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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1293/2962

1293. 馬車歌三部『卵泥棒』から ~最初の問いは空へ

 

 4つの話が、この『ザハージャング』を介した理由で遺っていて、なぜか異なる内容。


 イーアンの疑問の一つ、『卵が盗まれた』それが文字通りの『盗む』かどうか、そこも知っておきたい点としてあった。イーアンが知りたい確認に直結することはなくても。この際、タンクラッドに打ち明ける。



「タムズが話してくれたことが()()としても、馬車歌に遺った物語にも『()』と決めつけたくありませんでした。

 なぜここまで違うのか、とも思ったし、タンクラッドが『テイワグナの謎の主題』を話して下さったばかりでしたから、馬車歌の根底にある『()()()()()()()()()()()』そこを削り落とす気になれなかったのです。

 馬車歌では、『卵を盗む』とか『子供たちを連れて行く』とか。これは触っているのです。サブパメントゥが龍に」


「ふむ。お前は面白いところを突く。いいぞ、イーアン。

 男龍の話もその部分が一緒だ。男龍はこれについて、特に何も意見を挟まなかったが、『卵を盗もうとした』ことと、『子供を連れて行こうとした』こう俺に説明したんだ。

 触れる時点で、今思えば変な話だ。触るだけで消えるという、コルステインやホーミットを知った以上な。

 お前の疑問、俺も思う。この()()に大きな意味があるのか、無いのか。隠された何かへの示唆か、ただの想像物語か・・・いや、単純な作り話ではなさそうじゃないか」



 女龍の顔近くに頭を寄せると、タンクラッドは笑顔で『聞いてくる前に、()()()()少し考えるぞ』と囁いた。


「質問するにも、ある程度は考えておかないとな。久しぶりだな。面白くなるぞ」


 そう言ってニヤッと笑う。イーアンは彼をそんな見て、本当にこの人、謎解き向きなんだなぁと、しみじみ思った。生き生きし始めた親方の話に、イーアンも身を入れてきく。



 上り坂はまだもう少し続くらしく、上り切った後は道が少し広がるからと、前を歩くバイラが大きな声で皆に教える。

 昼食には早いが、そこで昼にすることに決まり、旅の一行はそれぞれ話をしながら歩き続けた。


 タンクラッドはイーアンに、まずは自分が理解したことと、推測出来ることをざっくり伝える。

 イーアンも彼の話を聞きながら、『もしかして』『この時間差は』と没頭し始め、二人は昼休憩に入るまでに、幾つかの可能性を探り出した。



 昼休憩時、昼食もタンクラッドの側へ行くイーアン。


 そそくさと食事付きで親方の横に座り、二人はお話に熱中する。待ち構える親方も自然体。イーアンが運んできた昼食の皿と平焼き生地を受け取り、並んで食べながら、ああだこうだと意見を交わす。



 それを―― ドルドレンたちは、離れた場所で見つめる。そう。二人はどうしてか、ちょっと離れた場所に座っているのだ。まるで秘密の話のように。


「あれ。イヤ」


 呟いたドルドレンに、横にいるミレイオが笑い、オーリンが可笑しそうに顔を歪めて咳払いする。ドルドレンは二人を見て、眉を寄せたまま『笑うことではない』と注意する。


「だって。あんたったら。分かるけれど」


「総長は素直だよね」


「当たり前だ。奥さんだぞ。やきもち云々の話じゃない。あれは嫌だろう、夫として」


 まぁね、と頷くオーリンは、離れた場所で意見を交わす二人に目を向け『でもさ』と総長に言う。

 怪訝そうなドルドレンは何も言わずに、龍の民の言葉を待つ。ミレイオも同じことを思っているようで、横で笑った顔のまま食事を続ける。


「別に彼らの味方をするわけじゃないが。あれ、前から()()()()()じゃないの?」


「そうだ。最近は二人が一緒にいる時間は減ったが。下手するとイーアンは『抱き締められたまま、会話に没頭する』という恐ろしい癖がある。

 彼女は、意識が逸れると、自分がどんな状態にいるのか、素晴らしい集中力で気にしなくなるのだ。それは、誰が相手でも起こる現象だから、夫の俺はひやひやする」


 アハハハと笑ったミレイオは、『私もあるよ』と普通にドルドレンに言う。さっとミレイオを見たドルドレンは『ミレイオは良いのだ。最初はビビったけど』と(※上半身裸事件他諸々)頷く。


