表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1290/2964

1290. 別行動:ヨーマイテスによるアレハミィの記憶①

 

 ――皆に話した夕べ、その日の前日。フォラヴが妖精の世界を出て、治癒場を移動し、テイワグナの埃っぽい岩場に、出た時間まで遡る。



『写しの壁』を越えてから、どれくらいの時間が流れているのか。


 フォラヴには見当も付かないが、大体の場合は『異世界に移動すると日時がズレる』と知っているので、出たら()()()しなければいけないことが、果たして大丈夫かどうか、少し気になった。


「だけど。ここから私が馬車に戻っては、次はいつ会えるか分からない」


 フォラヴは、『最初に教えるよう』言われていたので、ホーミットに呼び掛ける。


 どうやって呼べば良いのかを知らなくても、彼はきっと、コルステインのように、頭の中で話せると思い、ダメ元で何度も彼の名を呼んだ(※というか、これしかやりようない)。


 すぐには応じられなかったが、何分も続けていると、頭の中に『そこにいろ』と聞こえた。ハッとして名を呼ぶのを止め、暫く待つと、影を伝う彼は来た。


 時間にして、夕方に近い頃。濃い影が増えている岩場に、大きな獅子がゆらりと揺れて現れ、フォラヴはニッコリ笑って『お呼びして申し訳ありません』と最初に謝った。獅子は少し機嫌が悪そうで、軽く頷く。


「お前に呼ばれるとはな」


「あなたは『最初に教えろ』と仰いました。私が戻る前に、呼びました」


「そうか(←忘れてた)」


 自分が言い出したことを、うっかり忘れていたヨーマイテスは、下手に愚痴らなくて良かったと思った(※性格改変中サマサマ)。


 息子を連れて、魔法陣に戻り、まったりしていたところ。

 何度も何度も妖精の声が聞こえるから、何かあったのか、何で俺なんだ、と苛つきながら、仕方なし来た次第。まさか自分が言ったことが理由だったとは(※丸忘れ)。


 まぁ、ここは意外に近くだったから(←魔法陣から)そんなに時間もかからず戻れるし(※これ大事)妖精の話を聞いておくのも、バニザットが喜びそうだし良いだろうと、獅子は妖精に話を促す。



「私はまず、あなたにお礼を。そしてシャンガマックにもお礼を伝えたいです。本当に有難うございました。彼にも私が感謝していたとお伝え下さい」


「分かった。続けろ(※上から)」


 フォラヴはお礼を伝えた後、腰袋から自分の手に入れた欠片を取り出し、触れることの出来ないサブパメントゥの獅子に、ちゃんと見えるように傾けて、これの使い方を話した。

 獅子は黙って聞きながら、碧の瞳でその黒い欠片を見つめ、何か考えているようだった。


「これを手に入れられるかどうかは、妖精の世界で知りました」


「その話はしなくていい。お前の領分だ。いずれ聞く日があれば、その時で良い」


「有難う。あなたは必要な事だけを訊いて下さいます。あのう、もう少しだけお時間を頂けませんか」


「何だ。俺は早く戻りたいんだ(素)」


「ホーミットにお聞きしたいのです。あなたか、コルステインしか知らないだろうことを」


 その言葉に、獅子は首を傾げる。『過去か』と訊き返すと、妖精の騎士は頷いて、躊躇いがちに短く質問をする。


「アレハミィという名の、妖」


「アレハミィ。こりゃまた、懐かしいやつの名前だな」


「あ!ご存じでしたか!彼は旅の仲間?あなたも彼と動いていましたか」


 やっぱり知っていた!急いで質問するフォラヴ。獅子はちょっと黙ってから、『知りたいのか』と訊ねる。勿論ですと答えた騎士に、獅子は何か迷っている様子で、すぐには答えなかった。

 どうしたんだろう・・・不安に思ったフォラヴが話しかけようとすると、獅子は彼を見た。


「今はやめておけ。お前は大仕事をしただろ。休め」


「え。いえ、あの、いえ!大丈夫です。私はあなたに何度もお会い出来ないし、今なら時間も」


「やめておけって。それ以上、一度に()()()()()()だけの精神力が、お前にあると思えん」


「精神力?・・・何のことですか」


「今度な。お前が『隠すことで守る』のを越えたと分かったら、教えてやろう」


 獅子は、困惑する色を浮かべた妖精の顔に、それ以上は言わず、豊かな鬣をぶるっと大きく振るうと、『馬車へ帰れ。気を付けるんだぞ』と背中を向けた。


「あ!待って下さい。分かりました、今は聞きません。でもどうぞ。いつかは」


「俺が判断したらな」


「シャンガマックに!妖精のローブが、『あなたにとても似合っていた』と伝えてあげて下さい。

 あれは、妖精のローブです。あれが無ければ、彼はあそこに入れなかった。どうして彼が持っていたのか、あなた方がどうして魔族の世界にいたのか。私は知ることが出来なくても、お礼は」


