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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1292/2964

1292. 旅の九十三日目 ~馬車歌『卵泥棒』・奇獣の出生・ズレ

 

 リャンタイの町を出て、硫黄谷へ向かう旅の一行。到着まで『軽く3日』の距離なので、今日は、谷に続く道の2日目。早ければ明日の午後には到着するようだが。



「ちょっと歩くと思います。上りがあるんですよ、もう少し先に」


 バイラは馬車を下りて、馬に馬車だけを引かせた方が良いと、総長に提案する。総長は了解。『たまにこうした道がある』そういう時は、皆歩くよ・・・そういうものだねと頷く。


 そしてあっさり、目の前に勾配のきつそうな坂が出現する。


 ドルドレンは馬車を停め、皆に下りるように言う。バイラも馬を下りたので、ドルドレンは『バイラは別に、馬車じゃないんだから』と言ったが、バイラ的には『一人で馬は心苦しい(※普通の感覚)』とのことで、一緒に歩く。


「この坂を上がると、もうずーっと下りです。長い緩い下りですから、帰りは上りだけど馬車で戻れます。それでですね。次の町に行くため、帰りは別の道を進みます。この急な坂は、ここだけですよ」


 地図を見ながら、バイラは昔を思い出して教え、馬の荷袋に地図を戻す。

 馬車だけを引かせた馬の横を歩く、総長と職人、騎士たちは、バイラが来てくれたことがどれほど助かるか、こうした時に実感する。


「もし。バイラが。もしもだぞ。ハイザンジェルに来ることがあったら。俺が道案内に付こう」


「何を急に言い出すんですか。嬉しいですが、ハイザンジェルで道案内をお願いするほど、旅回りしないですよ」


 じーっと見つめた総長の親切な申し出に、バイラは笑い出して『行くとしても、支部に泊めて下さい』とだけお願いした。横で笑う職人たちも『それくらいだよな』とバイラの言葉に賛成していた。


