥を焼く。影の中で話す」


「分かった。ごめんね」


「だから!謝ることじゃないんだ。謝るな」


 大男は困ったようにしゃがみ、道具を並べていた息子を見て、頭を撫で『俺の言い方がいけない。とにかく後で話す』そう言って、息子と鳥を抱えると影を伝い、魔法陣へ下りた。



 ヨーマイテスは日の昇り始めた外で、影の深い場所に立ち、そこに立って炎を出すと、獲った鳥を投げ入れて余分を消し、身だけにする。シャンガマックはヨーマイテスの側に座るが、すぐに『お前は日が当たるところへ』と促された。


「冷えると困る」


「夏だよ。大丈夫だ」


 いいから、と言われて、苦笑いで了解し、朝日の当たるところで、父に一番近い場所に座る。一日離れたから、何だかヨーマイテスがとても心配性(※いつもだけど)に感じる。


 肉が焼けるのを待つ間、ヨーマイテスは影の中から、先ほどの指輪について話してくれた。それを聞いて、シャンガマックも驚き、また、とても喜んだ。急いで指輪を腰袋から出すと『これと?』と笑顔で父に確認。父、嬉しそうに頷く。


「そうだ。お前の指輪と似ているから、お前も間違えた。この二つは対なんだ。ただ、同じ場所に同じものは二つ揃っていない。俺はこれがあると知って、取りに行った。これさえあれば」


「どうすれば良いのか。教えてくれ。指にはめる?」


 急ぐ息子に笑って、ヨーマイテスは頷くと、自分の左手の人差し指、その指先に小さな指輪を近づける。指輪は二人の見ている前で、ふっと広がり、大男の太い指にすぽんと入った。


 ヨーマイテスの碧の瞳が、シャンガマックを見たので、シャンガマックもすぐに真似して、自分の持つ指輪を人差し指に近寄せると、指輪は同じように、騎士の人差し指にすぽんと飛び込むようにはまる。


 これでいいの?と訊こうとした時、頭の中に『問題ないな』と父の声が響く。目を見合わせて、二人で笑顔が砕ける。シャンガマックも頷いて『問題ないよ』と頭の中で答えると、父は『こっちへ来い』と笑顔のまま言う。

 騎士は立ち上がって側へ行き、父の真ん前に座ると、頭の中で『来た』と笑いながら伝える。ヨーマイテスは息子が可愛くて仕方ない。ギューッと抱き寄せて『これで大丈夫だな』心から、満足の様子を伝えた。


「ヨーマイテス!指輪があれば、どこからでもだろうか」


「多分な。距離までは聞いていないが。というかな、過去のバニザットに頭に来ていたから、説明を聞かないで戻った」


「え。じゃ、もしかして何か注意点でもあったら」


「ないよ。そんなものがあれば、先に言うだろう。とりあえずは大丈夫だ」


 そうか、と微笑む息子に、ヨーマイテスは内心『何かあったらマズいな(←今更)』とちょっと悩む。最初に聞いた話を確認した時、特に危険はない感じだったから、問題というほどのことはないと思うが。

 今日は行かないにしても、近々・・・また老バニザットに聞きに行くかと、眉を寄せた(※イヤ)。


 父の腕の中で指輪をしげしげ見ているシャンガマックは、他の効力の話も聞き、とても関心を寄せていたが、肉の焼けた匂いがして、一先ず食事にする。腹の鳴り方が激しくて、肉を頬張ると止まらなくなった。

 父にも肉を切り分けていたが、あまりの頬張り方を見た父は『一人で食べろ』と笑って断った。


「よほど腹が減っていたな」


「らしい。でも俺は、ヨーマイテスがいないと、食べる気にもなれなかった」


 腹は鳴っていたが、食べようと思えなかったんだと伝える。ヨーマイテスは感動に打ちのめされつつ、無表情で頷いて『昼も早めに食べろ』と命じ、昼はもっとデカイ鳥にしてやろうと決めた。



「それで。俺がこの指輪を手にするべきだったから、あの時、遺跡が光って見えた(※1276話参照)・・・それと、指輪は、俺たちが頭の中で会話が出来ることと・・・世界中の言語に通じる?合っているか?」


「合っているな。そういうものらしいから。遺跡が光ったように、お前の目に映ったのは、過去のバニザットが『3回目の魔法使い』に与えた示唆。指輪はそれくらい重要ってことだな。世界中のいつの言語でも読めるんだから、そりゃそうかも知れん」


 モグモグしながら、息子が指にはまった指輪を見つめ、『これがそんな力を』と不思議そうに呟くので、大男は他のことも話してやる。


「鎖があるだろ?龍の尾が付いている・・・まぁ、あんまり面白いもんじゃないが、この鎖はな。見えるか。指輪を一周させて、こうだ。ここに尻尾の彫刻がある。ここに当てると」


「ん!消えた」


「消えたんじゃないんだ。収まっただけで。外す時は、鎖の部分を引けば外れる」


 指輪に薄っすら刻まれた線は、鎖の先に付いた龍の尾を模った飾りと同じ線で、そこに飾りを押し当てた途端、同一化してしまった。父が言うには、鎖は指輪を一周しているだけだから、それを引けば飾りも外れると言う。


「龍の遺跡に限らないとは思うが。壊れた遺跡の文字には、これを当てるんだ。それで読めるようになる・・・って話だがな。どうかな」


 ちゃんと聞いてないからな、と苦笑いする父に、シャンガマックは大真面目な顔で頷く。


「やってみよう。()()()()に出掛けて。こんなに貴重なものだったら、何度か練習してみて、ちゃんと使えるようにしておきたい」


 そうしようと、受け入れて、息子に食事を終えるように言うヨーマイテスは、息子の期待する『近いうち』よりも早く、この指輪について老バニザットに確認してこねば、と焦った。



