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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1310/2964

1310. ロゼール再び真夜中の到着・親方とささやかな愛の具現

 

『壺が割れています』



 ロゼールの報告に、コルステインたちは顔を見合わせる。『()ある?』リリューに訊ねられ、ロゼールは首を振った。


『しみ出して、乾いちゃったと思います』壺は、下部の底に近い箇所を残して、上部のほとんどが砕け、下部にも大きなひび割れが入っている。

 素焼きの壺に塗られたものは何だったのか。ロゼールが触って確認した、壺の内側には、塩の浮いた残りと、少しベタッとする感触があった。


 そして、今のリリューの質問ではっきりした。ここに水が隠されていた事。

 何百年も前の水が残るのか、そんなことさえ不思議でならないが、彼らは水があると思っていたし、その水が『宝』だった。


 もしかしたら、壺が壊れる前に水は消えていたかも知れない。その可能性の方が大きい。だがこんなことも、壺さえ大破している現時点、どうでも良いことになってしまった。


 彼ら5人はお互いを見合い、コルステインがゴールスメィを見つめる。何かを感じたか、ゴールスメィがロゼールの方を向いた。


『もう一度、水のあったところを見ろ。よく見て、それから俺に話せ』


『見るだけで良いんですか?壺は持ってきますか?』


 見ればいい、と答えが戻り、ロゼールは了解して壺の側へ行き、火の玉と一緒に、壺や周囲をくまなく見た。刻まれた、色のない文字のようなものも指で触れて、じっと見つめ『字だよね』呟いて目を細める。


「あ。え?読める・・・読めるぞ、俺たちの使っている字だ。嘘ぉ!?」


 素で驚くロゼール。遥か昔の遺跡に、なぜ自分たちが使う文字があるのか。机の窪みの手前に、それは彫られていて、他の彫刻とは全然違う感じがした。

 とにかく読めるだけ、字を辿り、少し欠けていて分かりにくい所は見当を付ける。


「本当?あと二つ・・・ってことかな。『水辺・三つに分かつ』だよな。そうとしか読めない。ここが一つだろ?だから、やっぱり。後、どこかに二か所あるのかも」


 口を手で覆い、眉を寄せて目を見開く、若い騎士。信じられない思いで、文字を指先の感触に残す。どうやっても、そうとしか読めない。この前後も何か書いてあるけれど、そこは瓦礫が当たって欠けてしまっている。



「でも、収穫だ!()()()()()ってことだ」


 ロゼールは入り口に戻って、ゴールスメィたちに、今見たことを話す。彼らは何度か頷いて、ゴールスメィは少し頭を後ろへ向けると、口を開けた。


「あ!俺の見たところが」


 はっとして言葉にしてすぐ、皆が自分を見たので、急いで頭の中で言い直すロゼールに、メドロッドは『この前と同じ』と教える。ゴールスメィは()()()()()()()()()()、と。


 ゴールスメィが視覚化してくれた絵。ロゼールがたった今、中で見たものを皆も見つめる。割れている壺や、散らかったままの破片の様子で、皆も『目的の宝が消えた』とは理解した様子。

『ここじゃない』四本の腕を組み、マースがコルステインに伝える。


『動く。する。今日。違う。明日』


 コルステインも、別の場所を探すつもりになったようで、今日は終わりだと、皆に告げる。


 それから、若い騎士を見下ろすと微笑んで『お前。馬車。行く。する』そう言って、嬉しそうな顔をした騎士の頭を、大きな鉤爪の背で撫でた。



 *****



 馬車の間に置かれたベッドで一人。親方は寝付けなくて夜空を見上げる(※常に屋外就寝)。


「これが夏だからな。まだ良いが。冷えて来たら、あいつ(←コルステイン)どうする気なんだ。今夜だって、俺に()()()()()()状態で放っておいて」


 いつもコルステインは、大きな片翼を掛けてくれるので、布団があると暑いと知ってから、親方は布団を馬車に返上していた。

 コルステインがいないなら、取りに行けば良いだけの話なのだが、それをすると『もろ帰ってこない』状況を、自分にすり込みそうで嫌だから、しない(※親方なりに気にする)。


 冬場、真夜中に出掛けられては敵わんと、親方はぼやく(※冬も屋外設定なのか)。


 さっき・・・イーアンが来て『お布団要りますか』と訊いてくれた。うっかり『くれ』と言いそうになったが、黙って首を振った。


 イーアンは見抜いているように、じーっとタンクラッドを見つめ『寒くはないと思うけれど』虫いますよ、と(←いる)防御のためにも勧めてくれた。


 タンクラッドはそんなイーアンの配慮に、心から。心っから、お前が妻だったら良かっただけだ!と思った(※願望と八つ当たりの複雑な心境)。


 イーアンが妻だったら、俺は外で寝ていない。今、こうして蚊に刺されることもない。

 コルステインはその場合―― どうしたら良いかとは悩むが(※こっちも捨て難い)とにかく眠りを夜風に当たりながら、日々過ごすことはなかった。


 布団のないベッドに仰向けに横になり、長い足を組んだまま、溜息をつくタンクラッド。蚊が来るのを鬱陶しくバチバチ叩いて、コルステインが早く戻ることを願う。


「いつ戻って来るんだ。戻るかどうかだけでも、はっきりさせないとダメだな」


 バイラが毎晩、虫除けの草を焚いてくれているが、風の流れで、煙の恩恵がない時間もある。コルステインがいれば、よく知らないが何故か害虫は寄らないので、そういう意味でも『戻るなら戻る』と、言っておいてほしかった。



