1274. テイワグナ馬車歌三章分析 ~初回後半
この夜。イーアンとドルドレンは、馬車歌の話で熱が入り、二人が眠りに就いたのは深夜だった。
ドルドレンは眠かったらしく、すぐに寝息を立て始めたが、イーアンは聞いたばかりの話に、熱が冷めず、暫く眠ることもなく考えていた。
――アンブレイたちの持つ歌、第三章。
魔物の王は倒された後で、勇者は始祖の龍と、他の仲間と共に帰還する。
旅の仲間は、戻る道すがらで、一人、また一人と別れ、それぞれの棲む場所へ帰るのだ。最後に、女龍と勇者、時の剣を持つ男が残り、女龍は男二人に挨拶して、空に帰る。
ここまでの間に、妖精の話も出ていたし、精霊の話も出ていた。彼らは補助の枠を出ない様子だが、明らかに主要人物の支えとなる役目で、彼らは常に同行ではなく、『必要に応じて現れた』と遺されている。
思うに、きっとこの時の彼らが、後々のフォラヴやシャンガマック的な立ち位置となったのだ。
そして、世界も復活する。魔物に襲われた、当時はまだ少なかった人口、また、現在も影響が生じている、中間の地に棲む精霊や妖精の一部に、大きな影響が出ていたが、壊された世界は回復へ向かい、それまで、人口と言っても、定住する民族がいなかったこの世界に、定住者が生まれる。
これは新しい話で、この時まで、『馬車の民のような、移動式生活を送る民族しかいなかった』ことを説明している。
話を戻して、勇者は馬車の団体に帰るのだが、始祖の龍は開放的な性格だったこともあり、彼らの行き来を許可していたようで、勇者は平和な生活を得た後も、イヌァエル・テレンに度々、足を運んだ。
これは空飛ぶ船で可能だったようで、この船も、ズボァレイなるお皿ちゃんも、始祖の龍の気持ちだった様子。『彼女が彼らに与えた』と歌にあった。
しかし、勇者はサブパメントゥの繋がりが濃い。
彼の悲劇。また、始祖の龍の悲劇は、ここから生まれている。
勇者の思惑は、描かれてもいないが、彼が受け取っている『地下の住人の力』のために、過ちを犯す。地下の住人は彼をそそのかし、一緒に空へ上がり、龍の卵を盗もうとした。
一度目は見つかり、追い返され、二度目も見つかったが、追い返された時に卵は既に運び出されていた。
運び出された卵は、恐ろしい哉。とんでもない化け物に造られてしまった。
そして化け物を使い、地下の住人サブパメントゥは、空を得ようとする。が、時の剣を持つ男に化け物が倒される。
この後、実は三度めの『謝罪』と称した名目で、勇者と彼をそそのかしたサブパメントゥが空へ上がるが、彼らは三度目の過ちを犯し、子供を連れて行こうとし、始祖の龍を完全に怒らせた。
始祖の龍は『汚れたお前の子孫に、清い魂の奇跡がある時。その命の鍵を以てして、天の扉は開くだろう。空の光は、永遠にお前たちを燃やす』と告げ、追い出した。
追い出した直後。一緒に来ていた、時の剣を持つ男は、勇者を除いた、サブパメントゥ全員を斬り殺す。そして船は空を離れ、行方を失った。
勇者の話はここで終わり、歌は『時の剣を持つ男』と『始祖の龍』に焦点が当たる。これが不思議であるのだが、誰が伝えたのだろうとイーアンは思った。
始祖の龍は閉ざした空に、二度と龍族以外の誰も入れない封印をしたことから、自分が地上に通って彼に会いに行った。
年月は流れ、時の剣を持つ男は老いて死に、悲しんだ女龍は彼を天に連れて行った。
始祖の龍は、彼を埋葬した後に卵を二つ生み、二つの卵から生まれた姉妹は、その後、龍族でも一番人間に近い姿として繁栄したという。
どうして『最後の部分』を知った人がいるのだろうと、最初の疑問がそれだった。でも、これについては、もしかすると、始祖の龍が誰かに伝えたのかも知れない。
「真相は分かりません。彼女と過ごした一週間。私は彼女の過去を見たけれど、あの映像に、彼女を探れるような、長けた人間、もしくは、別の存在を観ませんでした」