「俺もあるよ」


「オーリンはダメだろう!何してるんだ、俺の奥さんに!」


「そうだな、うん。ごめんな(※一応謝る)。大した理解者だ、総長。イーアンは変わってるからね。

 さっきの意味だけどな。まぁ、気分は悪いだろうが、あれはどう見ても()()()()()出来ない内容だぞ」


「それが嫌」


「じゃなくてさ。ハハハ、あの二人は謎解きしている時、すごい似てる気がするんだよ。()使()()()()時の顔だろ?笑ってないじゃないか」


 オーリンがそう言うと、ドルドレンはぶすっとする。それは分かっている。そう、自分は追いつけない部分(※これも悔しい)。二人が同時に謎に挑戦し始めると、ああなる・・・・・


「オーリン。お前の意見は正しい。しかし、あの状態が始まると長い。俺はそれも食らっている。俺なんか蚊帳の外だ。何かあれば『タンクラッドに聞きましょう』『タンクラッドに相談しなきゃ』と言われるのだ。

 一度、『謎』という好物がぶら下がれば、イーアンはホイホイ行ってしまうし、タンクラッドもガツガツ進むから、朝晩関係なくイーアンを呼びつけるのだ。俺が旦那なのにタンクラッドが旦那状態」


「その言い方、よしなさいよ。あんただって、謎解いてもらってナンボでしょ?」


 苦笑いするミレイオに、ドルドレンは悲しそうに頷く(※素直)。オーリンは総長の肩を叩いて『元気出せ』と笑う。


「得意分野なんだ。これは仕方ないぞ。二人で問答しているうちに、どこにも始発点がなかったはずの道を走り始める。彼らじゃないと出来ない」


 おかわり貰えよ、と総長の皿を見て、反対側のミレイオに促し、笑うミレイオも、沈むドルドレンの手から皿を引っこ抜いて、おかわりを付けてあげた(※貰えば食べる)。



 こんなやり取りをされているとは知らず、当の二人はひたすら話し合う。

 熱が入り、お互いの言葉に敏感に反応し、そこから新たな紐を見つけては繋ぎ、手繰り寄せて、別の見解を導いて、元の問題を解釈して進む。


 タンクラッドもイーアンも夢中。今、話が途切れたら勿体ないと思うほど、集中力が昂る二人は、食べながら話していたが、食べ終わっても皿を置かずにそのまま続ける。


「これで()()だ。お前の疑問でもあり、俺も疑問の一つだった箇所に触れた。

 イーアン。次に空へ行く時、ビルガメスに訊くんだ。直結すると教えてもらえない可能性がある。今の俺たちの状況から『彼らが教えて差し支えない』判断に結ぶ流れを組め」


「非常に厄介な要求ですが、努力はします。ビルガメスたちが気にしていない以上、彼らが教えるかどうかも分かりません。やるだけやってみます」


「フォラヴの話を取っ掛かりにしろ。彼は人間の体と妖精の体で、魔族の世界まで行った。

 この先、俺たちにもある、その『混じり状態』が、未熟以上の宝として見えてくる、そういった使い道に繋がる可能性は、お前が聞けるかどうかに掛かっている」


「めっちゃくちゃ、プレスしますね。え?プレス?そうね・・・重圧(※まんま)。怒らないで下さいよ。本当に重圧なのですから。あの男龍相手に『求める答えを聞き出してくる』なんて。これまで何度も、無視されています」


