表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1299/2964

1299. 親方からの伝言 ~出だし

 

 お昼頃。硫黄谷まで、数時間ほどの距離まで来た地点で、少し早めに昼にして、旅の一行は昼食を摂っていた。


 午前、着物を縫い始めていたミレイオとイーアンは、食事中も、縫い方や仕上がりの形を二人で話し続けていて、フォラヴはザッカリアの側にいた。

 ドルドレンは、バイラに谷の様子と、馬車を停めておく場所の安全を聞いていて・・・親方は。



「ドルドレン、俺はちょっとな。これからショショウィを呼んで、遊んだ後に()()()()()


「何?」


「え・・・どうして。よりも、どうやって抜ける気なのだ」


 ミレイオとドルドレンが驚いて、タンクラッドを見る。皆もビックリした様子で、黙って親方の答えを待つ。親方は何か考えているふうに、すっと息を吸い込むと『そう長い時間じゃない』と呟く。


「いや、だから。お前はバーハラーがいるわけではないし、どう動くのだ。ミンティンか?」


 ドルドレンは、まさか馬車持って行くわけではないだろうなと、凝視する。その目に気づいた親方は、少し笑って『単独だよ』と見透かすように先に言う。


「少しな。少しだけ抜ける。調べたいことがあるんだが、この場合、時間も考慮しないとならないから」


「何を?何?どうやって、どこへ?」


 まだ、出かけたオーリンは戻らない。ここで、タンクラッドが抜けるとは。

 オーリンはもうじき戻るかも知れないけれど、それにしたって戦える人間のうち、相当重要な人(←親方)が抜けるなんて、とドルドレンは止めようとする。


 慌てるドルドレンに、タンクラッドは残った料理を一気に口へ運ぶと、ニコッと笑って『()()だよ』とモゴモゴしながら答え、馬車の裏へ行ってショショウィを呼んだ。


 ザッカリアも急いで食べ終えると、ショショウィと遊びたくて親方の側へ行く。

 馬車の後ろで、親方と白い猫、ザッカリアが笑っているのを、食事後半の皆は見つめ、互いの顔を見合わせ、首を静かに振って『どうしたんだろう?』と、不思議に思っていた。



 そうして馬車が出発する時。タンクラッドはミレイオに御者を頼み、その場に立って皆を見送る。

 寝台馬車の荷台から、フォラヴとザッカリアが見ていて、不安そうに親方に手を振るので、親方は笑って『そんな顔するなよ』後でな、と手を振り返し、森の中へ入った。


 ドルドレンは彼の声が聞こえて、振り返りたくても御者台からでは見えないので、バイラをさっと見ると、バイラは親方を見たらしく『森へ入りましたね』と呟いた。


「この旅路。私が付き添ってからですけれど、タンクラッドさんが離れたのは()()()のような」


「そうだな・・・彼はいつも馬車にいる。一人で行動は、まずしない。一番、一人で動いてしまいそうな感じがあるが、タンクラッドは父親的な感覚が強いのか。皆の側を動こうとしない」


「その彼が、急に動いたとなると。イーアンもミレイオも理由は知らないみたいだし、どうしたんでしょうね」


 普段は側にい続ける人物が、いきなりたった一人で理由も言わずに、離れてしまうと――


「バイラ。笑わないで聞いてくれ。俺は少し不安だ」


 灰色の瞳を向けた総長に、バイラは首を横に振って『笑いません』と最初に伝え、自分も同じだと頷く。


「彼の存在感は、こんなに私たちに安心をくれていたんですね。離れた直後、心がざわめきます」


「俺もだ。タンクラッドは『すぐに戻る』と言ったが。俺はタンクラッドがいないことで、こんなに落ち着かなくなるとは思わなかった。どれほど、彼がい続けている時間に心を任せていたのか」


 正直な総長の親しみある言葉に、バイラは想像する。総長は仲間を大切にしているから、彼が頼れるタンクラッドやミレイオたちは、総長の中でホッとする立場なのかも、と。


 一人で頑張らなくて良い、そういった場所を作ってくれている人たちなんだろうなと思うと、総長の心細そうな素直な表情に、バイラは少し同情した。


「きっと。夕方前には戻ってくれますよ。タンクラッドさんが持って行ったのは、剣だけでしたから」


 そうだな、と頭を掻いたドルドレン。その時、空にふわっと光る白さを見て、ハッと顔を上げると、森林の木々に切り取られた青空から『おーい』と明るい声が聞こえた。



「オーリンである」


 嬉しそうな顔に変わった総長に、バイラも微笑み、向かいの空を見て『おーい』と同じように返し、手を振った。


「おや。今日は龍が二頭ですね!」


 バイラが手を額にかざし、高い太陽の逆光に見える影の数を伝えると、ドルドレンも笑顔で『本当だ。二頭か・・・二頭?』と固まり、笑顔が戻る。見ていたバイラも、段々真顔になり始め、え?と呟く。


「あれ。何ですか?」


「知らない。龍じゃないぞ。今度は何だ」


 ドルドレンとバイラが眉を寄せて、近づいてくる影に目を凝らした時、空気を刻むような、強烈な咆哮が空に鳴り渡った。



 *****



「今。何か聞こえた気がしたが」


 森の木々の深くなる方へ歩くタンクラッドは、空に響いた音に怪訝に思う。魔物か?と一瞬立ち止まったが、『イーアンがいるからな』とりあえずは大丈夫だろうと、また歩き出した。


