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魔物資源活用機構  作者: Ichen
新たな脅威の調べ
1253/2962

1253. 魔族の種その情報 ~急ぐ対策

 

 夕食の席で、人の少ない店内。タンクラッドは小さな咳払いをして、声の大きさに気を付けて話し出す。



「昨日の夜。倒れたカンガを、部屋に運んでいる間だ、俺も手伝っただろ?

 あの時、コルステインは、外がまだ気になっていた。それで彼女は裏庭に降りて、()()を見つけた。袋から出ている()()は、魔性があったから、コルステインは消滅させたらしい」


 ここでイーアン、質問したいが、親方にちらっと見られて黙る(※見透かされている)。


「まだ続くぞ。この話は、昨日の夜も今朝も聞いていなかったんだ。俺はコルステインに、倒れた瘤のある男の話をしたが、コルステインもよく分かっていなさそうで、『違う』とだけしか言わなかった。

 ()()()()()、という意味だろう。彼女が片付けた異物については、片付けたことを『見た。調べる。消す。した』と」


「それで、通じないですよね」


 ぼそっと独り言を呟いた隣のロゼールに、親方はちょっと笑って『()()()()()()には違いない』と答えて、続ける。


「一応、彼女としては報告してくれていたんだ。俺も間違えて捉えたから、その報告に『何かおかしな気配を消したんだな』くらいにしか思ってなかった。


 だが、さっきカンガの状況を教えて、俺が持ち込まれた残骸の行方を心配したら、コルステインは『それ。昨日。消す。した』とまた言ったんだ。詳しく聞けば、最初に言った通り。()()()()()だったと言う。


 魔物じゃないぞ、魔族だ、と訂正しても、コルステインは、俺が間違えていると言い切る。

 丁寧に話を進めて分かったが、コルステインが消した物体は『魔物』で、カンガの昨晩の状態は『魔物じゃない』ことが理解出来た。


 ここからは、俺の推測だ。

 思うに。()()()()()()()()()()()んだ。なぜかは知るわけもないが、そうとしか思えない。


 シャンガマックの情報では、『種』で増える種族のようだし、近くに宿主がいれば『種』は割れる。

 それと、()()()で知った話では、魔族は一世一代限りの存在のようだ。『種』はその魔族単体の要素を保有していて、取り憑いた相手を、その『種』の要素で変えるんだろう」



 タンクラッドがここまで話すと、イーアンが続きを言いたそうに、目を見開いて見ているので、『いいぞ』と許可する。


「それじゃ。()()に宿って種を付けた魔族が、魔族の状態で動き回って、人間の宿主に種を移して・・・最初の、その、神殿で妖精が倒しそびれてしまった魔物は、もう」


「ただの魔物に戻ったかどうかが、分からんが。魔族の体であったとしても、どこかで倒れているだろうな。()()()()なんだから。

 次の媒体の宿主が出来た以上、いなくなるって・・・思いたいところだが。情報通りであれば、そういうことだ」


「生き続けていることは()、ってことか?」


 オーリンの質問に、タンクラッドは首を傾げる。『()()()()()()、としか言えん』俺も情報だけだと、答えた。



 この夕食時。話声は大きくなることなく、それぞれの中に生まれた不安と、新たな懸念が話題を統一した。


 来客のガーレニーも、衝撃的な出来事と話の中で、『魔物製品を作るにあたって、回収時』それを見極めることが出来ないと、おいそれと手が出せないのでは、と意見を述べ、彼の意見は尤もと、皆も思う。


「この町で、魔性を消すナイフ(※Byイーアン)を作らせてもらうか」


 とにかくナイフはどんどん作って、引き受けた工房に渡し、同時進行で『魔物と魔族の見分け方』を探すのが先決とした。



 この夜。

 フォラヴはカンガに付き添うと言い、もう大丈夫だろうが、一人で居させることを心配し、休むカンガの部屋に入って、寝ずの番をした。


 妖精の騎士の頭の中には、遠い昔の物語が一晩中はびこり、嫌でも・・・自分の立ち向かうべき場面が近づいているような気がしていた。それが早かろうが遅かろうが、向かい合うには、不利な点が多過ぎる気もして、落ち着かない気持ちと共に、彼の夜は過ぎた。



 同じように夕食後。部屋に戻ったドルドレンは、今回の話を、シャンガマックにも伝えておこうと、連絡珠を取って、ベッド横に奥さんを座らせ『ドキドキするのだ』と、叱られるかもしれない(←お父さんに)覚悟を伝える。