 ちょっと恥ずかしそうなドルドレンに、イーアンは彼を見上げ『その時は、私が飛んで連れても良いかも』と後押しした(※後押しの仕方がまた違う)。

 ニッコリ見上げる、微妙なズレを伴う奥さんの優しさに、いつも通りお礼を言って、ドルドレンは奥さんの角をナデナデ。


「バイラが来たら。うちに泊めても良いのだ。支部は煩いから。サグマンとか」


「サグマンは意地悪じゃありませんから、ちゃんとお世話になったことを伝えたら平気ですよ。でもバイラは、大切なお客さんです、是非、うちに泊めましょう。

 あ。ロゼールにおうちの状況を訊くのを、忘れていました。あら~」


 はたと思い出すイーアン。『うちのこと聞けば良かった』と、今になって言う。ドルドレンはちょっとだけ聞いたので『草むしりはしてくれている』と教えた。


 なんて、二人で話していると。ザッカリアが後ろから来て『総長』と呼びかける。振り向く総長の目に映ったものは、ギアッチの珠・・・・・



「嫌な予感しかしない」


「ギアッチだよ。イヤじゃないでしょ。代わって、って」


 子供に注意を受け、ドルドレンは嫌々、連絡珠を受け取る。ザッカリアが横に貼り付いて、表情を監視しているので、嫌な顔も出来ない。


『ギアッチ。ドルドレンだ』


『おはようございます。あのね、ロゼールが戻りましたでしょ?ちょっと分からないことがあったんですよ。それ、教えて頂けたらと思いまして』


『俺が旅の途中だというのに。こんなところまで来て、まだ仕事か』


『何言ってるんですか。お給料出てるでしょう。しっかりなさい。はい、じゃあね。サグマンに代わりますからね』


 ええええ~~~~~ やっぱりな~! 思いっきり顔に出る総長を見上げ、その腕をぎゅっと掴んだザッカリアは、怒った顔で首を振る(※相手がギアッチだと思っている)。


 仕方なし、ドルドレンは顔に出さないよう頑張りながら、さっさと代わった執務の騎士にいびられ、嫌味を混ぜられながら、あれこれ質問と確認の時間を過ごす。


 少しの間、イーアンは彼の横を歩いていたが、伴侶が苦しそうであることと(※きっと質疑応答していると判断)ザッカリアが見張っているので、そっと後ろに下がった。



「イーアン、ちょっと」


 反対側の寝台馬車近くから、親方が呼んだので、イーアンはそちらへ移動。ミレイオはフォラヴと話していて、目が合うと少し微笑み、またフォラヴと会話を続ける。オーリンはバイラに質問らしく、バイラと話していた。


 親方は一人、寝台馬車の馬の腹に手を置いて歩いていたらしく、イーアンが来ると、横に並ばせ『少し疑問がある』そう唐突に切り出す。何かな、と見上げると親方はイーアンの角をナデナデしながら、空を見た。


「馬車歌のことだ。アンブレイに聴いた方の」


「三部ですか。はい、何が疑問です?私、大体疑問」


 ハハハ、と笑った親方は、イーアンを見て頷き『まぁな』と同意してから、相談された内容を考えていたことを最初に話した。


「卵泥棒の話。あっただろう?実はあの話を俺は知っていた」


「何ですって?いつですか。空で?遺跡?」


「イヌァエル・テレンに行った時だ。男龍に聞いたんだ・・・今、これをお前に話しても、もう問題はないだろう。その時は口止めされていた(※721話参照)。

 だが、馬車歌に出て来たとなれば、今や俺たち全員が知るところ。お前に伝えても良さそうだ」


 イーアンは驚くが、男龍なら口止めするなとも分かるので、黙って先を続けてもらう。親方の話だと、男龍から聞いたままの内容は、ほぼ同じように思えた。


「だがな。ここからが疑問だ。どうして、男龍さえ『本当かどうか』と笑ったような噂話なのに。馬車歌で遺されていたのか。しかも、馬車歌の中の『卵から創られた化け物』は」


 そこまで言うと、親方は白い角をちょっと押して自分を見させ、女龍に訊ねる。『()()だろ?』静かな低い声は、自分の剣のある荷馬車に視線を沿わせて、対象を教える。


「俺の疑問。ザハージャングが、奪われた卵から創られたらしい部分。

 だが、そこまでしっかり物語が出来ているなら、それを男龍たちが知らないわけないんだ。彼らは嘘をつかない。伏せることはあっても、誤魔化しもしない。

 あの時、俺に教えた男龍は『噂話は本当だったのかな』と可笑しそうに言ったんだ。つまり、本当に噂だと思っている・・・そう取れないか?」


 そうですね、と答えた女龍。次の質問が分かる気がして、ちょっと目を逸らすと、また角先をちょびっと押されて、上を向かされる(※角デカイ=梃子(てこ)の原理が楽なアイテム)。


「お前。俺が何を聞こうとしているか、分かるだろう」


「きっと当たっているはずです」


「そうなんだ。お前はいつも、俺の心を読むな。俺も読むが」


「えー・・・はい。それはあのう、微妙な響きを伴う気がしますが。とにかく、親方の質問に私は答えるべきか、悩んでいます」


 超絶イケメンスマイルを降り注ぐ親方は、大きくゆっくり頷くと『話せ』と命令。


 え~~~ 私に決定権ないんだけど~ (←もうイケメンスマイルに慣れたから、やられない) 

 女龍がイヤイヤしているのを見て、タンクラッドは角の先をもうちょっと押すと、真上を向くイーアンに顔を寄せ『()()()、お前は俺に話そうとしていたじゃないか(※1097話参照)』と畳みかけた。


