1300. 親方からの伝言 ~次へ・硫黄谷
サブパメントゥに帰ったコルステインは、嬉しさほくほく。
昼なのに、タンクラッドに呼ばれた。それに頼まれものもある。
忘れないうちに(※早くしないと忘れる)ちゃんと頼まれたことを伝えて、夜に教えてやれば、タンクラッドは喜ぶだろうと思うと、コルステインはニコニコしながら、移動する(←霧状)。
『タンクラッド。頼む。コルステイン。言う。タンクラッド。嬉しい。する』
うんうん、頷くコルステイン(※カワイイ)。さっさとホーミットに会って、さっさと伝えて帰るつもり。
サブパメントゥの中を動いて、この辺だなと思った場所から少し上がる。
コルステインの移動の速度は、ピカイチ。気体にも変わるので、全体に溶け込むように動くと、とんでもない広さが相手でも呆気ない。上がった場所が暗いと知り、体を変えてそのまま浮上。
コルステインが上がったのは、彼らが寝床にしている洞窟の奥。
外に、ホーミットとバニザットの気配がする。コルステインにも気が付いたか、ホーミットが動き出し、呼ぶ前に側に獅子が来た。
『何だ。何で、お前がここに居る』
獅子は不審そうに、驚きつつも急な来客に用を訊ねる。コルステインは、昼の光に念のため、鳥の姿。向かい合う獅子と黒い巨鳥。
『お前。言う。する。バニザット』
『何だと?バニザットに何の用だ。言えと言われても、俺が判断する』
『ダメ。言う。タンクラッド。頼む。した』
タンクラッドォ? 獅子はそこで、拍子抜け。息子に何をと、警戒してみれば、コルステインが来たのは男の用事(※彼氏扱い)と分かり、間が抜けた気がして苦笑い。
コルステインには、何で獅子が可笑しそうなのか、全く分からない。とっとと、用事を告げるのみ。片翼をちょっとあげて羽繕いすると(※鳥の習慣)くるっと向き直る。
『バニザット。龍。剣。精霊。護り。サブパメントゥ。誓い。お前。糸。何?』
『は~~~~???』
コルステイン的には、きちんと伝えた。獅子は目を丸くして、口を開けたまま、何を言ってるんだ?と態度で示す。だが、黒い鳥には通じない。
さっと背中を向けて立ち去ろうとした(※早い)コルステインに、慌てて『ちょっと、待て!おい!』と止める。鳥は振り向く。
『分からないぞ?バニザットに伝えろって言うが。何が言いたいのか』
『ホーミット。言う。する。分かる?』
『分からない、って、今言っただろ?!聞いてたか?分からないから、訊いているんだよ(素)!お前の言い方じゃ、バニザットも混乱する』
黒い鳥は黙る(※何が分からないのか、分からない中)。黙って、真っ青な目でじーっと獅子を見つめ『言え』と命じた(※強制)。
獅子はぶんぶん、頭を振って『無理言うな。バニザットが苦しむ。もう少しちゃんと教えろ』と、用件を繰り返すように言う。その時、下から息子が呼んだ。
「ヨーマイテス!どうしたの?」
名前を呼ばれたので、ハッとして獅子は急いで洞窟の入り口に走り『名前を呼ぶな』と注意。きょとんとする息子が見上げたまま、頷いて『ごめん。何かあったのか』と謝ったので、それも違う!と獅子は慌てる。
「謝らなくて良い!ちょっと・・・ちょ、あっ!待て!帰るなっ」
「え?誰かいるのか?」
「ああ、あのな、ええっと。あ~!帰るなって!待て、おいこら」
父が洞窟の中を振り向きながら、誰かに何かを叫んでいる・・・シャンガマックは何となく、取り込み中と理解して、『下で待っているからね』と大声で言うと、魔法の練習に戻った。
獅子はワタワタしながら、物分かりの良い息子にすまなく思いつつ、隙あらば帰ろうとする鳥(←用は済んだと思っている)をとっ捕まえて『コルステイン!』と凄む。鳥は目が据わる(※『生意気に』って感じ)。
『息子は真面目だ。お前の伝言じゃ、分かるわけないだろ。もう少し話せ』
『伝言。何?』
あ゛ーーーっ!!! イライラするヨーマイテス。難しい言葉が通じない鳥に、獅子は顔を手で拭う。
『もう一度、だ。分かるか?もう一度、ちゃんと話せ。タンクラッドが何でお前に、頼んだ。そこから話せ』
『タンクラッド。昨日。男龍。話す。した』
ハッとするヨーマイテスは、そこから始まった質問と察し、鳥から少しずつ引き出す(※手間かかる)。誘導しながら、確認し、タンクラッドが知りたいことを理解する。
『よし。分かった。そういうことか・・・お前には、伝えろとだけ言ったんだな?』
『そう。コルステイン。帰る』
『うー・・・まぁ。良いだろう。仕方ない、この場で済ませられたら楽だったが』
獅子は黒い鳥を放し(※尾羽踏んでた)鳥が尾羽をバタバタっと嫌味のように打ち付けるのを、顔をしかめて耐え、『バニザット。言う。する』と、念を押されたのを最後に別れた。
影に黒い鳥の気配が消えたので、獅子は大きな大きな溜息をつく。
