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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1270/2962

1270. 魔族情報収取 ~風の精霊から・ニヌルタから&ニヌルタ・ベイベの男龍変化

 

 現れた虹のような精霊。虹色をちりばめた、巨大な人鳥の姿に、その場の誰もが畏敬の念を示した。オーリン以外の皆、鳥使いはひれ伏して感謝を伝える。



 立ち尽くして、見上げるオーリン。面と向かって精霊と会うのは初めてで、自分の名を呼ばれるとも思わず、感動で笑い出した。


「凄いことになってるな!俺は龍の民、オーリン。アンガコックチャック、俺は今とても嬉しい」


『オーリン。ここに来たのは正しかった。お前の求めは、鳥使いに訊ねよ。そして戻り、私の答えを龍に話せ。私の姿を。私が応じたことを』


 勘の良いオーリンは、すぐに頷く。アンガコックチャックが()()()()、そのことが大事件だ、と分かる。


 笑っていた顔を引き締めて『必ず伝える』と答えると、大きな姿は、翼をグォッと引き上げて、天井に開いた穴から飛び出した。


 部屋の中の空気が全て、穴に向かって吸い上げられるような勢いに、一瞬、体が浮く。

 おお、と声を出したのはオーリンだけに留まらず、体の小さい軽い彼らも慌てて互いにしがみ付き、偉大な時間に喜んだ。



 大旋風が消え去った後、空からは鳥の声が響く。風は静かな歌を続け、鳥使いたちが腕の紐を振ると、今度は鳥たちが呼ばれて、一斉に部屋に飛び込んでくる。


 オーリンの目まぐるしい感動は言葉にならず、風の歌を歌う民たちに拍手して、皆の腕に降りた鳥たちに『カッコイイなぁ!』と褒めた。


「凄かったな、びっくりしたよ」


 有難う、とお礼を言うオーリンに、クトゥと、壇上にいた男は『あなたがいたから』と、一目置く眼差しを向けた。


「私たちは、今日初めて。あの偉大な姿と名前を知りました。気の遠くなるほど昔から、ここに住んでいても、『風の歌』の名前を知ることも、御身を見ることもありませんでいた」


 しみじみとオーリンは聞く。部屋を見渡し、この感動を仲間に話そうと、目に焼き付ける。

 クトゥたちに促されて一緒に外に出ると、彼らは外に出たところで、クトゥともう一人の男を残して戻って行った。


「魔族について知るためにここを訪ねた龍を、疑ったことをお詫びします。

 偉大な風の歌が姿を示し、あなたを迎えたことが、どれほどの内容の大きさだったのか。今は分かります」


 クトゥの最初の言葉は謝罪で、オーリンは首を振って『気にすんなよ』と微笑む。もう一人の男は、龍の民の言葉に微笑み、『自分が受け取った答えを伝える』と話し出した――



 時間にして、30~40分。この間、彼の言葉と、クトゥの添える言葉を合わせて理解しながら、オーリンはきちんと記憶に残す。

 聞くだけ聞いて、最後の確認をすると、二人は『それで全て』と頷いた。


 それから、鳥使いの二人は、腕に止まらせていた鳥の頭巾を外し、オーリンに分からない言葉を囁くと、鳥を空に放した。


 ぼうっと見送るオーリンは、彼らが鳥を放した理由を訊こうと顔を向ける。二人は『少し待っていて下さい』とだけ答え、三人は鳥が戻るのを待ち、数分後。


「何か持っているのか」


 目を凝らした龍の民は、二羽の鳥が戻ってくる姿に訊ねる。二羽の鳥は何かで繋がっていて・・・近づくにつれ、それが何かはっきりし、オーリンは呟く。


「紐」


 鳥は主人の肩に降り、(くちばし)(くわ)えていた長い紐を、主人の手に渡した。

 受け取ったクトゥの手から、今度はオーリンに。オーリンは差し出された、綺麗な色の寄り紐を手の平に掛け、しばし見つめた。


「これは」


「それは、龍の民に必要か分かりませんが。今日、大いなる姿に私たちが逢えたお礼を差し上げます」


「え。いいよ、何か大事そうじゃないか。俺は龍がいるから」


「お持ち下さい。あなたがそれを回す時。こう・・・見ていて下さい、こうですね。今、私の鳥が反応しています。同じように、『風の歌を知る鳥』があなたに反応するでしょう」