「バニザットはお前に、あの服を見せたかったみたいだった。お前を心配して、バニザットは情報を探し、妖精たちに援助を受けたんだ。魔族の世界に行ったのも、その延長みたいなもんだ」


「シャンガマックが・・・そうでしたか」


 友達の大きな思いに、フォラヴの空色の瞳に涙が浮かんで、頬を落ちた。獅子はそれをちらっと見て『()()()伝えておいてやる』とちょっと笑うと、そのまま影に消えた。



 *****



 こうして。獅子は大急ぎで魔法陣へ戻り(※別に急がなくても)夕方の魔法陣で寝そべって、魔導書を読む息子を見つけると、まるで急いでいなかったように、ゆったり歩き出し(※見栄)『食事は』と訊ねる。

 パッと顔を上げた騎士は、ニコッと笑って体を起こす。ヨーマイテスは、息子のいない生活など二度とご免だと、毎回思う(※大好き)。


「お帰り、ヨーマイテス。食事はもうちょっと後でも。それより・・・俺が今日、魔族を倒す時に使った魔法だが」


 開いたページを持ったまま、暗がりの獅子の側に行き『これ』と指で示して見せる。


「どうなんだろう。応用の枠を出ていたように感じた。あんなふうに波打つ上下の運動は、応用でしたことなかったのに」


 どうしてかな?と顔を覗き込む息子。獅子はじーっと彼を見つめ、何て真面目なんだ、と感心する。


 戻って来てすぐ、魔族を倒した話や、過去のバニザットの魔法の効力の話ばかりだった。留守にしても、息子の考えていることはそれに尽きる。

 無欲で、真面目で、強さに直向きで、賢くて、性格も良くて(※某ギアッチ先生状態)。息子は最高だなと満足する獅子。


 そんな父に、シャンガマックは『どうしてだと思う?』と答えを聞けないので、もう一度訊ねる。


「明日同じことをすれば良い。お前の魔法陣上(ここ)での練習は、別の形でも動く。剣と合わせて使っただろ。龍の剣だ。龍の動きが加わったんだろうな」


「え?そうなの?そうか。それは面白い。明日、やってみよう・・・あ~、どうかな。今はもう無理か?まだ少し明るいけれど」


 すぐに試したくなったみたいで、シャンガマックは夕日をさっと見てから、獅子に訊ねる。一生懸命な態度に胸を打たれるが、父は『明日』と言い聞かせた(※二人でゆっくりしたい)。



 この後、獅子は『ちょっと早めに食事だ』と伝えて森へ入り、すぐに戻って来て魚を焼く。

 夕方の光のある中で食べるのは、いつもより早かったけれど、シャンガマックは、父に何かあるんだと分かって素直に従う。


 焼けた魚を食べ始める息子は、生焼けの部分を切り取って、口を開ける獅子に食べさせる(※父は生でも関係ない)。もぐもぐしながら、少し考えていたヨーマイテスは、食事中に話すことに決めた。


「さっき出かけただろ。あれは、フォラヴが俺を呼んだからだ」


「フォラヴ?どこにいたんだ。また彼に危険なことが!」


 慌てた息子は、食べていた口を拭って、立ち上がろうとする。その反応の速さに、ヨーマイテスは座るように言い、本当に息子は優しい・・・(※褒める)と嬉しく思う。


「落ち着け。無事だ。妖精の世界から出てすぐ、自分が何を手に入れたかを俺に伝えた」


「あ・・・ヨーマイテスが『最初に言え』って言っていたから」


 獅子は頷くのみ。息子は覚えていたかと知ると、余計なことは言わないで流す(※自分忘れてた)。


「最初に伝えよう。まずは、お前に礼を言っていた。俺にも言ったが、お前にも伝えてほしいと。それとな、お前の妖精の服をちゃんと見ていたぞ。よく似合っていたと、それも伝えるように頼まれた」


 パッと顔が嬉しそうに変わった息子に、獅子、満足(※掴みが良い)。


「どうして、俺たちがあの場所に居合わせたかは、搔い摘んで話しておいた。お前が彼を心配した経緯で、妖精の服も、魔族の世界も、とな」


「有難う。フォラヴも不思議だっただろうな」


「後な。お前が心配したから、魔族の世界まで行ったと知ったら、あの妖精は涙を落とした。嬉しかったんだろう。お前が優しくて(※強調)」


 泣いた・・・それを聞いて呟いたシャンガマックは微笑み、少しの間、下を向いて『友達だから。心配して当たり前だ』誰に言うでもなく、静かな独り言を落とす。そんな息子を父は心から、好きになる(※よくある現象)。



 息子の笑顔を見つめ、この笑顔が消えるなと思いながら、ヨーマイテスは、『妖精の手に入れた黒い欠片』の意味も話して聞かせた。

 案の定、騎士の顔に数秒前の笑顔が消えて、眉を寄せた不安そうな色が浮かび、最後まで聞いた後、彼は確認する。


「それは。つまり。魔族の種を片付ける手段」


「ってことだ。過去のバニザットの解説を思い出せ。『妖精の血で封じる』とあっただろ。種を片付けるたび、あいつは自分の血を使う。あいつしか、魔族の世界と種に関われない」