だけど・・・愛した男の子供たちのことを、あの始祖の龍なら。『もしかしたら、地上の人間に教えたかも』そうして、彼と自分の話を残そうと、思ったかも知れないのだ。
「切ない。何て切ないのでしょう。最初から時の剣を持つ男と、結ばれていたら、始祖の龍は」
ちょっと映画を観ている気持ちに被って、ふーっと溜息をつきながら呟いたイーアンだが、ハッとして慌てて口を押さえる。自分が他人事のように言える話じゃなかった、と(※繰り返す輪廻中)気を付ける。
うっかり、映画を観た客のような感想を言ってしまった、と反省。
ちらっと伴侶を見て、ぐーぐー眠っているので、一安心。聞かれたら誤解が生じる呟きに、ダメダメ、と自分を叱り、イーアンは布団を引き上げた。
とにかく。三章の物語性はこうした具合で、かなり龍族のお話が多く盛り込まれている。
これだけであれば『伝説を歌った』内容なのだが、これは粗筋。ハイザンジェルで、ドルドレンパパに教えてもらった『馬車歌全貌』と似た状態なのだ(※292~293話参照)。ここに、謎々が挟まるから面白い・・・・・
「なんて、言っている場合ではありません。難しいですよ」
イーアンは伴侶の方を向いているので、独り言に時々、音量調整しながら(←デカい)今回も脈々と流れる謎を拾う。
謎① 異種族の領域の通過――
「三章の始まり。魔物の王を倒して帰還するところ。これ、どこから帰っているのかというと。
『海の続き、陸の道、風の中、闇の川を抜け』と歌う・・・んな、無茶なと思う説明ですよ。
どこなのそれ?と、まともに繋ぎ合わせたら、絶対、中間の地そのものじゃありません。どこかでサブパメントゥを通ったり、空中だったり、精霊とか妖精絡みの空間を通過していそうな感じ。今だからこそ思うけれど。
・・・・・始祖の龍が一緒にいたり、旅の仲間の別種族がいるのに、ホイホイ動けませんでしょう。どうやって、団体様で移動したのか」
今。自分だって気を遣うようになった、各棲み分けの場所への移動。イーアンは昨日だって、アリンダオ集落で帰る羽目になったのだ。
相手が大きい精霊だと、領域に入ってもすぐに問題は生じなさそうだが、これが小さい妖精だと大問題で、相手が消えてしまったりするわけで。
「始祖の龍は一緒に移動した、と思える内容。ギリギリまで同行して、〆を勇者に任せたのかな。そこまでどうしていたのかしら?私よりもずっと、龍気も強かったし」
始祖の龍が移動するだけで、ポンポン消える小さな種族を想像すると、眉を寄せて『それはないと思うけど』とイーアンは呟く(※怖い想像)。
「つまりですよ。この歌が真実に近い内容だとすれば、私たちが今、めちゃめちゃ気にして移動している、各種族間の『近寄る・触るの危険』が回避可能だった、と思える。テイワグナは・・・馬車歌しか、今のところ情報源がないから。何を照らし合わせて確認ともならず。うーん、解釈に偏りが生まれそう」
伴侶は馬車歌のことを『龍族のあの部分は控えて、タンクラッドに話しても』と言ってくれた。
無論、皆にもざっくりは伝えてあるが、謎々の詳しい部分までは、移動だ何だで時間の余裕もないし、ドルドレン本人も翻訳が難しくて、伝えきれていない。
今夜、イーアンに話してくれた『自分が出来る枠内の翻訳』として伝えてくれた、細かい箇所。確かにイーアンだけの解釈も心配がある為、これはやはり親方行きかも、と思う。
「タンクラッドに相談しましょう。それと、もう~・・・魔族なんてのも出て来ちゃったから、あっちもこっちもですけれど。ハイザンジェルで受け取った、白い棒やナイフと同じような『情報アイテム』!ああいうの、探さないと。広い国だから、どこにあるか分からないけど、情報がまだまだあるはず」
遺跡はあるけれど、シャンガマックがいないから、読み解くことも出来ない(※ここであの、傲慢獅子に舌打ち)。
ミレイオとタンクラッドが、彼にも近い読み手として、居てくれるけれど、今のところ、彼らが反応したものはない。
