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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1257/2962

1257. 一行の午後・カンガの意思・翌朝の動き

 

 シャンガマックとヨーマイテスの一日が流れる間、馬車の一行も忙しく時間を過ごしていた。


 その日。分担して朝に出発した以降、町役場、工房巡りと、馬車の家族、この3つの用事を済ませ、午後に皆は合流した。


 午後も2時近い頃、町の奥にある工房区に入ったドルドレンとバイラは、1時間ほど前に到着していた、ミレイオと騎士たちに挨拶し、報告をもらう。

 そして、職人4人が工房で話をしたり、ナイフ製作をキリの良いところまで終えるのを待ち、馬車に戻った後、全員で状況を確認。


 ここに、カンガはいなかった。そのことをミレイオに聞き、総長は心配があったものの、仕方ないことかと受け入れる。


 戻った職人4人、親方、オーリン、ガーレニー、イーアンも、カンガの話を聞いて難しい表情をしたが、すぐに頷いていた。


 イーアンは『自分が戻る時、町から馬車が出たのを見た』と話し、時間的に、あれがカンガの乗った馬車だったかもしれないことを伝える。


 ドルドレンが馬車の家族とお別れした時、イーアンに連絡して『見送ってあげて』とお願いしたことから、一時的に作業を抜けたイーアンはすぐに飛んで、アンブレイたちの馬車へ降りて挨拶し、皆さんの旅の無事を祈って、工房区へ戻った。


 この帰り道、町から何台か続けて出て来た、馬車の列を見ている。数台の馬車は業者のものらしく、馬で護衛が付いていた。イーアンは飛びながら、その人たちの道中の無事も祈った。



 それを聞いて、フォラヴはゆっくり頷くと目を少し伏せて、囁くように話し出す。


「カンガの確認した友達は、変化することなく()()()()()でした」


 馬車の前に集まった皆に、フォラヴは自分も見た場面を伝える。

 ミレイオとロゼール、ザッカリアは黙って聞いている。彼らも知っているが、話題にするに重いので、フォラヴに任せる。ザッカリアは見る前に、ミレイオに目を隠された。


「焼却処分されているはずだったのですが。情報に『埋葬済み』の報告がなかったため、町長の一筆と共に、私たちは向かいました。

 すると、焼却場では、町の住人の()()が先で・・・彼がそこに運ばれたのは、一週間ほど前だと思いますが、彼の肉体は放置されていました。

 ただ、遺体置き場ではあったため、動物に荒らされたりとした、悲しいことは起こっていません。雑な扱いではないので、冷暗所の地下で、後回しにされていたというだけで」


 町長の連絡もあり、来訪者の話に、焼却場施設の職員は『本日中の処理をする』と慌てたようだが、カンガはそれはそれとして頼み、静かに焼却場施設を出た後、すぐ『集落へ帰る』と騎士とミレイオに告げた。


『一緒に来た仲間は、一人もいません。私は戻って、この話を神殿に頼った人々に伝えます』


 彼は、失った仲間たちの、形見も何も持っていなかった。埋葬する灰さえない。

 でも、故郷で墓を作って弔ってあげたい。一日も早く戻って、勇敢に、前向きに動いた彼らのことを墓碑に刻むと、話したようだった。


 ドルドレンたちがミレイオに聞いたのは、この部分で『カンガは確認した後に、友達を弔うんだと帰った』その言葉は、前後を聞けば、胸を絞られるような思いが募る。


 バイラは途中まで町役場で一緒だったが、ドルドレンに馬がないことを思い出して、先にミレイオたちから離れたので、その話までは知らなかった。フォラヴの話を聞いて、テイワグナにどれくらい、カンガと同じ思いの人々がいるだろうかと、目を伏せた。


「カンガは、業者の馬車に乗せてもらうと言い、ここに来るまでの道にあった運送施設で、私たちは別れました。

 見送った馬車から、運送施設の人が、カンガに頷いて、彼を馬車に案内したところまで見ました」



 フォラヴの話で一部始終を知り、カンガの今後を祈った旅の一行は、この後に宿へ戻る。


 翌日の予定は、親方が繋げた『イーアンのナイフ製作続行』の他、ミレイオやガーレニー、オーリンがいる間に、直接指導を望んだ工房に赴く。


 ドルドレンたちは、町役場の話を聞いたことにより、明日は町の外で龍に乗り、上空から鉱山を見に行こうと決まった。ドルドレン自体は、馬車歌も解読を進めたい。


 宿へ戻った時間が早かったので、皆は早めの夕食にし、食事処で、より細かい情報交換に時間をかけた。


 そして夜――


 ドルドレンは、ホーミットからの連絡に一瞬ビビったものの、受けた内容がとんでもなく貴重と気づいて、すぐに奥さんにペンと紙をもらい、急いで内容を書き残した。


 ホーミットはいつもの『すぐ切る』感じではなく、ドルドレンが間違いないよう、確認する復唱に付き合ってくれ、最後に『それをフォラヴに伝えろ』と命じた。


 ドルドレンは、ホーミットが何を知っているのか、少し気になったが、書かれた情報には()()の言葉があるので、それ以上疑問を持たず、了解してお礼を言い、連絡を終えたすぐ、フォラヴの部屋へ行った。



