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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1271/2964

1271. 旅の八十八日目 ~情報のまとめ

 

 オーリンが戻り、数時間してイーアンが戻った後。


 馬車のお昼が終わり、二人が持ち帰った情報を、皆が確認し合っている時、ドルドレンは腰袋の感覚に気が付き、中の連絡珠を取り出した。



「シャンガマックである」


 お昼だから時間があるのかもと思い、皆のいる場所を立って、御者台へ歩きながら応答する。


『ドルドレンだ。どうした、シャン』


『教えてやる、よく聞けよ』


『うお、ホーミット!』


 いきなりお父さんの、宣告のような重い響きに、ドルドレンはビックリして珠を落としそうになる。慌てて珠を握り、動転しかけた気持ちを抑える(※怒られる予感しかない)。


『ちょっと待ってくれ。この前のような情報なら、書くから』


 ちらと皆を見ると、親方が元気のないザッカリアに、ショショウィを呼び出してやって、一緒に遊んでいる。奥さんとオーリンは、地霊から距離を取って、二人で話している様子・・・ホーミットと話す時間はありそうと判断し、ドルドレンは荷台へ行って、ペンと紙を出し『書く準備が出来た』と伝えた。


『一度しか言わないぞ。魔族と戦うなら、魔法を避けろ。あいつらは魔法の塊が動いているようなもんだからな』


 分かった、と返事をしながら、急いで殴り書き。ホーミットは続けて『お前の力は問題ない』と言う。


『ドルドレン。お前の力は魔法じゃない。お前は戦える。タンクラッドも魔法じゃないが、あいつはどう作用するか分からんな』


『分かった・・・魔族に魔法は使えないと、決めてしまった方が良いということか?物理的になら』


『そんなところだ。魔族は()()()()()()()()姿()だ。形がある以上、憑りついた相手の弱点が残る。種は魔族の特性を忍ばせる』


『ホーミット。聞きたいことがある。鍾乳洞で、シャンガマックが魔法を使って、俺の力を支えてくれた。あれはじゃあ、魔族じゃなくて魔物だったのだろうか』


 ドルドレンの質問に、ヨーマイテスはちょっと感心してやる。そこに気が付いたかと思い、説明をする。


『あれは魔族だったのかもしれないな。終わったことだから、いつまでも考える必要もない。

 だが、魔族だったとすれば、バニザットの魔法は、直に相手を攻撃していない。バニザットは、お前の剣に託し、お前が自分の力に変えて、攻撃したんだ。そうだろ?』


『そうか。そうである。シャンガマックは、自分の結界が効かないと困っていたのだ』


『効かないわけじゃない(※息子を守る)。とにかく、そういうことだ。以上だ。どーしようもない時以外は、呼ぶな。自分で頑張れ(←これが言いたかった)』


 え、と突き放されたドルドレンが驚くと同時に、通信は切れた(※一方的)。


「相変わらずである。彼は一方通行。シャンガマックの性格だからこそ、彼と相性が良いのだろうな(※忠実な部下の印象)」


 ちょっとは挨拶させてくれても良いのにね・・・ドルドレンは首を振り振り、腰袋に珠を戻す。書き留めた情報を手に、皆の元へ戻ると、白い地霊をよしよし撫でて『もうちょっとで帰る時間だぞ』と伝える。


『ショショウィ。一緒』


 何となく嫌がっている感じ(←遠慮)の一言に、ドルドレンが親方を見ると、彼も苦笑いで首を傾げる。


「最近な、呼び出す時間が安定していなかった。ショショウィは、つまらないんだと思う。だから今日は帰ろうとしない」


「可愛いのだ」


「可愛いな。だが、どうしたもんか。イーアンもオーリンもいる。オーリンは問題ない範囲かと思えば、オーリンも不安らしいから二人を離しているが、連れて出るとなれば、彼ら龍族は近づけないわけで、出発出来ない」


「俺と一緒に荷台にいたら?寝台馬車の荷台でさ。俺とショショウィ。イーアンとオーリンは荷馬車の御者になれば、間があるよ。大丈夫じゃない?」


 親方と総長の会話に、これを機会とばかり、地霊に癒され中の子供が意見を出す。その意味は大人に十分伝わるが(※フォラヴもシャンガマックも不在)。二人は、ちらっと横に座るミレイオとバイラを見る。


