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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1289/2965

1289. フォラヴの一歩

 

 硫黄谷へ向けて出発した一行は、午前・午後と、だれも通らない道を進んだ。


 この間、何かあったかと言えば、途中でイーアンがお空へ抜け、1時間後に戻って来た後『あちらに魔物』とのことで、再びいなくなり、30分後に戻った。それくらいだった。



 イーアンが倒しに行った時、漏れなくオーリンも一緒だったが、二人が見た魔物は合計数頭で、その少なさは、他大半が地中にいたから、とか。

 二人は戻ってすぐ、イーアンは御者台に降りて、オーリンは龍に乗ったまま、馬車の上から報告する。


 報告を聞いたドルドレンは、ちょっと間を置いて『あの・・・スランダハイの町の鉱山』と、奥さんに呟く。奥さんは頷いて『似ている』見た目も似ていたが、習性が似ている気がした、と話した。


「それとですね。私が昨日倒した魔物。あれの・・・仲間。だと思います」


「そうなのか?そっくりじゃないのだろう」


「そっくりじゃないけれど、もしかすると、昨日倒したのが親玉かもです。バカデカかったから」


「イーアン。『バカ』とか『デカイ』とか言わないのだ。『やたら大きい』って言いなさい」


 はい、と頷く奥さんに、ドルドレンは『よろしい』と頭を撫でた。


 時々、イーアンの言語が荒っぽくなるのは、イーアンの中にわだかまりがある時、と理解している。心が苦しい時は、イーアンはちょっと不安定。昨日の今日でこれは仕方ないね・・・と、ドルドレンは思う。

 オーリンがちょっと笑って『とりあえず、イーアンが全部倒したから』と言うと、龍を帰して、彼は荷台へ入った。


「ドルドレン」


「うん。何だ」


「全然関係ないことですけれど。これから、臭う谷に行きますでしょ。理由は、魔族相手に使えるかも知れない・・・あなたが、雲の魔物を倒したような素材を得るために」


「関係ない話ではないのだ。それで?」


「はい。ここから関係ない話。フォラヴに後から聞いたので、今のうちに確認です。あなた、手袋が焼けて、火傷されたとか」


「した。非常に熱かった。持っていられないほどで」


「そこです。さすがに夏だから、最近防具も着けないでいるけれど。その時は龍の皮を被って、炎から逃げたのですよね」


 何の質問・・・ドルドレンは、奥さんの質問の意図が分からないまま、そうだね、と答えてじっと見つめる。イーアンもじっと伴侶を見つめて『龍の皮は、タムズの翼のですけれど』と説明。


「私。あなたに『龍の皮で作った手袋』を渡しています(※554話参照)。あれが燃えましたか」


「へ。あ、いや。違う。普通の手袋だ。あ・・・もしかして、それで」


 ドルドレンはイーアンの言いたいことが分かり、『勿体ないから使わなかった』と伝えたら、奥さん困り顔。『安全向上のために渡している』と言われて、ドルドレンは謝った。


「あのですね。これから手に入れる素材も、同じかそれ以上に危険です。イェライドが分けて下さった、道具の材料もそうだし。あなた方が、()()()()()()()()使うために、用意します物ですから、扱う人は」


「分かった。ちゃんと、龍の皮の手袋を使う。テイワグナのこの2ヶ月くらい、本当に暑かったから、服装も汗ばまないようにしていた。気を付けよう」


 さらっと遮って、奥さんにちょっと見られながらも、ドルドレンは何度も頷いて『君が正しい』と()なした(※うっかりしたから注意されたくない)。


「暑くても。戦う時は鎧も着たり着なかったりでしょう。せめて、龍の皮くらいは身に着けて下さい。着物、あるんだし」


 イーアンは、鎧よりは着物の方が、まだ暑くもないだろうと言い、目を閉じて素直に頷き続ける(※回避中)伴侶に『実用と安全』についてお説教し、これからは本当に気を付けて、と頼んだ。



「魔族から()()()()()・・・実行していない以上、不確かだけれど。

 もしかしますと、龍の皮の着用も『防ぐ』一つかもしれないです。あなたとザッカリア、タンクラッドは、とりあえず、着ていてほしいですよ」


 奥さんの思うところを聞きながら、ドルドレンも少しそれが気になった。はっきりしていないけれど、『魔族の種から身を守る方法』は、精霊アンガコックチャックから教えてもらってはいた。しかし、具体的ではないことから、すぐに動けなかった情報でもある。