 食べ終わった息子に、『もう一つだ』とヨーマイテスは言う。うん、と頷いて、指を舐めながら話を促す息子に、どこから話そうかなと思いつつ。


「そうだな・・・まぁ。分かりやすいからな。お前の状態と、メーウィックを並べても良いかも知れん」


 メーウィック?息子は意外そうに、暫くぶりの名前を繰り返し、父の側へ行って座り直すと、ご馳走様のお礼を伝えてから、何のことかと訊ねる。

 息子を見下ろし、頬に付いた食事の後を拭ってやり(※シャンガマック34才)ヨーマイテスはそれを食べると『ふむ』と話し出す。


「タンクラッドが、お前の状態に疑問を持ったな。あれと同じことは、過去に俺も思ったことがあった。それがメーウィックだ。

 あの男は、今のお前と同様、サブパメントゥとも付き合い、サブパメントゥにも入ることが出来たし、龍の骨の板も使った。お前と強弱の差があるにしても、精霊の類と触れることも出来た」


「精霊とも?」


「バニザット。今、言った。強弱の差がある。ナシャウニットの加護があるお前とは比較にならない。だが、言ってみれば。ショショウィのような地霊とかな、精霊の中でも弱い力の相手とは仲が良かったんだ。

 考えてみればおかしな話だぞ。メーウィックが付き合っていた中心の存在は、コルステインたち家族なんだ。『あいつらの誓い』を受け取ったとしたら、ほぼ、サブパメントゥみたいなもんだ。だが、あの男はどこにも影響を及ぼさなかった」


「それは。()()()()ではなくて?」


 シャンガマックは、遮るかもと思いつつ、理解の妨げになりそうな箇所を確認した。

 これは、以前、ロゼールを初めて見た時に、ヨーマイテスがスフレトゥリ・クラトリの中で教えてくれた話による(※1230話最後文参照)。

 焦げ茶色の大男は、何てことなさそうに首を振り『違うな』と答える。



「メーウィックは。確かに、サブパメントゥへの()()()が理由で、あの家族と深く繋がった。だが、それはあいつの行動であって、性質じゃない。

 メーウィックも、手助け自体は『偶然』だったんじゃないか、と俺は思う。今になっては知りようもないことだ。あいつが()()だったから、巡り巡ってそうした展開が出ただけで」


「そうか・・・じゃあ」


「メーウィックが『サブパメントゥを手助けした経緯』とは、別だな。偶然の繋がりが生んだ行為だったんだから。過去のバニザットも、それは何も可能性と言っていない。

 ここから、まずはお前に確かめたいことがある。前に話した、メーウィックがコルステインたちから受け取った、数々の奇妙な物の一つ、『水』。どこかでお前は、口に入れていないか?」


 シャンガマックは『水』と呟いて思い出そうとし、『どうだろう?』斜め上に視線を向けて呟く。


「遺跡はどこを回ったんだ。それは記録してるだろ」


「そうだね。資料は馬車だけど。場所だけで良いなら言えるよ。ハイザンジェルとアイエラダハッド」


「アイエラダハッド。ハイザンジェルは、どこだ」


『そこも、アイエラダハッドに近い北だよ』と教える息子に、父はもう少し詳しく場所を聞く。

 思い出せる範囲でいろいろ説明した後、シャンガマックは、うーんと唸って『イーアンの刺青みたいな絵があったんだ』だから記憶に残った、と呟く(※86話参照)。


「刺青?イーアンの?あいつはいつも服を着ているから見えない。どんな」


 反応した父に、シャンガマックは『ええとね』と指で何となくその形を魔法陣の床に描く、指の動いた線を想像したヨーマイテス。『そこだ』と呟いてすぐ、『お前』息子の頬に片手を添えた。


()()しただろう。そこで」


「覚えてないなぁ。結構前なんだ。俺が支部に入る前だから・・・何と言っても」


「思い出せ。何があった。絵を紙に描いただけじゃないはずだ。何かがそこにあって、お前は」


「あ!そうだ。そう、でも。そうかなぁ?壺があったんだ。謎解きのように壁が動いて、俺は楽しんで奥へ進んだ。大きな広間の先に小さい廊下があった。そこには壺があって、俺はその壺が気になって開けた」


「それで」


「開けたら。水が入っていた。小さい壺だから、顔の側で栓を開けたら、中の水が撥ねてかかった。俺はそれを拭った」


「飲んだ?」


「飲む?どうかな。口に入ったかも知れない。そこまで覚えていないよ」


 ヨーマイテスは合点がいく。息子をぐっと引っ張り寄せて抱きかかえ(※これは単なる愛情表現)驚く息子に『だからだ』と呟く。


「だから・・・とは」


「お前が俺を受け入れ、精霊も共にあり、龍の力を宿す道具も扱う理由だ」


「それは?メーウィックも同じなのか」


 先の話を繋げた息子に、ニコッと笑う優しい笑顔のヨーマイテス。『その通りだ。あいつは()()()()()()を飲んだ』それを伝える。息子の漆黒の瞳が真ん丸になる。



「古代の。海の水。そんなの、とっくに蒸発するぞ。無理があるよ」


「ない。なぜならその壺は『地下の国』の曖昧な時間の中で作られているからだ。中に入れた物にさえ、それは影響する」


 地下の国。サブパメントゥ。


 サブパメントゥの壺に入れられた、古代の海の水―― シャンガマックは、突然、謎めいた話に引き込まれる朝に、高揚する意識を抑えられず、父に食い下がるようにして続きを聞いた。

お読み頂き有難うございます。

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