 フォラヴの驚き方は静かだったが、ドルドレンの印象としては、彼がここまで狼狽えているのは初めてだった。

 妖精の騎士は、総長に見せられた紙を見つめると、書き写したいと言い、許可してもらった紙を借りて、その場で写し始め、書き終えると総長に最初の紙を返した。


「今晩。少し考えます。これからの行動に私が力添えできますことを」


 彼はそう言うと、それ以上の言葉が出てこない様子で俯いた。ドルドレンも、部下の顔つきに質問することを躊躇い、その夜はお休みの挨拶を済ませて部屋へ戻った。



 朝方、ドルドレンは扉をノックする音で目覚め、先に起きている奥さんに『フォラヴだと思う』と気配で教えてもらい、すぐに戸を開けた。


 驚いたことに、彼は服を着こみ、夏のテイワグナで使ったことのない、クロークを羽織って立っていた。


「私が、私の国へ帰る許可を下さい。魔族について調べます」


「お前の・・・お前の国へ?それは」


「聞かないで下さい。ですが、私があなた方を支えるために何が出来るか。

 一晩考えた末、これが最も良い行動であると信じます。私にそれを伝えたホーミットに、もし彼に会う時があれば、どうぞお礼を伝えて下さい」


「フォラヴ。いつまで離れる気だ。お前までいなくなるのか。シャンガマックもいないのに」


 ドルドレンは慌てる。誰よりも自分の話をしない男が、何かを決意したように青ざめ、行きたくなさそうにも見えるほど、空色の瞳に悲しみが浮かんでいる。そこまでして向かう道のりが、短いと思えない。


 妖精の騎士は、自分に迫るように一歩前に出た総長の顔に、そっと手を当て、白い手袋越しの体温に目を閉じる。


「総長。私が出かけたことを、シャンガマックに伝えて・・・それが出来れば。私はすぐに戻れませんが、彼は彼の父親と共に、仲間の危機には、風のように早く戻ってくれます。

 私も出来るだけ早く戻ります。2~3日とはいかないでしょうが、10日・・・以内と、とりあえず」


 頬に添えられた、妖精の騎士の手。総長は彼の手が、自分を癒してくれていると感じ、その手をさっと掴んだ。


「俺は弱っていない。お前の力を使うな」


「いいえ。満たしたのです。イーアンもいますから、心配はないけれど。あなたの心身の、重さや疲れがないように。どうぞ、皆と共に無事で」


「フォラヴ」


 ニコッと笑った妖精の騎士は、朝の光の差し始める廊下を見て、『もう行きます』と呟くと、心配そうに自分を見つめる灰色の瞳に、もう一度微笑み、ゆっくり離れて歩いて行った。



 *****



 朝食の席で、ドルドレンは皆に朝早く、フォラヴが立ったことを伝える。


 皆は驚き、急に何があったのかと訊ねた。ドルドレンの腰袋から一枚の紙が出て来た時、親方とミレイオはイーアンと目が合う。イーアンは困ったように小さく頷く。

 オーリンは、皆の様子を観察しながら、自分も、昨日から考えていることを言うべきか迷った。


 黒髪の騎士の手で、折りたたまれていた紙が広げられると、彼はその内容を読むことなく、まずは目の前に並ぶ、タンクラッドたち職人の席に預ける。


 受け取ったタンクラッドと、左右に座るミレイオとオーリンがそれを見て、ミレイオの横のガーレニ―も覗き込みながら、『これが理由』と総長に確認した。


 頷く総長は、彼らが読み終わった紙を戻してもらい、ロゼールとバイラにも見せる。ザッカリアは、何か嫌な予感でもしたのか『俺はいい』と断った。


 ロゼールたちが読んでいる間に、親方は質問。


「フォラヴが?()()は彼の書いたものか」


「違うのだ。これを教えてくれたのは、ホーミットだ。昨晩連絡があり、俺は彼にこのことを聞かされて、急いで紙に書いた。彼はフォラヴに伝えるように言い、俺はそれに従った」