「だって・・・あの時はそうですけれど~ ただ、もう。あの後はそれどころじゃありませんでした。魔物で、町も地区も破壊され」


「だから。今が言える時だろう。今更、悩むな。ほら、話せ」


 うえ~・・・ 命令を嫌うイーアンが渋るのを、親方は逃がさない。角をしっかり握って(※デカいから掴める)『言え、謎解くんだろ』と正論で詰めてくる。

 イーアンは角の後ろに両手を回して、親方の手を引っ張って離したがる。


「角、離して~」


「お前が教えたらな。掴んでいたって引っ張っていない。痛くないはずだぞ・・・()()()()()()()にな」


 妙な所で、記憶力抜群だよ~(※痛くないってバレてる) ちらと助けを求めて、前後と右手を見たが、馬に隠れて見えない。諦めるイーアン(※女龍なのに)。


「イーアン。教えろ。ザハージャングは、()()()でイヌァエル・テレンに閉ざされた。あいつを倒したのは、俺の剣だと、お前は言った。永遠に死ねないあいつは、何なんだ」


「あんまり言いたくないです~」


「意味の分からない抵抗をするな。話せることだけ話す、とかダメだぞ。全部話せよ。お前が渋ったって、俺には分かるから無駄だぞ(※脅す)。

 あのなぁ。これで()()()()のか、それが分かるだけでも、馬車歌と真実のズレで『別の解釈』が見えてくるんだぞ。これに限ったことじゃない。ここまで言えば分かるか?」


『テイワグナは、聖物の情報もないんだ』と言われ、イーアンは折れた。



「本当は。話せることだけにしようと思っていました」


「お前のそういう、正直なところは好きだ。だが、この場合はちょっと怒るぞ」


「怒らないで下さい。タンクラッドは何でも知りたがります」


 お前もそうだろう、と返され、イーアンは渋々教えることにする。それでも『本当はですね。タムズも()()()()()って言いました』と(あらかじ)め、断りを入れた。


「早く言え。タムズがそう言ったということは、お前に全てを話している気がしない。バラされても問題ない範囲のはずだ」


「うう。タンクラッドが相手だと、私はいつも劣等感を感じます。

 仕方ありません。じゃー、言いますけれど(※投げやり)。私だって聞いている話ですからね。質問されても、知りませんよ」


 親方はちょっとムスッとして、先を促す。女龍も目が据わった状態で、ボソボソと奇獣の経緯を教える。



「ザハージャングは。不運だったのです。

 始祖の龍が、子供たちを増やしていた時代。せっせと、毎日卵を生んでは孵していた頃です。彼女は、サブパメントゥたちが、地上から空へ上がろうとしたのを怒り、地上を打ち滅ぼしました。

 その時、彼女は自分の卵を抱えていたそうです。それが落ちて、海で埋め尽くされた地上に消えました」


 タンクラッドは、新しい話を聞き、引き込まれる。それが真実なのかと、どこかで分かる自分がいることにも不思議だった。女龍は声を小さくして、タンクラッドにだけ聞こえるように話を続ける。


「サブパメントゥは本来、あてがわれた場所が闇の世界です。

 卵はそこに沈むまでの間で、始祖の龍の子であるにも拘わらず、地上・水に漲る龍気の混じるサブパメントゥの気にも打たれ、生まれてきてしまったのがザハージャングでした。

 龍の要素があるものの、姿は既に死体のよう。サブパメントゥたちの『創る子供』の何かが、あの仔に作用したのか。恐ろしいほどの龍気や他の気力を奪う、破壊の存在として飛び出しました」