「イーアン。粘れ。お前の賢さなら大丈夫だ。一刻も早く、聞いて来い。食べ終わったら行くか?」


「急ですよ!今、魔族が出たら」


「大丈夫だろう。もう(※親方の勘)。フォラヴも手段は得たし、ドルドレンは倒せる。ミレイオもいる・・・どうせなら、俺も一緒に行った方が早いか」


「ええ~ タンクラッド付き~?(※ムリ多そうな予感)」


 何だその言い方は!怒る親方に、イーアンは翼を、すちゃっと出して盾にし『怒ってはいけません』と目を瞑って回避(※『ひえ~』って感じ)。



 離れた場所で彼らを見守る皆は、その展開にちょっと笑う。


「ほら。真剣だからさ、どこかで()()()()んだよ」


 オーリンに言われて、ドルドレンも何となく頷く。『奥さん、可哀相である』あれは何か言っちゃったんだな、と理解する旦那(※理解力高い)。


 わぁわぁ怒っているタンクラッドに、白い翼二枚で『ひ~』と怖がっている女龍に、笑いながらミレイオが立ち上がって側へ行き、タンクラッドを叱りつけ、イーアンは翼をしまうことが出来た。


「女龍なのにな。()()ってのは伊達じゃないな」


「タンクラッドの威圧は、イーアンには苦手なのだ。行き過ぎると、イーアンも言い返すが」


 そうなると立場が逆転するだろ?と訊ねるオーリンに、ドルドレンは『よくそういう場面を見た』と教えた。オーリンは笑って『彼らはあれでいいんだよ』と、ミレイオに仲裁に入られている二人を見て言う。


「あの様子。()()出かけそうだな」


 うん?と見た総長に、龍の民は『午後。無事に野営地まで行けよ』と笑顔を向けた。



 *****



「本当になったのだ」


 御者台に座って、緩い下りの道を進むドルドレンは、背の高い木々に囲まれた、森林の隙間にのぞく、青空を見つめて呟く。


「3人で空へ行ってしまった」


「いつものことですよ」


 バイラが横で慰める。笑うに笑えなくても、昼食中の話は聞こえていた。『夕方には戻って来てくれますから』と続け、不満そうな総長に『音楽は?』と笑顔で振ってみる。


「そうだ!ザッカリアを呼びましょう。今日はショショウィも来ていないから、ザッカリアが楽器を奏でてくれるかも」


 ドルドレンが何かを言う前に、バイラは後ろへ下がり、あっという間に白い楽器を抱えた子供付きで戻る。子供はぴょんと御者台に飛び乗ると『元気出しなよ』と励まし、不服な総長のために景気の良い音楽を奏で始める。


「これの歌、知ってる?これはベルが教えてくれて」


「俺が知らないわけはないだろう。歌うから合わせるのだ」


 横で曲を弾かれたら、有無を言わさず歌うことになる総長。歌う総長に、楽器を弾く子供。バイラは『いい時間だなぁ~』と自分の思い付きに満足し、音楽付きの道を楽しんだ(※素敵な旅の午後)。



 *****



 イヌァエル・テレンでお別れした、龍の民と、イーアン&タンクラッド。

 イーアンはミンティンを呼び(※親方命令)午後一番で空へ向かった。お空でオーリンに『後でね』と挨拶した後、タンクラッドと二人でふらら~と・・・・・


「あ。来た。来ましたよ。これは」


「うん?俺も分かるぞ。この龍気、ルガルバンダだ」


「あら~ よく分かりますねぇ。私、そうかな~程度なのに」


 子供部屋に連れて行くのも何だからと、誰か男龍の家に寄らせてもらおうと思っていたイーアン。ミンティンもいるからか、早々と迎えの男龍が来てくれて、とりあえず一安心する。


