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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1294/2964

1294. 馬車歌三部『卵泥棒』より ~『混じる者』の謎解き

 

 そうしてやって来た、おじいちゃん。腕にミューチェズ付き。



 やって来るなり、子供をイーアンに預け、タンクラッドを見て『フフフ』と笑った。

 何が可笑しいのかと、タンクラッドが彼を見上げると、大きな男龍は剣職人の座る長椅子の横に腰かけ、背凭れに腕を渡し、剣職人の頭を撫でた。


「お前は面白い。イーアンも面白いが。お前も賢いよな」


 いきなり褒められて、タンクラッドはちょっと照れた。何て答えれば良いのかと戸惑っていると、ビルガメスは撫でていた手を、剣職人の頭から顔にずらして、彼の顎をちょっと上げる(※イーアン、ガン見)。


()()気が付いたな?よしよし。言ってみろ。教えてやれることは教える」


 親方は・・・いつも自分が一番背が高い生活をしているので、この状態はとて~も恥ずかしい。『そうだな』とか何とか言いつつ。少し照れた状態で咳払いし、意識を正す。


 ルガルバンダはイーアンを見て、イーアンが見上げたので『俺が言うか?』と訊ねる。イーアンはそれも良いかなと思ってお願いする。ビルガメスがこっちを向く。


「きっかけは、ザハージャングの話だ。ビルガメス。お前はタンクラッドに『噂話』で卵の話をしたな?」


「ほう。忘れていた。そうだな・・・ふむ。タンクラッド、あの時『言うなよ』と俺に言われたのに、お前、話したのか」


 突然、指摘を受けた親方は、急いで『もう話しても問題ない状況、と判断したから』だから、イーアンにだけは伝えたことを答える。

 ビルガメスの顔は笑っていないので、親方は、自分が失態をしたかと気にしたが、イーアンにはおじいちゃんの表情が、面白がっているように見えていた(※慣れ)。


 それはルガルバンダも同じで、ちょっと笑ってから『続けるぞ』とビルガメスの注意を引き、自分を見た重鎮に『あまり彼を驚かすな』とも言っておく。


「驚かしていないだろう。言うなって俺は」


()()()ぞ(※軽く無視)。タンクラッドは、ザハージャングの話を、精霊とイーアン、それぞれ聞いている。

 卵泥棒の話は、ビルガメスと、精霊、そして中間の地の伝説らしい。真実は一つだが、どうもタンクラッドとイーアンが知りたい情報に、これらに生じたズレが引っかかっている」


「ふむ。お前の言い方だと、ザハージャングも卵も関係ないように聞こえるなぁ」


「そうだ、関係ない。きっかけ、と言っただろう?彼らには知りたいことが別にある。偶々、この話題が丁度、知りたいことに被っていたようだ。

 さてここからが、ビルガメスの番だ。彼らの知りたいこと、『混じる者の集まり』その目的だ」


 ルガルバンダに粗筋を伝えられ、ビルガメスは彼の目を見つめ『俺に?』と訊き返す。ルガルバンダは少し笑って頷く。


 イーアンはミューチェズを抱っこしたまま、二人の会話を大人しく聞いていたが、ミューチェズが『俺』と繰り返して笑う。

 最近、よく喋るようになったので、何でも繰り返す子供が可愛くて、他の三人も微笑む(※一瞬、場が和む)。


「ミューチェズと一緒に、ちょっと。外で遊んで来い」


「へ」


 おじいちゃんは、イーアンに笑顔で遠回しに『出て行け』と命じ、間抜けな返事をした女龍は目が据わる(※またか、って)。

 ルガルバンダが笑いながら立ち上がり、ビルガメスを見ると『俺も一緒の方が良いか』と聞き、『どちらでも(※男龍は可)』のすました答えに、不服そうな女龍を連れてルガルバンダは外へ出た。



 子供連れの二人が出て行ったのを見送り、タンクラッドは横に座る大きな男龍を見上げ『俺だけに』と不審そうな声を漏らす。ビルガメスは何てことなさそうに頷く。


「イーアンの方が。お前よりも()()()()()くる。あいつには後々、話してやった方が良さそうだ。タンクラッド。俺の言葉を守れ」


「話さないよ」


 苦笑いで頷く剣職人に、ビルガメスも少し笑い、彼の頭を一撫ですると『最初の質問に答えよう』と呟いた。タンクラッドは、すぐに訊ねる。



「ビルガメスがしてくれた、卵泥棒の噂話(※721話参照)。あれは」


「『噂』だ。ザハージャングとは違う話だ。俺の話を思い出せるか。俺はあの時、『卵をどうする気だったのかは知らない』とお前に伝えたはずだ」


 次の質問をしろ、と促され、あっさり話が断ち切られたので、タンクラッドも頭を働かせる。


「その、噂話にある『卵を盗んだ』部分。俺は、盗んだかどうかではなく、サブパメントゥたちが、卵も子も()()()()()()話が真実なのかと」


「答えは『触れた』だな。まぁ、()()()()()()だ。昔は。今は無理だ」


 次だ、とすぐに言われ、タンクラッドは頷く。


「触れたり、同じ場所にいたり。異なる種族の距離が、今とは違ったのか」


「そうだなぁ。()()中間の地に動くようになったのは、最近だ。詳しくは、何とも言えない」


 先の二つと、答えの質が変わった。タンクラッドは『今と違う=昔』のことを質問したのに、ビルガメスは『俺(現在)は知らない』と答えた。

 彼は前も、こうした()()()()()をした。はぐらかしているのではなく、答えを知っているから、その一部を出している。この場合、質問の仕方を変えると、答えてもらえる。