分かっている範囲で、龍や精霊と人間が関わる石碑が、別の世界を示していることが多々ある・・・くらいで。
精霊伝説の多いこの国で、ちゃんと調べたらきっと、アンガコックチャックの与えた情報のようなものを見つけることも出来そうである。そう思うと、イーアンは『うーん』と悩む。
謎② 異なる種族が、同時に同じ場所にいる――
「冒頭だけで、この疑問的謎の存在。すぐに『精霊』『妖精』の仲間の存在に、次の視点は移るのよ。
補助枠だったようなのに、彼らは今と反対。生粋の精霊と妖精である感じ。『要素を持つ人間』ではありません。
魔物の王を倒した後、皆で戻る道すがら『どこどこで呼び出した精霊』『何何の命に応じた妖精』は、お別れの際、『敷いた道を畳み』とか『光の雨に消えた』とか、そんな具合で彼らは自分たちの世界へ戻っています・・・これは。冒頭の謎と同じ。こうなってくると、信ぴょう性、高い。
それまで一緒だったのですよ。信じられないけれど、生粋の彼らが、始祖の龍と一緒に動き回っている時間があったなんて。どーすると、そんなことが出来るのか」
普通の声量で話していると気が付いて、さっと口を閉じるイーアン。
伴侶がよく眠る人で良かったと、ツヤツヤの黒髪(※白髪あるけど)をナデナデして、もうちょっと静かに喋らないと(※喋らなくても良い)と、自分に注意。
謎③ 世界回復のキッカケとなる場所の存在――
「彼ら、妖精や精霊が戻った後。始祖の龍と勇者、時の剣を持つ男は、最後まで一緒に戻り、ある場所でお別れしています。
彼らは、この後も交流があるのだけど、このお別れの時、世界を回復するための『ある場所』が最後の目的地のように到着している・・・どこなの~」
ある場所、については、伴侶も『そうとしか訳せない』と困っていた。ある場所=確定ではない、名詞のない場所としか分からない一部分で、『他にそれらしい言葉が見当たらない』そうだった。
「この『ある場所』で何をしたのか、そこまでは説明がありません。この続きは即、『世界は回復に向かって・・・』と、あるのです。
これ、ヒジョーに大事ですよ。ここ知らないと、後々、魔物で破壊された色んな世界に、回復の手助けが出来ない話に。それは困る」
謎④ 卵略奪・お子タマ誘拐――
「サブパメントゥが、『龍に触れた』ということですよ。この歌の内容には、説明が足りません(※歌だもの)。どーして触れるのでしょう。あれだけ強化したホーミットさえ、私には触るのを嫌がる。
コルステインは、クロークの上からなら触ってくれるけれど、顔や角は難しい。
女龍と近いくらいに、龍たちの龍気も強いはずです。卵や赤ちゃんなんて、龍そのものですのに・・・なぜサブパメントゥは盗み出せたのか。驚きっぱなしですよ」
ここからも、まだまだ『疑問・謎』があるのだが、今は参考品が馬車歌に限られていることで、別の方向から掘り下げることが出来ない。これでは一方的な解釈になりがちなので、イーアンは『現状、ここまで』とする。
「ジャスールの創世の歌も、こんなのばっかりでした。
創世の歌は、始祖の龍を思う、勇者の心境が目立ったけれど、やはり『それはどうして?』『その数は何の意味?』系があった」
小さな溜息をつき、伴侶の美丈夫ぶりを見つめるイーアンは、タンクラッドの話したことを思い出す。
――テイワグナでの謎解きの主題は、『全ての種族の行き来する道を生む』こと――
まさに、馬車歌の『謎』と思った箇所は、常にそれを示しているような。
伴侶の高い鼻を、そーっと指先でなぞり、彼の先祖はサブパメントゥの力を持っていたことを考える。
「あなたの中にも。きっと。別種族が行き来した道が残っているのですね」
そう呟いて、イーアンも眠くなってきたので目を閉じる。
謎々はタンクラッド・・・明日になったら、相談しようと思いながら、遅い夜に眠りに就いた。
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