 くさくさしながら、親方は蚊を追い払いつつ、不機嫌に夜空を眺める。その時、ちらっとだが、夜空に歪みが見えた気がして、目を凝らす。


「今。何か見えたか?」


 呟きは聞こえないほどの音で。ゆっくり上半身を起こし、剣がいるのかどうか、目を凝らす先から視線を動かさずに考える。歪みは一度だけだった気がしたが、その数十秒後――


「お。ん?あれは」


 夜空に黒い点が見え、その点が5つあることで、ハッとする。気配もそう。『コルステインたちか』戻って来たんだ!と分かり、ちょっとだけ笑顔が出る。


「待て。待てよ。5人で空飛んで・・・ってことは。つまり」


 見上げる親方は気が付く。サブパメントゥたちだけなら、のんびり空を飛んで戻りはしない。序に5人まとめて移動の必要もない。となれば、答えは一つ。


『タンクラッド。寝る。ない?』


 頭の中にコルステインの声が掛かる。すぐ『お前がいないのに、寝れるわけないだろう!』と返したが、ロゼール付きと分かっていても、親方は嬉しかった。


 親方の返答に反応した、中央の黒い影はぐぅっと向きを変え、見る見るうちに大きくなり、タンクラッドのいるベッドのすぐ近くに、大きな黒い鳥が降り立つ。

 それに続いて次々、異形の姿の大きな生き物が並び、タンクラッドはコルステインご家族と向かい合った。

 黒い鳥の背には小柄な騎士が乗っていて、さっと頭を上げると子供のような笑顔を向けて、ひょいと飛び降りる。


「タンクラッドさん!こんばんは!」


「『こんばんは』って。お前らしいな、ロゼール」


 拍子抜けする親方は笑い、ベッドを下りて側へ行き、さっきまでご機嫌斜めだったのも消え、やって来た若い騎士を迎えた。



 ここからは、ロゼールとコルステインたちを交えて、親方は粗方の話を聞き、彼らが『また明日も動く』と分かったので、とりあえずロゼールに『寝台馬車で眠れ』と促した。



「すみません。夜遅くに。あ、何か食べます?俺、少し食べるもの持ってきたんですよ。明日の朝でも良いけど」


 挨拶しがてら、ロゼールは抱え直した荷物に視線を向け、前回同行時に、人一倍食べていた親方に気を遣う。タンクラッドは、小柄な彼の見上げる顔を見て、何度か瞬きし、ハハッと笑った。


「くれるなら食べる。お前の料理も美味いよな。だが、イーアンや皆に分けるつもりだろ」


「でもないんですよ。あるもの詰め込んできたんで・・・これ。飲み物ないけど、大丈夫かな。食べますか?夜食にと思って、俺の分ですが。俺も今から二つは食べないし」


 はいどうぞ、とロゼールは一つの包みを親方に渡す。大きな手に受け取った紙の包みから、ブレズに挟んだ柔らかい肉と酢漬けの野菜が見えた。


「お前も挟んで食べるのか。イーアンがよく、こんな風にしてくれるが」


「イーアンに教わったんです。味が混ぜこぜになりそうだなって、最初は思ったけれど。遠征の昼で食べて以来、俺も好きで作るようになって。北西支部では、定評のある軽食になりました」


 ――イーアン・サンドイッチ。なぜか、大型のパンがあるのに、サンドイッチとして食事に出てこなかったことから、イーアンが作ったら(※切って挟んだだけ)やはりお手軽に人気が出た。

 相変わらず『サンドイッチ』とした呼称はないが、『挟んだやつ』で定着した、北西支部の名物(※大袈裟)である。



 ロゼール夜食を頂戴し、親方は寝台馬車の扉を開けると、ロゼールを通す。ちゃんと起きていた、バイラとフォラヴに静かに迎えられ、ロゼールは小声で挨拶しながら、馬車に入った。