「ああ、疲れた。タンクラッドめ。コルステインなんか遣いによこしやがって。もうちょっと、頭のイイやつにしろっ!」
文句をぼやいて、獅子はハッとする。そして舌打ち。
「そういうことか。だからコルステインに・・・全く、面倒な男だ!こっちがわざわざ、動かないとならないように仕向けるとは。タンクラッド~~~(怒)」
人間如きに使われるとは! ケッと吐き捨て、世界で一番大好きな人間の元へ戻る獅子(←息子)。
下で真面目に魔法の練習をしていた息子は、獅子が降りて来るなり『あ。どうだった?』と笑顔で迎える。その笑顔に、獅子は心から浄化される。
「お前が息子で、俺は救われている」
「いきなりどうしたの?」
笑いながら側に来た息子を、大きな腕で抱き寄せて、獅子は息子に覆い被さる。騎士は大きな獅子に乗られて、魔法陣の上に倒されながら笑う(※飼育員さん状態)。
「あー、面倒だ。あのな。お前に言うのも嫌だが。タンクラッドからの質問だ」
「え?タンクラッドさん。うん、何かあったか。教えてくれ」
二人の時間を邪魔されるのを、殊の外、嫌がるヨーマイテス(※あなたも世界救出中であることを忘れている)。機嫌が悪かったり、凹んだりしている父を慰め、シャンガマックは話を聞くことにした。
「俺の?そうか。俺だけなのか。今気が付いた」
「だと思うぞ。コルステインが相手だからな、如何せん、信ぴょう性は低いが」
嘘をついているわけじゃないんだから、と笑って、シャンガマックは少し考える。言われてみれば、自分も度々感じることではあった。
「そうだよね。この前の妖精のローブだって、そうだった。ヨーマイテスに『息子』と言ってもらった時も、体にサブパメントゥの何かが流れたような気がしたし。
どうして、俺は幾つもの種族の力を、身にまとっていられるんだろう?」
獅子は黙って考える。息子は、自分から何かを受け取っていたのか、と(※知らなかった)。
「それらを繋ぐ条件を、一本の糸に例えたってことだな。面倒な上に、出向かないといけないじゃないか」
機嫌の悪くなる父の鬣を撫でて、シャンガマックは『返事は連絡珠でも』と教えると、父は思い出したようにぴくっと止まり『そうか』それならまぁ、と呟いた(※尻尾振ってる)。
*****
その頃、馬車は硫黄谷へ到着後。
近づくにつれ、臭いが強くなり、馬の状態を気にしたフォラヴが、馬車を少し離れた場所にと頼んで、谷より距離がある場所で停めた。
馬車で待機するのは、騎士たちとバイラ。職人4人は持ち物をごそっと持って、谷へ下り、目当ての場所で作業。
「ここ。火山なのかしら」
ミレイオは様子を見て呟くと、イーアンに『タンクラッドを帰したら?』と心配した。イーアンは親方を見て、彼と目が合い、無理そう?と首を振ってみる。親方、何となく頷くに頷けない。
「こいつ、一応人間じゃない?私たち、平気だけど」
「一応とは何だ!」
怒る親方を無視して、オーリンは平気か?とミレイオは訊ね、オーリンが『俺は別に』と答えたので、タンクラッドだけ退場することになった。
イーアンはタンクラッドを馬車に運び『すみません』と謝る。タンクラッドは頭を振り振り『気にするな』ちょっと気持ち悪いだけだと、と小さい声で答えた。
「ごめんなさい。露天掘りですけれど、この状態は普通、人間には危険でした(←ガス)」
「お前とオーリンで下見して、二人とも平気なら忘れもする。俺は動けないが、気を付けろよ」
はーい、と答えて、馬車に親方を下ろし、騎士たちに心配された親方を預けると、イーアンは戻る。山影に日が隠れるまで、1時間ちょっと。急いで作業に入り、3人で硫黄の結晶を集める。
「これ。魔族に使うつもりなんだろ?」
オーリンは、これをどうする気なのかを訊ねる。イーアンは言い難いが、オーリンに『もう一つ、別の材料を合わせる』と話し、自分が求めている結果を説明した。
ミレイオとオーリンは話を聞き、少し考えてから『どうやって一般に回すのか』を質問。イーアンもそこが一番、考えるところ。
「とりあえずさ。明日も午前中はここじゃない。もう夕方だし、野営はここだろうから。明日の朝、実験しましょ」
実験で状態を確認してからにしよう、とミレイオがイーアンに言う。その意味は『実験で危険と分かったら、今回は諦めよう』の意味も含む。イーアンは、無駄足をさせたようで済まないが、危険かどうかの確認は大事だから、了解した。
イーアンの作ろうとしているもの。
硫黄と硝石で、硫酸。硫酸と鉄で水素。水素で爆発を起こす。
水素を閉じ込める物は、もう・・・龍族ウンタラ、精霊ウンタラのあれやこれや(※思いついていないけどアテにしてる)でどうにかして、水素と酸素の混合物を閉じ込めた物を道具にしようと考えていた。
一瞬。その爆発で、魔族をぶっ壊す。一瞬の勝負のために、イーアンはとにかく、ここで日が暮れるまで硫黄を集めた。
お読み頂き有難うございます。