「フォラヴは、昨日の夜や今日の朝、何か話していましたか?」


 イーアンは彼と話すには少しズレが出て、彼の旅の様子を聞けていない。

 魔族の情報を得るために、旅に出て戻ったフォラヴ。彼が戻った夕方は、それを聞ける余裕もなく、皆が『落ち着いた時間に』と話を後回しにせざるを得なかった。

 だがドルドレンも聞いていないらしく『夜にでも、彼に聞かせてもらうつもり』と答える。


「彼は、誤解をされることを嫌がる。丁寧に、邪魔の入らない時間と分かれば、話してくれるだろう。また、重要な事だったら、皆が揃っていないうちは喋ろうとしない。フォラヴに話しやすい状況を整えてからだ」



 こうして話している間に、馬車は夕方を迎え、谷までの距離の、三分の一ほど進んだ地点で野営する。

 ミレイオとイーアンは夕食の支度に取り掛かり、購入し立ての生鮮食品の野菜で、皆に栄養をと張り切る。

 他の男たちは、トイレ休憩やら何やらで、暫く散ってから、ぽつぽつと焚火の側に戻ってくる。フォラヴも焚火回りに来て、イーアンたちの作っている料理の鍋を覗き込むと、見上げた二人に微笑む。


「野菜?美味しそうな香りが」


「あんたのために、たっぷりよ。いっぱいお食べ。昼は簡素だったからさ」


 ミレイオもフォラヴのために、労いたくて野菜の煮込みを用意している。生食できる野菜も切って、柑橘類と和えた。肉料理は、年がら年中それで平気な人達用(※大型の男二名)。


「いっぱい食べてね。妖精の国で、食べたかも知れないけど」


「有難う、でも答えは『いいえ』です。食事の暇もなかったのです。今は私が満ち足りて良いと告げられている、ごく素朴な欲求に駆られていますよ」


 ハハハと笑ったミレイオに、妖精の騎士もコロコロと笑い声を立てる。横にいるイーアンも笑って、彼に最初に味見を渡し、嬉しそうに『生き返る』と伝えた騎士に、笑顔で頷いた。


「お話下さい。あなたの知恵を」


「話しましょう。私の得た()()()


 鋭い目を向けて微笑んだ女龍に、しっかりその目を見つめ微笑み返した、妖精の騎士。


 二人のすんなりした問答に、ミレイオは少し驚いた。自分が知らない間に、この子たちはどんどん成長している、と嬉しく思う(※親気分)。



 夕食が出来上がり、いつもよりも野菜の割合が多い食事の配給に、嫌がるのはザッカリアくらい。

 イーアンに肉を分けてもらってすぐ、ザッカリアはイーアンから離れ(※側にいると野菜食わされる)総長とバイラの間に座った。


 逃げた子供に溜息をつきつつ、イーアンとミレイオ(※野菜推奨者)は料理の出来に『美味しい』と微笑み合って、野菜の必要を聞こえるように、楽し気に話し合う。


 可笑しくて笑ったドルドレンが、食事の半ばに『野菜は有難いけれど』と二人の会話を止め、すっと視線を一人に向けた。その視線を受け止めた妖精の騎士は、了解したように微笑む。


「オーリン。この筋の部分、食べて頂けますか。私は少々、皆さんにお伝えすることが」


 横に座っているオーリンに、皿からスジ肉を移すと(※スジと脂身食べれない)苦笑いする龍の民にお礼を言って、妖精の騎士は皆の顔をそれぞれ見た。


「私の食事は、5分後には終えるでしょう。それからお話します」


「有難う。お前の話を聞きたかった」


 総長の返事にニッコリ笑い、フォラヴは丁寧に食事を食べると、ミレイオの差し出す手に『とても美味しかったです』と皿を渡しながら満足を伝え、その場に立ったまま、皆を振り返る。


「お話しましょう。私が宿を朝に出て。それから昨日の夕方、馬車に戻るまでを」


 静かな鈴のような声で、しっかりと告げ、妖精の騎士は自分が受け取った時間のほとんどを、誰の質問も挟まないままに話した。


 不思議と、彼が話している間。誰一人、質問をしようとしなかった。聞かなくても、フォラヴは次に話すだろうと思え、それは常にそうだったから、フォラヴが最後まで話すのに、そう時間はかからなかった。