「何て恐ろしいことを・・・そんな恐ろしいことを、彼は。皆のために。世界のために」


「そうだな。選んだな。大した勇気だが、度胸を付けるなら、『荷物』に吹っ切れないとならん。()()()()()()ってところだぞ」


 頑張ったのに!と小さな声で注意する息子に、獅子はさっと黙る(※弱い)。息子はすぐ、視線を空に向け、夕暮れの空に『お前はそんなに凄い挑戦を』と友を称え、静かに目を閉じた。


 何となく、声をかけづらい雰囲気になってしまったが(※注意受けた)。ヨーマイテスは、次の話をするべきかどうか、少し考える。


「それとな・・・うーむ。お前に言うのも違う気がするが。だが、まぁ。俺があいつと話す機会より、お前が話す機会の方が、ありそうだよな」


 父の報告は、終わったらしかったのに、まだ別の話でもあるのか。獅子は何やらごにょごにょ独り言。シャンガマックは、父が話すのかどうか分からないので、切り身を見せて、反射的に開く口に入れる(※飼育員さん状態)。


 父は、大きな口に入った、小さな切り身をしっかりと噛んで飲み込むと、『やっぱり言う』と何やら納得した様子。


「何かあるの?」


「俺が帰ろうとしたらな。フォラヴは俺を引き留め、知りたいことがあると言う。聞いてやれば、過去の妖精のことだった」


「え。ああ、そうだよね。過去にも、妖精の仲間はいただろうから。知っているのか、ヨーマイテス」


「知らないわけないだろう。ただな・・・()()()()良い話じゃない」


 それは?と訊ねる息子に、獅子は『風呂行くか』と、食べ切りそうな食事を見て、場所を変える提案。

 話を聞きたいシャンガマックも、長くなりそうな話と判断し、残りの魚をお互いの口に詰め込むと、獅子の背中に乗って、温泉へ移動した。



 風呂へ着いたシャンガマックがそそくさ湯に入ると、獅子は人の姿に変わる。息子の横に座って『あのな』と切り出した。


「ズィーリーたちの仲間に、アレハミィと呼ばれた妖精の男がいた。彼はフォラヴと違って、最初っから妖精だ。しかし後に、自ら人間の体を求めて、人間の体に妖精の状態を押し込めた」


 シャンガマックは質問をしないで、黙って聞く。ヨーマイテスが大きな手に湯を掬って、シャンガマックの肩に掛けながら、言葉を選んでゆっくり話す。


「その前に、アレハミィがどんな男だったか。教えておこう。

 フォラヴとまた対極のような印象だ。妖精の男にしては、やけに威圧的でな。フォラヴもそうだが、妖精は男女が似ているだろ?ああじゃない。アレハミィは見るからに男の要素が強かった。


 出身に誇りでもあったんだろうな。気位が高くて、好き嫌いが激しかった。

 手伝う時は呼び出せば来るが、それ以外は『馬車なんて』って感じだ。ズィーリーを慕っていたふうだが、ズィーリーは大方、過去のバニザットと一緒だったから、それは嫌そうに見えた。バニザットは、誰にも媚びないし、態度も変えないからな」


 可笑しそうに笑う大男に、シャンガマックも『俺の先祖が態度を変えそうな気がしないよ』と笑った。


「ズィーリーは大人しかったし、アレハミィとしては『自分の認める立ち位置』でもあったんじゃないかと思う。

 あれは、女龍だろ?アレハミィの出身なんか知らんが、あの態度から思うに、きっと妖精の中でも相当上だったのかも知れん。能力も高かった。戦わせれば強かった」


 どれくらい?とちなみに質問。息子を見て、父は『そうだな』と周囲を見渡し、すーっと腕を振る。


「今、ここに見えている、ほとんどの木を動かす。魔物が出るだろ?木を味方につけて、魔物を追い立てる。それとかな。いきなり地面から、根や蔓が飛び出して、相手を突き殺すんだ」


 目を丸くして眉を寄せる息子に、父は頷き『この湯。一瞬で沸騰するぞ』と水面をちょんちょん触る。イヤそうに目を細める息子に、ヨーマイテスはちょっと笑う。


「およそ、自然の・・・海は別だが、『水』と『植物』に関しては、アレハミィより操れる仲間はいなかったな。過去のバニザットも似たようなことをしたが、アレハミィの()()()()()とは違う」


「じゃ、彼が手伝いに来たら。条件さえ揃っていれば」


「そうだ。海とか空とか、木々がない場所でもない限り、あいつの出番は()()()()あった。あれも飛べたが、木々がないと無理だったから、まぁ。自分の得意な場面だけな、良く戦っていた」


 すごい能力の高さだな!と驚いた息子に、ヨーマイテスは少し笑い、ここから続く言葉を考えた。だが、下手に繕うのはやめた方が良いと感じ、そのまま伝えることにした。



「大した能力の持ち主だった。その能力が()()した」

お読み頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