 明るい金色の瞳をさっと合わせたミレイオは、ドルドレンに『そうしてあげたら』と促す。

 あんたが寝台馬車の御者で・・・と、ザッカリアの気持ちに寄り添う発言。バイラも『一日だけなら良いような』と控えめに応援。


 親方は同時に、離れた場所の龍気が向いたことに反応。結構離れた場所にいる女龍と目が合う(※こっち見てる)。

 その雰囲気から、プンプンと投げやりな感じが伝わる。彼女の横にいるオーリンが笑っているので『恐らく、女龍の機嫌が悪い』と認めた。


 親方としては悩む。イーアン(※横恋慕相手)に嫌われるのは困るが、ショショウィ(※ネコ)の気持ちも考えるし、ここにザッカリア(※子供)も挟まった・・・・・


 だが、親方の苦悶の表情を見ず、ドルドレンはザッカリアと地霊を優先。


「午後だけだし。それで、ザッカリアの気持ちも少し楽になるなら。ショショウィも、子供のようなものなのだ」


 大家族育ち・騎士修道会総長のドルドレン。皆の間を取るのは、大切と理解しているので決定。

 では、どうやって連れて行くのか、とショショウィを見ると、ショショウィから初めて情報が出る。


『土。持つの。土と一緒。ショショウィも一緒』


『うん?馬車だぞ。土は地面だろ?地面じゃないのに平気なのか?』


 平気と頷く白い猫。親方は目を見開く。そんな応用(※ってほどでもない)で済んでしまうのか!と今になって驚いた。地面が良いのだと思っていたら、土さえ持ちこめば馬車でも可能とは。


 ということで。広げた革に土を包んで馬車へ運び、ショショウィを移動。寝台馬車に土を入れた平皿を置き、ショショウィに問題ないか見ると、平気そうだった。



 こうして、思いがけず旅の仲間の臨時補充(?)で『地霊のショショウィ』が午後の道に加わり、ザッカリアは大喜びで地霊と遊ぶ。親方は保護者なので、親方も寝台馬車。


 ミレイオは荷馬車の荷台。ドルドレンが寝台馬車の御者で、ムスーっとしている女龍とオーリンが荷馬車の御者(※隔離)。

 バイラは、イーアンの機嫌が悪いので、オーリンに『この道を真っ直ぐ(※投げる)』と教え、後ろに下がった。苦笑いするオーリンは了解した。

 普段と状態の違う旅の馬車は、静かに午後の道を進み、子供と地霊以外は、物思いに耽る時間となった。



 ドルドレンは考える。奥さんに、ショショウィ事情を伝えた時、目が死んでいたけれど(※ショショウィ触れない女龍)ホーミットから届いた話は聞いてくれた。


 奥さんがニヌルタに教えてもらったことと、オーリンが精霊に聞いた話を、出来れば一緒に考えたかった。

 が、自分以外に『オーリンとイーアン(※隔離対象)』が一緒の御者台、3人はさすがに窮屈。仕方ないので、オーリンに手綱を任せたから、イーアンと考えることは後回しになってしまった。



 ――短な時間で一度に集まった、魔族の情報。


 これらをちゃんと理解すれば、きっと分からずに恐れることもない。一つだけ、どうやっても動かせない危険は『種』の存在のみ。

 魔族は恐ろしい相手だが、その状態によって、倒せないことはないと分かった。


「イーアンと考えたいのだ。出来れば話したかった」


 聞き立てほやほやの内に、賢い奥さんにあれこれ相談出来たら良かった~・・・溜息混じりに呟くドルドレン。

 そんな黒髪の騎士の様子を見て、ミレイオが前の荷台で、可笑しそうにちょっと笑い『夜、ゆっくり話しなさい』と宥める。


 横に付いているバイラも、それを聞いて少し笑顔を見せたが、総長に聞いたばかりの話で『魔族は()()()な攻撃が効く』点に、意識が向いた。()()()自分が、魔族にどこまで立ち向かえるか―― その兆しを伝えられた今、考えることが沢山あり、会話には伸びない時間を過ごした。


 ミレイオも同じ。口数が減り、盾の柄を細工しながら、考え事に入り込む。

 オーリンの持ち帰った情報から『サブパメントゥ()は、魔族に種を移されない』・・・これが分かっただけでも、()()()()()になれると、気を引き締める。そのために、どう攻撃をするべきか。いつ現れても良いよう、いろいろな角度から想像する。



 前に座る、イーアンとオーリンの会話もこの内容。


 二人は自分たちの持ち帰った話と、新たに総長が受け取った、ホーミットの話を重ねて、これはあれはと話し合う。


「俺たちがいない時間でも。総長たちが立ち向かえる状況が、整ってきた気がしない?」


「危険はまだありますが、怖れるだけではなくなった事実に、感謝します」


「危険・・・種か」


 そう、と頷く女龍。種だけは、今のところ何の手立てもない。それはとにかくさ、とオーリンは話を動かす。


「魔族の成体なら、倒せる。倒し方も分かったし、憑りつかれる対象も分かった。何が魔族を防げるかも。君の聞いた話で、魔族の()()()()()()()()()()があることも、見分ける方法だ。