「ホーミット」


 ミレイオに訝しそうな色が過り、食べかけていた手を止める。『他には何か言ってた?』探るように訊ねるミレイオに、ドルドレンは小さく首を振って『これだけだ』と答えた。


 横に座る親方は、芋の包み焼を齧ってから、背凭れに体を預け、自分を見ているドルドレンに『フォラヴは何て?』どうして急に行動を取ったのか尋ねる。


「彼に思い当たることがある、としか思えない動きだぞ。聞いたか?」


「いや。訊ねたが話さなかった。あれは、いつもそうなのだ。聞かないでくれと、今朝もすぐに閉ざした。

 しかし、何日も空けそうな雰囲気に、『シャンガマックもいないのに』と俺が食い下がると、フォラヴは『シャンガマックに、自分が動いたことを伝えてほしい』と。自分はすぐ戻れないが、シャンガマックなら、父親と共に、俺たちの危機には間に合ってくれるだろう、と言った」


「何日とか、言っていませんでしたか?そういうのも、言わなかったんですか?」


 ロゼールが挟んだ言葉に、ドルドレンは首を傾げて眉を寄せ『10日以内とは』確定じゃないことも、答えた。

 その答えに、ちょっと考えた様子のロゼールは、総長を見て『俺も』と呟いた。ドルドレンも頷く。


「もう。10日ですよね。そろそろ戻らないと」


「そうだな。スランダハイでお前を帰そうと思っていた。昨日一昨日で、工房の契約もあったしな」


「え!ロゼール帰るの?」


 総長とロゼールの会話に、ザッカリアが驚いた声で遮る。ロゼールはちょっと寂しそうに微笑んで、『一週間の予定だったんだよ』と教えた。自分が出る時、執務の騎士にそう言われていた。


「でも、昨日。一昨日も、その前も、ギアッチは何も言っていなかったよ」


「ギアッチは、()()()()しているわけじゃ、ないからだよ。もっと帰らないとなれば、ギアッチから連絡が来るだろうけど、10日くらいだと様子を見ていると思う」


 ザッカリアは食べていたのを止めて、ロゼールに『一緒に居ようよ』と頼む。

 フォラヴがいなくなったばかりの朝、シャンガマックもいつ戻るか分からないのに、ロゼールがいなくなったら、自分しか騎士がいない!と訴えた。


()()騎士だぞ」


 何となく気になったドルドレンがそこに挟まると、子供は大きな瞳でさっと見て『総長は総長だもの』違うでしょ、と言い切った(※子供の中では別枠)。寂しそうに黙ったドルドレンの背中は、イーアンがさすってあげた。



 こうして、朝食の時間は『フォラヴの出発』の話と、『ロゼールが帰る』話、『魔族の情報』で続き、最後でオーリンが、自分の考えていたことを話した。


「この状況で言うのも、何だけどな。

 魔族の事は、()()に訊いた方が良い、その手の内容に思う。昨日も言おうと思っていたが、工房巡りがあったからな。今日話しているんだ」


「それは。()()()()()、ではないな?」


「そうだね。俺が訊くわけじゃない」


 ドルドレンの確認は、確認するようなことでもないけれど。この短いやり取り、皆は静まる。オーリンは女龍を見て『だろ?』と小さく訊く。イーアンも、それはずっと思っていた。


 彼らが知らないにしても、知っているかどうかだけは確認した方が良い。もし知らなければ、そこで終わる。でも知っていたら、出来るだけ急ぎで教えてもらいたい。


 ふと、伴侶を見ると、伴侶も困惑した表情で『空か』と呟く。ここでイーアンがいなくなると、かなり打撃が大きい。



「うーむ。悩みますね。明日あたり、ガーレニーも戻さなければと思っていたし」


 無言でいた鎖帷子職人は、イーアンの言葉に頷き『そうだな』と答え、イーアンも他の者も、急に人数が消える状況に、どうにもしようがないとはいえ、しばし悩んだ。


「とりあえず。ファドゥとは連絡が付きます。空に上がらないでも、聞けるかどうか・・・訊ねましょう」


 皆はイーアンの答えに、少し安心したようだった。朝食を終えて、一行は宿に戻り、職人たちが馬車一台を使うことにし、バイラは駐在所へ、ドルドレンとロゼール、ザッカリアは龍で見回りに出る。


 イーアンは少しの間、ドルドレンたちと付き合うことにして、後で工房区へ行くと伝えた。


 言うに言えなかったが、もう数日。空へ行っていないことが、気になっているイーアン。

 きっと連絡したら『来い』って言われるんだろうなぁと、それが頭に巡っていた。

お読み頂き有難うございます。

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