 目の据わった奥さんは『あいつのせいで(←ホーミット)』ちっ、と舌打ち。大事な用でも遠慮させるなんて、とぼやく。


「すぐ済むと思う。でも俺が傷ついたら、イーアン」


「はい。やり返します」


「そうじゃないよ。慰めてくれ」


 ああ、と頷くイーアンに、奥さんが攻撃的で頼もしいと苦笑いするドルドレンは、意を決して、重要事項を伝えるため、部下の応答を待った(※総長だから普通の行動なのに)。



 待つこと1分半。嫌な予感がする中、シャンガマックが応答して一安心。


『はい。総長、どうしたんですか(※()()と言った夜ですよ、と遠回しに)』


『お前が教えてくれた情報が役立った。今日は(まさ)にその相手と対面したのだ。大切なことだから、伝えたいと思った』


『本当ですか!魔族・・・そんな。どう』


『急いで伝える(※予感ビシバシ)。人間が取り憑かれていた。そして彼は死にかけたが、彼を助けた者がいて、その者は既に』


『あ、ちょっと。ちょっと、待ってくれ!待って』


 む、と固まるドルドレン。慌てた部下の様子に危機を感じる(※怒られる)。じーっと緊迫して待っていると、数十秒後にシャンガマックが再び応じた。


『すみません。良いですよ、それで』


『やはり別の時間にするか。まだ彼は回復を待っていて、助けた男は魔族と』


『ダメだよ!もう少し待ってくれ。大事なことだ、後でゆっくり話すから・・・あの。総長、待っていて下さい・・・もう少しだよ、取り上げないでくれ。

 大丈夫だ、俺は一緒だ。行かないから。わ、引っ張らないでくれ。ハハハ、くすぐったい。そこ掴まないで。話せないよ』


 何やら、興奮しかける内容が脳内に流れ込むので、ドルドレンは段々、赤くなってくる(※妄想)。でも、待つように言われたので、聞き耳立てている後ろめたさはあるものの、そのまま聞く(※聞きたい)。


『げほん。後1分、待っていてくれ。え?途中。そうだね、途中だったけど。話し終わったら、また、するから。そのままでいて。

 うん?冷えていないよ。そりゃ()()()()、充分温かい。もうちょっとだけ待ってくれ・・・それで、ええと、まだ繋がっているかな。総長。総長』


『うん。繋がっている』


『すみません。父が気にするので』


 いいよ、と答えて、ドルドレンはモワモワする頭で、どうにかこうにか簡潔に重要な話を伝え、きちんと1分後、強制的にお父さんに代わられた。


『ドルドレン。()()()()なら、明日にしろ』


『ホーミットはそう言うけれど、とても大事なことだったのだ』


『じゃあな』


 あっという間に切られた、一方通行なお父さんで締めくくった通話。

 その様子を、横で見ていたイーアンは、伴侶が何やら恥ずかしそうだったり、赤くなったり、最後に青ざめたりで、一体何が起こったのかと訊ねた。


 ドルドレンが会話の流れだけを話すと、イーアンは眉を寄せて『あの野郎』とぼやく。ドルドレンは、待たされた間のことも、一応、オマケに付け加えてみる。


「シャンガマックは、連絡珠を握ったまま、お父さんと会話していたのだ。だから()()()()である」


 内容を教えられたイーアンの表情にテレが入り、ドルドレンとイーアンは、その話で少しの間、盛り上がった(※妄想夫婦)が。

 二人はハッと意識を戻し、『こんなこと話している事態ではなかった』と自粛し、明日からの行動を真面目に相談した。




 *****




「何かと思えば。()()()()()じゃないか」


 温泉で、髪の毛を洗い直してもらうヨーマイテスは不機嫌。『途中でやめたから、毛が絡まったぞ』長い金茶色の髪を、手で梳いてあげるシャンガマックも、苦笑いで『そうだね』とは答えるものの。


「でも、魔族と対面したとは。聞いておいて良かったと思う」


「お前の腕が冷たい。湯から出していたからだ」


 冷えただろ(※今は夏)と、仏頂面を見せるお父さんの顔を覗き込んで笑い、『大丈夫だよ』と心配され過ぎていることを伝え、ムスッとしているヨーマイテスの長い髪を洗い上げる。