 鳥はあなたの目に代わる。あなたのために飛ぶ、と言われ、断りにくい雰囲気から、オーリンはぎこちなくお礼を言って受け取った。


「オーリン。気を付けて。あなた方の火急の用に、間に合いますように」


「有難う。俺はこのアリンダオを絶対に忘れないだろう。こんな感動は久しぶりだ」


 鳥使いの二人と握手し、オーリンは彼らの鳥の頭も撫でて、紐を腰袋にしまうと空を見上げる。

 ただでさえ標高が高くて、見渡す全てに空と山しか見えない、恐ろしく高い場所の遺跡。視界のほとんどを青い空が埋め尽くす、その絶景の眺めに笑みがこぼれる。


「良い場所だ。何て美しいんだ。それじゃあな。皆の無事を祈っているよ」


 さよならの挨拶をし、オーリンは笛を吹く。青空に白い輝きが煌めき、彼の龍はまっすぐに降りて来る。


 鳥使いの二人が笑顔で見交わすのを横目に、滑空した龍の首に飛び乗ったオーリンは、笑いながら手を振って、彼らの遺跡を後にした。

 空には、明るい龍の民の笑い声がいつまでも響き、見送った鳥使いたちは『今日は記念日』と冗談を言い合って、家に戻った。



 馬車へ戻る為、一度イヌァエル・テレンに上がるオーリンは呟く。


「魔族が取り憑く相手・・・か。早い話が、その()()()なら奴らと戦える、って話だな」


 教えてもらった情報―― 誰が魔族の相手をするのか。そして、何が魔族を防げるのか。


「これが分かっただけでも、段違いの動きが出来る」


 オーリンはニヤッと笑う。早く、この大きな情報を総長たちに教えてやりたくなり、ガルホブラフを飛ばして空の道を戻った。




 *****



 所変わって、イヌァエル・テレン。


 オーリンが動いた一時間後。何かあったらすぐ呼んで、と伴侶に頼み、大急ぎでお空に向かったイーアンは、大急ぎで子供部屋。大急ぎでニヌルタ・ベイベを見つけ、『さぁ、お母さんが一緒だ、頑張れ!(※無茶)』と励ましている最中。


 ピカッと光っては、ちらっと見えるちっこい姿。その姿に期待が押し寄せるイーアン。


「頑張って~! 頑張ってるけど、頑張って~」


 音でもしそうなくらいの龍気をシューシュー流し込みながら(※はたから見るとそう)小さな男龍誕生に付き合う。側で見ているファドゥとジェーナイも、一緒に応援。


「もう少しだと思う。ジェーナイも何度もこの状態だった」


「イーアン。頑張る」


「違うよ、ジェーナイ。イーアンは頑張らないんだ(?)」


「イーアン。頑張らない。誰が頑張る?」


「ニヌルタの子供だよ。ほら、ジェーナイも応援して」


「ニヌルタ。頑張る」


「ハハハ。ジェーナイ、ニヌルタが頑張るんじゃないんだよ」


 やり取りが可笑しくて、聞いているイーアンは笑いながら、小さいジェーナイに『頑張るね』と頷いた(※どこかで止めてあげる)。

 ファドゥもジェーナイを抱っこして笑い、赤い眩しい光をピカピカする子供に『もう少しだよ』と励ます。



「どうだ。俺の子供は・・・イーアン、どうだ?」


 遅れてやって来た父親が登場。ニヌルタは、イーアンが龍気をジャブジャブ出しているのは感じていたので、まだ子供は変わっていないと判断し、ビルガメスの家に寄ってから来た。


 隣に座ったニヌルタを見上げ『もっと早く来て下さいよ』と眉を寄せる女龍。

 笑うニヌルタは、女龍の背中を撫でて『ビルガメスの所に報告だ』と言うと、子供に龍気を注ぎながら手伝い、早速の情報を伝える。


「俺が昨日、魔族のことを知りに、出かけた結果だ。

 最初に断るぞ。俺たちの()()()()()()()()()相手だ。意味は分かるか?」


「それは。情報が私の想像と異なるという意味」


「そうとも言える。簡単に言えば、知る必要のない相手のことは、内容が少ないんだ。

 俺たちの世界、もっと正確に言えば、イヌァエル・テレンには何の影響もない相手だから、俺が見た範囲で分かったことは、そいつらの歴史程度なもんだった」


 イーアンも真剣。『魔族は龍には関わらない』それがはっきりしたので、これもまた、一つの知識として頷く。


「お前にも、話しておく方が良いと思う。俺が話すことを、踏まえろ。

 イーアンは手を出し過ぎる傾向がある。だが、この魔族はそもそも、妖精の敵だ。妖精の世界でこそ『()()()()()()の選択肢が置かれる存在』であることを忘れるな。これが一つめだ」