「それだけ聞いていると・・・サブパメントゥの気力も、始祖の龍の龍気に劣らなかったような勢いだな」


 うっかり口を挟んだ親方は、ハッとして黙ったが、見上げるイーアンは頷く。


「当時のことは知りませんが、『今のサブパメントゥ』の状態とも違うのかも。私が分かるのは、龍族のことだけです。それで・・・・・

 ザハージャングは、地下から生まれたような状況で、空へ。

 空へ入った時点で、退治こそされませんでしたが、龍族に捕まりました。でも凄まじい奪取の力に、イヌァエル・テレンでも特別な場所に封じられました。


 この後です。ずっと後になって、魔物の王が攻め、勇者が戦い、女龍を呼び、魔物退治をしながら仲間と共に、勇者を魔物の王のいる場所まで送り届け、そして勝ちます。

 ザハージャングは、『時の剣を持つ男』に倒されていますが、それはこの時と被るのです。何かがあったようで、ザハージャングが出て来てしまいました。それを、時の剣を持つ男が倒しました。


 彼の剣はそれまで、あの形ではなかったけれど、携えた力自体は同じような質だったのでしょう。

 ザハージャングを倒したため、彼の『剣』が()()()()()()()に代わりました。ザハージャングを倒すことは、龍族の誰も出来なかったのです。始祖の龍でさえ。その理由は、龍は龍を殺せないからです」



 親方の頭に、洞窟の精霊に聞いた話が過る(※1234話参照)。大急ぎで、全てを繋げ、タンクラッドはこの話の真実に近い部分をまとめ上げる。


「龍が()()()()のは、力の差ではありません。どんなに怒っても、危険でも、同胞を倒すわけにいきません。

 ザハージャングは、それが理由で空に監禁され封じられていましたけれど、出て来てしまい、女龍も手にかけるわけに行かない、あの仔を、彼が倒し・・・消える前に()()()()()を受けたので、あの仔の力は『時の剣』に繋がりました。

 ただ、時の剣自体は先ほども話しましたが、ザハージャングを倒す前、もう『時の剣』としての力、であったそうです」


 女龍は話し終えたのか、そこで黙ると、自分を見つめている親方を見上げて、悲しそうな顔を向ける。


「これがタムズに聞いた話です。『死ねない罰』の理由は『これ』と聞いたわけではないので、定かではないけれど、あの仔は空へ上がった時、男龍の命を奪いました。

 ただ、あの仔は()()()()()()()()()()()()()のです。

 創られた目的のためだけに、存在しているような仔なので・・・あの仔が、意志を以て、殺すつもりで動いたわけではないようです。それでも罰として『死ねない』のは、ここに理由があるかも」


「イーアン。お前がそこまで話してくれたから、俺も思い出すことと擦り合わせて話せる。

 俺は、お前が留守の間。洞窟の精霊の一人に、『時の剣』と『化け物』の話を聞いた。ザハージャングは、龍の卵が幾つか盗まれ、創られ、完成形になる前に『時の剣を持つ男』に倒されたと」


 え?と瞬きするイーアンに、タンクラッドもすぐに続きを話す。


「だろ?精霊の話だと、『馬車歌三部』の内容が正しいみたいに感じる。俺がもし、この二つしか知らなければ、俺は馬車歌に疑問を持たなかっただろう。

 だが、空の話を先に知っていたからこそ、俺は『なぜだ?』と感じたんだ。

 こうしてお前にも聞けば、まるで違うじゃないか・・・で。お前は何で、今は俺に()()()()()()()()んだ?」


「馬車歌の後ですから、質問攻めにされると思いました。私が答えられなければ、あなたは私に『男龍に聞いて来い』と言いそうだし」


「俺をよく分かっている」



 イーアンは少し黙る。言うのを迷うようだったが、彼女は口を開く。


「私もですね。アンブレイの馬車歌の話をドルドレンに聞いた晩。()()()()に何があるのかを考えたのです」


 タンクラッドが聞いた男龍の話『卵泥棒の噂』。

 洞窟の精霊が教えた『時の剣とザハージャングの話』。

 アンブレイの家族が持つ『馬車歌三部の卵泥棒』

 タムズが話した『ザハージャングの話』


 これらに生じている、似通うところと、違うところ。それはイーアンも気になっていた。

お読み頂きありがとうございます。


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