「そして、私は宿へ戻りました。帰りはイーニッドを呼び、彼に頼ったので早くに着きました」


「俺がどんなに、今。お前を尊敬しているか。お前に伝わるか」


 ドルドレンはすぐにそう言うと、立ち上がって部下の側へ行き、彼を抱き締め『お前は強い』と目を閉じた。じわっと来るフォラヴは、ハハッと笑って抱き返し『勿体ない言葉です』と総長の胸に顔を付けた。


 イーアンはドキドキしながら見守るが、自分が不純のような気がして(※♂♂設定)後ろめたかった。ミレイオも二人を見つめてから、ちょっと笑って立ち上がり、フォラヴを引っ張るとがっちり抱き締め、その髪の毛に口付けした。


「あんた。何てスゴイことを。一人で行くなんて」


 ミレイオは少し泣いていた。最後の方の言葉が、少し震えて、大きく息を吐き出すミレイオは『一人で行くなんて』ともう一度呟いてから、鼻をすする。

 フォラヴは抱き締められる腕の中で微笑み、首を振って『やっと私も役に立てたかも』と控えめに答えた。


「馬鹿言うんじゃないの。何かあったらどうする気だったのよ」


 体を起こして静かに叱るミレイオの顔が、涙に濡れていて、フォラヴはとても心配してくれたミレイオに、心を打たれた。


「すみません。でも()()()入れません。誰に頼むことも出来ませんでした」


「あんたねぇ。ホーミットに言われたからって・・・あんな、自分よがりの奴に言われて、死ぬかも知れなかったのに」


「今の話でお話したように、シャンガマックと一緒に、ホーミットは私を助けて下さったし、私を『写しの壁』まで送って下さったのです。私は感謝しています」


「も~・・・ああ、もう!ごめんねぇ」


 ミレイオは、自分の親が(←ヨーマイテス)自己中過ぎて、フォラヴを急かしたんだと思うと、遣り切れない。親子関係を言うに言えないが(※しかし騎士は知っている:1112話参照)、自分が謝ってしまうのも気づかず、気の毒な妖精の騎士に同情した。


 他の皆も、少しずつ立ち上がり、フォラヴの柔らかな笑顔を見つめて『この優しい男が』と思う気持ちを胸に、恐ろしい魔族の世界へ一人で立ち向かったことに、心からの賛辞を贈った。


 フォラヴは何度も笑って『皆さんに比べれば大したことはしていない』と言ったが、彼の勇敢さには、大きな恐怖を伴うと、誰もが分かった。



 妖精の騎士が話してくれた、その赤裸々な物語――


 実に様々なことがあったが、彼の一番、伝えたかったことは、言葉ではなく、目的の物体。

 腰袋から取り出した、黒いガラスのような欠片は、魔族の雰囲気に近いのに、なぜか聖なる声が振動するようで、イーアンを始めとする、気配に敏感な者は『これが別の世界の一部』と分かるその存在に、両極端の重さを感じた。


 フォラヴ自体は、この()()が今回一番の重要、と伝えてはいたが、誰もがそうではない箇所に苦しく思った。


 過去も、自分の話もほとんどしたことのない男が、初めて・・・自分を含む、妖精の世界のことを話したからだった。


 それは驚きばかりが続く内容で、同時に、聞きながら、彼が()()()()一度に打ち明けている意味を考えさせられた。



 皆は、彼の話を聞き終えた後。長引かせずに片付けて、早い就寝を迎えた。


 馬車の影ではコルステインが待っていて、タンクラッドが来るなり、にっこり笑うと、寝台馬車に目を向けて『フォラヴ。頑張る。する』と満足そうに伝えた。

 タンクラッドが『聞いていたのか?』と訊ねると。コルステインは、皆の思いを聞いていた様子で頷いた。


『お前に褒められたと分かったら、フォラヴは喜ぶぞ』


 タンクラッドが嬉しそうに微笑むと、コルステインは親方の寝そべったベッドに自分も横になり、彼の上に片翼をかけて『強い。なる。動く。怖い。ない。平気』そう伝えた。


 コルステインの言葉は、頭の中に響く。

 その声は、大きな高い場所から見守る、全てを知っているような声に感じ、タンクラッドは言い知れない安心を抱いた。



 出来たら―― コルステインから直に、フォラヴにそう伝えてやれたらいいのに、と親方は思った。


 コルステインに、親方の思いは筒抜けで(※毎度)ちょっと笑ったコルステインは、親方が眠った後、休んでいる妖精の夢の中へ向かった。

お読み頂き有難うございます。

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