「最近。ヨーマイテスも風呂に入るから、獅子になった時に(たてがみ)がもっとフカフカだ」


「前からだ(※違い分からない)」


 そうだけど、と笑うシャンガマック。自分も頭を洗って、腕を伸ばす父の側に行き、横に座る。

 父に湯をざぶざぶかけられる中(※父なりの気遣い)褐色の騎士は『魔族の種』その話が妙に意識に残る。知らないことが多い相手の登場に、どう対応するべきなのか。


「行きたいか」


「え?いや。魔法の練習があるから、馬車には」


「そうじゃない。過去のバニザットの部屋だ。情報を集めておきたいんだろ」


 意外なことを言う父を見上げると、碧の目が自分を見下ろしていて『あの部屋の中に、確実に情報はある。あいつの持ち物であった以上』記録に残さないわけがない、と呟いた。


 にこーっとした息子に、大男は、自分が良い提案をしたと満足し『明日、連れて行ってやる』と約束した。

 嬉しいシャンガマックは、お礼にこの後、ヨーマイテスに『獅子の姿になって』と頼み、温泉で獅子状態の父も洗ってあげた(※全身毛=洗う範囲拾い)。



 *****



 翌朝。


 皆が朝食で集まる時間より早く、ドルドレンとイーアンは、カンガの部屋を訪れ、彼の具合を見た。

 一緒に居たフォラヴは、眠ることなく考え続けていたようだが、睡眠不足ではなく、気疲れの方が顔に出ており、彼の白い肌に影が差していた。


 カンガは起きていて、ベッドに横になっていた体は、普通の人間のまま。ホッとした二人は、フォラヴを労い、カンガにも『治った様子に嬉しい』と伝える。カンガも微笑み、お礼を言うと、ゆっくり体を起こした。


「起きなくて良い。休んでいてくれ。食事を運ぶ」


「もう。起きるくらいなら。本当に有難うございました。私はあなた方に会わなかったら、もう」


 カンガは、フォラヴに感謝を込めて笑顔を向け、ドルドレンと、龍の女に深く頭を下げた。二人は『助けたかった』ことと『あなたが助かったのは、私たちの力ではない』ことをきちんと聞かせた。


「後で、少し時間をもらいたい。聞きたいことがある」


「何でも聞いて下さい。私が知っていることは何でも話します。役に立つなら」


 ドルドレンは頷き、朝食はどうするかを部下に訊ね、妖精の騎士が首を振って微笑んだ顔に『運ぶから待っていて』と伝えると、イーアンと一緒に先に朝食を済ませることにして、部屋を出た。



 部屋に残ったフォラヴに、カンガは『私ならもう大丈夫です』と、朝食へ行ってほしい気持ちを伝えたが、フォラヴは微笑みながら『()()大丈夫』と答えた。


「私たちがこの町に居る時間は、そう長くありません。あなたがここから、お住まいの場所へ戻られる時、私たちは出発しているかも。それまではご一緒しましょう」


「フォラヴ。そのことですが。私はここで()()を済ませたら、戻るつもりです。

 一人では怖いから、町を出る同じ方面の馬車に頼みます。幸い、路銀はまだあるので、どうにか無事に戻れるよう試みるつもりです」


「あなたの確認とは。伺っても?ご一緒する必要があれば、今日明日の間で、私は付き添えるでしょう」


「そこまでご迷惑かけません。確認は、町役場です」


 町役場?訊き返した妖精の騎士に、カンガはベッドに起こした体の向きを変えて、床に足を付き、ベッドに腰かける形で、騎士に向き直る。その顔にも首にも腕にも、無論、体にも、昨日のような違和感は一つも見えない。それだけでも、フォラヴには嬉しかった。


 カンガの求める確認は、自分と一緒に町へ入った()()のことだった。


 彼はこの町の、別の宿で息を引き取り、宿屋に話してすぐ、町役場の保健課に引き渡された。身元は分かっていたし、カンガは旅の間の魔物襲撃も伝えたから、町役場としては『犠牲者の死体』扱いで、宿から運ばれた。



「まさか」


()()()()()()()、知りたいのです。ちゃんと・・・彼が人間の状態で葬られていることが分かれば。それで良いのです。でも。もし、そうでなければ、とっくに()()()でしょう」


「あなたは、その時。どうするつもりですか」


「魔物ではない、違う恐れの存在があることを、知らせないといけません。もう、あんな恐ろしい死は、見たくないです。魔物に殺されるだけでも、とんでもないのに」


『殺されるだけで済まず、自分が死んだ後、人間じゃない状態に変えられて、()()()()()()に回るなんて、嫌だ』と訴えた、カンガの目が涙を溜める。


 フォラヴにその気持ちは伝わる。しっかり頷いて『勿論、いけません』彼に同意し、自分も協力すると答えた。

お読み頂き有難うございます。

ブックマークを頂きました!有難うございます。とても嬉しいです。頑張ります~!

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