 いきなり注意を食らい、イーアンはハッとする。

 立場の垣根が見えた言葉。()は本当は、関わってはいけない相手なのか、と意識した。ニヌルタは女龍の表情を見て、それで良いと言うように頷く。


「よし。分かったな?次に、魔族の見た目だ。常に、人に近い形に変わる。どれほど不完全でも、人の形を模るものだ。これは人間が相手じゃない。妖精を真似ているからだ。

 憑りついた種が、どんな相手だろうと、人の形に近づこうとする。もし人間に憑りつけば、そのままってことだぞ」


 一つめが『妖精の敵である魔族』だから、龍は関わらない。

 二つめが『種が付いた相手に関係なく、常に人型』に変わること。


「次は?」


 女龍は訊ねる。ニヌルタは、子供を見つめながら『三つめは、()()した場合の未来』そう呟いた。ギョッとした顔を向けた女龍に、男龍は微笑む。


「一番目の話が基本だ。つまり、別の世界に出てきたらそれは、世界の均衡を崩すことを意味する。

 魔族は今、『違反した』。理由は何であれ、違反した場合には()()()()()未来が用意されている」


「過去にも」


「そこはお前に話すことでもない。それは省くぞ」


 何か、物凄く大きな力の介在を感じたイーアンは、()()()()()が、自分に向けられているわけではないのに、心が波立つ。どの世界にも、ルールがある・・・それを、ニヌルタの淡々とした情報を聞きながら、肌で感じる。



 話し終えたニヌルタは『これくらいだ』と言うと、女龍に顔を近寄せて『助かったか?』と笑う。


「大変、助かりました。教えられたことを、しっかり皆に話します」


「それなんだがな。話すとなると、別の問題がある。最後の話はするな。お前だけが知っていれば充分だ」


 違反の未来については伏せろ、と言うニヌルタに、イーアンは戸惑う。これを聞かせた方が、皆は少しでも・・・どうしてだろう?と見上げる女龍に、横で聞いていたファドゥは理解しているようで、彼女の肩を触った。


「イーアン。()()()が伝える範囲ではないと思うよ」


「ファドゥ。それは」


「妖精の話だから。世界が違う。イーアンは旅の仲間を守るために、魔族と戦うことが出来る。それだけで、するべきことは充分と、ニヌルタは伝えているんだよ」


 そうだね?と視線を向けた銀色の男龍に、ニヌルタはニッコリ笑って『そうだ』と答えた。


 イーアンは何も言えず、何度か小さく頷く。そういうことなんだなと理解して、伴侶にも申し訳ないけれど、最後の話だけは黙っていることを約束した。



「そうした方が良い。お前が言わなくても、そのうち・・・おっ!見ろ、おお!頑張れ!」


「あらっ!頑張って~ そのまま、そのままですよっ 龍気、龍気!」


「わぁ、可愛いね!ああ、おめでとう!ジェーナイ、ご覧。君の友達だよ」


 ピカッと光った何百回もの努力の末。ニヌルタの小さな子供が、龍の姿を抜けてちょこんと座った。


 大喜びのニヌルタが抱き上げて(※超小さい)満面の笑みで頬ずりして可愛がる。


 生まれ立ての男龍は、小さな尖った角がちょんちょんと頭に並んで、桃色の髪の毛は朝焼けの雲のよう。白と赤と金が混じる肌に、ニヌルタそっくりのお顔は、頬がぷくっとしていて、ニヌルタにある背鰭の代わりに、一対の白い翼が付いていた。


「か~わいい~!!」


 ちっちゃいニヌルタみたい!とイーアンも喜ぶ。ニヌルタはイーアンにも子供を抱かせて『名前をくれ。こいつにも名前だ(※可愛くても呼び方は、こいつ)』と笑顔で頼む。


「考えて付けますからね。すぐにではなくて、この子にピッタリなお名前を考えますよ!」


 抱っこした小さな小さな男龍。何てカワイイんだろう、とおばあちゃんのようなイーアンも、垂れ目が糸のように細く垂れ下がる。


「タムズも呼ぼう。彼も子供を家でずっと育てているから」


 喜びを分かち合おう、とファドゥはすぐにタムズを呼ぶ。

 イーアンも彼の子供二人が気になっていたので、子供部屋にいないからどうしたかと心配だった。


 聞けば『過保護だ』とニヌルタが笑い、間もなくして、タムズが二人の子供たちを抱えて連れて来ると、本当にがっちりと腕に入れている様子から、タムズは慎重と彼らしさに笑った。


「イーアン。来ないから」


 名前を付けてやって、とタムズは二人を女龍に抱かせる。タムズの子供たちも、ぷくぷくしていて、お父さん似の色や形が印象的。

 イーアンはせっせと子供たちに挨拶し、目尻のしわが刻まれるのも忘れて(※後で慌てる)カワイイカワイイ、と祝福を授けた。


「ジェーナイもいるから、ここに4人も。新しい男龍が」


「ミューチェズは、ビルガメスの家だ。もうじき来るだろう」


 男龍たちは皆が嬉しい。この数分後、ビルガメスとミューチェズ、シムとルガルバンダも来て、新しい男龍の誕生を口々に祝福した。


 イーアンは帰るに帰れず。呼ばれたら行かなきゃ、と笑顔の裏で心配しながらも、結局お昼まで過ごし、お子タマに『また来ますよ』と挨拶してから、大急ぎで馬車へ戻った。


お読み頂き有難うございます。

ブックマークと、評価を頂きました!有難うございます!とっても嬉しいです~!


クリスマスイブですね!どうぞ皆さんに、良いクリスマスでありますように!


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