 タンクラッドは間髪入れずに『()()()()()()条件でもあるのか?』と付け加える。男龍は金色の瞳で見つめ、タンクラッドの質問にどう答えるか、考えている様子。


「質問の仕方が、イーアンと違うのが面白いな。彼女は直接奥へ進もうとするが、お前は、回り道で()()()()


「そんなつもりはないが、真剣なのは確かだ」


 ハハッと笑って、ビルガメスは頷く。『良いだろう』厳かな声は、柔らかく頭上から降る。


「条件があったんだな。恐らく。俺が知っていることは、情報と言い切れない。なぜなら、推測している照らし合わせ方で記憶している。これは情報ではない」


「俺がここへ訊ねに来たこと。ルガルバンダが代わりに伝えてくれたこと。

 俺たちはなぜ、『混じる者』として集まっているのだろう?()()よりも、融通が利いている状態で、旅が出発した気さえする。この意味は、もっと極められるんじゃないか?」


 見上げて訴える剣職人に、ビルガメスはニコッと笑うと、背を屈めて顔を下げる。大きな男龍の長い美しい髪が、タンクラッドの左右を覆うように垂れ、午後の光に幻想的な色を与えた。


「まるで。生まれ変わる前も、知っているような口振りよ。ここまでの僅かな期間で、お前はどんどん、先へ導こうとする」


 真上にある大きな顔が、静かに囁く声。一本角が柔らかな輝きを持った額に、金色の瞳が自分を見つめ、タンクラッドの心臓が早く鼓動を打つ。

 答えを求めるばかりで、相手の特別さを忘れていたような気がして、タンクラッドは少し恐縮した。剣職人の表情のたじろぎに、ビルガメスは微笑む。


「恐れなくて良い。お前は好きだ。母の愛した男を見ているようで、楽しい。

 さて、お前の質問だが。『混じる者の集まりが示す目的』か。お前が想像していることは、()()()()()()()()()()に思うぞ」


「それは」


 質問を詳しくしようと、口を開きかけたタンクラッドの口元を、男龍の大きな手が触れて隠す。タンクラッドは急いで黙り、ビルガメスはゆっくりと頷いた。



「ズィーリーたちの時代は、俺もよく知らん。ルガルバンダに聞けば、あいつが見ていた状況くらいは聞けるだろう。だが、ルガルバンダもそれに意味があるかどうかまで、記憶していない。

 なぜなら、俺たち龍族に直に関わることではない以上、全くどうでも良いからだ。

 これが、母の時代の話となると、また別だ。そして、俺たちのいる現在も、また違う。


 母たちの時代。混じる者は多くなかったが、()()()()()()()()だったとする見方も出来る。それがさっきの『条件』かもな。


 対して、現在はどうだろうな。お前が気が付いたように、どうやら『混じる者』が集まって、旅の仲間の三度目が始まった様子。

 お前も自分で言ったが、融通が利く状況のように見える。さらに別の種族と『条件』さえ合えば、もっと動きが変わるだろう。その『条件』が、母の時代のものと同じかどうか、それは俺に分からん。


 ただ、タンクラッド。お前が知りたい答えがもし、()()()とすれば。そのための手掛かりを探るのに、『龍族ではない相手』に聞いた方が良さそうだ」



 まるで―― お前の想像する答えは正しい、と言われた錯覚に陥る、タンクラッド。


 見つめる金色の瞳に吸い込まれるように、動けなくなる。呼吸だけが少し上がって、音のない空間に、自分の息と、ビルガメスの髪が揺れる音だけが響く。


 大きな男龍は長い睫毛を伏せると、ゆっくり顔を上げて、柱の外の空を見る。無言の数秒の後、彼はタンクラッドに目を戻し、彼の後頭部に手を添えると、タンクラッドの額に口付けて『母を導いたように。イーアンを導け』と囁いた。


 額に。大きな唇がぶちゅっとくっ付いて、タンクラッドは赤面。その後、前髪も額も、びっちょりになっても気にならなかった(←よだれ)。


「俺の祝福。ニヌルタの祝福。ルガルバンダの祝福。これだけ受けていても、お前は、コルステインと一緒にいられるんだからな。ハッハッハ、『時の剣を持つ男』か。面白い男だ」


 この一言で、タンクラッドは『祝福を与えられた』と知った。その力は何なのか。聞くことはなかったが、ビルガメスの言葉はしっかりと記憶に刻まれる。


「イーアンを導く。そのために、俺は知恵を絞る」


 力強く、約束にも似た言い方をする剣職人に、男龍は満足そうに微笑むと、彼の頭を撫でて外を見る。タンクラッドも、その視線につられて外へ目を向けた。大きな男龍は、外の午後の光を眺めて呟く。


「そうだ・・・そうしてやれ。魔族のことも、ある程度は理解した後だしな。()()()()()()()、考えてみるのも、考え過ぎではないかも知れないぞ」


 ハッとして、見上げるタンクラッド。それが答えの手前だ、と気が付く。ビルガメスはこちらを見ずに、口端を上げて『世界は混ざり始める』そう言うと、剣職人に教える。


「お前と。お前のような力を持つ者。この二人が、鍵になるかな」


「鍵。分かった。考える」


「質問は終わりか」


「充分だ」


 剣職人の笑顔に、ビルガメスも頷いて、ルガルバンダたちを呼び戻す。


「多分な。イーアンの機嫌が悪いぞ。適当に扱え」


 ハハハ、と笑う男龍に、タンクラッドは苦笑いで『難しそうだ』と答え、案の定、ぶすっとした顔で帰った女龍と共に、早々、イヌァエル・テレンを離れる。


 ミューチェズはタンクラッドにも抱っこしてもらいたそうだったので、『次に来る時に』と約束し、青い龍を呼んで、タンクラッドとイーアンは、男龍に見送られながら、空へ飛んだ。

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