「あいつが居てくれる時じゃないとな。心配があるからな」


 それにしても、とタンクラッドは微笑む。フォラヴとザッカリアの寂しそうな顔を思い出し、昼食時に慌てたドルドレンを思う。


「何て顔をするんだ。別にサヨナラじゃあるまいし・・・あんなに不安になることないのに」


 彼らの表情や態度に、親方は、自分がいてやらないとダメだなと、困ったように呟く(※内心嬉しい)。特にドルドレンと来たら、やめてくれと言わんばかりに慌てていた。


「全く。総長のくせに。俺が引き上げるみたいに焦って、何を困ることがあるんだ。イーアンなんか『あれ?』みたいな顔で・・・あいつは何で、あんなに()()()()()()()()()んだ(※気が付いた)」


『あれ?じゃないだろ、もっと困れよ!』思い出したイーアンの反応に、ケチをつけ始める親方(※イーアンは『親方、何かする気だな』と踏んでただけ)。


「ミレイオもミレイオで、『私が御者?縫物しているのよ』とか何とか。自分の都合じゃないか。あの二人は、俺がどこに行くのか、何をしようとしているのか、気にもしない」


 ちっ、と舌打ちして、親方は気分が悪くなったので、バイラのことを思い出して気分転換。バイラも不安が過ったか、『もうすぐ谷です』と遠回しに止めた。彼はあからさまには引き留めなかったが、最後まで『この道をまっすぐで、途中から左手に下る』と、道の間違いがないよう、何度も教えた。


「頼もしい男なのだがな。バイラにも、俺は慕われているんだな(※自信つく)」


 うんうん、と気持ちが好転したことで、森の中へ進む足も軽くなる。皆のために早く帰ってやろうと、良さそうな場所を求めて歩き回り、『ここかな』とある場所で立ち止まった。



「ここらで良いだろう。()()()()影が濃ければ」


 タンクラッドが辿り着いた場所は、大きな木々が影を落とし、岩が増えて暗い箇所が出来た所。差し込む木漏れ日もなく、湿った岩が乾いている様子もない、暗がりに頷く。


 その場所で、タンクラッドは()()()を呼んだ。何度か名前を呼ぶと、影の中からゆらっと青黒い炎が浮かんだ。


『コルステイン。悪いな、日中なのに』


 明るくない場所を選んだが、平気かと訊ねると、炎は嬉しそうに揺れて答える。


『大丈夫。何。タンクラッド。困る。する?』


『違うんだ。困ったわけじゃなくてな。俺が昨日、お前に話したことなんだ』


『うん。分かる。お前。男龍。話す。した。それ?』


『そうだ。お前なら()()()()()と思ってな。昨日は思いつかなくて』


『タンクラッド。寝る。した。すぐ』


 ハハハと笑ったタンクラッドは、『最近、疲れが取れなくてな(※年齢)』早寝したと答えると、青黒い炎に、自分の頼みを聞いてもらった。



『 ・・・・・ってな。いいか?』


『うん。言う。する。コルステイン。夜。お前。言う。そう?』


『それでいい。夜に来た時に教えてくれれば。すまないな。伝えるだけで良いから』


 青黒い炎はゆらゆらと揺れ、少し桃色になったり、黄色になったりして、昼間にも側に来れたことを喜んでいるようだった。タンクラッドは、こんな形でも喜びを伝えてくれるコルステインをナデナデ(※炎相手)して、『それじゃあな。俺は馬車に戻る』と挨拶。


『馬車。行く。する。一緒。近い』


『ん?いいよ、明るいんだぞ。歩いてもどうってことない』


『一緒。コルステイン。お前。持つ』


 持つ?タンクラッドが訊き返すと、青黒い炎がぐらっと大きくなり、真っ黒い翼が広がる。


『おい、ダメだぞ。外は光で』


『鳥。少し。平気』


 少しの間なら、鳥で光の中も飛べると、コルステインは伝えると、それと同時に親方の体を、ぼんっと背に撥ねあげて、森の木々の中を滑るように飛び始めた。

 大きな翼は、木々の幹に当たっているのに、翼は揺れもせず、コルステインはタンクラッドを背中に、森の中を飛び抜けて、馬車が動くすぐ側まで送ってから、ふっと姿を消した。


 投げ出された状態のタンクラッドは、急いで体を捻って着地し、すぐ近くの影に、一瞬で消えたコルステインに笑って『有難うな』と大声で礼を言うと、前に見える馬車へ向かって走った。



 タンクラッドの伝言――


『いいか?ホーミットに会って、()()()()()へ伝えてほしいんだ。

 龍の剣。精霊の護り。サブパメントゥの誓い。お前の()は何?ってな』


 フフンと笑うタンクラッド。走る自分を見つけたザッカリアが、大声で喜ぶ。荷台からフォラヴの笑顔も見える。


「バニザットだけなんだ。俺たちの中で、3つの違う存在に守られている()()()()()は」


 鍵はバニザット・・・・・ あいつが何を持っているのか。それが分かれば――



「お帰り!」


 寝台馬車の後ろに飛び乗ったタンクラッドに、ザッカリアが跳びついて抱き締める。タンクラッドも抱き返して『すぐだと言っただろ』と笑った。

お読み頂き有難うございます。


今週、14日(木)16日(土)17日(日)の3日は、朝一度の投稿です。

その都度、こちらにも活動報告にもお知らせします。

仕事とそれに伴う体調の都合により、ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願い致します。

今日は各地で寒い日です。どうぞ皆様、暖かくして、無理のありませんようにお過ごし下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