 薄緑色の透明感溢れる男龍・ルガルバンダ。すぐ側に来て、珍しい組み合わせに首を傾げた。


「どうした。何でタンクラッドがいる」


「聞きたいことがありました。私だけだと」


「俺が説明した方が良いと思ったんだ。それで付いて来た」


 タンクラッドはイーアンの言葉を引き取って、さり気なく答える。ルガルバンダは彼を見て『ふむ』と可笑しそうに口端を上げる。


「良いだろう。イーアンとミンティンの龍気だったから、他のやつもいるのかと思っていたんだ。イーアン、今日はそれだけか」


 そうです、と答えた女龍に、ルガルバンダは周囲を振り向いて『早めに行くか』と呟くと、自宅へ誘ってくれたので、二人は彼に付いて行き、ルガルバンダ邸に降りた。

 ミンティンを帰し、タンクラッドが降りると、ルガルバンダは『バーハラーがもうすぐ動ける』と教えた。


「本当か?そうか、良かった。悪いことをした。どうしているかと」


「お前も知らなかった。仕方ないだろう。だがな、次は気を付けろよ。バーハラーは強いが、何度も食らって平気なわけじゃない。寿命も短くなる」


 男龍の言葉に、胸が痛む。タンクラッドは慎重に頷いて『気を付ける』と答る。ルガルバンダの金色の瞳が少し優しく光って、理解をした男を許したように、イーアンには見えた。


「入れ。話を聞こう」


「ビルガメスは来ますか」


「どうだろうな。お前だけなら来そうだが。彼は、タンクラッドの持つ龍気も感じていそうだ。俺はピンと来なかったけれど。ビルガメスは()()()()()()()()来ないかもな」


 ちょっと笑ったルガルバンダは、『重鎮が子供と一緒だから来ない』と遠回しに言い、タンクラッド付きの状態に訝しく思うであろうことは伏せた。



 今回は自分が相手をしてやろうと思う男龍は、二人を座らせると、イーアンの横に座り『言ってみろ』と早速、促す。

 イーアンはちらっとタンクラッドを見る。向かい合って座ったタンクラッドは、単刀直入に訊いた。


「俺たちの状態。旅の仲間に共通する、『混じる者』として集められた目的だ。それは、二回目の旅の仲間、ズィーリーたちにあったかどうか、分からないが、始祖の龍の時代にはあったと」


「ふーむ。面白いことを言うな。俺にそれを聞こうって言うのか」


 ルガルバンダは長い髪の毛を片手でくるっと丸めると、首を傾げてニヤッと笑った。


「俺の知っているのは、ズィーリーたちの旅の一部。お前が聞きたいのは、始祖の龍の時代。俺じゃ答えに間に合わないかな。タンクラッド、その目的を知りたい理由は何だ」


「ザハージャングの話が、ここ最近、度々出ていた。俺は時の剣を持つから、勿論知っておきたい。

 だが、集まった話を並べてみれば、内容に差異が目立つ。単に『違うだけ』と済ませるには、何かおかしい。それが『混じる者・混じる世界』の見え隠れだ」


 男龍はじっと、親方を見つめて『そうか。お前は自分の力の意味も併せて、旅の仲間に変化を与えられると考えているのか』それが求めるところか?と訊ねた。

 ルガルバンダの切り返しが早くて、タンクラッドは教えてもらえそうな気がしてきた。頷くと、男龍は間を置いて、イーアンを見た。


「ザハージャングの話は、したんだろ?」


「はい。数時間前です」


「ザハージャングを連れて行った日から、時間が経っているな。まぁ、変わんないか。それと?()()でも、あれの内容が見つかったわけか」


「馬車歌、というものが、地上にあります。古い時代の歴史を歌う・・・前も、お話しました。でもあなた方は『馬車歌は知らない』と言っていましたが。

 そこに遺った内容に、ザハージャングらしい内容が。なぜそうかというと、タンクラッドが精霊にも同じような内容で、『ザハージャング』と名指しで話を聞いています。そして、これもタンクラッドですが」


「俺が言う。ビルガメスに前に聞いたんだ。噂話、として。ザハージャングは登場していないが、サブパメントゥの卵泥棒の話を」


 男龍は、親方に何度か小さく頷くと、横で見上げている女龍に視線を戻して、『ザハージャングの真相、って話じゃないんだな?』確認のように訊く。

 イーアンは何て答えて良いか、一瞬戸惑ったが、確かに知りたいことは違うので、そうですと答える。



「良いだろう。お前たちが知りたいことは大体分かった。面倒な。これじゃ、いつも通りだ」


 そう笑ったルガルバンダは、イーアンの肩をちょっと抱き寄せて『ビルガメス行きだ』と囁いた。イーアンも、そうかなぁと思っていたので、苦笑いで『だと思った』と答えた。

お読み頂き有難うございます。

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