 ベッドに戻ると、コルステインも家族を帰した後で、二人で並んでベッドに座る。


 夜食に嚙り付き、タンクラッドは美味しく咀嚼。ハイザンジェルの味わい。

 酢漬けの野菜も、野菜の種類が北西部のものと、今は分かる。支部の塩漬け肉は、テイワグナで食べる肉よりも柔らかく、脂も多い。

 それを薄く切って、何枚も重ねた塩漬け肉に、硬質のチーズが間に入り、酢漬けの野菜と砕いた木の実が、同時に口に入るのが、得した感じをひしひしとさせる夜食だった。


 満足そうにむしゃむしゃする親方を見つめ、コルステインは微笑みながら『食べる。どう?』と訊ねる。


『食べることか・・・お前も食べられたらな。でも分からないんだよな』



 そう言いながら、親方はちょっとブレズを見つめて、コルステインにも差し出す。

大きな青い目は、目の前の物体を見つめ、同じように口を開けて噛んでみた。コルステイン、人生初の食事。


 齧るコルステインを見て、親方はとても嬉しくなった。何の気なしに食べさせてみるか、と見せただけなのに、本当に嚙り付いてくれると、一気に距離が近くなった気がする。


 夜空色のコルステインは、少し齧ったものを口に入れて、どうしたら良いのか考えたようで、親方が口を動かして見せるのを真似し、その後どうするかを訊ねる(※飲み込むとは思っていない)。


『飲むんだ。分かるか?飲み込む。ほら、お前の喉に、珠があるみたいに』


 珠は飲んだんだろ?と教えると、コルステインはちょびっと飲み込んで、よく分かっていないみたいで、口を開けて見せた。苦笑いしながら、どれ、と見てやる親方。


 ぐちゃっとしていそうだと思っても、サブパメントゥが頑張って食べてくれたんだからと、責任を感じて、コルステインの下げた頭を覗き込むと。意外な現場を見る。

 コルステインの顔を両手で包み込んで、口の中をじっくり見つめ、質問。


『何でだ?噛まなかったのか?』


『噛む。した。噛む?口。動く。する。お前。同じ。どう?』


 ここで親方、気が付く。コルステインは鳥・・・歯が。違う。


 普段、気にもならなかったが、歯だと思っていたのは、白い()()()()()列が上下にあるだけで、歯としての機能がないのだ。


 口の中をちゃんと見たことがなかったし、この前見た時も、喉の奥に気を取られていた。普段、口を動かして会話するわけでもない。いつも会えば夜というのもあり、たまに口が開いても暗くて見えなかった。初めて知った事実に、今、すごく驚く。


 コルステインは唾液もない。齧ったは良いものの、そっくりそのまま・・・ちょっと段がズレた状態で、口の中に食事が残っている。


 これには親方も考えて、どうさせるべきなのか悩んだ末、分からないから『俺が食べる』ことにした(※食べかけ気にならない人)。

 口を開けたままにしてもらって、中にあるものを一つ取り出し、見つめ(※よだれ付いていない)そっと自分の口に運んだ。特に変化がない、と知る。



 片や、コルステイン―― 口を一旦閉じ、目の前でモグモグしている親方を、じっと大きな青い目で見守る。


 何やら考え込んでいるタンクラッドは、頭の中でも『何でだろう』を繰り返しながら、残りの分を食べようと、またこっちを向いて『口を開けろ』と言うように、自分の口を少し開けて見せた。


 それを見た、コルステインは。タンクラッドの顔を、両手の鉤爪の背でクリッと押さえ、彼の口を大きくパカッと開けさせて、自分の口に入っているものを()()()移してあげた(←真向かいのヒナが口を開けていると、親鳥はこうする)。


 ベロっと舌で押しやって、タンクラッドの口に入れてやると、タンクラッドの目が真ん丸になって、顔が真っ赤になった。

 いきなり真っ赤になったので、どうしたのかなと思ったが、頭の中の感情は喜んで興奮している様子なので、コルステインはニッコリ笑う。


 なぜか倒れかけるタンクラッドに気が付いて、鉤爪でちょっと服を引っ掛けて引き寄せ(※危ない)ちゃんと座らせる。自分を見上げる鳶色の瞳は、何やら大変に喜びが泳いでいるのを知り、コルステインは、彼が()()()のがとても好きなんだ、と思った(※自分の口にあったやつ、あげたから)。



 ケロッとしているコルステイン(※当然)。アドレナリンが爆発しそうなタンクラッド(※これも仕方ない)。


 ふんふん、言いながら、眉を寄せて目を固く瞑り、親方は股間を押さえ、口を押さえ、何度も『寝よう』の言葉を嚙み(※三文字のはず)どうにかベッドに横たわり、一緒に添い寝してくれるコルステインの翼の下で、久々の刺激に打ち負かされた煩悩を追い払うのに必死だった。


 結局、親方は募る過酷な苦しみのため、一時退席して(←ベッドを)『用足し』とコルステインに断ってから、少し一人きりになり、数分後に戻り、そこからは大きな溜息と共に、落ち着いた様子でどうにか眠りに就いた(※仕方ない)。


お読み頂き有難うございます。

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