 魔族が完全に妖精の敵で、『龍族は干渉し過ぎない』ってのは、俺たちには注意事項だけど」


 オーリンの言葉に、女龍は少しだけ微笑む。イーアンが話すわけにいかない、ニヌルタが教えてくれた、三つめの情報。隠しているみたいで、何となく気持ちが塞ぐ。


 それも話せたら、皆はもっと動きやすくなるだろうと思う。

 だが、それはファドゥも説明したように、龍がそこまでしてはいけない。立場があり、線引きがあり、それらは存在の意味を含む以上、従う。


 溜息をついたイーアンは、オーリンの話に変える。彼が受け取った情報は、とても力強く、貴重な話だった。



「精霊アンガコックチャック。ビルガメスに伝えます。

 私は空でお子様三昧だったため、うっかり聞きそびれたことが。私がこの世界に来てから使っている青い布。あれは精霊の布らしいのですが、あの布は、アリンダオ集落の、オーリンが入ったあの部屋の前で、光ったのです」


 女龍は、不思議そうな顔を向けるオーリンに、『以前も光ったことがある』とその時の話をした。精霊の力が発動する時に、布は光るのだろうから、そう捉えると。


「あのさ。他の精霊は?君がまだ、そこまで強い龍気じゃなかった時に近づいた精霊とか、そうした場所とか」


「治癒場でも光ったことがあったと思います。でも・・・シャンガマックの慕う精霊ナシャウニットには、そう反応している覚えがありません。私には、あの布がもしかして」


「アンガコックチャックの、布・・・と?()()()()じゃないか?」


 自分もそう思うから、男龍に訊ねるつもり、と話し、イーアンは話したい内容に戻す。



「私があなたの話で感じたことです。精霊アンガコックチャック。もし、この青い布に関わる精霊なのであれば、ナシャウニットと同じくらい高位の精霊です。

 実はね、青い布を渡した精霊は、アンガコックチャックと姿形が異なるのを、私は夢で見ています(※83話参照)。同一の存在か知る由はありませんが、何か関わりは強いのだろうと思います。


 何が言いたいかと言うと、その精霊が現れて教えてくれた内容、それは世界の動きに関わる重さです。


 私が夢で見た時も、それぞれの存在が一度に現れたのです。後にも先にもあれ一度のみ。あなたが貰った情報は、()()()()()という解釈で良いと思います」



 自分でも、凄い体験だったと、感じていたオーリン。女龍にしっかりと『とても重要』と改められ、ごくっと唾を飲む。

 イーアンの声は一層、重々しくなり、じっと前を見据えながら、独り言のように続ける。


「『オーリンが聞いた内容』。魔族が出て来たとしたら、()()()()()()()()。繁殖条件の秘密を教わったわけです。それも正確に。

 種の相手・・・人間と動物、生物。魔物、妖精。彼らは、種の保有者にされてしまう。まぁ、どこまで大丈夫か分からないにしても、()()()()()はあるようだから、それが頼みの綱ですが。

 とにかく種の危険は、この世界の地上に生きる、()()()()()()()()()()()です。そして、永遠の敵として対峙させられている、妖精も」


龍族(俺たち)は。サブパメントゥや、精霊も・・・そうは、ならない」


「なりません。アンガコックチャックがそう言ったなら、間違いなく、私たちは対象外です」


 これだけで、誰に気を付けるべきか。誰が戦える最前線を請け負うのか、それが理解出来ると女龍は言う。


「そして、ドルドレンが『ホーミットに聞いた話』。

 戦い方です。更には魔族の『質』も聞けました。『魔族は魔法の塊』と、ホーミットは話していたと。

 だから物理的な攻撃で倒す方が、理に適っていること。物理的と言っても、魔族が憑いた犠牲者に対して、効き目のある攻撃であること。

 これは、相当な安心材料です。既に実戦もしています。ドルドレンは、鍾乳洞でシャンガマックと戦っています。その後、雲の魔物とも。あれらは魔族だったのでしょう。彼の()()()()()()攻撃で倒されています」


「イェライドの武器も効く。そういう意味だよな」


「そうです。相手によっては、効かないだろうけれど、見極めさえすれば有効に使うことも可能。

 ここまで分かれば、人々を守る方法を、考え出すことが出来ます」



 魔族が倒せる範囲に入った、意識―― これは大きい安心だ、とイーアンは空を見つめて呟いた。


 イーアンしか、旅の仲間の中で知らない情報を思う。

『違反した存在』が、必ず受けることになる罰。それを告げるわけにいかないにしても、ここまで情報があるなら。魔物と魔族が同時に出た今であっても、立ち向かうことが出来る。


「戦う気力が生まれることが、大切です」


 鳶色の瞳を向けて、自分を見て微笑む龍の民に、イーアンは力強く伝える。


 龍族が大きく干渉出来ないとしても、一緒に戦うために組まれた、運命の旅。


 自分は存在と範囲を守りながら、皆さんも導く手伝いをしようと―― 人間だった時に使った戦法を、また活かそう。出来る限りの知恵を絞ろう。そう、決めた。

お読み頂き有難うございます。


メリークリスマス!良いクリスマスでありますように!

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